永井孝尚ブログ
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185店舗から、10年後に1000店舗に急成長を目指すワタミのSUBWAY戦略
2週間前に本コラムで、ワタミのSUBWAY日本事業買収について書きました。ポイントは下記でした。
・ワタミは米SUBWAYから日本サブウェイを買収、国内外食事業での成長を目指す
・渡辺美樹会長は「ゴール逆算思考」で、長期目標から逆算して戦略を立てて買収を決断した
・健康志向のSUBWAYのサンドイッチは、ワタミの有機野菜生産と組み合わせることで、マクドナルドに対抗する独自の強みを築こうとしている
・長期的には国内SUBWAY3000店舗を目指す
11月14日に行われたワタミの決算発表で、渡辺社長が今後のSUBWAYの事業について語っておられます。
先日のブログで書いた内容をさらに解像度を高めて考察できるので、ご紹介したいと思います。
・SUBWAY買収から3週間が経過した。強いブランドで、手応えを感じている
・SUBWAYトップと2時間会議し、「日本で味を決めてもよい」という権利を勝ち取った。美味しいものを提供できるので、これは大きい。
・現行の国内SUBWAY店舗185店舗は1店も赤字がない。2000万円の投資で6000万円の売上を上げている強い収益力をもった業態である
・そして小さな商圏で成り立っている。
・そこで日本全土を3000店舗から逆算し、どの地域にどういう出し方をすれば3000店舗になるかを検討し始めている。・SUBWAYの中国、韓国のFCオーナーとの交流も始めている
その上で、国内SUBWAYの店舗数計画も発表しています。
2025年 215店舗 (+35店舗)
2026年 265店舗 (+50店舗)
2027年以降は100店舗ずつ新規出店
2034年には、1065店舗
先日のブログでも紹介したように、SUBWAYの国内展開についても、渡辺社長はまさに「ゴール逆算思考」で考えていることがよくわかります。
□長期的に、国内3000店舗を展開
→そのために、2034年までに1000店舗
→そのために、2027年以降から100店舗毎に出店
→そのために、2026年は50店舗出店
→そのために、来年2025年は35店舗出店
→これらを実現するために、SUBWAYの小さい商圏を前提に、日本全土への3000店舗の出店計画を策定
→そのために、まずはSUBWAYトップと、「日本で味を決めてもよい」と合意
当然ながら、まだ渡辺社長が公にしていない「長期的なゴール」もあるはずです。
そもそもワタミは、グローバルカンパニーを目指しています。
それはもしかしたら、ワタミ自身がグローバルなSUBWAY事業を展開する姿なのかもしれません。
ちなみに渡辺社長は決算発表でも「ワタミ=SUBWAYですね、と世の中の人が言ってく入れるようになった」と嬉しそうにおっしゃっています。SUBWAYという強いブランドが伝える立場を手に入れたことが、いかに自社の強みになるのか、よく理解しておられることがわかります。
実はSUBWAYは2023年に米投資ファンドと買収で合意しており、当時の入札額は96億ドル(1.5兆円)と言われています。一方でワタミの時価総額は現在400億円。ワタミはSUBWAYの1/40程度で、ビジネス規模はまだまだ雲泥の差です。
こんな状態で「将来、ワタミが米SUBWAYを買収するかも」と言うと、確実に「あり得ない」と一笑に付されるでしょう。
しかし今後「ゴール起点思考」で指数関数的なビジネス成長が実現出来れば、超長期的には可能性があるかもしれません。
そんなことも妄想しながらワタミのSUBWAY事業をみてみると、なかなか面白いと思います。
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製品の差別化はすぐ追いつかれる。ではどうする?
ライバルがいないブルーオーシャン市場で、斬新な製品を出して、顧客に支持されて、売れたとします。
しかし成功が大きいほど、ライバル企業が多数その市場に参入して、その斬新な製品を模倣してきます。
こうなると数年〜10年程度で、ブルーオーシャン市場はレッドオーシャン市場と化して、競争が激化します。
どうすればいいのでしょうか?
エアウィーヴは2007年、最初の製品『マットレスパッド』を発売しました。
当時市場になかった高反発素材を使った寝具を開発し、試しに使った顧客からも「よく眠れる」と高評価でした。しかし残念ながら、初年度は売れませんでした。
この時、エアウィーヴは、色々と反省しました。
まずライバルにない製品機能で売ろうとしたのですが、それでは売れなかったわけです。
実は寝具市場は特殊で、お客さんはまず「寝具を買おう」と考えて、特にどの商品を買うかを決めずに、デパート最上階などにある寝具売り場に行きます。こんな買い方をするので、デパートなどの売り場でどれだけ商品陳列面積を取るかで勝負が決まる世界だったのです。最後発のエアウィーヴは、売り場がほとんど取れていませんでした。
売り場面積を最後発で押さえるのはとても難しいので、エアウィーヴは「指名買いされるようにしよう」と考えました。つまりブランドを確立する、ということです。
そこで経営者の高岡社長がブランドの専門家に相談したところ、「ブランドって実績だよ」と言われました。
一方で初年度に製品はあまり売れませんでしたが、「質の良い睡眠」を求めるアスリートたちから高評価を得ました。当時、「質の良い睡眠のための寝具」という製品=市場はなかったのです。
「質の高い睡眠を求める人たちがいる」と気がついたエアウィーヴは、アスリートに特化して製品改良を始め、オリンピック選手も使うまでに実績を積み上げました。
この実績をPR(パブリックリレーション)活動で広げ、ある程度認知が広がったところで、さらに大規模に広告戦略で訴求を拡げていきました。
そして「Quality Sleep = エアウィーヴ」というブランド認知を築き上げました。
一方でエアウィーヴが売れ始めると、5-10年ほど遅れて、ライバルの寝具メーカーも「質の良い睡眠のための寝具」の市場に次々と参入してきました。
いまやライバル達も独自の技術を使っていかに質の高い睡眠を実現するかを考えています。そしていまや、この市場は広く認知されるようになりました。
その中でも、エアウィーヴのブランド認知は高く評価されています。
このエアウィーヴの戦略は、「斬新な製品は模倣される」というジレンマへの対抗策を教えてくれます。
最初の段階では、機能の差別化が有効です。エアウィーヴがアスリートに支持されたのも、当時は質の高い睡眠を実現する寝具がなかったからです。
しかし商品が広がっていくと、類似の機能を持つライバル商品が増えてきます。この段階で必要なのは、商品に対する顧客の認知、つまりブランディングです。
つまり「斬新な製品は模倣される」というジレンマへの対抗策は、最初からブランディングを考えて、実績を着実に積み上げることなのです。
御社の斬新な新製品は、どのように実績を積み上げてブランディングを実現するか、考えているでしょうか?
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朝活永井塾 第93回「世の中の裏構造が見えてくる『ヘーゲルの精神現象学』 」を行いました
11月6日は、第93回の朝活・永井塾。テーマは「世の中の裏構造が見えてくる『ヘーゲルの精神現象学』 」でした。
ヘーゲルの弁証法がわかれば、これまで見えなかったことが見えてきます。社会の裏にある構造が見えるようになり、ビジネスも見通せるようになって、自分の思考に「骨太さ」が宿るようになります。
しかしヘーゲル哲学を理解するには、大きな壁が二つあります。
一つ目は、日本ではヘーゲル哲学が誤解されていること。「ヘーゲル哲学は、正反合でアウフヘーベン」という人が知識人の中にも多いですし、困ったことに教科書にも書かれているのですが、これは実は大間違い。ヘーゲルは「正反合」なんて言ってません。
二つ目は、ヘーゲルの主著書である『精神現象学』が超難解で、読みこなせている人が少ないこと。哲学の世界でも、カントの『純粋理性批判』、ハイデガーの『存在と時間』に本書『精神現象学』を「三大難解書」として挙げられたりします。
しかしヘーゲル哲学の本質は、色々な解説書を読みながら学んでいくと、実は意外と難しくないのです。難解だが、挑戦し甲斐もある。それがヘーゲル哲学です。
そこで今回の朝活永井塾では、下記書籍をテキストにして、仕事に役立つヘーゲル哲学について学んでいきました。
『精神現象学』(ヘーゲル著)
ご参加下さった皆様、有り難うございました。
【プレゼン部分】
またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。
次回・12月4日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは「資本主義が限界に突き当たる現代でこそ理解すべき 『マルクスの資本論』」です。申込みはこちらからどうぞ。
ワタミのSUBWAY日本事業買収は、「ゴール逆算思考」の結果
先週の2024年10月29日、居酒屋チェーン大手のワタミが、サンドイッチチェーン世界最大手SUBWAYのフランチャイズ(FC)店を展開するというニュースが発表されました。
ワタミは10月25日付けで、米SUBWAYから日本で180店舗を展開する日本サブウェイを買収しました。10年で店数を2倍強の430店舗に、長期的には3000店舗を目指します。
つい「何で居酒屋のワタミが、サンドイッチをやるの?」と思ってしまいますが、私はこの発表を見て、思わず唸ってしまいました。
「この戦略は凄い。まさに『ゴール逆算思考』だ」
『ゴール逆算思考』とは、まず長期的に目指すゴールを考えた上で、そこから時系列的に逆算して「いつ、何をやるか」を考え抜き、その上で「今何をやるか」を考える思考方法です。
『ゴール逆算思考』は、ハロルド・ジェニーンが著書『プロフェッショナル・マネジャー』に書いた方法論です。
ジェニーンは米国でITTという企業のCEOに就任して58四半期連続増益を達成、18年後に辞任するまでに売上/利益20倍に成長させ、「フォーチュン500」で第11位の企業に育てた経営者です。
本書にはその方法論が書かれており、ファーストリテイリングの柳井社長は本書を「ボクのバイブル」と賞賛し、経営に取り入れています。
ワタミのサブウェイ日本事業買収は、『ゴール逆算思考』によって、ワタミが目指すゴールから逆算し、考え抜いた上で、チャンスを掴み取った結果なのです。
■そもそもワタミの経営課題は?
まずワタミの経営課題を考えてみましょう。
ワタミは1984年に居酒屋「つぼ八」のFC加盟店として創業・自社ブランドの居酒屋「和民」で成長し、シニア向け弁当宅配などにも参入しました。
しかしコロナ禍で本業の居酒屋事業は壊滅状態に。唐揚げブームに乗って「から揚げの天才」なども展開しましたが、唐揚げブームが去ると失速しました。
今後の成長をどうするかが、大きな経営課題だったわけです。
■ワタミはどう考えたか?
2024年10月30日の日経MJの記事「サブウェイFC マック対抗軸に」よると、ワタミの渡辺美樹会長兼社長は、日本経済新聞の取材に対し「総合外食企業を目指す。マクドナルドの対抗軸になりたい」と述べています。
この渡辺会長の戦略思考は、まさに『ゴール逆算思考』そのもの。そこで本記事を参考に、私なりに解釈してまとめたいと思います。
まず渡辺会長は、長期的なゴールをこう考えています。
→88歳で引退する24年後の2048年までに、グループ売上1兆円を実現したい
そして、ゴール地点の事業構成を、こう考えています。
→そのためには国内外食で3000億円、宅食で2000億円、アジアで1500億円、米国で3500億円
そして、「国内外食で3000億円」をどう実現するかを考えました。
→外食で主力業態を作り、国内3000店舗を展開する
しかし日本は人口が減り、市場は縮小します。
祖業である居酒屋は守りますが、もはや居酒屋だけでは成長できません。
日本の外食でダントツに強いのはマクドナルドです。
そこで、 マクドナルドに対抗するブランドを展開することを考えました。
そこで渡辺会長は、米国の人気バーガーチェーン『イン・アンド・アウト・バーガー』や『チックフィレイ』に接触していたそうです。
そしてその最中に、サブウェイが日本でパートナーを探している話が来て、「これだ!」と思いました。
■なぜサブウェイを買収したのか?
日本ではマックは、圧倒的なマーケットリーダーです。多くのハンバーガーチェーンがマックに挑んできましたが、巨人マックになかなか勝てません。ワタミがハンバーガーで戦っている限り、同じ状況に陥る可能性がきわめて大です。
しかしサンドイッチ対ハンバーガーの構図を作れば、「健康の軸」で対抗できます。 しかもワタミは、『ワタミファーム』で有機野菜を自社で作っています。サンドイッチならば、この強みも活かせます。
渡辺会長は記事でこう述べています。
「成長するためには何か武器が必要だった。このまま居酒屋や焼き肉の店舗をじわじわと増やしていっても、大きな成長は見込めない。拡大が見込める市場であるサンドイッチで勝負していこうと考えた。約300キロカロリーで(健康的な)おいしいものが食べられるというのはなかなかない」
サブウェイとの交渉には1年以上かかりましたが、ワタミが外食や野菜栽培といった現場と市場を知っており、さらに現場のオペレーションができることが評価されたようです。
「なぜ居酒屋がサンドイッチのフランチャイズを?」と思ってしまうワタミのサブウェイ日本事業買収は、渡辺会長が徹底した『ゴール逆算思考』を考え抜き、出会ったチャンスをしっかりモノにした結果だったのです。
「サブウェイがパートナーを探している」というタイミングに出会ったのは、一見すると偶然の幸運に見えます。しかしこの幸運を引き寄せられたのも、『ゴール逆算思考』を積み重ねて、この幸運がワタミにとって具体的に何を意味するかが見えたからです。
『ゴール逆算思考』で考え抜けば、偶然の幸運を引き寄せ、目指すゴールを実現する可能性をより高めることができるのです。
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ネトフリから学ぶ「辞めた若手社員は、どこに行く?」
私は企業の若手リーダー研修で、実ビジネスの課題を話し合うワークショップをよく行います。
たとえば「心理的安全性」「内発的動機付け」「組織文化」「変革の方法論」などの考え方を学んでいただいた上で、自社の具体的な問題をどう解決するかを議論します。
ここで、多くの会社でよく出てくるテーマがあります。
それは「すぐに辞める若手社員」。
時間をかけて採用し、1〜2年かけて育てた若手社員がかなりの比率で辞めてしまうのは、現場のリーダーにとっても、経営の観点でも、大きな損失です。
では彼らはどこに行くのでしょうか?
その1つのヒントが、2024年10月25日の日本経済新聞の記事『ネトフリ、日本で働き方改革』にありました。内容は、ネットフリックスが日本の映像制作の現場を変えつつあるという話です。
私も数ヶ月前にネットフリックスへ加入し、よく観ています。コンプラ重視のがんじがらめでマンネリ気味のテレビドラマと違って、実に面白いですね。
一方でこの記事によると、かつて日本の映像制作現場は、こんな感じだったそうです。
・昼食の休憩時間を確保できず作業を続ける
・寝る時間がない(「朝まで撮るぞ!」)
・罵声も飛び交う(「何やってんだバカヤロー」)
・セクハラも横行(父親役が娘役に「二人だけで稽古しよう」)
「映像製作の現場で仕事をしたい」という人は多いでしょうけれども、実際の職場環境がコレではなかなか辛いですよね。
ネットフリックスでは、これを大きく見直しました。
・1日12時間を超える撮影は辞め、週1回は撮影休止
・相手に敬意を持つ言動をするよう講習を義務づけ(リスペクトトレーニング)
・性的なシーンでは俳優と制作の間に調整役となるインティマシー・コーディネーターを日本で初めて配置
職場の様々な課題を、具体的な仕組みで改善する手を次々と打つことで、労働環境を大きく改善しているわけです。
記事の中でも、ヒットドラマ「地面師たち」の高橋信一プロデューサーの『(コストは増えスケジュールは長くなるが)スタッフや俳優を守るためなら最低限の必要経費。(中略)搾取に近い形の労働で成り立つ作品は認めない』という言葉を紹介しています。
では、日本の映像製作現場でできないことが、なぜネットフリックスでは可能なのでしょうか?
記事ではこの部分についても分析しています。
ネットフリックスでは、各部門毎に現場を熟知する人材が制作側に集まっています。
一方で日本では、原作権利を持つ出版社やテレビ局、配給会社が資金を出して製作委員会を作って、制作会社に委任します。ただ製作委員会には必ずしも現場経験者がいません。予算オーバーは製作委員会の理解が得られないので、制作会社は決められた制作費の範囲でやりくりします。その結果、しわよせは現場に行く構造になっているのです。
こうして両者を比較すると、ネットフリックスの職場環境の方が魅力的です。
ネットフリックス上陸前までは「映像製作の現場で働きたい」という人は我慢するしかなかったのですが、ネットフリックス上陸後は、優秀な人材ほど、自分の才能が活かせる場を求めてネットフリックスに移るのは明らかです。
こうしてネットフリックスは「職場環境を改善する→多くの才能の持ち主が集まる→面白い作品が生まれる→収益が上がる」という好循環を生み出しているのです。
同じ事は、あらゆる業界で起きつつあります。
いま様々な業界で、働きやすく、社員の能力を引き出して、成長する会社が増えています。
「すぐ辞める社員」は、「辛い職場」「自分に合わない職場」「停滞する企業」から、「働きやすい職場」「自分の才能を活かせる職場」「成長する企業」へと、大移動しているのかもしれません。
私だったら、貴重な人生の時間を投資して働くのならば、後者の企業を選びたいと思います。
あなたの職場は、働きやすく、自分の才能を活かせるでしょうか?
もしそうでなければ、その問題は、今後改善することでビジネスを大きく成長させる「伸びしろ」なのかもしれません。
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