ビジネスパーソンは、骨太な本を読め


2022年1月31日に日本経済新聞の特集『Biz Frontier 書籍が開く人的資本経営』で、世界のビジネス書の動向についてインタビュー記事を取り上げていただきました。このような機会をいただき、光栄です。

そこでここでは、ページの関係で記事に掲載されなかった読書に関するお話しをしたいと思います。

現代は「先が見えない時代」です。いまの成功パターンはすぐに賞味期限が切れます。あのタピオカブームもあっという間に終わりました。

たとえると、私たちは数ヶ月毎に地形がどんどんと変わり、見知らぬ猛獣が潜むジャングルの密林を、目的地に向かって探検している探検隊です。

こんな時代に必要なのが、現場で学びながら、勝ちパターンを掘り当てること。ここで必要なのが「考える力」。考える力を深める上で、ビジネス書は強力な武器です。ビジネス書は密林探検の際のコンパスであり、難路を切り拓くジャックナイフです。

では、どんな本をよめばいいのか?

日本のビジネスパーソンは、手軽で読みやすいノウハウ本を手に取りがちです。しかし手軽なノウハウ本は当面の目的には役立ちますが、考える力が深まるとは限りません。

世界のビジネスリーダーが読む本は、ネットで検索すればわかります。ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどが推薦する本はすぐにわかります。彼らは骨太な理論書や偉人の伝記を読んでいます。このような本は「考え方」そのものが書かれているので、読み手の思考を深めてくれます。

さらに異分野の読書でも根っ子で共通する学びがあり、相乗効果で学びは指数関数的に増殖します。たとえば『成功はゴミ箱の中に』(レイ・クロック著)と『企業家とは何か』(J・A・シュンペーター著)を読むと、『レイ・クロックはマクドナルドをフランチャイズ展開して、シュンペーターが提唱した「イノベーション5つの新結合」の4つ目「新しい販売市場をつくる」を実践したのだな』とわかります。

ただ理論書は専門用語が多く、敷居が高いのが難点。そこでまずは、敷居が低い入門書から入るのがお勧めです。入門書とノウハウ本はともに手軽に読めますが、異なる点は、入門書は理論書の入口になることです。

たとえば会計なら『稲盛和夫の実学―経営と会計』、マーケティングなら拙著『100円のコーラ』シリーズ。専門用語を理解すれば、スムーズに理論書に入れます。また拙著『MBA 50冊シリーズ』も、良書を選ぶ上で役立てて欲しいと考えて執筆を続けています。

さて、ビジネス書はこの100年間のスパンで考えると、「人間と社会のあり方を真剣に考えよう」という大きなトレンドの中にあります。

20世紀前半からの20世紀末までの多くのビジネス書は、テイラーを起点にした「科学的手法」のビジネス書(数値化して計画・管理すれば最適解が得られる)が多い印象でした。その集大成が1980年刊行のポーター「競争の戦略」といえるでしょう。

一方で1960年代に「自己実現」という考え方を出発点に、理想の企業のあり方を追求したマズローの思想を始点に、人間の心のあり方に焦点を当てた流れが20世紀後半から台頭し始め、ビジネスと融合しています。

たとえば1980年代に「インテルを偉大な企業にしたい。でも従来の経営論はダメだ」と考えたアンディ・グローブは、マズローに心酔し、普通の人から最大の成果を引き出す経営手法OKRを編み出しました。OKRは創業2年目のグーグルで採用され爆発的成長を生み出し、シリコンバレーに広がり、最近では日本でも花王が採用しています。

さらに経営理論の世界では、ポジティブ心理学(チクセントミハイやデシ→アダム・グラント)や、行動経済学(カーネマンやアリエリー)の知見も取り入れ、脳科学などと組み合わさり20世紀末のロングセラー「EQ」を起点に唯物論と唯心論の融合が起こり始めています。

「社会的共通資本」を提唱した経済学者・宇沢弘文を起点に、「地球という社会的共通資本の枠内で、いかに全人類が幸せになるか」という流れが現在のSDGsに繋がり、1980年代には科学的経営に寄っていたポーターもCSVを提唱するようになりました。

「人間と社会のあり方を真剣に考えよう」とトレンドは、世界で台頭するZ世代の価値観でもあります。この流れはますます強まっていくと思います。

このように、ビジネス書の守備範囲は、大きく広がっています。これはビジネスパーソンに、高く広い視点で「考える力」が求められるようになってきたからです。

そのような骨太な本は、読めば読むほど、相乗効果で「考える力」が増殖していきます。

骨太な本を読みましょう。

 

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