「人材育成の責任者を担当して欲しい」
前職の日本IBM社員時代、戦略マーケティングマネージャーの仕事を始めて15年目。1ヶ月前に50歳の誕生日を向かえたばかりのある日のこと、事業本部長から、突然このように切り出されました。
(戦略マーケティングマネージャーの仕事は自分の天職。これからもこの仕事を続けて、究めていこう)と思い定めた矢先のことでした。
事業本部長はこのように続けます。
「永井さんが考える戦略と、ボクが考える戦略は、方向性が同じだ。だからウチの事業本部にいる1000名の全社員が、同じ戦略の方向性を理解して、仕事をするようにしたい」
2日ほど考えた末、(悩んでいるのならば、チャレンジしてみよう)と、異動することにしました。
とは言え、マーケティング業務で顧客中心主義については深く学んできたものの、人材開発の業務についてはまったくの門外漢。(なぜ自分が、人材育成の責任者に?)と思いました。
しかし、担当してみてわかったことが2つあります。
1つ目は、気づきを得たスキルが高い社員がいることが、顧客中心主義を実現する前提である、ということ。
お客様に本当に満足いただけるような製品やサービスを提供する主体は、社員。よくよく考えれば当たり前のことでした。
「自分の仕事で、世の中をよくしたい」という深い気づきを得た社員がいて、その社員がお客様にご満足を提供できる高いスキルを持つことが、あるべき姿です。
ではそのあるべき姿を実現するためには、現状はどうなっていて、何が足りないのか?
事業本部傘下にある十数の事業部毎に、あるべき姿、状況、課題は微妙に異なります。「仕事の気づき」「製品スキル」「ビジネススキル」「業界別スキル」に分けてそれらを見極め、優先順位を付けて、対策を打ち、結果を四半期毎に検証していきました。
仕事を通じて、「社員自身の気づきを深めて、さらにスキルを高めることが、とても大切なのだ」だと実感しました。
2つ目は、人材育成戦略とマーケティング戦略の方法論は、基本は同じである、ということ。
1つ目の方法論で書いたように、人材育成戦略の策定と実施にあたっては、
「あるべき人材像を見定める」→「スキルの現状を把握する」→「課題を見極める」→「対策を打つ」→「検証する」
この仮説検証の愚直な繰り返しが必要です。
「人材やスキル」を、「事業」に置き換えると、マーケティング戦略の策定と実施も同じです。
「あるべき事業を見定める」→「事業の現状を把握する」→「課題を見極める」→「対策を打つ」→「検証する」
自分が人材育成を担当することになった意味は、ここにあったのかもしれません。
米国系外資系企業ということもあって四半期毎という短期間で予算の獲得が必要なので、そのタイミングに合わせて結果を検証し、改善を積み重ねることで、事業部全体のスキルは上がり、ビジネス面の成果に繋がっていきました。
一方で、30代前半の頃から「50歳になったら独立しよう」と考えていました。人材育成責任者を1年半担当し、51歳の半ばを迎えて、独立しました。独立後は、著作・講演・研修などの活動を通じて、企業様の人材育成のご支援をしています。
マーケティング戦略の策定・実施と、人材育成戦略の策定・実施、ともに徹底的に究めた実戦経験があることは、現在の私自身の大きな強みになっています。
2013年7月に独立後は、色々な企業様から想定していなかったようなご依頼をいただきます。そしてそれらの多くは、私の人材育成業務での経験と同じように、様々な形で思わぬ方向に進化し、繋がっています。
独立して3年目を迎えて、様々な形で与えられた仕事の意味を解釈し、方向性を決めるのは自分次第であることを、改めて実感しています。