永井孝尚ブログ
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朝活永井塾 第94回「マルクス『資本論』 」を行いました
12月4日は、第94回の朝活・永井塾。テーマは「マルクス『資本論』 」でした。
現代社会は「資本主義」の社会です。私たちにとって、資本主義は常識です。
しかし資本主義社会が生まれたのは、ほんの200-300年前。
今回取り上げた『資本論』は、150年前にカール・マルクスが、その資本主義の本質について洞察した1冊です。
『資本論』がわかれば、資本主義の限界や課題も見えてきます。 さらにマルクスが本書を執筆した時代〜150年が経ち、世の中は大きく変わりました。『資本論』が理解できれば、現代の私たちビジネスパーソンが、自分自身のキャリアをどうすべきかも、見えてくるのです。
そこで今回の朝活永井塾では、下記書籍をテキストにして、仕事に役立つヘーゲル哲学について学んでいきました。
『資本論』(マルクス著)
ご参加下さった皆様、有り難うございました。
【プレゼン部分】
またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。
来年の朝活永井塾は、隔月で偶数月の開催になります。
次回・2025年2月5日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは「『会計』と『財務』のキホン」です。申込みはこちらからどうぞ。
吉野家がダチョウ丼に注目する理由を、ポーター「競争戦略」で検証する
吉野家は、2024年8月にダチョウ関連事業への参入を発表しました。
・ダチョウの飼育に投資する
・ダチョウ丼を将来的にメニューに加える
・ダチョウの脂を使ったスキンケアやフェイスマスク商品も発売する
・長期的な視点で取り組む
実際に吉野家は、2024年8月にダチョウ肉を使用した「オーストリッチ丼」を期間限定で販売しています。
「なんで吉野家がダチョウを?」と思ってしまいますよね。
これはポーターの「5つの力」で分析すると、理由がわかります。
「5つの力」は、業界内の競争状況を、下記の5つの視点で分析する方法論です。
・同業者の競争
・売り手の競争力
・買い手の競争力
・新規参入の脅威
・代替品の脅威
「5つの力」では、この5要素について競争状況を把握した上で、対策を立てます。牛丼業界を「5つの力」でザックリ分析すると、こうなります。
・同業者の競争:一時期は泥沼の価格競争(最近は回避しつつある)
・売り手の競争力:中国の需要増などで牛肉が品薄に【対売り手で弱い立場】
・買い手の競争力:買い手の選択肢は多様【対買い手で弱い立場】
・新規参入の脅威:新規参入は難しい【対新規参入で強い立場】
・代替品の脅威:選択肢は多い【対代替品には、要注意】
上記の分析から、対策が必要なのは
【課題1】対買い手:消費者の要望に応えるようにする
【課題2】対売り手:牛肉の入手先を増やして、原材料調達リスクを下げる
課題1については、牛丼チェーン各社はメニューの多様化を図ってきました。
【吉野家】豚丼、から揚げ丼、カレー、…
【すき家】海鮮丼、カレー、定食、…
【松屋】定食メニュー、カレー、豚カルビ丼、…
問題は、課題2の原材料調達リスクです。
吉野家は米国産の牛のバラ肉に徹底的にこだわって使用しています。これが吉野家のこだわりであり、強みでもあります。しかしこの原材料の調達リスクが、長年頭痛の種でした。
実際に吉野家は牛肉相場に翻弄されてきました。
1980年には牛肉が調達できずに会社更生法の適用を申請。
現在も牛肉相場で業績が左右されています。
牛肉調達が、経営の首根っこを押さえているわけです。
そこで注目したのが、ダチョウなのです。
日経ビジネス2024年12月9日号で、吉野家HD社長の河村泰貴社長は、こう述べています。
『きっかけは25年ぐらい前にダチョウ肉を食べて「(味はほとんど)牛肉じゃないか」と思ったことです。そのことが記憶に残っていて、環境課題と事業課題の双方を解決する答えの一つとしてダチョウに注目しました』
それにしても、なぜダチョウなのでしょうか? 記事ではその理由も述べられています。
『ダチョウは飼育効率が非常に優れている。単純化すると牛肉が11倍、つまり1Kgの肉を増やすのに11Kgの餌が必要で、豚肉が6Kg、鶏肉が4Kgといわれています。ダチョウの飼育効率は3倍といわれており、理論上は地球環境に優しい畜産と言えます」
そこで、国内でダチョウの飼育に挑戦しています。
現在の自社農場は500羽程度。まだ収益化していません。
そこで生産コストを下げるために、ダチョウの肉以外の部分が収益化できないか探っています。
色々挑戦する中で探り当てたのが、スキンケア。ダチョウの脂は、人間の皮脂と親和性が高いのです。この化粧品事業も、あくまで生産コストを下げるのが目的です。
ダチョウの飼育ビジネスを将来的に黒字化するには、10倍の5000羽規模にする必要があります。現時点では、ふ化率やひなの生存率が低いという問題がありますので数年から10〜20年かける挑戦になります。
改めて吉野家の戦略を見直すと…
・ダチョウの飼育に投資する
・ダチョウ丼を将来的にメニューに加える
・ダチョウの脂を使ったスキンケアやフェイスマスク商品も発売する
・長期的な視点で取り組む
すべて「原材料調達リスクを下げる」という目的で、首尾一貫した戦略であることがよくわかります。
10年後、吉野家で「オーストリッチ丼」が普通に食べられるようになる頃には、吉野家の経営はかなり安定しているかもしれませんね。
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新規事業の市場規模と売上は「円柱」をイメージせよ
私は様々な企業様で、新規事業立ち上げのワークショップを行っています。
ここで皆さんが苦労されることがあります。それは…
「新規事業の市場規模と売上を見積もること」
色々な市場調査データを探して、数字を引っ張ってきて、色々と計算する人もいます。かく言う私も、若手製品プランナー時代はそうやっていました。
でも、いくら市場データを調査しても、なかなか上手くいかないものです。
ここで市場規模と売上を予測するコツがあります。
それは、円柱をイメージすること。
図のように、
・円柱の体積 = 市場規模
・底面積 = 顧客の数
・高さ = 課題の深刻さ
・円柱の水の高さ=自社シェア
・水の量 = 自社の売上
と考えると、
円柱の体積(市場規模) = 底面積(顧客の数) × 高さ(課題の深刻さ)
水の量(自社の売上) = 市場規模 × 自社シェア
になります。
具体的な例で考えてみましょう。ペットフード市場です。
・日本国内で犬や猫といったペットの数は、約1600万匹です。
・ペット一匹にかかるペットフードの支出を、年間4万円程度と想定します。
・市場規模は、1600万匹 × 4万円 = 6400億円です。
・自社がペットフード市場で強みがあり、シェア20%が取れれば、売上1280億円です。
ちなみに矢野経済研究所によると、2022年のペットフード市場規模は6083億円です。こんな大雑把な計算でも、市場規模の見積りはほぼ合っています。
この円柱がイメージできれば、色々なパターンが考えられるようになります。
【残念なパターン】
顧客は多いけど、顧客に刺さらないパターンです。市場を大きく取りすぎて、自社の強みが活きないのです。
多くの人は「市場規模は1兆円だ。シェア1%取るだけで、売上100億円になる!」というように考えがちですが、市場では激しい競争が繰り広げられています。たいていの場合、強みがなければ1%すら取れずに、失敗プロジェクトとなります。
【新市場開発パターン】
逆に顧客にはすごく刺さるのですが、ターゲット顧客数が少ないパターンです。ニッチ戦略により、まだ勝者がいない市場で強みを活かしてダントツのシェアを確保し、市場を押さえます。
その市場に成長性があれば、化ける可能性もあります。1998年頃にニッチ市場で混戦状態だったネット検索市場で、後発にもかかわらず技術的優位性を活かし、市場を制覇して巨大化したグーグルはまさにこのパターンです。
さらに隣接する市場で数をこなしていけば、無双化する可能性もあります。最初に書籍オンライン販売市場を制覇した後、CD/DVDオンライン販売市場に進出し、徐々に商品群を広げたアマゾンはこのパターンです。
【理想パターン】
既存市場で、顧客はそこそこいて、かつ顧客に刺さるパターンです。ここではウォンツ(=ありそうでなかったモノ)の発掘が必要になります。
成熟している家電商品市場で、コードレス掃除機、サイクロン掃除機、速乾性能と髪ダメージを軽減したヘアドライヤー、羽根がない扇風機など、様々なヒット商品を生み出しています。
改めて、新規事業を考える際には、この円柱をイメージしてみてはいかがでしょうか?
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P&Gが製品販促で、P&Gブランドを重視しない理由
日本では、特にB2Cマーケティングの世界では、P&G出身者が大活躍です。P&Gが世界的な消費財メーカーであり、B2Cの世界でダントツのマーケティング力を持っているからです。
でも、P&Gがどんな製品を売っているのかは、意外と一般的には知られていません。P&Gが製品販促で「P&Gブランド」をP&Gの名前を極力目立たせないようにしているからです。
実はこれは、P&Gの用意周到なブランディング戦略なのです。
このことを理解するには、最初に簡単な「ブランドの構造」を理解する必要があります。
■ブランド構造の3つのパターン
ブランド構造には主に以下の3つのパターンがあります。
これは図のように、テーブルの天板(企業ブランド)と、天板を支えるテーブルの脚(製品ブランド)の関係で考えるとわかります。
①単一ブランド戦略
企業全体で1つの強力な企業ブランドを訴求します。単一事業を展開する企業に適しています。代表例はBMWやメルセデスです。
②複数ブランド戦略(エンドースト型)
企業ブランドと製品ブランドを組み合わせます。ソニーのように、企業ブランドが安心感を与えつつも、製品ブランドも個性を発揮します。
③個別ブランド戦略
企業ブランドは控えめにして、製品毎に強いブランドを育てる戦略です。幅広い商品カテゴリーを持つ企業に適しています。代表例がP&Gです。
■P&Gが「P&Gブランド」を強調しない理由
「個別ブランド戦略」のP&Gは、製品で独自ブランドを立ち上げ、製品毎に異なるポジショニングを打ち出します。理由は2つあります。
理由1:製品ポジショニングを最優先に考えているため
P&Gは、自社製品ブランドが消費者の特定のニーズに応えるために、市場で明確に差別化されることを最重要視します。そのために「P&G」の企業ブランドを強調せず、製品ブランドを強調しているのです。
理由2:ブランドイメージの希釈化を避けるため
ある一つのブランドが複数の製品にまたがると、消費者のそのブランドの認知がぼやけてしまうリスクがあります。これが「ブランドの希釈化」です。これを回避するため、P&Gは製品ごとに新しいブランドを立ち上げているのです。
■P&Gの実際の事例
具体的なP&Gの商品事例を見てみましょう。
【洗剤カテゴリー】
「洗浄力重視」のTideとは異なる「香り重視」のブランドとして、GAINを展開。
【シャンプーカテゴリー】
「フケ予防」のhead&shouldersに対し、「美髪ケア」をテーマにPANTENEを展開。
【食器洗剤カテゴリー】
「油汚れ特化」のDAWNとは異なり、「泡立ちと香り」を重視したJOYを展開。
【紙おむつカテゴリー】
「高品質追求」のPampersとは別に、「高コスパ」のLUVSを新たに展開。
このように、P&Gは一つの商品カテゴリーで複数のブランドを展開し、それぞれ異なるポジショニングを持たせているわけです。
でもついこう思ってしまいますよね。
「ブランド立ち上げって、莫大な予算が必要だよね。製品毎にブランドを立ち上げるって、ムダが多くない?」
■P&Gが「ブランド拡張」を採用しない理由
様々な企業のブランド戦略を見ていると、多くの企業はこの真逆をやっています。強力な既存ブランドを活かして、類似製品を展開する「ブランド拡張」を行っているのです。
例えば、強力なPampersの既存ブランド力を活かして、「Pampers light」のような高コスパ版を出す方法です。
一見、効率的な方法に思えます。
しかし、P&Gはこの方法を嫌います。ブランド拡張はブランドの希釈化を招き、既存の強力ブランドのイメージを損なう可能性があるからです。
高コスパ版「Pampers light」が世に出ると、「Pampers」の「高品質追求」という消費者のブランド認知は大きく損なわれてしまうわけです。
そして企業の想定する以上に、破壊的にブランドイメージが損なわれます。効率的どころか、逆に大きな損失を生んでしまうリスクがあるのです。
「ポジショニング」という概念を確立したマーケティングの大家アル・ライズも「ブランド拡張はNG」と指摘しています。
このようにP&Gが製品販促で「P&Gブランド」を重視しないのは、製品ブランドの希釈化を防ぎつつ、各製品ごとに明確なポジショニングを確立するためなのです。
こうしてP&Gは多様な商品群を抱えながらも、それぞれが消費者にとって明確な価値を持つブランドとして認識されることを狙っています。だからP&Gの商品群は強いのです。
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185店舗から、10年後に1000店舗に急成長を目指すワタミのSUBWAY戦略
2週間前に本コラムで、ワタミのSUBWAY日本事業買収について書きました。ポイントは下記でした。
・ワタミは米SUBWAYから日本サブウェイを買収、国内外食事業での成長を目指す
・渡辺美樹会長は「ゴール逆算思考」で、長期目標から逆算して戦略を立てて買収を決断した
・健康志向のSUBWAYのサンドイッチは、ワタミの有機野菜生産と組み合わせることで、マクドナルドに対抗する独自の強みを築こうとしている
・長期的には国内SUBWAY3000店舗を目指す
11月14日に行われたワタミの決算発表で、渡辺社長が今後のSUBWAYの事業について語っておられます。
先日のブログで書いた内容をさらに解像度を高めて考察できるので、ご紹介したいと思います。
・SUBWAY買収から3週間が経過した。強いブランドで、手応えを感じている
・SUBWAYトップと2時間会議し、「日本で味を決めてもよい」という権利を勝ち取った。美味しいものを提供できるので、これは大きい。
・現行の国内SUBWAY店舗185店舗は1店も赤字がない。2000万円の投資で6000万円の売上を上げている強い収益力をもった業態である
・そして小さな商圏で成り立っている。
・そこで日本全土を3000店舗から逆算し、どの地域にどういう出し方をすれば3000店舗になるかを検討し始めている。・SUBWAYの中国、韓国のFCオーナーとの交流も始めている
その上で、国内SUBWAYの店舗数計画も発表しています。
2025年 215店舗 (+35店舗)
2026年 265店舗 (+50店舗)
2027年以降は100店舗ずつ新規出店
2034年には、1065店舗
先日のブログでも紹介したように、SUBWAYの国内展開についても、渡辺社長はまさに「ゴール逆算思考」で考えていることがよくわかります。
□長期的に、国内3000店舗を展開
→そのために、2034年までに1000店舗
→そのために、2027年以降から100店舗毎に出店
→そのために、2026年は50店舗出店
→そのために、来年2025年は35店舗出店
→これらを実現するために、SUBWAYの小さい商圏を前提に、日本全土への3000店舗の出店計画を策定
→そのために、まずはSUBWAYトップと、「日本で味を決めてもよい」と合意
当然ながら、まだ渡辺社長が公にしていない「長期的なゴール」もあるはずです。
そもそもワタミは、グローバルカンパニーを目指しています。
それはもしかしたら、ワタミ自身がグローバルなSUBWAY事業を展開する姿なのかもしれません。
ちなみに渡辺社長は決算発表でも「ワタミ=SUBWAYですね、と世の中の人が言ってく入れるようになった」と嬉しそうにおっしゃっています。SUBWAYという強いブランドが伝える立場を手に入れたことが、いかに自社の強みになるのか、よく理解しておられることがわかります。
実はSUBWAYは2023年に米投資ファンドと買収で合意しており、当時の入札額は96億ドル(1.5兆円)と言われています。一方でワタミの時価総額は現在400億円。ワタミはSUBWAYの1/40程度で、ビジネス規模はまだまだ雲泥の差です。
こんな状態で「将来、ワタミが米SUBWAYを買収するかも」と言うと、確実に「あり得ない」と一笑に付されるでしょう。
しかし今後「ゴール起点思考」で指数関数的なビジネス成長が実現出来れば、超長期的には可能性があるかもしれません。
そんなことも妄想しながらワタミのSUBWAY事業をみてみると、なかなか面白いと思います。
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