「差別化」と思っていたのが、お客様から見ると実は「単なるオマケ」だったという私の体験


20年ほど前の自分の体験談です。

自分が企画を担当し、開発チームが頑張って出荷された製品を、セールスとしてお客様にご提案していました。

ちょうどその製品市場が立ち上がり始めた時期で、競合も出始めていました。そこで競合製品と徹底的に機能比較し機能面ではまったく遜色なく、加えて高い保守性・安全性でデータをしっかり守るという高付加価値をあわせ持った製品が出来ました。

しかし販売してみると案件で競合することも多く、勝ったり負けたりを繰り返していました。

そんな中でも採用されたお客様も多くおられました。

 

一通り採用が決まった後は開発担当になり、ユーザーになったお客様とのおつき合いも増えました。ある日、お客様とのお打合せで、お客様がさりげなくこうおっしゃいました。

「いや、あの製品ね。実は機能面よりも、価格形態が評価ポイントだったんですよ」

ここで補足しますと、当時他社製品はソフトを導入したパソコンの台数分費用が発生していたのに対し、私たちの製品はサーバーへの接続数だけで課金していました。お客様にとってパソコンへの導入ソフトのライセンス管理は結構大変なので、私たちの方が管理が楽だった(しかも多くの場合、安かった)のです。

「高い保守性・安全性でデータをしっかり守ることが、私たちの製品の高い付加価値」と思っていた私は、こう質問しました。

「保守性とか安全性とかは、どう評価されているのでしょうか?」

「データがなくなれば、バックアップから戻せばいいでしょ。せいぜい半日分のデータが消えるだけですから」

現代ではデータが消えるのは大ごとですが、20年前はこのような認識だったのですね。

つまり製品提供側の立場で「大きな差別化ポイントだ」と思い込んでいたのは、実はお客様にとっては「単なるオマケ」だったのです。

当時の私は、このことは事実として受け容れましたが、なぜそうなってしまうのか、どうすればいいのか、なかなか納得できませんでした。

Hand with target 2

 

その後、マーケティング職に異動して「バリュープロポジション」の考え方を知り、自分がいかに製品中心に考えていたかが納得できました。つまりバリュープロポジション(=「お客様が買う理由」)を徹底的に考えていなかったのですね。

 

当時の私に「ちゃんと『お客様が買う理由』を徹底的に考えた方がいいですよ」と言ったら、「ちゃんと考えています。高い保守性とか安全性です」と答えていたと思います。

でも、これはあくまで仮説。お客様に検証していません。実際、売り始めて「差別化だ」と思った機能が単なる「オマケ」だったわけですね。そして実際には多くの場合、出荷した後であっても、「実はオマケだった」という状況は、なかなかわからないのです。

 

検証していない「お客様が買う理由」は、仮説でしかありません。

自分の経験を振り返って、やはり企画段階で「自社ならではの強み」を踏まえた上で、「ターゲットの顧客」、「ニーズ」、「解決策」をそれぞれ仮説として考え、ちゃんと個別に検証することが重要なのだ、と改めて感じています。