「日本企業は、海外では『過剰品質』なのではなく、実は『低品質』なのだ」という認識が必要なのかもしれない

日経ビジネスオンラインの次の記事を拝読しました。

「日本企業がグローバル化できない本当の理由って何ですか?」
早稲田大学ビジネススクールの淺羽茂教授に聞く

記事では、淺羽さんがよく使う例として、日本のゼネコンが競って開発してきた、超高層建築向けの耐震性の高い高強度コンクリートを紹介しています。

上海やドバイでは多くの超高層ビルが建設されましたが、高強度コンクリートは全く採用されませんでした。材料を絶妙な配合で混ぜたり、精緻な施工管理ができる人材・材料が、海外では調達できなかったためです。

上海やドバイの超高層ビルは、性能で劣っても、調達しやすく簡単に配合できるコンクリートを使いました。

記事で淺羽さんは次のように述べておられます。

「こう考えると、日本の高強度コンクリートは過剰品質ではなく、非常に低品質だった。低品質で、なおかつ価格が高いから売れなかったのだと見るべきなのです」

 

「なるほど!」と思いました。

 

私たちが「高品質」と言う場合、往々にして技術面だけを意識しているケースが多いのではないでしょうか? そして提供する技術が顧客ニーズを上回っているケースを、「過剰品質」と呼ぶ傾向があります。

しかし「過剰品質」なのに採用されないのは、他の課題(このケースでは、調達しやすさや配合しやすさ)に応えられていないからです。

つまり、「顧客の課題」を考慮していない孤高の「高品質」なのであり、「過剰品質」なのが現実なのです。

日本市場向けの高品質商品は、「顧客の課題」から品質を捉えると、実は海外市場では「過剰品質」ではなく、「低品質」なのだ、という認識が必要なのですね。

 

記事では、先日当ブログでもご紹介したユニクロのバングラデシュでの取り組みも紹介されています。

本来、グローバル化を推し進める際には、現地のきめ細かな顧客の課題を理解して先取りし、応えていくことで、品質を高めることが必要なのです。

記事を拝読し、「顧客の課題が出発点」というのは、グローバル市場においても大切なことなのだ、という当たり前のことを再認識しました。
 

 

あのIBMが開発した「真のグローバル企業を目指せ!海外戦略ゲーム」が、なかなか面白い件

巷で、「あのIBMが開発した」と言われるこんなネットゲームが話題になっています。

Ibmgame_4 

「おお!ついにIBMもゲーム進出か? IBMを退職して半年近く経つけど、世の中の流れは早いものだ」

と思いながら早速試して見ましたが、あの懐かしい「人生ゲーム」を彷彿とさせたりして、シンプルでなかなか面白いですね。

ゲームをしながらIBMが提唱するGIE(グローバル・インテグレーテッド・エンタープライズ)の考え方を理解出来るようになっています。

意志決定の場面で、IBMが提供するGIEサービスのパンフレットもダウンロードできる仕組みです。

最後に採点されて、上位得点者はランキングされます。(私は残念ながらランキング外でした)

 

ちなみに、「GIE」とは、「国際企業」→「多国籍企業」の次の段階として、IBMが提唱する企業の姿です。

「国際企業」は、本国から海外の各地へ製品やサービスを供給するモデル。

「多国籍企業」は、さらに一歩進んで、海外の各国に、本社と同等機能(地域本社、営業、開発、生産、マーケティング、等)を展開するモデルです。

しかし一方で多国籍企業は、本国本社と機能重複があり、コスト面、意志決定の速さの面などで弊害も出てきました。

そこへインターネットやグローバルサプライチェーンの仕組みが登場し、必ずしも各国に本国と重複する部門を置く必要がなくなりました。

そこで「世界全体で一つの企業として経営していこう」という考え方でIBMが提唱しているのが、「GIE(グローバル・インテグレーテッド・エンタープライズ)」です。「グローバルで統合された一つの企業」という意味ですね。

GIEは、パルミサーノ前CEOが就任した2004年から、IBM自身が全世界のIBM社内で展開しており、ここで得られた経験を、様々な経営支援サービスとして提供しています。

 

このような背景を理解して、改めてこのゲームを見ると、マーケティング・プロモーション活動(デマンド・ジェネレーション)の一環として、よく出来ている仕組みだな、と思いました。

それにしても、お金もかかったでしょうね。

まさに「GIE」を実践している企業の中で、このように日本にローカライズしたプロモーションにお金を付けるのはかなり大変なことです。関係者の皆様のご努力には頭が下がります。

 

【1500語で交渉する英語 #7】「YesとNoを、はっきりとストレートに言おう」と思うあまり、浮いてしまう

連載7回目です。

【ありがちな勘違い】「YesとNoを、はっきりとストレートに言おう」と思うあまり、浮いてしまう

日本人が欧米人に持つ印象は、こんな感じなのではないでしょうか?

「YesとNoを、はっきりと、ストレートに言う」

こう思っているので、ある程度英語を話せるようになると、Yes/Noをはっきり言おうとする方は、多いと思います。

かく言う私もそうでした。英語がある程度話せるようになり、コミュニケーションにやや慣れてくると、あえて自分の人格を変えて、必要以上にYesとNoを明確にはっきりと言うように意識していました。

日本人の私とは、まるで別人格ですね。

しかし一方で、何か、それまでと違う感じもありました。

日本的に言うと「空気が読めないヤツ」みたいな感じ、と言ったらいいのでしょうか、なぜか「浮いている」感じがするのです。

 

【どうしてそうなる?】実は、米国人ははっきりYes/Noを言わない。その理由は…

実は、米国人でYesやNoをはっきりとストレートに言う人は、意外と少ないことをご存じでしょうか?

意外と思われるかもしれません。

私は、仕事を通じて親しい海外の友人が増えたり、海外からの長期出張で日本に来ている同僚と仕事をする機会が増えて、毎日のように色々と話しているうちに、ある時、このことに気がつきました。

多くの米国人は、仮にその意見に反対であっても、

「なるほどね。あなたはそう考えるのですね。私だったら、それをさらにこうすると思う」

とか、

「それは悪くないね。さらにこのようにできたら、もっとよくなると思う」

というように、相手の立場を尊重した上で、さらに提案のような形で話すのです。

特に最近、このような話し方をする米国人が増えてきたように感じます。

力ずくで説得するよりも、相手が納得した上で同意した方が、よい結果になることを学んだ結果なのかもしれません。

もちろん色々な人がいて、中には「xxxxについて、どうなんだ? Yes or No?」と言ってくる人もいますが、極めて少数派です。そして”Yes or No”と迫る人に対しては、多くの米国人が「品がない」「Yes or Noという質問自体、バカげている」と言っています。(ただ、その発言をした本人には、気を遣ってストレートに言わない一面もあります)

米国人同士でこのような会話をしていること自体、日本人にとって意外に思えるかもしれませんね。

考えてみたら、人間社会で「相手に対する尊重」は必要なことです。相手に対して気を遣う点は、実際には日本人も米国人も、大きな違いはないのかもしれません。

 

では、違う点は何か?

それは米国人は、何らかの意見に対して、自分は「Yes」か「No」か、それとも「分らない」のか、割としっかりした考えを持っているということです。

ただしその考えを表現する方法は、必ずしもストレートな言い方ではなく、日本人同様、相手の立場に気を遣って話しているということなのです。

これは「相手の人格」と「相手の意見」を分けている、と考えれば、分りやすいかもしれません。

つまり、「相手の人格」は尊重する一方で、「相手の意見」については考えを明確にしているのです。 

一方で日本人の場合、私は「相手の人格」と「相手の意見」を明確に分けずに考える傾向があります。

例えば、「彼が言うことなら賛成」とか、「彼が言うことだったら反対」ということが多いのではないでしょうか? (国会の与党と野党の論戦をイメージすると近いかもしれません)

米国人でもそのように考える人はいます。しかし「場の空気」ではなく「弁証法」を議論の基本にする社会では、割合は少ないように感じます。

どちらがよい、悪い、ということではなく、文化的背景の違いで、そのような違いが生じている、ということです。 

 

このように考えていたら、先日、現在ある外資系企業で社長をなさっている昔の上司の講演を伺う機会があり、さらに新しい発見がありました。

日本人が「Yes/No」をはっきり言いすぎることで、米国人は結構傷ついていることが多い、という話です。

例えば、米国人が「日本でxxxxxxxのようにしたらいいんじゃないか?」という提案をしたとします。

その提案が適切ではない場合、多くの場合、私達は「それはだめ。理由はxxxxxxxだ。日本市場では有効ではない」と言ったりします。

実は、彼らが日本に何らかの提案する場合、彼らなりに考慮して提案していることが多いのですが、それを完全に否定されることで、彼らは人格も否定されたように感じてしまい、結構傷ついているようなのですよね。

冒頭で私がなぜか「空気が読めないヤツ」みたいな感じを受けたのは、これが原因だったのです。
 

【こうしましょう】相手の提案を認め、進化発展させる

もしその提案が不十分だった場合、こんな感じで返すといいのではないでしょうか? (ちょっと長い文章になりますが….)

“Thank you for your proposal. That gives us a new perspective. In Japan, however, the reality is xxxxxxxx. So, if we add xxxxxxxx to your proposal, it will be great. How do you think?”

「提案をしていただき、ありがとう。その提案は、我々が持っていなかった新しい視点だ。一方で日本ではxxxxxという現実がある。だから、その提案をさらに発展させてxxxxxxxとすれば、素晴らしいと思う。いかがだろうか?」

ポイントは下記です。

1.まず、相手を尊重し、提案してくれたことに感謝
2.こちらの現実を、事実として伝える(自分の意見でもOK)
3.相手の意見を否定するのではなく、発展・進化させる

 

【参考までに】相手の立場も考える

上記3.は、弁証法でいうところの「正反合」の「合」にあたります。

こちらから相手の意見を取り入れた新しい提案をすることで、彼らも日本の現実を反映した、より優れたプランを手に入れることになり、自分の仕事への評価にも繋がります。

Win-Winですね。
 
・相手の人格と、相手の意見を、分けて考えること
・相手の人格は常に最大限尊重しつつ、意見ははっきり持つこと

文化的背景の違いによる考え方の違いと、文化が違っても普遍的で変わらない点を理解し、実践していきたいものです。

 

【補記】

当エントリーは、2010/4/18に当ブログで書いた「日本人がYes/Noを明確に言うことで、実は欧米人は結構傷ついている、という話+そんな欧米人と、円滑に仕事するには?」を、今回の連載にあわせて書き直したものです。

 

【1500語で交渉する英語 #6】相手を立てようとすると、主張が通らない

連載6回目です。

【ありがちな勘違い】相手を立てようとすると、主張が通らない

海外の人と交渉する際、相手の質問や反論に、私たちは次のように答えがちです。

「おっしゃっていることは分かります」
「なるほど、そのとおりですね」

日本人同士ならば、相手の顔を立てようとして、あからさまな否定を避けるためにこのような言い方になりがちです。

しかし海外では、このような言い方だと、「一度同意したのに前言撤回するのか?」という話になったりします。

実際、私自も20代の頃に米国人と交渉していた際に、これを経験しました。

話がこじれてしまい、その後、上司経由で交渉しても、

「永井は一度、『agreeした』と言った。その前提で進めている」

と一蹴されたことがあります。

 

【どうしてそうなる?】agreeは注意して使う必要あり

“agree”は意外に強い意味を持っています。

相手の主張に同意していることを意味するのです。

私たちは「おっしゃっていることはよくわかりますが、…」というニュアンスの積もりで、”I agree what you said, but….”と言ってしまい勝ちです。しかしbutを付けていても、相手には「あなたのおっしゃっていることに同意します」と受け取られるのです。

agreeを使う場面は、注意が必要です。

 

【こうしましょう】「意見」と「相手の人格」は分けて考える

「意見」と「相手の人格」は分けて考えることが必要です。

一般に、私たち日本人は「意見の否定」=「人格の否定」と感じてしまがちです。そして意見を否定されると、人格否定されたように思い、落ち込んでしまいます。

しかし実際には、意見の否定=人格の否定ではありません。両者は区別して考えるべきなのです。

議論をする際には、何に同意しているかを常に明確にすることが重要です。

そして、もし相手の答えがこちらの期待とは違うのであれば、明確に言うことです。

たとえば、

“We were hoping for a different answer. I understand that you’ve tried to …, but…”

(私たちはそれとは別の答えが必要です。あなたが….をして下さっていることは理解しています。しかし…)

このように、最初に明確に別の答えを必要としていることを伝え、相手がこちらの問題解決に際して払ってくれた努力については、”I understand that…”で理解を示すことが必要です。

同意していないことを明確にすることは重要ですが、相手に対する敬意は忘れてはならないのです。

 

【参考までに】何ごとも、過ぎたりは及ばざるがごとし

中には、逆の例もあります。

「はっきりとYes/Noを主張しなければならない」と考えてしまい、逆に強く言い過ぎることです。

実は日本人がYes/Noを言い過ぎて、提案を全否定され、「意見と人格は別」とは言えども、人格も全否定されたように感じて、傷ついている米国人もいます。

米国人はYes/Noの意見ははっきり持ってはいますが、実際には、YesやNoをはっきりとストレートに言う人は、意外と少ないのです。

たとえば、意見に反対であっても、

「悪くないね。さらにこのようにできたら、もっとよくなると思う」

というような言い方で、相手の立場を尊重した言い方をします。

まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」ですね。

(もちろん、とってもきつく”Yes/No”をいう米国人も中にはいます。人それぞれです)

これについては、明日、ご紹介したいと思います。
 

【補足】

本記事は、日本IBM様が改善活動の成果物として公開している「テレコン英会話小冊子」に掲載されていたp.17-18の文例を参考に、その背景を掘り下げてご紹介しました。

 
 

【1500語で交渉する英語 #5】相手が話していることが分からない。でも会話はどんどん進んでいく

連載5回目です。(前回はこちら)

【ありがちな勘違い】相手が話していることが分からない。でも会話はどんどん進んでいく

英語で話をしていて、意味がよくわからないことがよくあります。

「でも、質問したら失礼だよなぁ」と思っているうちに、相手の話はどんどん進んでいき、ますますわからなくなります。

多くの人たちが参加する会議だとなかなか質問しにくいですよね。

でもそんな会議などでは、周りの人たちは理解しているようで意見を言い合っています。

なんとな〜く感じる、「一人取り残された感」。

最後に「じゃぁ、これで進めますね。いいですか?」と聞かれます。「これ」が何かわからないまま、頷いてしまう。

こんな経験、ありませんでしょうか?

【どうしてそうなる?】「理解していない」ということは、決して察してくれない

前回は、「こちらが伝えようとすること」を察してもらえない話でした。

実は今回は、「こちらが理解していないこと」を察してもらえない話です。

前回も書きましたように、グローバルコミュニケーションでは、「相手が察する」ことを期待してはいけません。

理解していないことを察してもらえないのですから、質問するしかありません。

しかし、

「相手が話している最中に質問するのは、失礼じゃないですか?」
「会議でそんな質問するのは、恥ずかしい」

と思われるかもしれませんね。

実は自分が理解していないのに、相手に話し続けさせるのは意外と失礼なことなのです。

たとえば、日本人同士がこんな会話をしている状況を想像してみて下さい。

Aさん「(10分ほど話し続けて) 状況はこういうことなのですが、どう思いますか?」
Bさん「えーっと、あなたが何をおっしゃっているか、よくわからないんですけど」

もしあなたがAさんだったら、「わからないんだったら、わからない時点で、ちゃんと質問してよ」と思うのではないでしょうか?

海外の人も、同様に思うはずです。

 

【こうしましょう】わからない点を聞く

では、どのように質問すればよいのでしょうか?

それは明確にわからないことを尋ねることです。

■たとえば、直前に話したことがよく聴き取れなかった場合は、

Could you please explain that again?
(もう一度説明していただけますか?)

■具体的にわからない点がある場合は、

Please clarify ~.
(〜について明確にして下さい)

■相手の話が長くて、全体がわからなくなる場合もあります。そんな時に使えるフレーズもあります。たとえば問題点を話しているのであれば、

Could you summarize this problem?
(この問題点を要約していただけますか?)

また相手が気持ちよく説明してもらえるように、for usを付けるとgoodです。

Could you summarize this problem for us?

 

【参考までに】『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』。質問すると意外に親切に教えてくれます

文化人類学者のルース・ベネディクトは、著書「菊と刀」の中で、『米国は「罪の文化」に対して、日本は「恥の文化」である』と述べています。

「恥の文化」は、「おもてなし」に代表されるように、素晴らしい日本文化を創り上げてきました。

一方で、「恥ずかしいから」と、わからないことを「わからない」と言えないのは、グローバルコミュニケーションではマイナスに作用してしまいます。

日本にも、『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』という言葉があります。

勇気を持って、「わからないこと」を質問してみましょう。

いつも会話や会議で静かな日本人が質問すると、意外と相手は親切に教えてくれます。

 

【補足】

本記事は、日本IBM様が改善活動の成果物として公開している「テレコン英会話小冊子」に掲載されているp.11-12の文例を参考に、その背景を掘り下げてご紹介しました。

 

【1500語で交渉する英語 #4】日本人同士なら察してくれるのに、外国人相手だとなかなか伝わらない

連載4回目です。(前回はこちら)

【ありがちな勘違い】こちらが言うことを察してくれない、なかなか伝わらない

海外の人に、これから英語で説明して、何かを依頼しなければなりません。

準備は万端です。詳しい資料を用意して、順番に英語で説明します。相手は聞いています。そして最後に「だからこれをお願いしたい」と切り出します。

しかし相手は「同意できないね」。

「これをやってくれないと困る」と迫っても、肩をすくめるばかり。

“This is not reasonable.” (妥当じゃないね)と言われることもあります。

こういうことが続くと、「日本人同士ならすぐ察してくれるし、伝わるのになぁ。外国人は察してくれないし、なかなか理解しようとしないからなぁ」とボヤくことになるのです。

 

【どうしてそうなる?】相手は決して、察してくれない

確かに日本人同士ならば、多くの言葉を要することなく「あうんの呼吸」で言いたいことが伝わります。日本人同士だと価値観の共有度合いが高いので、相手は察してくれるのです。

このため日本人のコミュニケーションは、「言いたいことは全て言わず、節度を保つ」という形になりがちです。

しかしグローバルコミュニケーションでは、日本人が当たり前と思っている価値観は、必ずしも当たり前ではありません。

「あうんの呼吸」は伝わらないし、察してくれることは絶対と言っていいほどあり得ません。

だから伝わらないのです。

 

【こうしましょう】”Does this make sense?”できめ細かく確認を。

相手が前提条件を理解していないのに、その次を説明しても、相手は納得してくれません。

そこで説明する際には、一つずつ相手の理解を確認しながら進めることが必要になります。その際に使える言葉が、次のフェーズ。

“Does this make sense so far?”

訳すると「ここまでは理解できるか?」となります。 

「”Do you understand?”でもいいんじゃないの?」と思われるかもしれません。ただ、これだと相手の理解力があるかどうかを聞くニュアンスが含まれるため、失礼に聞こえ勝ちです。

一方の”make sense”は、「理にかなっている」「筋が通っている」という意味があります。つまり”Does this make sense so far?”は「ここまでの話は、理にかなっていると思いますか?」ということになります。

ロジックで議論をするグローバルコミュニケションでは、こちらの言い方の方が、まさに「筋が通って」いますし、スマートな言い方なのです。

 

【参考までに】事前にロジック構成を考える

私がある米国人の同僚に、仕事の依頼をされたときのこと。

彼はキッチリとしたロジックを立てて、一つずつ「ここまでは同意か?反対意見は?」(“Do you agree so far? Any objection?”)と確認しながら議論を進めていきました。

「はい」「はい」と続けると、最終結論に合意するように構成されていて、仕事を引き受けざるをえない前提条件とロジック構成を、事前にキッチリと考えていたのですね。

同意できないことがあると、フランクに話し合って双方が納得する落としどころの合意を探っていきます。

このようなやり方は、私たちがグローバルコミュニケーションをする際にも参考になりますよね。

 

ちなみに、このように相手が理論武装している状況で交渉する場合は、下記を考えることが必要になります。

・前提条件(事実など)が、間違っていないか?
・ロジックは納得できるものか?
・彼の主張は、その前提条件とロジックから導き出されるものなのか?(こじつけではないか?)

これについては、また機会を見つけてご紹介したいと思います。

 

【追記:2013/12/3 12:30】

本記事は、日本IBM様が改善活動の成果物として公開している「テレコン英会話小冊子」に掲載されているp.13-14の文例を参考に、その背景を掘り下げてご紹介しました。

 

【1500語で交渉する英語 #3】参加者がバラバラなことを言い始めて、議論が発散し、迷走してしまう

昨日に続き、連載3回目です。(前回はこちら)

【ありがちな勘違い】参加者がバラバラなことを言い始めて、議論が発散し、迷走してしまう

テーマを決めて会議を招集、参加者も集まり、会議が始まりました。

しかし参加者各自が、そのテーマに沿って色々なことを話し始めてしまいます。たとえばこんな感じです。

「前から思っていたんだけど、xxxxxあるべきだと思う」

「xxxxxは何とかした方がいいよね」

「そうそう、こんなことがあった」

そして話が発散してしまい、当初の会議の目的が達成できないのです。

 

【どうしてそうなる?】会議には色々なタイプがある。そしてお互いに思い違いをしている

会議はテーマを決めるだけでは不十分なのです。

実際には、会議には様々なタイプがあるからです。

・情報共有の会議:定例会議などはコレです

・問題分析と解決の会議:何か問題が発生した場合、現象を把握、分析し、対策を講じることが目的です

・意志決定の会議:シニアマネジメントが参加する会議の多くはコレです

・アイデア出しのための会議:一般的に「ブレインストーミング」と呼ばれます。アイデア出しをしたり、市場機会を見つけたりすることが目的です

例えば、「問題分析と解決」のために招集した会議で、参加者が「アイデア出し」を始めたら、どうなるでしょう?

本来の問題把握はできませんし、問題解決も長引きます。

会議がどのタイプなのか、参加者が理解していないと、会議が時間の無駄になってしまうリスクがあるのです。

 

実際には、参加者に会議のタイプと目的を伝える重要性は、日本人同士の会議でも変わりません。

しかし日本人同士だと、なんとかなってしまうのです。主催者側の意図がある程度の「あうんの呼吸」で伝わるからです。

加えて多くの日本人は、会議ではあまり発言しない傾向があります。ですのでお互いに空気を察しあいながら、徐々に当初の目的に誘導することも可能です。

ですので日本人同士の場合は、会議のタイプについて明確に言わないケースも結構多いのです。

しかし海外の人たちには「あうんの呼吸」は伝わりません。加えて会議で発言しない参加者は貢献価値がないと見なされます。

ですので、最初に会議のタイプと目的を合意していないと、会議が発散してしまうのです。

 

【こうしましょう】”Let me clarify the objective of this meeting. ..” 冒頭で目的を明確に伝える。

まず会議の冒頭で、このように始めましょう。

“Let me clarify the objective of this meeting. ..”
(会議の目的を確認させて下さい)

このように最初に会議の目的を明確にし、参加者で共通の理解を持つことが出発点になります。

冒頭の言葉の後は、例えばこう続けます。

・「今日の会議では、この問題を分析し、解決したい。力を貸して欲しい。会議が終わる1時間後には解決策を合意したい」

・「今日の会議は、アイデア出しのブレインストーミングだ。各自思い思いに自由にアイデアを出して欲しい」

・「今日の会議では、今起こっていることを皆さんと情報共有したい。是非意見して欲しい」

 

【参考までに】目的が共有できていないと、英語はさらにわかりにくくなる

ただでさえわかりにくい英語です。

目的について理解の相違があったり、状況が共有できていないと、相手が何を言っているかが、なかなか理解できません。

10年ほど前、当時勤務していた日本IBMで、発展途上国の方々数十名をお招きして、IBMの経営変革の歴史についてお話ししたことがありました。

プレゼンが終わり、Q&Aタイムになりました。

アフリカから来た人が手を挙げて、数分間話し始めました。

ただ、かなり強い英語のなまりのため、何を言っているか全くわかりませんでした。

数十名の参加者がいる中で、3回聞き直しましたが、結局理解できず。

私が困っているのを見るに見かねたのか、隣の人(同じくアフリカから来た方)が説明してくれました。

「彼は質問しているんじゃないよ。『いやぁ、あなたの話はいい話だった』と感想を言っているんだよ」

私は「Q&Aタイムでは質問に答えよう」と思いこんでいました。しかし「Q&Aの時間に感想を話す」というのは私の想定外でした。(考えてみたら、感想を言うのは当たり前のことですね)

この思い込みが前提にあったので、ただでさえわかりにくい英語がますます理解できなかったのですね。

 

最初に目的やゴールを意識あわせすることは、お互いに理解度を深める上でもとても大切です。

ちなみにその時の集合写真です。

Aots

アフリカ各国、ブータン・バングラデシュ等のアジア各国、南アメリカ各国から多くの方々が参加されました。世界は欧米やBRICSだけではありません。世界は広いと実感しました。

10年前というと2003年。もう一昔前ですね。

 

【追記:2013/12/3 12:30】

本記事は、日本IBM様が改善活動の成果物として公開している「テレコン英会話小冊子」に掲載されているp.9-10の文例を参考に、その背景を掘り下げてご紹介しました。

  

【1500語で交渉する英語 #2】前回会議の合意事項なのに、また蒸し返し議論になる。どうする?

シリーズ第2回目です。(第1回はこちら)

【ありがちな勘違い】前回会議の合意事項なのに、また蒸し返し議論になる

プロジェクトの定例会議で、冒頭で”What we agreed last time was …”(前回の合意事項は…)と確認することがあります。

しかし前回議論して合意したはずなのに、往々にして、ここで前回の議論が再び蒸し返されることがあります。

こうなると議論は前に進みません。そして本来議論すべきことが議論できず、プロジェクトが進まなくなってしまうのです。

 

【どうしてそうなる?】記憶は忘れ去られ、さらに、間違って記憶される

記憶は忘れ去られるものです。

「忘却曲線」という言葉はご存じでしょうか? 心理学者のヘルマン・エビングハウスはある研究で、人は1時間後には56%を忘れ、1日後には74%を忘れ、1週間後には77%を忘れることを見いだしました。→Wikipediaのリンク

記憶は24時間以内に、急速に忘却されるのですね。

 

さらに加えて、人の記憶は意外と曖昧です。心理学者のエリザベス・ロフタスはTEDの講演で、いかに人は間違って記憶するかについて語っています。

記憶が語るフィクション

被害者の記憶違いによって、冤罪により刑務所送りになり、婚約破棄され、出所したものの健康を害して亡くなってしまう….。怖いことです。

 

人は24時間以内に急速に議論を忘れることもあれば、間違って記憶することも多いのです。

これはビジネスでも同様です。

ビジネスパーソンは実に沢山の会議に出ています。1-2週間前の会議の内容は、結構忘れたり、記憶違いしている人も多いのです。

 

【こうしましょう】24時間以内に、自分が議事録を書いて送る

人が忘れたり間違って記憶したりするのであれば、ちゃんと議事録を残すことが一つの対応策になります。

会議で議事録を残すことはビジネスの基本です。特にグローバルコミュニケーションでは、コミュニケーションミス最小化のためにも重要です。

しかしながら、議事録が意外と書かれていないのもまた、事実です。

 

グローバルコミュニケーションにおける議事録の威力は、私自身も実体験しています。

私は12年前、アジア太平洋地域で、ある先進ソリューションのマーケティング責任者になり、米国人・韓国人・中国人・シンガポール人・オーストラリア人と隔週で電話会議(テレコン)による定例会議を1年間行いました。

英語は苦手意識がありました。しかし事前に当日のアジェンダを参加者にメールし、会議終了後は、必ずその日のうちに議事録を送りました。

「議事録をちゃんと書こう」と覚悟を決めてテレコンに臨むと、わからないことは何回も聞き直すので、結構なんとかなるものです。加えて、議事録の最後に「もし間違っていたら教えて欲しい」と付記することで誤解も未然に防ぐことができました。

このやり方で、米国本社責任者も含めてスムーズに意志疎通ができ、この年の全世界の半分の売上をアジア太平洋地域で稼ぐことができました。

 

重要なのは、自分が議事録を書くことです。例えば会議の冒頭でこのように言いましょう。

“I will take the minutes and email to you.”
(私が議事録を書いて、皆さんにメールしますね)

実は議事録をしっかり書くというのは、グローバルコミュニケーションにおける会議ではとても重要です。議論の主導権を握れるからです。

そして議事録は、相手の記憶が残っている24時間以内に送ることが重要です。

さらに、最後にこう付け加えましょう。

“If you have any comment, please let me know.”
(もしご意見があればお知らせ下さい)

 

送られてきた議事録が間違っていたら、それをちゃんと指摘するのがルールです。

感覚的に、米国人は議事録は読まない人が比較的多いようです。しかし会議の直後に議事録を送っておけば、次回の会議までに読んで間違いを指摘するのは本人の責任になります。こうすれば、議論を蒸し返されることはなくなります。

 

【参考までに】日本人も、議事録に同意できなければ意見すべし

相手から送られてきた議事録を読んでコメントする責任があるのは、日本人も同様です。もし議事録に同意できなければ、きちんと指摘すべきです。

同意できない内容に対してちゃんと「同意できない」と言わなければ、それは「同意したもの」と見なされてしまいます。

また会議やテレコンなどで、充分に意見を説明できないこともあります。その場合は、「あとで詳しい内容をメールするから」と述べた上で、フォローする方法が有効です。

ただし、議論は関係者にオープンにしましょう。

グローバルコミュニケーションの基本は、オープンディスカッションなのです。

 

【追記:2013/12/3 12:30】

本記事は、日本IBM様が改善活動の成果物として公開している「テレコン英会話小冊子」に掲載されていたp.7-8の文例を参考に、その背景を掘り下げてご紹介しました。

   

「クールジャパン」と言われている現代からは隔世の感がありますが、昔、日本は嫌われていました

ほんの一昔前は、海外からの日本の印象は、あまりよいとは言えませんでした。

 

例えば30年前、私が大学4年生だった頃のこと。

当時、大学卒業の最後の春休みに海外旅行をするのが流行り始めでした。私も、今は銀行員になった友人達と3名で、3週間かけてヨーロッパを旅行しました。

そこで感じたのは、反日感情がとても強かったこと。

例えばヨーロッパのある街角にいると、子ども達が一斉にこちらに駆け寄ってきて、足下に唾を吐きかけて一斉に逃げていくこともあったりして、ちょっと悲しい気持ちになりました。

また25年前に仕事でアジアに出張した際、仕事を終えて現地の同僚と一緒に食事をしていると、第二次世界大戦の日本軍の話が出て「家族を殺された」と言う話が出たり、「そもそも日本人はけしからん」と言われたこともありました。

恥ずかしいことですが、日本から東南アジアへの売春ツアーも、割とおおらかに行われていた時代です。

当時は若いながらも、「自分の仕事を通じて、世界の人達が少しでも日本のことが好きになってくれるといいなぁ」と真剣に考えていました。

 

一方で当時でも、香港でお世話になった中国人の友人が車の中で日本の歌謡曲をいつも聴いていたり、「日本のゴジラはスゴイ」と熱弁をふるう同僚がいたりしました。

 

最近、海外からの日本の印象はだいぶよくなりました。

「クールジャパン」「おもてなし」と言う言葉を聞くと、隔世の感があります。

色々な方面の方々によるご努力のたまものでしょう。

また、東日本大震災に際しての日本の冷静な対応も、それを後押ししているのではないでしょうか?

 

ちょうど多くの日本企業が、さらなるグローバル化を進めようとしているタイミングです。

日本にとって、追い風が吹いているのではないか、と思います。

 

【1500語で交渉する英語 #1】日本人の”I am sorry”は米国人には伝わらない。ではどうする?

私は日本IBMで30年間仕事をしてきましたが、その半分以上はグローバルコミュニケーションを通じて仕事をしてきました。

この時の経験は、東洋経済オンラインの連載「ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力」でご紹介してきました。

この連載でも書きましたように、TOEIC 900点の高得点者でも米国人との交渉がうまくいかない人がいる一方で、必ずしも英語が上手でなくても交渉がうまくいく人もいます。

かく言う私は、入社時にはTOEIC 475点の低スコアで、当初は英語でのコミュニケーションには大変苦労しました。今は英語に慣れたとは言え、ネイティブにはほど遠い状態です。

しかし、仕事を通じて海外の同僚を相手に失敗を繰り返した成果で、今では米国スタイルの交渉は苦手としなくなりました。

そこで当ブログで不定期に、基本的な英語で交渉するための英語の勘所をご紹介していきたいと思います。

下記を基本方針とします。(途中で変更の可能性がありますが)

・基本的に、グロービッシュ1500語の単語を使用
・日本人が意外と気がつかないポイントを押さえる
・今日からでも使える

 

ということで、第一回目のテーマは、「日米の謝罪のすれ違い」です。

 

【ありがちな勘違い】日本人の”I am sorry”は米国人には伝わらない

日本人は、何か問題が発生すると、まず「申し訳ございませんでした」と謝る傾向があります。

これと同じ感覚で、米国人に対して”I am sorry”と謝ることがあります。

しかしこのように言っても、なかなか相手に伝わらないことが多いことを経験された方が多いのではないでしょうか?

そして、「どうして私の誠意が伝わらないのか?」とジレンマを感じたりします。

中には「そもそも米国人は絶対に非を認めない人たちだから、こちらも非を認めてはいけない」という人もいます。

実はこれは半分当たっています。しかしなぜそうなっているのでしょうか?そして謝罪しなければならないトラブルが発生した場合、私たちはどうすればよいのでしょうか?

 

【どうしてそうなる?】それは謝罪の認識が違うから

実は、そもそも日米では、謝罪に対する認識が違います。

日本人は「問題が発生したら、とにかく謝っておく」という行動をしがちです。日本では謝罪は壊れた関係を修復する意味合いがあるからです。

一方で米国人にとっては、謝罪は「悪事や不正を認める」ことを意味します。しかし「人間関係の修復」の意味は希薄です。

だから日本人の感覚で謝っても、米国人は「関係を修復したい」という日本人の誠意を感じることもなく、なかなか納得しないのです。

むしろ、「謝ったのであれば、自分に非があることを認めたということだな。では具体的にどうしてくれるのだ?」と迫られることになるのです。

そして日本人がただ謝っているだけだということがわかると、「言葉だけ謝罪していて無責任だ」ということになるのです。

 

【こうしましょう】”Sorry. The cause of this trouble is xxxx. My action plan is xxxx.”

仮に自分に非があれば、それを認めて、その原因分析と対応策を明示することが必要です。例えば、こんな感じです。

“Sorry. The cause of this trouble is xxxx. My action plan is xxxx.”

もし自分に非がなければ、その理由を述べることが必要です。ただし、あくまで現象にフォーカスし、特定の犯人捜しに陥らない配慮が必要です。個人攻撃に陥る危険性があるからです。

“The cause of this trouble is xxxxx. What we need to do is xxxx.”

 

【参考までに】日本人が米国人の態度に誠意を感じない理由

これとは逆に、何か問題があった場合、米国人の態度に誠意が感じられず、日本人がジレンマを感じることもよくあります。

たとえば、2001年にハワイ・オアフ島沖で、宇和島水産高校の練習船「えひめ丸」が米国海軍の原潜「グリーンビル」に衝突され沈没した事故。

あるいは、2006年のシンドラー製エレベーターの事故。

いずれのケースも、原因を究明するまで、なかなか謝罪は行われませんでした。

米国人は、明らかに自分に非があると認めない限り、なかなか”I am sorry”とは言わないのです。

 

このように自国の価値観で謝っても、相手の国の価値観では理解されず、問題はなかなか解決しません。

お互いに相手が何を問題としているかを理解することが大切なのです。

相手の価値観をお互いに理解し合う必要性は、日本人も米国人も同様です。

一方で「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉もあります。

私たち日本人が、なぜ米国人があのように考え行動するかを知れば、交渉で有利に立つことが出来るのです。

 

日本企業が核とすべきは製品か?技術か? 東レとシャープの事例からの学び

「メイド・イン・ジャパン 逆襲のシナリオ」(NHK取材班、宝島社)の感想の3回目です。

 

本書では、「技術にこだわるべきか?製品にこだわるべきか?」というテーマが書かれています。

結論から申し上げると、本書の答えは、

 企業にとって、核とすべきは技術であって、製品ではない

ということです。

 

Appleのように、製品の選択と集中で成功した企業のサクセスストーリーを聞いてきた私たちにとっては、意外なことかもしれません。

確かにAppleは、スティーブ・ジョブス復帰前までは膨大な製品群がありました。

そしてジョブス復帰後、製品群は絞り込まれ、新製品発表でもモデル数を限定、高度な戦略力と集中投資で高成長・高収益を実現してきました。

本書では、この『選択と集中』が出来るのはジョブスの構想力とプロデュース力に依っている、としています。

 

一方で本書では、製品ではなく、技術を核として多様な製品を生み出すことが、日本企業の成功パターンである、としています。

 

例えば、東レは1961年に炭素繊維の研究開発に着手。

製品として出来上がったのが10年後の1971年。

しかしその時点でも使い道は定まっていませんでした。当初から「旅客機の構造体に使えるかもしれない」というアイデアはありましたが、スペック的にはまだまだ。

そこで,「鉄の1/4の軽さで10倍の強度」という炭素繊維の特性を活かし、釣り竿やゴルフクラブに展開したところ大ヒット。

その技術が自動車に使われ、現在は当初のアイデアの通り航空機にも使われています。

本書では「深は新なり」という東レ・栗原フェローの言葉が紹介されています。「一つのことを深く追求していけば、新しい発見がある」ということです。

そのためには「超継続」が必要であり、失敗から学び続けることが求められます。

そして東レでは優秀な技術者を定年後も手放さず、「人財」として長く雇う人材戦略を取っています。

 

現在苦しんでいるシャープも、東レ同様、かつては液晶技術を核に、バッテリーが長時間稼働する液晶電卓、電子手帳ザウルス、液晶ビューカムといった多彩な製品群を生み出していました。

その後1998年、ブラウン管テレビ全盛の当時、「国内販売のテレビを2005年までに液晶に置き換える」という「液晶テレビ宣言」を行いました。

この大胆な「選択と集中戦略」は大当たりし、液晶テレビ普及で歴史的な役割を果たしました。

しかし結果として、全社経営資源も液晶テレビに集中投資することになりました。シャープは液晶テレビに社運をかけることになり、「技術を核に次々と新製品を生み出す」という勝ちパターンに狂いが生じていきます。

その後、液晶テレビがコモディティ化の波に飲み込まれ、コスト競争に陥ると、液晶テレビに命運をかけていたシャープは次第に追い詰められてしまいました。

最近のニュースでは、スマホ液晶への注力が伝えられています。かつての「勝ちパターン」に戻ろうとされているのでしょう。

 

■「技術を核に徹底的に深める」

■「これを顧客視点で、キラーアプリとしての製品に展開する」

■「そのために、超長期間の超継続」

■「超継続実現のために、人財の長期確保」

これらが互いに密接に絡み合っているのですね。

これは、世界でも際だった高い技術力を持ち、人材の定着度が高い日本企業だからこそ取れる戦略です。

激しい競争環境の中で、この強みをいかに維持していくかが問われていると思います。

 

 

メイド・イン・ジャパン復活のカギは、「スピード」と「正しいリスクテイク」。しかしそれは大きなチャンスでもある

「メイド・イン・ジャパン 逆襲のシナリオ」(NHK取材班、宝島社)を読了しました。

 

昨日のブログでご紹介したように、本書は1年前にNHKスペシャルで放映された内容を書籍化したものです。

1年前のコンテンツですが、今こそ必要と思われる箴言が沢山ありました。

 

本書で学べたことは沢山ありますが、私が感じたことをサマリーすると、メイド・イン・ジャパン復活のために必要なことは、表題の通り、「スピード」「正しいリスクテイク」だということです。

 

「スピード」…日本全体がいわゆる「大企業病」にかかっている状況になっています。

根回しに時間がかかりすぎて、意志決定が遅い。それに対して、ライバルの台湾・中国・韓国メーカーは現場に権限委譲されており、数十倍のスピードで動いています。

現代では、「時間」は、「ヒト、モノ、カネ、情報」に続く第5の経営資源です。

いかに意志決定プロセスを権限委譲して簡素化し、スピードを上げるか、ということが成功のカギだと改めて痛感しました。

 

「正しいリスクテイク」…「リスク管理」という言葉が流行っています。

本来の「リスク管理」とは「リスクを正しく評価し、取るべきリスクは取り、そのリスクを管理すること」ということです。

しかし多くの日本企業では「リスクを取らないこと」と理解されてしまっている現状があります。

このため、新しいことには何もチャレンジしようとしない。

顧客の課題を先取りしようとぜずに、言いなりになってしまっているのも、「リスクを取らない」ことが要因なのかもしれません。

一方のライバルであるライバルの台湾・中国・韓国メーカーは、どんどんリスクを取って顧客の課題を先取りし、動いています。

 

しかし、この二つが課題であるということは、見方を変えれば、日本企業にとってはもの凄いチャンスなのです。

本書では、「技術では日本企業にかなわない」というライバルメーカーの経営者の言葉が紹介されています。

現時点でも、日本企業は、ライバルの台湾・中国・韓国メーカーを圧倒しているのです。

ライバルたちが「技術力」という課題を克服するのは難題です。

一方で、日本企業の課題である「スピード」と「正しいリスクテイク」は、意志決定プロセスを変えれば克服できます。「その気になって、やればできる」のです。

 

メイド・イン・ジャパン復活のカギは、要は「やる気があるかどうか」「本気になるかどうか?」。

実際の企業の現場におられる方々は大変かと思いますが、「解決したい」という強い気持ちを持っている人たちにとっては、可能性はとても大きいと改めて実感しました。

 

 

ものづくりのヒントは、『「製品開発」ではなく「市場開拓」』。そして「絶対に勝つ!」という強い執念

「メイド・イン・ジャパン 逆襲のシナリオ」(NHK取材班、宝島社)を読んでいます。

2012年10月27日、28日にNHKスペシャルの同名番組で放映された内容を書籍化したものです。

コンテンツは1年前のものですが、今こそ読むべき内容だと感じました。

 

この中で、中国ハイアール・張瑞敏CEOの考え方が紹介されていました。

「ものづくりとは何か?」を考える上で、大きな示唆があると思いましたので、ご紹介します。

—(以下、p.176から引用)—

….開発者に『君は製品を開発しているわけではなく、市場を開拓しているのだ』と教え込んでいます。これを理解させるのは非常に重要だと思います。

 一般的に言えば、開発者は『私の仕事は新商品を開発することだ』と思いこみやすいものです。この製品にはこういった性能、こういった機能があり、非常に立派な製品だと自慢しやすいのですが、消費者がその機能を求めているのか、そこまでは考えが及んでいないかもしれません。
 
 そこでハイアールでは、開発者に『あなたの仕事は新商品を開発するのではなく市場を開拓するもので、消費者のニーズを正確に把握すること』と認識させています。そのために、開発者と営業部隊に意志の疎通を図ってもらうことにしました。新商品を開発する前に、まずは営業部隊と一緒に市場に出て、消費者が求めているものを理解することに努めてもらっています。
 
 —(以上、引用)—

『「製品開発」ではなく「市場開拓」』という考え方は、とても重要だと思います。

 

このことは、昨晩(2013/11/17)の同じNHKスペシャル「成長か、死か~ユニクロ 40億人市場への賭け~」を見た時も感じました。

この番組では、グローバル展開を急ぐユニクロの取り組みを紹介していました。

ユニクロのグローバル戦略の一つが、「ベースオブピラミッド(BOP)」と呼ばれる世界最貧国市場への進出。そこでバングラディッシュに進出しています。

「最貧国の一つバングラデシュでビジネスを成功させることができれば、アフリカなど世界中どこでも商売ができる」という戦略です。

当初ユニクロは、自社デザイナーがバングラディッシュの女性の嗜好にあったカジュアルウェアを開発し、商品として並べます。しかし全く売れない現実に直面します。

多くのバングラディッシュの女性は、適価(900円–日本の感覚で18000円)のカジュアルウェアは買わず、たとえ高価(2000円–日本の感覚で4万円)でも気に入った伝統的衣装を買ったのでした。

リモートテレビ会議で報告を受けた柳井社長は、「バングラディッシュの女性たちに受け容れられる伝統的衣装を開発すべきだ。たとえ失敗しても学び続け、成功するまで考え続けろ」と指示を出します。

市場開拓のために、あえてこれまでの製品開発戦略を否定したのです。

デザイナーは、現地女性の家庭のクローゼットを回って調査します。そしてカジュアルウェアがクローゼットの中にはほとんどない現実に驚愕します。

さらにユニクロ・バングラデシュでは、あえて自社開発を保留し伝統的衣装を仕入れて顧客の好みを探っていきます。

まさに、「製品開発」でなく「市場開拓」に活路を見いだしているのです。

同時に、ユニクロの「絶対に勝つ」という強い執念を感じました。

 

ものづくりのヒントは、『「製品開発」ではなく「市場開拓」』。

そして「絶対に勝つ!」という強い執念にある。

二つのNHKスペシャルのコンテンツを見て、改めてそう感じました。

 

東洋経済オンライン・連載最終回『ネイティブレベルの英語力は本当に必要か ー ビジネス英語のハードルはどんどん下がっている』

東洋経済オンライン・連載『ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力』の最終回(第六回目)が掲載されました。

ネイティブレベルの英語力は本当に必要か
ー ビジネス英語のハードルはどんどん下がっている

30年近く前に私が社会人になって英語を学んでいた頃と、現代では、ビジネスの現場で求められる英語力が大きく異なっています。

東西冷戦終結やインターネット普及などで、グローバル化が急速に進んだことが、この背景にあります。

最終回の今回は、そのことについて書いてみました。

 

現代では英語はとても大切です。しかし英語はあくまで手段です。

当記事にも書きましたように、グローバル社会で本当に必要なことは、『100円のコーラを1000円で売る方法3』の最後で、主人公の宮前久美が言い放ったように、次の考え方ではないでしょうか?

「海外で仕事するのに、英語ができるかどうかなんて関係ないのよ。大事なのは、ハートよ。要は、海外でビジネスをやる気があるかどうか。やる気さえあれば、英語なんてどうにでもなるわ」(第3巻p.220)。

 

本連載は今回で終了ですが、これからもグローバルコミュニケーションについて色々な形でお伝えしていきたいと思います。

引き続き、よろしくお願いいたします。

 

「おもてなし」を支えるもの

本日(2013/11/1)の日本経済新聞・文化欄で、帝塚山大学准教授の姜聖淑さんが「おもてなしの粋 女将学」という論文を寄稿されています。

日本の良さをあらわす言葉、「おもてなし」。

それを体現する場所は日本旅館であり、それを支えるのは女将です。

姜聖淑さんは、来日した際に日本旅館に泊まり、その細やかな気遣いに感動され、日本旅館の女将を研究しようとなさったそうです。実はそれまで、誰も「女将」を学術的研究対象と考えていなかったのですよね。

色々と調べたり、実際に旅館や女将に話を聞いてわかったことは、「客が望むサービスを、心を込めて提供するリーダーが女将さん」だということ。「表情を読み取ってお客のニーズを把握」したり、「客の様子に応じて配膳の流れを変えたり」、と現場のリーダーだったのですね。

さらに、「お茶、お花、舞踊などを習得し、和の文化やおもてなしの心を自らの振る舞いで示す存在」でもありました。

さらにこのように書いています。

—(以下、引用)—-

驚くこともあった。ある有名旅館の大女将の記憶力はすごく、常連客の電話の声を少し聞いただけで相手が誰か分かった。提供した料理、好みも記録し、満足度を高める努力をしていた。

—(以上、引用)—-

女将は、永年をかけてその旅館の伝統を受け継いでいて、常連客の膨大な知識も蓄積しており、決して代替できない存在なのですね。

 

日本企業でも、この女将のような役割を果たしてきた社員は多いと思います。なかなか厳しい経営環境ですが、だからこそ、大切にしていきたいものです。

 

エルピーダ元社長・坂本幸雄さん著「不本意な敗戦」

日本は一時期、DRAMで80%の世界シェアを誇り、NEC、三菱、日立等、多くの国内IT各社は大きな売上を稼いでいました。

しかしその後、汎用DRAMはアジア勢との価格競争に陥り、現在はエルピーダ 1社に集約。そのエルピーダも2012年2月に会社更生法適用申請がされ、現在マイクロン傘下で経営されています。

皮肉なことに、厳しい経営環境下でも投資を継続してきたモバイルDRAM需要がその後大きく育ち、現在のエルピーダのビジネスは絶好調です。

このエルピーダで10年間社長を務められた坂本幸雄さんは、ここしばらく、記者会見以外にほとんどマスコミに登場されませんでしたが、このたびご著書「不本意な敗戦」を上梓されました。

先日、書店で本書を見つけ、すぐに購入。色々な学びがありました。

実はエルピーダは社員を一人も切っていません。厳しい状況でも技術力を維持したことが、現在の絶好調に繋がっています。そのあたりを坂本さんは次のように述べておられます。

—(以下、p.48-50から引用)—

一般的に倒産した会社というのはムダが多く、多数の余剰人員を抱えているものです。….

しかし、エルピーダには、もともと、そんなにムダはありません。…一人あたりの売上高は、おおよそ1億円です。日本の大手半導体メーカーのなかには、この数字が3000万円に届かない会社もあります。…

…人員リストラした途端、人の流出と連動して、技術も流出してしまいます。…韓国企業や台湾企業は日本の電機メーカーのリストラのおかげでどれだけ恩恵を受けたかわかりません。普通は強くなるためにリストラするものですが、日本の電機メーカーはリストラした分弱くなっていきます。

—(以上、引用)—

まさに日本の製造業が陥ってしまった、戦略欠如の一面を描いています。

 

また、モバイルDRAMは顧客毎にきめ細かいカスタマイズが必要になります。これが価格競争に陥り勝ちな、汎用DRAMと大きく異なる点です。これに関しても次のように述べておられます。

—(以下、p.64-67から引用)—

…お客様の言うことを忠実に実行するだけの「前垂れ商売ではうまくいかない」ということです。….

(日本の半導体企業は大手電機メーカーの一部門として発足した経緯から) 主導権は「半導体を使う側」が握っています。新興の半導体部門は社内の発言力も弱く、「こういう半導体を必要だから作ってくれ」と言われると、そのとおりにします。

…(インテルは) お客様であるパソコンメーカーとの関係でも主導権を握ったのです。つまり、各パソコンメーカーは、インテルがどんなCPUを開発するかに合わせて、自らのパソコンの商品設計を決めるようになりました。

ビジネスの主導権をがっちり握ることができれば、たやすく高収益をあげられるということも、インテルの軌跡は実証しています。

半導体企業の理想は、やはり、これです。

お客様を大切にしつつ、しかし、その言いなりではなく、お客様が潜在的にほしいと思っている技術や製品を先回りしてつくる。…エルピーダが2003年から手がけているモバイルDRAMは、こうした先取り型の技術開発の一例だと思います。

—(以上、引用)—

「お客様の言いなりになっているだけでは価値を生み出さず、価格勝負」ということは、私も講演や本などでお伝えしていることですので、とても共感しました。

 

本書は、厳しい環境の中で10年以上エルピーダを経営されてきた坂本さんならではの視点で、日本企業や日本企業を取り巻く環境について、他にも多くの問題点を指摘されておられます。

ご一読をお勧めします。

 

第15回世界経営者会議に参加。そのメモ書き (その5) 2日目:

日本経済新聞社主催「第15回 世界経営者会議」のレポート、今回は最終回です。

 

【これまでの記事】

その1: 1日目:「グローバル化」「透明性」「相互信頼」「日本経営の復活」「イノベーション」

その2: 1日目: HUBLOT会長の話に、とても共感しました

その3: 2日目: GE・イメルト会長、明確なビジョンと戦略

その4: 2日目: 富士フイルム・古森重隆会長。写真フィルム市場崩壊の危機に、いかに事業再構築を果たしたか?

 

■ロンバー・オディエ 銀行マネージングパートナー:クリストフ・ヘンチ氏

・スイスのプライベートバンク。1976 1796年創業で7世代に渡っている。現在8名のパートナーで経営。従業員2000名。東京含め96支店展開。

・外部株主・借入いずれもなく、独立性を保っている。短期的利益追求のプレッシャーはなく、30年単位の長期的視点で経営している。

・「後継者はどう決めているか」という質問に対して…。日本でも17代続いた「とらや」のようなケースもあるのでわかると思う。標準はなくケースバイケース。

・銀行は人で成り立っているビジネスだ。顧客の要望は様々で、標準ソリューションはなく、顧客毎に課題について考え、個別提案している。

・「8名のパートナーの役割は?」という質問に対して….。8名全員の合意で経営している。

 

■アサヒグループホールディングス社長:泉谷直木氏

・社員18,000名、売上1.58兆円。アサヒビール創業は1949年だが、前身の大阪ビール創業は1889年。124年目。

・グローバル化を目指している。M&A実施時には株式市場の評価が重要であり、そのためには自社の企業価値増大が非常に重要。企業価値と売上の2軸で考えた場合、第1グループグローバル企業(コカコーラ、ネスレ、ペプシコ)、第2グローバル企業(ハイネケン、カールスバーグ)のうち、当社は第2グループの下位にいるのが現状との認識。

・そこで経営メカニズムを効かせた企業価値向上経営を目指している。基本戦略は、(1)ファンダメンタル(ROE, 経営インフラ)強化と、(2)ビジネスモメンタム(売上、利益、目標達成率)の成長による、(3)コーポレートバリューの向上(財務価値、時価総額、社会貢献)だ。

・人材は極めて重要。執行役員クラス対象の「アサヒエグゼクティブインスティチュート」(泉谷社長自身が講義)、役員候補者対象の「アサヒエグゼクティブリーダープログラム」(戦略構築力、リーダーシップ力、目標達成力強化を通じ、経営者としての覚悟を決める)、所属長手前の管理職対象の「アサヒネクストリーダープログラム」(集合形式で経営に必要な様々な知識習得を目指す)を実施している。

・ただし、「職場に戻ると何も変化なし」となりがち。そこで仕事の定義づけと能力ランク付けをし、社員も自ら何をしたいかを考えてもらい、マッチングによる適材適所を図っている。

・「消費財は価格競争が厳しい。価格はどう上げていくのか?」という質問に対して….。原点に還ったものづくりだ。どうやって買っていただくか、というものづくりが大切。納得価格を考え、商品価値を上げていく。

 

■アルグレア・インベストメント副会長:イサ・アルグレア氏

・ビジネスでは何よりも「信頼」が大切だ。

・2008年の金融危機以降、信頼はより重要になっている。金、ダイヤ、石油、株取引においても、信頼はお金で買えるものではない。

・リーマンブラザーズは31倍のレバレッジをかけ破綻した。中国の粉ミルク事件も同じ。欲があるからこのようなことが起き、そして全てを失ってしまった。信頼は、それが裏切られるまでは当たり前のものに見えてしまうのだ。

・私見だが、安倍首相は素晴らしいと思う。「環境」を作ろうとしている。消費税アップは他国では国民は許せないと言うだろうが、力があるリーダーは納得させることができる。

・「信頼と統制のバランスはどう考えるのか?」という質問に対して….。時には独裁的な民主主義や拒否権発動も必要だと考えている。

・「では会社の統制はどのように考えているのか?」という質問に対して….。複数方向で話し合いを行う。その上で優先順位付けをする。集団として判断するようにしている。それが無理なのであれば、自分が判断をしている。

 

■旭化成社長:藤原健嗣氏

・売上1.67兆円。内訳は、ケミカル繊維 7,942億円、住宅建材 5,377億円、エレクトロニクス 1,311億円、ヘルスケア 1,856億円。今後ヘルスケアを大きくしていきたい。食もやってみたが止めた。

・旭化成は多角化の歴史だ。共通するのは全事業で繊維素材を使っている点。一方で多角化は劣化した事業を抱えてしまうリスクもある。選択と集中が必要だ。他事業がピークアウトする前に新事業を手がけている。

・成功要因は「持てる資源を最大集中していること」「技術のシーズをあわせて創出していること」。

・選択と集中から、新陳代謝を生み出している。考えているのは3点。(1)成長性(そのモノの成長力と、市場の成長力)、(2)収益性 (売上規模と利益率は両立しない)、(3)事業寿命(製品寿命、市場・顧客寿命)

・日本が得意な高付加価値事業は、小さな規模を持った市場の集まり。さらに旬な期間が短い。だから新陳代謝が必要。

・「旭化成はしつこい」と言われている。「一本、柱を立てる」という意気込みで多角化に取り組んでいる。さらに研究開発もしつこい。

 

他にも、インテュイット会長のスコット・クック氏、DeNAの南場氏、ハーバードビジネススクール教授の竹内弘高先生のセッションもありましたが、夜から自分の講演予定があったため、大変残念でしたが参加できませんでした。

 

この世界経営者会議には、2日間参加しました。

世界で活躍中の経営者から、経営最前線の話を直接聞けるこの会議で、とても多くのものを学ぶことができました。

同時に、このような会議をこれまで毎年15回開催してきた日本経済新聞の底力を見る思いもしました。

来年も是非参加したいと思います。

【2013/11/10 8:38AM 修正記録】ロンバー・オディエの創業年度を修正: 1976年→1796年

 

第15回世界経営者会議のメモ書き (その3) GE・イメルト会長、明確なビジョンと戦略

一昨日のブログ昨日のブログに続き、日本経済新聞社主催「第15回 世界経営者会議」の内容をご紹介します。

今回は2日目の講演から、ゼネラル・エレクトリック会長兼CEO ジェフリー・イメルト氏のお話しをご紹介します。

非常に明確なビジョンと戦略を持っておられることを、改めて認識しました。

自分への備忘録も兼ねて、雑記的に書いていますが、ご了承下さい。

・GEの基盤は技術。GEはインフラの会社なのだ。65%の受注が米国外からあるグローバルな企業だ。そして成長がビジネスでは重要だ。

・競争力を形成する上で、重要なことが4つあると考えている。

・一つ目は、天然ガス(シェールガス)。安価なガスの時代がやってきて、他燃料を置き換える。

・二つ目は、インダストリー・インターネット。インフラとして設置されているGE製品毎に30〜40個のセンサーが取り付けられ、データを分析し、価値を生み出す。例えば、ジェットエンジンのセンサーデータにより燃費を数%改善すると大きな価値を生み出す。物理的な世界と、アナリティカルな世界が一緒になる時代なのだ。事業会社と分析をする会社が別々だった時代は、終わる。

・三つ目は、高度な製造業。低コストの人件費を求める時代の終焉だ。今は、例えばサプライチェーンの変革のように、生産プロセスや材料がより重要なのだ。

・四つ目は、徹底した現地化。迅速に新地域でビジネスができることが必要だ。現地化をしない限り、ビジネスはできない。サプライチェーンの現地化も必要だ。

・現在、GEの歴史の中で、最も深い文化変革が起こっている。シンプル化の動きだ。小さなスタートアップ企業は、顧客が全てであり、全社で情報を共有しており、本社組織もない。シンプルだ。彼らの強みをGEでも持ちたいし、GEを筋肉質にしたい。管理をなくして、本社を軽くし、シェアード・サービスを展開する。そしてグローバルに分散したリーダーシップを持たせる。プロセスの数を減らし、ITをシンプルにし、問題を素早く解決していく。シンプル化を推進していくのだ。

・「米国民は日本をどのように認識しているか?」という質問に対して….。日本のことが好きだ。私は安倍首相を評価している。まず財政施策など、手を付けやすいことから先に始めている。そしてモメンタム(弾み)を作り、より大きな課題に挑戦している。

・「福島原発に絡んで、原発ビジネスについてはどうか?」という質問に対して….。三つある。一つ目は、福島原発問題については、日本の人達をご支援したい、ということ。二つ目は、短期的には低コストの代替エネルギー開発を考えていきたい。実際、他の代替手段も生まれている。三つ目は、長期的には2030-2050年頃に原子力がなくなるということはない、と思っている。原発も安全でより低コストなものになるだろう。ただし、世界も変わっているのでこの先はわからないかもしれない。例えば10年前にシェールガス革命は誰も想像できなかった。

・ソフトウェアは重要。今は、GEの全ての事業会社でソフトウェアは重要になっており、サービスの中に埋め込んでいる。導入機器からのデータを分析することが、ビジネスになるのだ。将来的には、GEをソフトウェア会社にしたいと考えている。IBMはデータベースをビジネスにしているが、GEもデータベースをビジネスにしていく。領域によってはIBMがライバルになる、ということだ。自分がGEに入社した頃は米国内で売上80%だった。今は米国内は35%だ。だから境界を設けて「できる」「できない」と考えてはいけない。市場(顧客)が大切であり、市場の動きを理解することが大切だ。

・「地域戦略で重要と考えているのは?」という質問に対して….。重要なのは地域ではなく、国だ。韓国、中国、日本はどれも違う。マクロではなく、ミクロで考えることが重要だし、全てのところにチャンスがある。例えば、ガスタービンは米国よりもアルジェリアの方が売れる。ナイジェリアでは40Gwの電力不足がありGEにとっては大きなチャンスだ。もちろん透明性の観点でリスクもある。正しいリスクを取り、見返りを見極めることが必要だ。

・「日本のGEビジネスのメインは何か?」という質問に対して….。医療だ。優れたエンジニアもいる。新しいMRIを日本で最初に始めた。日本は材料科学が素晴らしい。テクニカルパートナーは日本で持つべきだ。GEとしても活用していきたい。

・「あなたは5年前に『リセット』という言葉を使った。今はどの程度『リセット』されていると考えているか?」という質問に対して….。金融危機を乗り越えて、世界は変わった。今はリセットされた経済だ。今後どうするかは、新しい視点で考えなければならない。

・「リーダーに必要なことは何か?」という質問に対して….。リーダーに必要なことは、いかに早く学ぶか、だ。かつレジリエンシー(トラブルがあっても復旧・回復する力)が必要だ。いい時代でなくても、乗り越えていく。賢いだけでなく、状況が明確でないときでも、モノを見通すことが必要だ。

 

残りの2日目の様子は、また後日ご紹介します。

 

 

第15回世界経営者会議のメモ書き (その2) HUBLOT会長の話に、とても共感しました

昨日のブログに続き、日本経済新聞社主催「第15回 世界経営者会議」の内容をご紹介します。

初日(10/21)に、高級腕時計HUBLOT(ウブロ)会長のジャンークロード・ビバーさんのお話をお聞きしました。

初日の他経営者のお話も凄かったのですが、ビバーさんは特に個人的に大きな共感を感じましたので、ご報告レポート第2回目はビバーさんのお話しを紹介させていただきます。

ちなみに、この時の様子がHUBLOTのサイトに掲載されています。

 

前回同様、自分への備忘録も兼ねて、雑記的に書いていますが、ご了承下さい。

・私のマネジメントスタイルはスイス・スタイル。つまり世界で最も民主主義的なスタイルだ。人は自分自身で決定できないとフラストレーションが溜まるものだ。だから常にコンセンサスが得られるように配慮している。私の経営方針の基本は「愛。健康。フラストレーションをなくす」の三つだ。

・私は朝8時に出社後は、オフィスでは自分の仕事を一切しない。そのため、朝3時に起きて、出社前にやるべきことは全て自宅で済ませている。オフィスでは、常に私の部屋に入ってくる人の話の聞き役に徹している。決定事項は必ず受け容れられるようにし、「彼ら(=部下)自身の」決定になるようにしている。全員が自分自身でやりたいようにすることが大切なのだ。もし決定後、邪魔が入ったら、私がそれを排除するようにしている。

・「それって、日本の根回しと同じじゃないか?」という質問に対して….。その通り!私は日本が大好きだ。日本は「愛の国」だ。おもてなし、尊敬、丁寧、親切さ。これらは全て日本の強みだ。

・HUBLOTは、「古い価値観」と「イノベーション」を結びつけようとしている。例えば、高級腕時計というと金やプラチナを連想し勝ちだ。しかし伝統的な高級ブランドであるHUBLOTでは、炭素素材や京セラのセラミック素材も使っている。F-1のスポンサーになっているのもハイテクで結びつきがあるからだ。

・過去と未来の融合は、実は日本がやっていることだ。日本が国としてやっていることを、HUBLOTは会社としてやっているようなものだ。「過去と未来の融合」というと、米国人は理解できないが、日本人はちゃんと理解してくれる。

・HUBLOTでのビジネスのルールは三つだ。一つ目は、許しの心を持つこと。誰でも失敗はあるが、失敗は最も優れた学習でもあるのだ。二つ目は、人を尊重すること。大切なのはリスペクトだ。三つ目は、共有すること。経験、ビジョン、失敗などを共有すれば、より学び、幸せになれる。

・楽観は明日はもっと楽しくするし、未来は素晴らしくなる。色々と見えてくる。「明日は、今日よりも必ずよくなる」と信じることが大切。悲観は明日を怖れるものだ。「怖れ」はビジネスパーソンの敵だ。ただし「疑い」は友人。疑うことは必要だが、怖れていてはチームを率いることはできない。

・「起業家へのアドバイスは?」という質問に対して….。起業は一匹狼ではできない。チームが必要だ。だからチームを強くすること。そしてリーダーは過ちを怖れてはならない。決して「死んだ魚」、つまり流れに流されてはならない。活き活きと泳ぎ回る魚になることだ。

 

ビバーさんの話を聞いて、米国人的な発想と、スイス的な発想の違いがよくわかりました。

それとともに、9月に欧州ビジネス協会・鉄道委員会様で講演した際、参加された欧州の人達が米国人と同一視されることについて違和感を感じると言っていた理由が、とてもよくハラに落ちました。

考えてみれば、「世界経営者会議」初日の8名の講演者には米国人はいませんでした。日本人2名の他は、シンガポール人、タイ人、デンマーク人、フランス人、スイス人、イスラエル人です。

米国一辺倒だったグローバル社会は、まさに多様化しつつあると感じました。

同時に、実際に人の話を聞いて、インプットしていくことは大切だと実感しました。

 

ここまでが初日。

昨日(2013/10/22)、世界経営者会議の2日目がありました。2日目も得ることがとても多い会でした。これについては後日ご報告します。

 

第15回世界経営者会議のメモ書き (その1) 「グローバル化」「透明性」「相互信頼」「日本経営の復活」「イノベーション」

昨日(10/21)と本日(10/22)、東京帝国ホテルで日本経済新聞社主催「第15回 世界経営者会議」が行われています。

この世界経営者会議、実は申し込めば抽選で参加できます。(有料です)

ということで、勉強のために参加してきました。

 

初日の講演者は、米国を除いた、欧州・アジア・日本といった様々な地域出身の経営者でした。世界が多極化していることを実感した会でもありました。

そこで何回かに分けて、ご紹介していきたいと思います。

自分への備忘録も兼ねて、雑記的に書いていますが、ご了承下さい。

なお、本日(10/22)の日本経済新聞朝刊にも、各講演の様子が掲載されていますので、併せてご参照下さい。
 

■エアバス社長兼CEO:ファブリス・ブレジエ氏

・ブレジエさんはフランス出身。

・今や航空機需要の1/3はアジア。またリース事業のパートナー戦略の上でもアジアは重要。

・様々な需要がLCCから生まれている。近距離大量輸送用のワイドボディなどがそうだ。さらに地域によってニーズは異なる。これらに対応することが必要だ。

・エアバス社は100カ国以上の国籍からなる社員で構成されている。そのため透明性と信頼に基づき、相互理解を促進していく上で、グローバルコミュニケーションが必須となっている。

・このような環境で、経営の軸を伝えるのはトップリーダーの責任だ。隔月で1500名のマネージャーと意見交換する場を作り、さらに隔年の全社員サーベイでキーポイントが伝わっているかを確認している。

・経営判断上の軸は、あくまで顧客の要望だ。

 

■IHHヘルスケア社長 リム・チョクペン氏

・チョクペンさんはシンガポール出身。医師。

・シンガポール、トルコ、マレーシアなど9カ国で32の病院を運営。病床数は5100。統合医療を提供している。

・ほとんどの国で医師を社員としては採用していない。フリーの優秀な医師と契約している。

・「日本の医療についてどう思うか?」という質問に対して….。品質が高い。日本だけでなく他国に対しても、日本は医療ツーリズムのハブとなり得る。実際、ベトナムから日本に高度医療を受けに来ている人もいる。シンガポールの医師も東京大学で学んでいる。

・ただし日本の医療の問題は規制だ。クロスボーダーの医師免許制度が必要だ。例えばシンガポールの医師が日本で治療ができるようにすれば、患者にとってもメリットがある筈だ

 

■サハ・パタナピブン会長 ブンチャイ・チョクワタナー氏

・チョクワタナーさんはタイ出身。

・現在の成功は、明日の失敗の始まりだ。イノベーションは大切だ。

・学習することでチャンスに変えることができる。1997年の経営危機でイノベーションを日々実践するようになった

・この際に、MOPという手法を編み出した。Mission Objective Policyの頭文字を取ったものだ。社員が心から情熱を持って動けるように、かつ長期的政策と短期的なプロジェクトを実践していくものだ。この仕組みを導入してから、売上も利益も大きく伸びた。

・私たちの経営哲学は、古き良き日本の経営哲学と変わらない。終身雇用、誠実さと健全さ、収益を社会に還元、だ。

・「日本企業の停滞についてどう思うか」という質問に対して….。成功を一旦経験すると、そのモデルを変えるのは難しい。日本は経済大国になった。だから変えるのは難しくなった。しかし20年の停滞の後、安倍首相になって変わった。今まではゆったりとしたダンスを踊っていた。誰もがそれに慣れていて、それによる経済の影響を認識していなかった。今はロックンロールを踊っているかのように素早い。

・「日本企業への期待は何か?」という質問に対して….。海外でビジネスをするためには、地元の人が何を求めているかを肌身で理解する必要がある。タイと日本は比較的近いモノの考え方をするものの、日本の考え方を押しつけてはいけない。そのような企業は、タイでは失敗しているのが現実だ。

・「日本市場の参入について、どう考えているか?」という質問に対して….。できればと思っているが、実際には難しい。恐らく日本は世界一参入が難しい市場ではないか?カルフールも2回試みて失敗している。

 

■楽天会長兼社長 三木谷浩史氏

・米国のIT経営者(セルゲイ・プリン、ザッカーバーグ、ラリー・エリソン、等々)は、一見するとネジが一つか二つ吹っ飛んだ考え方をしているかのように見える。しかし実は「素直に考えると、将来はこうなる」という鳥瞰の眼を持って、技術を判断している。新しい発想をどんどん取り入れて、「できない理由」でなく「できる方法」を探していくことが必要だ。

・楽天社内の英語化により、グローバルで均質な情報共有ができるようになった。人材も多国籍化している。外国籍社員は10.2%、海外勤務比率は3割、外国籍の新卒は3割、外国籍の新卒エンジニアは7割だ。コンピューターサイエンス専門の大卒は、日本は2万人だが、米国は32万人、中国は100万人、インドは200万人。しかし日本語が壁になっていると2万人の中からしか採用できない。実は日本は暮らしやすいので、「日本企業で働きたい」と思っている海外の人は多いが、日本語が壁になっている。社内英語化で、この数百万人に門戸を開けるのは、当社にとってもメリットだ。

・「日本語と英語の両方を準備するのはコスト高になるのでは?」という質問に対して….。実際には他言語でも用意しなければならない。まず英語で用意して、それを日本語、中国語、フランス語….と作っていく。だから逆にコスト削減に繋がっている。

 

■ストラタシスCEO デビット・ライス氏

・ライスさんはイスラエル出身。

・ストラタシスは3Dプリンター大手。

・教育セグメントは大きい。子ども達のイマジネーションを育てることができる。

・製造業で、3Dプリンターが全てを置き換えることはない。大量生産は従来の射出成形が引き続き使われるだろう。しかし短納期・カスタマイズ・パーソナライズの需要は、3Dプリンターがまかなっていくことになる。今は存在しない新市場を創造することになるだろう。デザイン業界は大きく変わっていくはずだ。

 

■ヘンケルCEO カスパー・ローステッド氏

・ローステッドさんはデンマーク出身。

・ヘンケルは接着剤大手でドイツ企業。

・CEOに就任した6年前、社内公用語をドイツ語から英語に変えた。

・さらに2年間をかけて社内の価値観を変革し、その後4年間で定着させ成長を図った。

・あくまで顧客を前面に出した。顧客が第一である。顧客をもって行動を定義した。

・当初、経営陣40名が集まり、各自が考える10の価値観を話し合った。全員がちゃんと書けなかった。そこで1年かけて残したい価値観を5つに絞った。そして6ヶ月間かけて4万人の全社員に展開した。

・その結果、ドイツ的なビジョンから、グローバルなビジョンに大きく変わった。

・価値観・ビジョンを定義するに当たっては、基本的な言葉を使うようにした。例えば「ソリューション」という言葉は国によって意味が異なる。だから使わなかった。

・「アジア、特に日本の役割は?」という質問に対して….。アジアは製造の中心。日本は自動車や電機業界でリーダー。大きな投資をしている。

実は多くの欧州企業が、アジアの成長にいかに取り組むか、苦労している。欧州企業のチャレンジは、アジアを理解すること、アジア人がアジアの法人を運営するようにすることだ。そのためには信頼と共通の価値観が必要なのだ。

・アメリカ人なら1回の話し合いで納得できることでも、アジアではなかなか納得できない。それに意見もなかなか話さない。これが現実だ。多様な、異なる文化を、信頼して受け容れることが必要だ。

 

■HUBROT会長 シャン・クロード・ビバー氏

(ビバーさんのお話しは特に面白かったので、後日ご紹介します)

 

■堀場製作所 最高顧問 堀場雅夫氏

・社是は「おもしろおかしく」。経営陣はなかなか受け容れなかったが、6年かけて認めさせた。

・仕事は苦労してはダメ。疲れていてはダメ。いい発想ができない。「これは面白い!」と思うと、どんどん発想が生まれてくる。

・「日本企業の問題は?」という質問に対して….。リスクマネジメントという言葉がある。本来の意味は、リスクを取る際に損害を最小化する方策を採ること。しかし今の日本ではリスクを取らないことになってしまっている。だから日本が元気がない。

・「88歳になっても、そのように立ったままずっと講演をなさっている元気の秘訣は?」という質問に対して….。病の99%はストレスだ。特に経営者はストレスが多い。だから少しでもeasy goingだ。迷惑をかけずに好きなことをやることだ。例えば会社の利益分配。「誰にいくらあげよう」と経営者が考え始めるととても大変。しかもその作業は価値を生まない。だから「従業員にxx%、株主へは配当性向30%、役員へは利益の6%」と決めてしまった。決めたので悩む必要がなくなり、その時間、価値を生むことに使える。

 

「グローバル化」「透明性」「相互信頼」「日本経営の復活」「イノベーション」が大きなテーマとなった初日でした。

 

第1日目のビバーさんと、第2日目の様子は、また後日ご紹介します。

 

 

グローバルコミュニケーション≒ビジネス力

日経ビジネスオンラインでキャメル・ヤマモトさんが執筆された下記記事を拝読しました。

「日本人がグローバル人材になるための方法 マインドは「ドイツ人」の三菱ふそうの日本人社員」

この記事では、三菱ふそうトラック・バスの人事担当常務・江上茂樹さんとのインタビューが掲載されています。

もともと江上さんは、「三菱ふそうならば英語を使う必要はないだろう」と考えてこの会社に入られましたが、その後、三菱ふそうは独ダイムラー・クライスラー(当時)の傘下に入り外資系企業になりました。

それから10年経った現在、江上さんの頭の中の7−8割はドイツ・グローバル流にシフトしたそうです。

 

一つのきっかけは、実際にドイツ人と一緒に働き始めて、「彼らも人間なのだ」ということがわかったこと。

これは私も20代前半にグローバルコミュニケーションを初めて体験して、実感したことです。

「相手も同じ人間だ」と実感するところは、意外とグローバルコミュニケーションでは出発点なのかもしれませんね。

 

さらに、仕事のコミュニケーションで、明快なストーリーとオープン・透明性を持ち、事実に基づいた議論を徹底する重要さを述べておられます。

でもこれは考えていると、グローバルコミュニケーションでなくても大切なことです。

改めて、グローバルコミュニケーションではビジネス力が求められているのだと再認識しました。

 

また江上さんは日本でこのような劇的な変化が起きない理由は、「必要性の度合い」であるとして、以下のように述べておられます。

「典型的な日本企業の場合には、ダイムラーのような外部からのインパクトがない。だから必要性も頭でちょっと考えた必要性にとどまる」

 

記事を拝読して、ある程度の必要性に迫られないと、グローバルコミュニケーションは進まないのかもしれない、と思いました。
 

 

「菊と刀」をより深く理解するために、森貞彦著『「菊と刀」再発見』

一昨日書いたブログでルース・ベネディクト著「菊と刀」をご紹介しましたが、本日この「菊と刀」について論評した本を読了しました。

「菊と刀」再発見 森貞彦著 (東京図書出版会)

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アマゾンの本書の紹介文は下記のようになっています。

—(以下、引用)—

ここ数年間、『菊と刀』に対してどんな論評や解説が行なわれてきたかを詳しく調べてきましたが、その本の真価を明らかにするものが一つも無いのに驚きました。何も難しい事を問わなくても、たとえばその本が何のために書かれたのかとか、結論がどこに書かれているのかというような、単純かつ基本的な質問に答えられる程度の論評も、解説も存在しないのです。

 それでいて、権威者とか 、大家とか言われる人たちが、『菊と刀』に対してはなはだ浅薄な批判論を述べています。しかもそのできの悪い批判論をチェックする人が一人も居ません。

 『「菊と刀」再発見』は、そこに一石を投じるものです。

—(以上、引用)—

 

原書の「菊と刀」は米国人を対象に書かれたものなので、日本人にとってはわかりにくい箇所がいくつかあります。

そこで時間をかけて読んだ「菊と刀」をより深く理解するために、何らかのヒントが得られれば、と考えて読み始めました。

実際に読んでみると、原書では未消化だった部分について、本書からとても多くのことを得られました。

本書は残念ながら絶版になっていますが、アマゾンのおかげで神保町を歩き回らなくても中古が簡単に入手できます。

さらに読み終わった後にわかったのですが、ネット上でも公開されています。→リンク

有難いことです。

 

「菊と刀」を読んで興味を持たれた方は、本書を読むとさらに多くのことが得られると思います。

 

 

PDCAを確実に実践し、組織が学びを蓄積して、成長するために。米国陸軍生まれのAAR(アフター・アクション・レビュー)

企画段階で完璧なコンセンサス構築を目指す日本では、計画段階で関係者に根回しをしながらじっくり時間をかけますが、実行して問題が多く出た後、「最初に言ったことと違うじゃないか」と言われたりして検証・対策がキッチリとできず、結果的にPDCA (Plan, Do, Check, Action)が回らないことが多いように感じています。

一方で、米国人は計画はあっさりしていますが、すぐに実行した後、検証や対策を行って、再度計画を見直すことが多いのです。

これを仕組みで回しているので、結果的に小さな成果でも速く出て、学びも蓄積されていきます。

 

数年前、日本IBMで米国人の同僚と仕事をしていた際に、なぜ米国ではこのスタイルなのかを聞いたことがあります。

米国のMBAを修了していた彼の答えは、

「米国も昔はこうではなかった。しかし戦争で、このようにPDCAをキッチリと回す部隊の勝率が高いことがわかった。だからこれがビジネスでも採用されるようになったんだ」

「なるほどなぁ」と思ったのですが、当時の私の知識では、これは具体的にどういうことなのかがわかりませんでした。

 

最近、少しわかってきました。

AAR: アフター・アクション・レビュー

という手法なのですね。

 

これは1970年代半ばに米国陸軍で導入された手法で、元は戦闘シミュレーションから教訓を得るために取り入れられたものです。そして湾岸戦争やハイチ介入で本格的に実践活用されるようになりました。

AARでは、戦闘シミュレーションが終わった後に、参加した関係者が集まって、常に次の四つの質問を軸に議論が展開されます。

①我々がやろうとしたのは何か?
②実際には何が起きたのか?
③なぜそうなったのか?
④次回我々がやろうとするのは何か?

ポイントは、この目的は「学びと改善」であり、任務に成功したか失敗したかは問わないし、あくまでも訓練であって評価ではない、というという点です。

組織が学びを蓄積しパフォーマンス向上を図る手段であり、採点の道具ではない、という点が重要です。

実際の仕事で多くの人達の意見を出しながらAARを実践し成果を挙げるためには、これらを参加者が腹落ちして理解しているかどうかがカギになります。

元々は陸軍で活用された方法ですが、ビジネスにも展開可能です。

湾岸戦争を指揮し国務長官も務めたコリン・パウエルは、国務長官になってからもスタッフとAARを行っています。

 

まだまだ学ぶべきことが沢山あると痛感します。

 

ご参考までに、下記の本の一部(p.210-217)で、コリン・パウエルがAARの実践をした経験を書いています。

またこの本でも、事例として米国陸軍のAARが取り上げられています。(p.138-152)

 

ルース・ベネディクト著「菊と刀」…その70年前の洞察は、現代日本でも息づいている

ルース・ベネディクト著「菊と刀」を読了し、その後再読しました。

先日ブログでも書きましたが、かなりのボリュームです。

合間を見つけて読み、さらに再読してメモ書きしているうちに、2ヶ月近くかかりました。

 
第二次世界大戦末期、米国にとって日本を理解することが重要課題になりました。

そのような時代背景のもとで、1944年6月に日本研究を委嘱された文化人類学者・ルース・ベネディクトの研究を元に、1946年に出版されたのが本書です。

本書を読むのは学生の時以来三十数年ぶりですが、実際に米国系外資系企業に30年間勤務し、米国人と一緒に仕事をして彼らの考え方に接した自分自身の経験を元に読み返すと、改めてとても深い洞察がなされた本であることがよくわかりました。

必ずしも本書で書かれたことが全て現代の日本でも有効であるとは言えません。既に戦後70年近くで変容した部分もあります。

しかし一方で、本書が書かれて70年近くが経過する現代においても、多くの示唆が得られました。

たとえば、本書を読んでこんなことを色々と考えてみました。

・なぜ、半沢直樹の「倍返し」があれだけ受けたのか?
・なぜ、日本では大成功した創業経営者が叩かれるのか?
・なぜ、日本はサービス残業が多いのか?
・なぜ、娘の同級生への義理チョコ作りでお母さんが一緒に徹夜するハメになるのか?
・なぜ、日本人同士で互いに成果を競わせると、うまくいかないことが多いのか?
・なぜ、日本人は温泉が大好きなのか?
・なぜ、日本人は意外と簡単にあっさりと態度を豹変するのか?
・なぜ、日本は酔っ払い天国なのか?
・なぜ、日本人はお人好しなのか?
・なぜ、日本はコンセンサス社会なのか?
・なぜ、「先輩から教えられたご恩は、後輩に教えることで返す」と考えるのか?

それぞれが大きなテーマですが、実はお互いに深いところで繋がっているのですね。

 

当の日本人にとってなかなか気づかないことが、海外の客観的な分析で鮮やかに解きほぐされています。

今回、時間をかけてじっくりと読むことができ、よかったと思います。

 

東洋経済オンライン・連載第五回目『丁寧に説明すればわかってくれる、という誤解 ー 男・清水のメッセージは、なぜ強いのか?』

東洋経済オンライン・連載『ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力』の第五回目が掲載されました。

丁寧に説明すればわかってくれる、という誤解
 ー 男・清水のメッセージは、なぜ強いのか?

相手に伝えよう。そのためには情報が沢山あった方が親切なはずだ、と考え、色々な情報を盛り込んで相手に伝えようとしても、逆になかなか伝わりません。

一方で、ではシンプルにしようと考えても、中身がスカスカになってしまい勝ちです。

では、どうするか?

今回はそのことについて書いてみました。

 

これまでの連載はこちらでご覧いただけます。

次回第6回目が、連載最終回の予定です。

 

 

欧州ビジネス協会・鉄道委員会様で「グローバルコミュニケーション」の講演をさせていただきました

9月13日の夕方、広尾にあるヨーロピアン・ハウス(駐日欧州連合代表部・事務所)で、欧州ビジネス協会・鉄道委員会様主催により、欧州の鉄道機器メーカーとJR東日本様・JR西日本様・東京メトロ様との会議が行われました。

この最後に20分のお時間をいただき、

『グローバルコミュニケーション — 日本と欧米の違い』(Global Communication – difference between Japanese and Western -)

と題して講演させていただきました。

 

私は日本IBMに30年間勤務し、主に米国中心に、欧米と日本の様々なコミュニケーション・ギャップを経験してきました。

それは英語力の違いだけでなく、考え方の違いも大きいと思っています。

現在、東洋経済オンラインに連載中の『ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力』も、そのようにして学んだことを書いています。

今回はその中から、特に意志決定の違いから来るコミュニケーション・ギャップについてお話ししました。

 

講演で、ステージでお話ししている様子です。素晴らしい会場でした。舞台左袖には欧州・鉄道メーカーの方々、舞台正面と右袖には日本の鉄道会社の皆様が座っておられます。

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講演後、懇親会があり、色々な方々のご意見を伺いました。

日本人の方々からは、有り難いことに「参考になる」とご感想をいただきました。

一方で欧州の方々からは、「大変面白いけど、『欧米流』と言っているのは米国寄りの話ではないかと思う」とのご指摘もいただきました。

あるドイツ人の男性は、「日本では想像できないかもしれないけど、私達は数十Km離れると、話す言葉が違う環境だ。多様な人種がいる。イタリア人・ドイツ人・フランス人では、気質も考え方も全く違う。それに自分たちから見ても、米国流には違和感を感じている。そもそも英語はネイティブじゃないし」とおっしゃっていました。

またあるフランス人の女性は、「『欧米社会』と一括りにされるのは、正直違うかなぁ、という気もする。日本人も、中国人・韓国人と一緒に一括りされて議論されたら嫌でしょ?私達も同じ」とおっしゃっていました。

 

私もIBM在職中、20代前半に10カ国位から人が米国に集まって1ヶ月間一緒に仕事をしたことがありますが、実に多様な考え方をしている方々ばかりでした。

ですので、欧州から来られた方々の意見は「なるほど」と実感するとともに、「グローバルコミュニケーションの本質は多様性の受け入れ」なのかな、と再認識した次第です。

日本ではなかなかこのように言いにくいことを率直に教えてくれることは少ないものですが、このようにはっきりとフィードバックをいただけることに、誠実さを感じました。本当に有り難いことです。

 

それにしても、このようなことは、実際に情報発信してみないとわからないことですね。

改めて、積極的な情報発信の大切さを実感しました。

今回、この講演をすることになったのは、このブログでグローバルコミュニケーションについて書いていたのがきっかけでした。

このような機会をいただき、感謝です。

 

東洋経済オンライン・連載第四回目『「武士に二言はない」は嘘つきの始まり?』

東洋経済オンライン・連載『ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力』の第四回目が掲載されました。

「武士に二言はない」は嘘つきの始まり?主張を変えるのは悪ではない

「初志貫徹」という言葉があります。

多くの人が、最初に言ったことは、少々の障害があっても乗り越えて実現しようとします。その気持ちは、とても大切なことです。

しかし特に米国人相手のグローバルコミュニケーションでは、場合によっては、それで「嘘つき」と言われてしまうこともあるのです。

今回はそのことについて書いてみました。

 

これまでの連載はこちらでご覧いただけます。

 

本のボリューム

最近自分の外資系企業勤務経験を踏まえて、グローバルコミュニケーションについて考えをまとめています。

その一環として、米国人が書いた日本人論の原点をしっかり理解しようと考え、学生時代以来三十数年ぶりにルース・ベネディクト著「菊と刀」を読んでいます。

 

本書が英語で出版されたのは、1946年。その日本語訳は1948年。もう55年も前です。

それ以来、売れ続けています。私が買ったのは、現代教養文庫から出ているもので、1967年に翻訳を見直し、改訂したものです。

最初の翻訳は終戦直後ですが、翻訳された方は戦時中の資料などを徹底的にチェックされたそうです。

改めて読み直すと学ぶところが非常に多く、じっくり線を引いたりコメントを入れたりしながら読んでいるために、時間がかかっています。

文庫にして370ページの本ですが、ギッシリ書いていてかなりのボリュームです。

先日読んだジャック・アタリ「21世紀の歴史」も大著でしたが、本書も中身も濃く、とても読み応えがあります。

 

考えてみたら、私が学生時代に読んだ本の多くは、これくらいのボリュームがある本が多かったように思います。

昼から数時間、ずっと本を読んでいて、気がついたら夕方ということもよくありました。同じような経験をされている同年代の方も、多いのではないでしょうか?

一方である著者の方が、「現代の読者の『肺活量』が減っている。だから私は、それに合わせてエッセンスを書くようにしています」とおっしゃっていたことを思い出します。

確かに私も、多忙なビジネスパーソンが読み切れるように、本を書く場合は読みやすさと分量を優先して書くようにしています。

 

しかし、たまには大著を読むのも、じっくりと考えを深める上で、いいものだと思いました。

 

 

東洋経済オンライン・連載第三回目『”ダメな会議”症候群を脱するには? 真のPDCAサイクルを修得せよ』

東洋経済オンライン・連載『ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力』の第三回目が掲載されました。

”ダメな会議”症候群を脱するには? 真のPDCAサイクルを修得せよ

日本の会議は、ともすると議論に終始してなかなか実行に進みません。

そこで日米の会議の進め方の違いについて考えてみました。

 

これまでの連載はこちらでご覧いただけます。

 

 

個人と組織の関係性、日米の違い….松井秀喜氏のヤンキースタジアム引退セレモニーと、ルース・ベネディクト著「菊と刀」からの学び

やや古い記事ですが、冷泉彰彦さんのブログを拝読し、考えました。

松井秀喜氏はどうしてヤンキースタジアムを総立ちにさせたのか?

確かに、ヤンキースで長年プレイをした後、エンゼルス、アスレチックス、レイズと複数球団を経験した松井氏が、どうして再びヤンキースタジアムで「引退セレモニー」を行い、観衆を総立ちさせたのか、不思議ですね。

私がなるほどと思ったのは、下記の文章です。

要するに「生え抜きで生涯一球団でないと裏切り者」というカルチャーはアメリカには皆無なのです。

個人へのリスペクトはあっても、戦力構想のために解雇することがあるし、それでも個人へのリスペクトは残る、それが「契約社会」だということです。

ちょうど今、「菊と刀」(ルース・ベネディクト著)を読んでいたところでした。

 

「菊と刀」は、第二次世界大戦末期の1944年6月、米軍から研究を委嘱された文化人類学者であるルース・ベネディクト氏が、日本に1回も足を運んだことがないにも関わらず、日本人の精神と文化について研究した成果をまとめた、歴史的な名著です。

前回読んだのは大学生の頃でした。それから三十数年が経ち、実際にグローバル・ビジネスを体験して読むと、また色々な学びがあります。

本書で、この冷泉さんのご指摘と同じ感覚を感じた箇所がありました。

「野球と戦争を比較するのは適切ではない」とのご指摘もあろうかと思いますが、日米で個人が組織に対してどのようなスタンスの差異があるかを理解する上で参考になると考えましたので、引用します。

—(以下、p.47-51から抜粋)—

この日本人の兵員消耗の理論を最も極端なところまで推し進めたものが、彼らの無降伏主義であった。西欧の軍隊ならば、最善の努力を尽くした後に、衆寡敵せずとわかれば、敵軍に降伏する。彼らは降伏した後もやはり自分を名誉ある軍人と考えており、その名前は、彼らが生きていることを知らせるために、本国に通知される。彼らは、….辱めを受けない。ところが日本人は異なったふうに規定していた。名誉とはすなわち死にいたるまで戦うことであった。…万一傷つき、気を失って捕虜になった場合にでも、彼は「日本に帰ったら顔をあげて歩けない」のであった。

….

だから日本人にとっては、俘虜になったアメリカ人は、単に降伏したという事実だけで面目を失墜した者であった。…日本人の眼から見れば、俘虜は恥辱を蒙ったのであって、アメリカ人がそのことを知らないということは、彼らには堪えがたいことであった。

….

また彼らはアメリカ人が俘虜であることに少しも恥を感じないという事実を納得することができなかった。

—(以上、抜粋)—

 

米国では、自分は組織のためにベストを尽くして闘った末に敗れても、その事実と自分自身はあくまで別と考えています。もちろん、敗れたことは事実で「残念無念」と思っています。しかし生き残ったことは、自分にとっては恥ではありません。

同様に、松井氏がヤンキースから戦力外通告されたことも、ファンからすれば仕方がないことであり、これで松井氏の名誉が失われることはありません。

 

一方で日本の場合は、自分と組織を一体化して考えます。そして敗れて生き残ったことは自分がベストを尽くしていなかった証明でもあり、生き残ったことは恥となります。

だから例えば「巨人軍から戦力外通告を受け、他球団に移籍するのであれば、引退する」と考え、ファンもそれを支持するのです。

 

この「組織と個人は別」と考える米国文化は、IBMに在職していてことあるごとに感じました。特にグローバル化が進んだこの数年間は、その傾向が強くなっていました。

 

冷泉さんの文章と、ベネディクト氏の文章を併せ読むと、米国では組織と個人があくまで対等な関係で規定されているのに対して、日本では個人は組織の一部として規定されているように感じました。

この点を、日本人と米国人がお互いに理解していないと、色々な問題が生まれてくるのですね。

 

 

冷泉彰彦著「アメリカモデルの終焉」…米国の弱さとは?

冷泉彰彦著「アメリカモデルの終焉」を読了しました。

本書は2008年の金融危機直後に書かれました。5年前の本ですが、1993年から米国に在住されている冷泉さんならではの視点があり、今でも多くの示唆があると感じました。

本書は、主に「米国の成果主義」の切り口で書かれており、これを日本にそのまま輸入してしまったことが、いかに弊害を生んでしまったかを書いています。

 

まず、成果主義が機能するために、本書では、3つの条件を挙げています。

一つ目は社員同士の仕事の守備範囲を決めている「横の軸」。二つ目は社員の上下関係の位置づけを決めている「縦の軸」。三つ目は評価対象期間を決めている「時間軸」です。それぞれが日米では異なります。

横の軸

米国:職務記述書で明確に規定。他人の仕事を侵してはいけない。硬直化している
日本:「お互いに助け合う」が基本。ぼやけている。反面、柔軟性がある

縦の軸

米国:管理職が人事権も含んだ絶大な権限を持つ
日本:人事権は人事部。管理職でなく若手が実質的にプロジェクトを動かすケースもある

時間軸

米国:単年度評価。(株主の業績評価のプレッシャーにより)
日本:長い時間軸

 

2008年の金融危機は、これらの問題点が浮き彫りになったわけです。

たとえば金融機関の社員は四半期毎の高いインセンティブを得ており、リスクを取りすぎて暴走してしまった一方で、業績低下のボーナスカットを恐れて早めの精算ができずに損失の先送りをしてしまいました。

 

また本書ではプレゼン文化についても述べています。

米国の教育システムは「プレゼン文化」です。それは幼稚園レベルから始まっています。

一方で根深い問題もあります。「声の大きな者」だけが横行する社会の脆弱性を持っていることです。

冷泉さんによると、小さい頃から「わかりやすく単純化して雄弁に」というコンセプトのプレゼンを叩き込まれた文化の延長で、金融危機では、様々な金融商品が実態不明のまま巧妙な話術と精緻なビジュアルで装飾され、投資家が債権の中身をわからないまま買ってしまった、としています。(p.190)

一方で米国人が苦手とするのは、「沈思黙考やため息混じりの本音など様々なコミュニケーションや思索のスタイル、あるいは思い切ってホンネや不安感を吐露するような局面、あるいは自分が持っていた前提条件を疑って現場に足を運んでみる、そういった発想の転換」(p.191)だとしています。

これは私も実感します。一例を挙げると、会議での沈黙は、日本人にとっては何らかの考えが深まる、意味がある時間です。しかしこの沈黙の時間は、米国人にとっては無意味に感じられ、何よりも耐えられないようです。

冷泉さんが次のように続けています。

—(以下、p.192から引用)—

 要するに本当の意味で神と対話したり、神はいないのではと嘆いたりする「孤独な思考」は、実はアメリカのエリートは経験していないのだ。神様云々が 大袈裟なら、上の世代が作った現状の社会を一旦全部疑ってみる「反骨精神」の中から自分の生き方や思考を磨いていく訓練も、実はアメリカ人は弱いのではないだろうか。何よりも自分が想定していなかったような例外的な事態への冷静な姿勢、どんな事態にも冷静な論理で立ち向かう謙虚な姿勢と、妥協点を見いだす柔軟性に欠ける、プレゼン文化の持っていた脆弱性は今明らかになったのではないだろうか。

—(以上、引用)—

確かに米国人はあらゆるものを単純化して考える傾向があります。

これは、強い実行力を生み出すという点では強みですが、反面、思い込みによる間違いになかなか気がつかないというもろさもあるということは、私も感じます。

 

一部だけをご紹介しましたが、様々な点で、大変参考になった本でした。

 

 

ジャック・アタリ「21世紀の歴史」…これから数十年、世界はどのように動き、そして日本はどうあるべきなのか?

ジャック・アタリ著「21世紀の歴史」を読了しました。350ページに渡ってギッシリ書かれている大著でしたが、とても読み応えがありました。

 

著者のジャック・アタリ氏はフランス出身。38歳でミッテラン政権の大統領補佐官に就任して10年間務め、1991年には欧州復興開発銀行の初代総裁となりました。思想家としても幅広く活躍されています。

本書の出版は2006年でもう7年前。21世紀に起こることを予見したものです。出版後に起こった、リーマンショック、北朝鮮の核武装など、様々なことが本書で既に予見されています。

本書はフランスでベストセラーになり大論争を巻き起こし、本書の提言に感銘を受けたサルコジ大統領は「アタリ政策委員会」を設置して、21世紀フランスを変革するための政策提言をアタリ氏に依頼しました。

 

本書の第一章と第二章では、約100ページを使って人類誕生から現代までの歴史の流れをふり返っています。この部分を読むと、人類の歴史から未来への教訓を学べることがよくわかります。いくつかピックアップしてみると、…

・いかなる時代であろうとも、人類は他のすべての価値観を差し置いて、個人の自由に最大限の価値を見出してきた (p.19)

・アジアでは、自らの欲望から自由になることを望む一方で、西洋では、欲望を実現するための自由を手に入れることを望んだのである。(p.49)

・宗教の教義は、たとえどれほど影響力があったとしても、個人の自由の歩みを遅らせることには成功しなかった。(p.53)

・ヴェネチアを含め、その後のすべての「中心都市」とは過剰と傲慢の産物である。(p.68)

・外国人エリートの受け入れは、成功の条件である。(p.74)

・新たなコミュニケーション技術の確立は、社会を中央集権化すると思われがちだが、時の権力者には、情け容赦ない障害をもたらす。(p.77)

・欠乏こそが人々に新たな富を探し求めさせる。不足とは、野心を生み出すための天の恵みである。…技術を発明したのが誰であるかはさほど重要ではなく、文化的・政治的にこれを活用できる状態にあることが重要である。(p.94)

・戦争の勝利者となる国とは、常に参戦しなかった国、または、いずれにしても自国領土で戦わなかった国である。(p.105)

・テクノロジーと性の関係は、市場の秩序の活力を構造化する。(p.111)

・多くの革新的な発明とは、公的資金によってまったく異なった研究に従事していた研究者による産物である。(p.120)

 

そして21世紀の世界はどうなるのか?

本書の第三章以降が本書の真骨頂です。簡単にまとめると、

2035年頃には「市場民主主義」はグローバル化してアメリカ帝国は凋落し、国家の弱体化とともに国籍を超えた「超帝国」が誕生し、人類が消滅しかねない「超紛争」の危機を迎え、2060年頃に新たな勢力となる利他主義者たちによる「超民主主義」が生まれる、としています。

これらについては、アマゾンの書評などでも詳しく書かれていますので、興味のある方は是非ご一読をお勧めします。

 

本書では、日本の読者へ向けたジャック・アタリ氏の言葉も掲載されています。

日本は20世紀後半に世界の中心勢力になり得るチャンスがあったのに、そうなっていないのは、次の三つが理由である、としています。(p.1-2から抜粋引用)

第一の理由: 並外れた技術的ダイナミズムがあるのに、既存産業・不動産からの超過利得、官僚の利益を過剰に保護してきた。そして将来性のある産業を犠牲にしてきた。(特に情報工学分野では、シリコンバレーにリーダーの座を譲ってしまった)  官僚の排他的な特権階級制度を粘り強く修復し、過去の栄華へのノスタルジーに浸っていた。

第二の理由: 海運業や海上軍事力など、海上での類まれな覇権力があるのに、海洋を掌握できなかった。アジアで一体感のある友好的な地域を作り出すことができなかった。港湾や金融市場の開発を怠ってきた。

第三の理由: 「クリエーター階級」(中心都市に集まる才能溢れる人々。技術者、研究者、起業家、承認、産業人、科学者、金融関係者、企業クリエーター)を育成してこなかったし、外国から呼び込むことも迎え入れることもしてこなかった。アイデア、投資、外国からの人材を幅広く受け入れることなくして「中心都市」になることはありえない。

一方で、日本はアジアとの交差点、アメリカとの交差点、オセアニアとの交差点という地理的に重要な拠点に位置しており、この三つの円をすべて融合させることができれば、日本は多大な潜在的成長力を持ちうる、としています。

その上で、21世紀の日本の課題を10個挙げています。(p.3-4から抜粋引用)

1.中国からベトナムにかけての東アジア地域に、調和を重視した環境を作り出すこと
2.日本国内に共同体意識を呼び起こすこと
3.自由な独創性を育成すること
4.巨大な港湾や金融市場を整備すること
5.日本企業の収益性を大幅に改善すること
6.労働市場の柔軟性をうながすこと
7.人口の高齢化を補うために移民を受け入れること
8.市民に対して新しい知識を公平に授けること
9.未来のテクノロジーをさらに習得していくこと
10.地政学的思考を念入りに構築し、必要となる同盟関係を構築すること

一部には議論があるかもしれませんが、大きな歴史観と世界観に基づいた、的確な指摘に改めて驚かされます。

 

一方で、ジャック・アタリ氏の指摘もまた、一つの意見であると考えることも必要でしょう。

たとえば、先日ご紹介した「新・資本主義宣言」でも書かれているように、アタリ氏が2060年頃の「超民主主義」で実現するとしている「利他主義」は、実は私たち日本人にとっては既に馴染みが深いものです。

 

様々な意見を考えた上で、自分としてどのように考えるかが、問われている時代なのだと思います。

 

 

東洋経済オンライン連載「ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力」第二回目掲載

昨日(2013/8/19)、東洋経済オンライン連載「ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力」の第二回目を掲載いただきました。

 

第二回目は『外国人に負けない!"不敗神話"を築いた交渉術 いつでも「次の手」を忍ばせておけ』

私は20代の頃は、海外の人と交渉しても連戦連敗でした。

Win-Winを考えるようになって、かなりよくなりました。でも五分五分でした。

しかし今は、負けることがほとんどなくなりました。

 

それにはパターンがあります。そのことについて書きました。

 

次回は2週間後の予定です。

 

 

「新・資本主義宣言」を読んで(3) 対談から …新しい世界では、私たちの精神の成熟が求められる

昨日一昨日の続きで、「新・資本主義宣言」(毎日新聞社)から個人的に参考になった部分をまとめています。

本日は、対談の部分からです。(サマリーではなく、いくつか特定の箇所のみピックアップしています)

—(以下P.139から引用)—-

田坂 …新たなボランタリー経済に伴って到来する「新たな価値」とは、あえて申し上げれば、「利他の精神」というものに対する理解が、一段と深くなり、成熟しているということではないでしょうか?

たとえば、この十年余り、NPOや社会起業家の方々と一緒に仕事をしているとわかるのですが、その人の持っている「利他の精神」の深みは、コミュニティのメンバーにはすぐにわかってしまうのです。何年か前には、社会起業家というとそれだけでテレビ取材される時期がありましたが、そういうメディア露出を目的にしてしまう人は、周りからもわかってしまうのです。

—(以上、引用)—-

ここは身をただしたい箇所です。

新・資本主義の時代には、私たちの精神的な成熟が求められてくるということでもあります。

 

—(以下、p.140から引用)—

中谷 「私は陰徳を積んでいる」という発想そのものが、陰徳じゃないわけですね。

田坂 そうです。では、見返りがまったくないかというと、巡り巡って、必ずどこかで見返りはある。しかし、それを意識した瞬間に、「利他」ではなく、「自利」の行為に陥ってしまう。その意味で、日本の思想は、厳しい自己査察を求めるのです。

—(以上、引用)—

リターンを期待しない….という発想は、海外ではなかなか理解されない考え方かもしれません。

しかし、だからこそ日本の思想が世界に大きな価値を持っているのだと思います。

 

—(以下、p.198-199から引用)—

田坂 …これまで、「グローバル資本主義が世界を席巻し、すべての国の資本主義が同じ資本主義になっていくのが進化だ」という思想が流布されましたが、これは正しくない。

 なぜなら、「進化の本質」は、「多様化」だからです。

….「多様な価値観の共存」とは、「異なった価値観を持つ人や国家同士が、お互いの異なった価値観を我慢して認め合うこと」ではありません。「多様な価値観の共存」とは、そもそも、自分の中に「多様な価値観」が存在することを認め、受け入れるという「心の問題」なのです。

—(以上、引用)—

グローバライゼーションの本質は、単一化ではなく、多様化であるということは、認識する必要があると思います。

昨年の朝カフェ次世代研究会で、各国大使を歴任された坂本重太郎さんに講演頂きましたが(その時の様子はここ)、世界各国を見てこられた坂本さんも「世界に共通する常識はない、というのを痛感した」とおっしゃっています。

たとえば、こんな感じです。

・欧州では、勤勉は美徳ではない。
・米国では、違うことはいいことだ。
・中国では、原則は変わる。
・中近東では、無宗教は罪悪だ。
・韓国では、丁寧は最良ならず。
・東南アジアでは、うやむやは武器。

このような違いを、我慢して認めるのではなく、自分の中での存在を認めて受け入れるということですね。

 

—(以下、p.205から引用)—

中谷 資本主義は、キリスト教から生まれてきたといわれるほど、深く関係しています。たとえば『旧約聖書』は、非常に攻撃的な場面が多い。イスラエル人のためにカナンの地を与えるという話では、カナンの地の先住民を「殲滅しなさい」と書いてある。….正義のために完全制服を是としてしまう。「資本の論理」においても、競争相手を殲滅することが正義とされています。仏教の世界では考えられないことです。

渋澤 そこには、たぶん神という大義があるんですよね。

—(以上、引用)—

確かに、一神教がベースとなっている世界ではなかなか「競争相手との共存」という発想が理解できないように思えます。

 

対談を読んでいて、新しい世界では、私たちに様々な面で精神的な成熟が求められるのだ、ということを感じました。

3回に渡ってご紹介しましたが、本書は、今私が問題意識として考えていたことに、色々な示唆を与えてくれました。有り難い本です。

 

 

 

「新・資本主義宣言」を読んで(1) 中谷巌先生の論説「西洋主導の資本主義体制に代わるもの」から

「新・資本主義宣言」(毎日新聞社)を読んでいます。

「BOOK」データベースでは、本書は次のように紹介されています。

七賢人と共に描く日本発の「第三の軸」。有史以来はじめての課題に直面している我々人類のために―「近代の秋」における成熟を問う。

その七賢人とは、中谷巌、川上量生、山田昌弘、永田良一、渋澤健、黛まどか、田坂広志(敬称略)といった方々です。

これからの社会がどのようになっていくのかを考える上で、大変勉強になりました。

七名の論考と、三つの対談から構成されていますが、その中から中谷巌先生の論説「西洋主導の資本主義体制に代わるもの」から、個人的に参考になった部分をまとめたいと思います。

—(以下P.34から引用)—-

かつての日本企業には、完全雇用文化というものがありました。

….いまや労働力はコストとみなされ、リストラが推進されると同時に正規社員が削減され、契約社員や派遣、フリーターといった非正規雇用形態が珍しくなくなっています。

…こうした策は、企業の業績を短期的に回復させるとしても、長期的には組織の健全性を損ない、競争力を弱体化させてきたのではないでしょうか?労働者は安定性を失い、社会は荒廃していきます。

—(以上、引用)—-

先日当ブログでご紹介したフリーク・ヴァーミューレン著「ヤバい経営学」でも、

「人員削減は意味がないどころか、多くの場合、利益率を悪化させていた。….想像のとおり、残った社員の持ちべージョンを下げるからだ」(「ヤバい経営学」P.187)

と書かれています。

中谷先生の指摘は、研究でも実証されています。

—(以下、P.42-43から引用)—

…社会保障制度や税制などは、基本的に「右肩上がり」の時代に、「右肩上がり」を前提に作られたシステムです。…大きくなっていくパイをいかに「分配」するか。それを決めるのは民主主義的な投票制度でした。

ところが、右肩下がりで毎年パイが小さくなる世界では、民主主義的な決定システムではなかなか埒があかなくなります。…誰が痛みを引き受け、誰が我慢するのかという話になるからです。

….「不利益分配システム」に適合できる「新・民主主義」「新・資本主義体制」をどうにかしてつくらなければいけない時代に入っているのです。

—(以上、引用)—

期待されて登場した首相が短期間に人気を落として変わるなど、政治が行き詰まっているのも、パイが縮小しているにも関わらず、相変わらず従来の「利益分配システム」のままで世の中が回っているからです。

その意味では、2010年に登場した菅首相が当初「最小不幸社会の実現」を掲げたのは、この考え方を取り入れているとも言えます。ただ実現はなかなか困難です。

—(以下、O.50-51から引用)—

日本にとって最大の強みは、日本が歴史的に本格的な階級社会を形成したことがないという点です。…階級社会が定着し、下層階級が搾取され続けてきた社会では、下層階級に「当事者意識」がなくなるのは当然のことです。

…日本は違います。一度も他の民族に征服されたことがなく、従って奴隷というものが制度化されず、本格的な階級社会が形成されなかったがゆえに、庶民階級が健全さを保っています。

….現代における日本企業の競争力の強さが「現場力」にあると言われてきたのも、工場の現場で働く従業員の責任感、心をこめて品質のよい品物をつくらなければならないという使命感があったからでした。分厚い層を成すこれらの人々が本気になったときには、すさまじいエネルギーが発揮されるのです。

…しかしながら懸念されるのは、グローバル資本主義の大波を受けたことで、欧米並みの階層社会に日本社会が変質してしまうことです。貧困層の拡大がこれ以上進むと、責任感が強かった庶民層、中間層の「自分たちが社会を支えている」という健全な当事者意識が失われていきます。

….いまの日本にとって最も大事な政策は、人の心を荒ませないこと、温かい情感に溢れた日本人の心情を壊さないようにすることです。

—(以上、引用)—-

カルロス・ゴーンも「日本の強みは現場力」と言っているように、日本の現場力は世界の中でも傑出しています。

企業の様々な問題も、現場の人が一番わかっていますし、自分で率先して解決しようとします。これは「利己主義」が当たり前である国では、なかなか見られないことです。

それは「日本の庶民層の当事者意識」にあるというのは、とても納得できます。

 

ちょっと長くなりましたので、続きは後日ご紹介していきたいと思います。

 

 

タランティーノ監督映画『ジャンゴ 繋がれざる者』で、米国の契約社会の一面がとてもよく理解できた

いつものApple TVで、映画『ジャンゴ 繋がれざる者』を見ました。

2012年12月に公開されたタランティーノ監督の作品で、南北戦争以前の米国での奴隷制度を扱ったものです。(日本公開は2013年3月)

これは予告編です。

重いテーマではありますが、さすがタランティーノ監督の手にかかると、骨太で痛快な物語に仕上がっています。あのデカプリオも、助演の悪役で素晴らしい演技をしています。

 

ストーリーはネタバレになるのでご紹介は差し控えますが、私がこの映画を見て改めて感じたのは、「米国は徹底した契約社会なのだ」ということ。

その人が奴隷なのか、あるいは自由の身なのかは、奴隷売買契約書に基づいています。奴隷売買契約書に、奴隷の所有者が明記されているからです。

たとえば非人道的な虐待をされている奴隷がいたとして、その奴隷をその場から逃がして救い出すと、日本の物語であればそこでめでたく解決になります。

しかし米国では、奴隷を所有者から窃盗したことになってしまいます。逃がして救い出したことが、犯罪になってしまうのですね。

だから虐待から救い出すには、その所有者との間で、キチンとした売買契約を合意し、締結することが必要になります。

 

映画自体も素晴らしい内容でした。加えて、日本人にはなかなか理解しづらい「契約」の概念が、この映画を見るととてもよく理解できました。

 

 

現在のグローバル経営は、彼の地では見直されているという現実が学べる、フリーク・ヴァーミューレン著「ヤバい経営学」

フリーク・ヴァーミューレン著「ヤバい経営学」を読了しました。

最近読んだ本の中では、とても面白い本でした。

 

日本国内では「経営をグローバル化しなければならない」と声高に叫ばれ、「だからM&A(企業買収)だ」「リストラ断行だ」「ストックオプションだ」「株主価値最大化だ」と進めています。

しかし本書では、その効果は長期的に見ると決して上がっていないということが、実際の研究に基づいて、わかりやすく書かれています。

 

たとえばM&Aは、単に買収した会社を自社の一部門にするのではなく、本来は拙著「100円のコーラを1000円で売る方法3」で駒沢商会とバリューマックス社が一緒になり、大変な思いをして全く新しい新生・バリューマックス社を生み出したように、「ともに新しい会社を作り、何か新しいものを生み出す」ことが必要です。

だからM&Aは決して簡単なことではなく、実は大変なことなのですね。

本書では、実際には非常に多くの企業買収が価値を生み出していない現実が、研究結果として示されています。

 

巻末の訳者あとがきによると、著者のヴァーミューレン准教授(ロンドン・ビジネススクール)は、欧州の企業から引っ張りだこで、講演や企業研修、コンサルティングの予定がビッシリと詰まっており、受講した多くの人がその内容にメロメロになってしまっているそうです。

原書の出版は2010年。

既に3年前に、英国発でこのような問題提起がされ、欧州企業では見直しが始まっている、ということですね。

 

本書を読んで、「結局、向かうべきところは、日本企業が昔から目指してきたことだ」と思いました。

ただし、それは古い日本型経営をそのまま復活させることではなく、新しいグローバル世界の中で、本書で描かれたような欧米型グローバル経営の反省点を踏まえた、新しい日本型経営に一段階進化したものになるはずです。

ですので本書とあわせて、2008年のリーマンショックの翌年、2009年に出版された、田坂広志著「目に見えない資本主義」を併せて読むと、日本人の私たちにとって腹おちするのではないかと思います。

 



 

 

東洋経済オンライン連載「ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力」、開始です

昨日(2013/7/29)から、東洋経済オンラインの連載が始まりました。

「100円のコーラを1000円で売る方法」シリーズは、実はグローバルコミュニケーションのヒントが満載です。

そこで当連載では、「100円のコーラを1000円で売る方法」を題材に、グローバルコミュニケーションのヒントをご紹介しています。

 

第一回目は『TOEIC800点でも"通じない"日本人の英語力 グローバルコミュニケーション必須の「3点セット」とは』

 

「100円のコーラを1000円で売る方法3」は、主人公・宮前久美のメンターだった与田誠が、ライバルのグローバル最大手・ガンジーネットにヘッドハントされるところから始まります。

この与田がヘッドハントされる場面を題材に、グローバルコミュニケーションで必須となる「3点セット」について紹介しています。

 

当連載はグローバルコミュニケーションのスキルがテーマですが、これは裏を返せば、現代のビジネスで必須なスキルでもあります。

当連載「ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力」はしばらく継続する予定です。お楽しみに。

 

 

グローバルコミュニケーションは、「和魂洋才」で考えるといいかもしれない

2013/7/8付日本経済新聞夕刊のコラム「Nippon ビジネス戦記」で、DHLグローバルフォアーディングジャパン社長のマーク・スレードさんが、日本と西洋の会議の違いについて書いておられます。

日本IBM在職中、私が外国人の同僚から聞かされてきた話がシンプルに整理されていて、とても興味深い内容でした。

やや長いコラムなので、ポイントをまとめると、….

・日本人の「はい」は必ずしも「同意」ではない。外国人は会議で異論がなければ承諾したと解釈する。そして「同意したのになぜ実現しない」と困惑し、いら立つ。

・西洋人はどんな会議でも具体的な行動プランを作り、合意することを期待する。しかし日本の会議は、全員の合意を形成するプロセスの一部分に過ぎない。だから下準備が重要になる。

・外国人はこれを理解しないと、日本でビジネスに成功するのは難しい。

・しかし日本企業も国際化加速が重要になっている。外国人の問題解決・結果重視など率直なやり方を理解し、お互いに折り合うよう努めることを勧めたい。お互いに理解を深めればさらに良いビジネス成果を得て、気づかなかったチャンスが見えてくるはず。

特に最後の部分は、外国人とコミュニケーションする機会がない日本人にとっても、役立つのではないでしょうか。外国人のビジネスのやり方でいい部分を取り込み、日本人の強みと組み合わせれば、それはまさに「和魂洋才」。我々の大きな強みになると思います。

過去の歴史を見ても、日本人はそのようにして海外からよい文化やノウハウを吸収してきました。

 

「100円のコーラを1000円で売る方法」シリーズでは、結果的に私が外資系企業で学んだ内容を書かせてていただいています。

グローバルコミュニケーションの切り口で、もう少しわかりやすい形で「和魂洋才」について具体的にまとめてみたいと思っています。

 

 

1分1秒でも無駄にしない女性は、企業を変える

2013/6/26の日本経済新聞の連載記事「Wの未来 会社が変わる② しなやかな革命」で、人材派遣パソナにて抜群の営業成績を誇る7名のチームが紹介されています。

その7名に共通するのは、①いち早く帰宅する②子育て中の女性の二つ。この「キャリアママチーム」の成約率は男女一緒の他チームの2倍だそうです。

—(以下、引用)—-

「1分1秒でも無駄に出来ないからこそ知恵が出てくる」とチーム長の矢野美紀子(38)はほほ笑む。

(中略)

日本は欧米諸国に比べ労働生産性が低く労働時間が長い。かねて指摘されながらままならなかった日本の長時間労働の改善に、短期集中という新たな武器を働くママたちが持ち込んだ。

—(以上、引用)—

確かに「時間をかければよい」と考えて、長時間労働しがちな日本の職場の風潮は、なかなか改善が難しいですよね。

一方で私が勤務する職場では、マネジメント分野・プロフェッショナル分野ともに、女性で活躍されている方々がたくさんおられます。

そのような方々を見ていていつも感じるのは、仕事への集中力の高さです。

キッチリと仕事を仕上げて、定時退社される方が多いように思います。その集中力たるや、素晴らしいです。

私自身、ダラダラと時間を過ごすのは何よりも苦痛で、仕事を短時間で集中して仕上げたいと考えるタイプです。

私のチームは女性比率が8割ととても多いのですが、このような方々と仕事をするのはとても楽しいですね。

ですのでこの記事を拝読し、まったくその通りだな、と実感しています。

 

解説記事では、帝人・大八木成男社長の言葉が紹介されています。

—(以下、引用)—

女性が増えて職場の雰囲気が変わってきた。育児中の女性は効率的に働く努力をする。そうした女性の働く姿は男性社員に様々な面で影響を与えている。

—(以上、引用)—

確かに企業が変わってきますね。

 

このように考えると、「女性の活躍推進のために『3年の育児休暇』」は、現実と矛盾している提言のようにと思ったりします。

むしろ、育児中の女性にも男性と対等に働く仕事の場を提供し、育児と仕事を両立する環境を提供することが日本が強くなることに繋がると思います。

さらに「育メン」という言葉も浸透してきています。「育児は女性の役目」も見直して、男性も積極的に子育てするようにしていければいいですね。

 

モノポリーな考え方に基づく組織は環境変化に弱いもの。一方で多様な考え方は、組織をしぶとく強くします。

男性価値観中心の日本の職場が変われば、日本企業も強くなると思います。