鳥羽博道著『ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』読了…1杯150円でも高収益な理由は、顧客第一主義だった


鳥羽博道著『ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』を読了しました。書名の通り、ドトールコーヒー創業者である鳥羽博道さんの自伝です。

現在ドトールの出店数は1,100店舗。全国津々浦々にあります。このドトール一号店が出来たのは、1980年、原宿でした。

当時は純喫茶が大ブーム。全国に15万店の喫茶店があり、コーヒーは1杯300-400円でした。そこへドトールは、本格派コーヒーを150円(当時)で提供しました。

 

本書でこのように書かれています。

—(以下、p.125から引用)—

ある企業のトップから、

「いつまでディスカウントを続けるつもりですか」

と聞かれたこともあった。

これには正直言って驚かされた。私はディスカウントでやっているつもりなど毛頭なかったからだ。

—(以上、引用)—

 

ではなぜ、当時の半値である150円の値付けにしたのでしょうか?

 

鳥羽さんの原体験は、パリのシャンゼリゼ通りで見た、低価格でおしゃれな立ち飲みスタイルのコーヒーショップでした。

日本のお客様にもコーヒーを毎日飲んで欲しい。そこで、これを日本でも実現したいと思ったのですね。

しかし当時の喫茶店のコーヒーは300-400円。毎日飲むには高すぎました。

そこで「毎日飲んでも負担に感じない価格」ということで、まず150円という価格を設定したわけです。

鳥羽さんはこのように書いています。

—(以下、p.127から引用)—

 価格設定をする際にまず考えるべきことは、いくらで売ろうかということではなく、お客様はその商品にどういう価値を見出しているのか、いくらなら買ってくれるだろうか、ということだ。それが価格を決定する最大の要素と言ってもいい。

—(以上、引用)—

 

そして、150円でも利益を生み出せる仕組み作りを考えていきました。

 

鳥羽さんがまず考えたのは、「一杯150円なのだから、ひとりでも多くの人にドトールを利用してもらえるようにすること」

そこでまず駅前や繁華街などの一等地に出店しました。

常識では「テナント料が高いから採算に合わない」と思いがちですが、「150円で売るからこそ一等地に出店し、低価格・高回転にしてひとりでも多くの人に利用してもらう」と考えたのですね。

 

次に考えたのは、「より多くのお客様にきめ細かいサービスをいかに提供するか」ということ。

そのためにスタッフの労働負担を少なくし、笑顔でサービスにあたれるセルフサービスのコーヒーショップにしました。

徹底的な機械化を図るため、高価なドイツ製フルオートマチックのコーヒーマシンを導入。パン焼きも当時珍しかったコンベアトースト、食器洗浄も人手でなくスウェーデン製の洗浄機を導入しました。

この結果、経験が浅いアルバイトでも仕事ができるようになり、従来のフルサービス型では200名のお客さんに常時スタッフ4名が必要だったところ、ドトールでは同じスタッフ4名で800名にサービスを提供できるようになりました。

価格を半分にしても、お客様が4倍来ていただければ、売上は2倍です。

 

一方で、「本格派コーヒー」提供のために、品質には徹底的にこだわっています。

鳥羽さんはこのようにおっしゃっています。

–(以下、p.135から引用)—

お客様はいくらなら買ってくれるだろうかというところから価格設定をして、あとから売上げを高めていくということでコストダウンを図り、利益率を高めるというやり方を貫いている。つまり、「顧客第一主義」というのは価格設定の段階からすでに始まっている。

—(以上、引用)—

 

マーケティングでは、価格付けには、大きく分けて3つあるとしています。

①コスト基準型価格
→コストに利益を上積み…「これだけお金がかかるから、この価格」

②価値基準型価格
→顧客価値を元に、コスト検討…「この価格だと買っていただけるので、このように作る」

③競争志向型価格
競争を意識し価格付け…「ライバルはxxxx円だから、ウチはもっと安くxxxx円」

世の中の多くの価格設定は、「コスト基準型」または「競争志向型」になっているのが現実です。

ドトールは言うまでもなく「価値基準型」。

そして「本格派コーヒーを150円で提供し、多くの顧客に楽しんで欲しい」という考えが先にあるので、コスト削減だけを考えるのではなく、サービス向上も突きつめ、両立させた点がポイントです。

 

実は100年以上前にも、「価値基準型価格」を実践し、歴史を大きく変えた成功例があります。

それは、フォードの「T型フォード」。

ハーバード大学教授のセオドア・レビットは、1960年に書いた論文「マーケティング近視眼」で、次のように述べています。(セオドア・レビット著『マーケティング論』ダイヤモンド社、22ページより引用)

—(以下、引用)—

世間は決まってフォードを生産の天才としてほめるが、これは適切ではない。彼の本当の才能はマーケティングにあった。

フォードの組み立てラインによってコストが切り下げられたので売価が下がり、五〇〇ドルの車が何百万台も売れたのだ、といわれている。しかし事実は、フォードが一台五〇〇ドルの車なら何百万台も売れると考えたので、それを可能にする組み立てラインを発明したのである。

大量生産は、フォードの低価格の原因ではなく、結果なのだ。

—(以上、引用)—

 
一見、先進的なマーケティングの世界ですが、このように30年前のドトールや、100年前のT型フォードなど、昔の事例からも、学べる点は沢山あります。

鳥羽さんの自伝を拝読し、時代が変わっても、顧客起点で考える大切さは同じだと実感しました。