2009年11月、アマゾン・ドットコムは約9億ドルもの大金を投じて、靴・アパレルのネット販売大手ザッポスを買収しました。
このザッポスの創業は1999年。靴のオンライン販売立ち上げを皮切りにビジネスを始めました。
1999年はネット販売が普及、急速にあらゆるものがネットに移行し始めた時期です。
当時、「靴のオンライン販売ビジネスを立ち上げよう」と思いつき、実行したのは凄いですね。 仮に思いついたとしても、「そもそも靴は履き心地を重視する。オンラインで売るのは無理」と考え、そこで思考停止する人が圧倒的に多いのではないかと思います。
実はザッポスの創設者ニック・スインマーンは、「靴をオンラインで買う顧客は存在する」と仮説を立てました。
ではどのようにその仮説を検証すればいいでしょうか?
1999年の当時、ネット販売サイトを作るだけでも大変です。
スインマーンは、実に簡単な方法でこの仮説を検証しました。
その事業立ち上げの頃の様子がエリック・リース著「リーンスタートアップ」で描かれています。
—(以下、引用)—
スインマーンは実験からスタートすることにした。まず、靴をオンラインで買う顧客がいるという仮説をたてる。そしてその仮説を検証するため、近所の靴店に頼んで在庫品の写真を撮らせてもらった。撮った写真はウェブに掲載し、それを誰かが買ってくれたらお店の売値で買うからと言って。
このようにザッポスはごく小さくシンプルな形でスタートした。このときの目的は、靴のオンラインショッピングにおいて優れた体験のニーズが十分に存在するか否かという問いに回答を得ることだった
—(以上、引用)—-
「靴のオンラインショップ」というと、「倉庫を用意して、複雑な受発注システムを構築したりしなければならないので大変だ」と思いがちです。さらに事業立ち上げの際には、我々は市場調査に頼ったりします。
しかしスインマーンはシステム構築は行わず、市場調査にも頼らず、1−2日あれば誰でも作れる簡単な仕組みでサービスを開始し、「お、これは売れるぞ」と検証してみたわけですね。
当時は靴をオンライン販売で売る業者は存在しませんでした。
しかし実際にやってみたら「売れた」のです。「顧客が存在するという事実」はビジネスを立ち上げる上では、何百時間もの議論よりも、はるかに貴重なデータです。
スインマーンは、実際に靴が売れたことがわかっただけでなく、様々なことを学びました。
––(以下、引用)—
ザッポスは以下のことが学べたのだ。
1.顧客の望みについて精度の高いデータが得られた。頭の中で考えただけの質問を発するのではなく、顧客が実際にどう動くのかを観察したからだ。
2.現実の顧客とやりとりする立場に自らを置き、顧客のニーズを学んだ。………
3.顧客が予想外の動きをする場合があり、そのときザッポスは、たずねようとも思わなかった情報を入手した。たとえば顧客が靴を返品してきた場合などだ。
ザッポスが行った実験からは、十分な数の顧客が靴を買う、あるいは買わないという、明快で定量的な結果が得られた
……小さくスタートすれば、全体的なビジョンを損なうことなく、実行時の無駄を大幅に減らせる。
—(以上、引用)—
新規事業を立ち上げる際に陥りがちな罠は、「考えすぎてしまう」ことです。しかしいくらオフィスで考え抜いても、決して正解にはなりません。
むしろザッポスのように、実際に行動して顧客に販売することで、学べることも多いのです。
さらに「オンラインで靴を売るのは無理」と考える人が圧倒的に多かったからこそ、「実は買う顧客が存在する」ということを発見したザッポスがブルーオーシャンを切り開けたのです。
顧客が洗練され、変化が激しい現代においては、「仮説を立てた上で、リアルな顧客から学ぶ」という仮説検証のプロセスが重要なのです。