バリュープロポジションだけでは、お客様は買ってくれない


「お客様が買う理由(=バリュープロポジション)を創りましょう」と常にお話ししています。

ただ「バリュープロポジション」だけでは、お客様は買ってくれません。「バリュープロポジション」を、具体的にお客様に提供することが必要です。「では、どうすればよいのか?」というのが、今回のお話しです。

 

必要なことは、バリュープロポジションに基づき具体的な施策をキチンと作り、そして実行することです。そのためには、

「どんな商品を提供するか?(商品戦略)」
「どうやってお客さんに伝えるか?(プロモーション戦略)」
「どうやって売るか?(チャネル戦略)」
「いくらで売るか?(価格戦略)」

この4つをキッチリと作ることです。これら4つを総称して「マーケティングミックス」と呼びます。

ただこれだけだと何をすればよいかがよくわかりませんよね。そこで私の原体験となった、具体的な例でご紹介します。

 

2002年、私は日本IBM社員で、企業向けにコールセンターの仕組みを販売する事業部のマーケティングマネージャーでした。コールセンターは電話とコンピューターがお互いに連携したもの。大企業向けになると数億円から数十億円規模の大がかりなシステムになります。1990年代後半から大企業は顧客満足度を高めるために一斉にコールセンターを作っていました。そのためこのコールセンター市場は大きく成長していました。

しかし2002年頃になると、日本の大企業は、各部門・各拠点でコールセンターを一斉に導入した結果、お客様対応がバラバラな状況に陥っていました。

たとえばネット注文して届かない商品の配送状況を、コールセンターに尋ねても「わかりません」。お客さんは不満です。顧客満足を上げるためにコールセンターを各所に導入したのに、逆に顧客満足を下げかねない状況になっていたのです。

このコールセンター市場で、IBMは大きな強みがありました。

IBMは1994年頃に経営不振に陥り、外部からガースナーがCEOが就任。ガースナーの方針で全社で”One IBM”(お客様から見て一つのIBMになる)という号令の下、変革を行って10年近くが経過していました。1990年代後半にはコールセンターが統合され、その成果が出始めていたのです。2002年頃の日本のお客様の課題を先に経験し、その解決を図っていたのです。

当時、コールセンターを売っていた会社の中で、全社でコールセンターを統合していたのは、IBMだけでした。

そこでIBMのバリュープロポジションを、「『バラバラなコールセンターを統合したい』と考えている大企業に、自社のコールセンター統合経験を提供できる、唯一の会社」としました。

 

ただこのようにバリュープロポジションを決めて、お客様にいくらそのバリュープロポジションを伝えても、お客様は買ってくれません。バリュープロポジションは、単なるお題目ではなく、実際にお客様に提供できるように具体化する必要があるのです。そこで私はその作業を始めました。マーケティングミックス毎にご紹介します。

■「どんな商品を提供するか?(商品戦略)」

IBM社内にはコンサルティングサービスを提供する事業部がありました。この事業部と戦略を共有した上で、IBMのコールセンター統合経験を提供するコンサルティングサービスを整備しました。

 

■「どうやってお客さんに伝えるか?(プロモーション戦略)」

日本IBM社内にあるコールセンターには、既に年間100社の企業が事例見学に来ていました。ただコールセンターの営業チームとは協業していませんでした。そこでこの見学会に予算を出して、「IBMコールセンター事例見学プログラム」として正式な営業プロセスを作りました。

さらにコールセンター長を集めて、隔月で半日間の「コールセンター長会議」というセミナーを実施しました。ここでは製品の紹介は一切行わず、コールセンター長の課題や各社取り組みを共有し、現場のコールセンター長の悩みに応えられる内容にしました。

 

■「どうやって売るか?(チャネル戦略)」

実際に売るのは日本IBMの直販セールスです。コールセンターのお客様案件を担当する300名のIBM直販セールスとのコミュニティを作り、常に最新の情報を共有しました。

 

■「いくらで売るか?(価格戦略)」

上記の施策を通じて、価格競争からの脱却を目指しました。

 

これらの施策もあって、日本IBMはコールセンター市場で市場シェア・市場認知度、ともに1位になりました。

 

このように、バリュープロポジションをキッチリと決めた上で、

「どんな商品を提供するか?(商品戦略)」
「どうやってお客さんに伝えるか?(プロモーション戦略)」
「どうやって売るか?(チャネル戦略)」
「いくらで売るか?(価格戦略)」

…に整合性と相乗効果を生み出すように展開することで、とてつもない力を発揮できる、ということを実際に経験できたことが、私がマーケティングの仕事をする上で原体験になりました。

言い換えれば、マーケティング戦略の成功のカギは、一気通貫なのです。

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このように、企業の実務でマーケティングを実践すれば、売れるようになります。そしてアカデミーの世界ではなく、実際に事業に取り組む会社員こそ、このような形でマーケティングを実践し、マーケティングのプロフェッショナルになれる最も恵まれた立場にいるのです。

 

(ご参考までに、先月出版した「これ、いったいどうやったら売れるんですか?」の第6章では「はなまるうどん」の例を挙げて、バリュープロポジションからマーケティングミックスへの展開方法を紹介しています。ご興味がある方はご一読下さい)

 

 

 

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