「忖度」が、日本企業を「集団無責任」にする


「忖度」(そんたく)という言葉。最近よく目にしますよね。
広辞苑によると「他人の心中をおしはかること。推察」とあります。
日本人は他人の考えにとても敏感です。これは私たち日本人の「資質」でもあります。

しかし私は、「忖度」は日本企業を滅ぼしかねないと思っています。

実は私たちも知らない間に忖度をして、色々なトラブルを起こしています。他人の問題ではなく、自分たちの問題なのです。

 

私のささやかな経験を2つご紹介します。

ある社会人合唱団で、事務局を担当していました。
合唱団では集合練習が必須です。毎週末、GW期間中もお盆休みも、皆で集まり練習していました。平日の仕事もあり、毎週末の練習は体力的にもきついので、「たまには休みたいなぁ」と思うこともありました。

合唱団は複数のパートで構成され、各パートにリーダーがいます。リーダーの集まりで「GW期間やお盆休みくらいは、休みませんか?」と提案したところ、リーダーの一人であるAさんが、こう言いました。

「困ります。みんな毎週やりたいと言っています」

全員が集まった会議で「毎週やりたいですか?」と挙手をお願いすると、真っ先に手を上げるAさんに続き、ぱらぱらとほぼ全員が手を上げます。

「全員が希望するのなら、毎週やりましょう」と、毎週末の練習を続けていました。

ある日、AさんからBさんにリーダーが変わりました。Bさんから、こう言われたました。

「みんな『たまには休みたいよね』って言ってますよ。Aさんからは、永井さんの方針で毎週やっていると聞きました。検討していただけないでしょうか」

(え?そんなことになっていたのか!)と驚きました。

実は私も含めた全員が、Aさんの「何としても毎週練習したい!」という強い気持ちを忖度していたのです。

 

こんなこともありました。随分前、これも仕事から離れて、写真関係のネット会議室の運営を担当していました。ある日、Cさんというシニアな方から、こう言われました。

「永井さんが会議室に投稿したあの内容、Dさんに対して失礼だ。謝罪しなさい」

(ああ、気遣いが足りなかったな)と思い、お詫びの言葉とともに、改めて投稿したところ、Cさんは再度こう言ってきました。

「永井さんは、まだわかっていない。Dさん、傷ついていますよ」

後日、Dさんと会った際に話してみると、不思議そうにこうおっしゃいました。

「はぁ?ゼンゼン気にしていないんだけど。Cさん、どうしちゃったの?」

 

2つのケースとも、他の人のことを「忖度」(そんたく)しています。
この「忖度」がいい面で出ると、「相手への気遣い」や「思いやり」になります。
しかし「忖度」が悪い面で出ると、相手に振り回されたり、振り回したりして、そもそも何をしたいのかわからなくなることもあります。

仕事でも、社内で「〇〇社長のご意向だ」「××専務のご方針だ」というかけ声でプロジェクトが進むことがよくあります。
しかし実際には社内政治に長けた人が、〇〇社長や××専務に言質を取った上で、〇〇社長や××専務のご威光を使い、Aさんのように自分に利していることも多いのです。

 

先に挙げた2つのケースは、身近でささやかなものです。

一方で最近の日本の組織では、大きな問題が起こり、なかなか解決できないケースが増えてきました。一時期のシャープの経営危機、東芝の問題、福島第一原発の問題…。

どの問題も不思議と共通するのは、「誰が問題の責任者なのかが、よくわからない」という点。組織の中で「忖度」を続け、責任から逃れ続けることで、誰が責任者なのかわからないまま、モノゴトが進んでしまったことも、大きな要因だと思います。

 

「忖度」の問題は、自分が主語になっていないことです。

「私はこう考えている。だからやる」ではなく、
「〇〇さんがこう言っている。だからやる」となっているのです。

 

「〇〇さんがこう言っている。だからやる」というのは、一見、気遣いがある美しい言葉ですが、実は無責任です。もし間違っていても、自分で責任を取らずに済むからです。

「私はこう考えている。だからやる」というのは、一見すると自己中心的で身勝手な言葉ですが、実は責任を伴います。もし間違っていたら、自分の責任が問われます。

「集団責任」という美しい言葉は、容易に「集団責任」になります。
「〇〇さんが言っている。だからやろう」と思っている瞬間に、思考が停止し、他人にコントロールされているのです。

忖度して何も自分で決められないのが、今の日本です。
どこか戦前の日本と似た、危うい感じがします。

まず、あなたは、どうしたいか?
その上で、他の人のことを、どう考えるか?

すべてはそこから始まるのです。

 

 

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