10月1日から文化放送・オトナカレッジという1時間番組のレギュラー出演が始まりました。第1回目は、『マーケティングは、アナタの人生に役立ちます!』と出して、そもそもマーケティングとは何かについてお話ししました。
この番組では十数分の講義後、リスナーからの色々なご質問にお答えしています。今回はこんなご質問をいただきました。
「お客様のニーズをサキドリして応えるのがマーケティングだということはわかりました。でもニーズが減っている商品でも、役立つのでしょうか?」
実は、このような場面こそ、マーケティングの出番なのです。
番組ではこんなエピソードでお答えしました。このコラムでは、時間の都合のため番組でお話しできなかったことも加えてご紹介します。
家にタンスを置いているご家庭は多いと思います。
日本でタンスが普及し始めたのは、1700年の江戸時代中期。一見すると、タンス市場は成熟していて新しいニーズはないように見えます。しかしある会社は、タンス市場での「隠れたニーズ=声なき不満」を発掘し、大ヒット商品を生み出しました。
「タンス市場での、隠れたニーズ=声なき不満」は、何だと思いますか?
こんなご経験はありませんでしょうか?
衣替えの季節や旅行の際に、衣服を探してタンスの棚をいくつもひっくり返して探したけれども、なかなか見つからない。
実はタンスには、「どこに何をしまったかを忘れてしまって、欲しいモノが見つけられない」という声なき不満があったのです。
二十数年前、アイリスオーヤマは、その「声なき不満」に気がついて、半透明プラスティックスを素材として使って中味が見える収納ボックスを開発し、販売しました。ホームセンターでこの「半透明収納ボックス」をご覧になったり、使っておられる方も多いと思います。かく言う我が家でも使っています。
世界初の「半透明収納ボックス」は大ヒット商品になり、米国でも新市場を開拓しました。「どこにしまったか、見つけられない」というお客様の声なき不満に他社よりも先んじて注目し、ニーズをサキドリして開発・販売した、マーケティングの成果です。
このように、「お客様の新しいニーズなんて、もうないよ」という時こそ、マーケティングの出番なのです。
マーケティングの考え方を身に付ければ、お客様も気がつかないような「隠れたニーズ=声なき不満」を発掘し、いち早く対応することができます。そしてニーズをサキドリすることで、他社を大きく差別化できるのです。
しかしニーズをサキドリして成功すると、必ずあることが起こります。
ライバルが模倣して、類似品が市場に出回り始め、価格競争になるのです。
では、どうすればいいのでしょうか?
さらにお客様のニーズをサキドリし続け、自社の強みを活かし、より深くお客様の隠れた課題に応えていくのです。
アイリスオーヤマの「半透明収納ケース」も、コピーメーカーが多数出現しました。半透明プラスティックスを成形加工するのは簡単なので、模倣するのは容易です。つまり市場への「参入障壁」は低かったのです。そして市場が供給過剰に陥り、価格は急降下しました。そこで収納用品の点数を一気に縮小し、収益性が高い商品だけに絞り込むことにしました。
その絞り込みの基準も、「隠れたニーズ=声なき不満」です。
では、「半透明収納ケースの、隠れたニーズ=声なき不満」は、何だと思いますか?
実はこんな、「隠れたニーズ=声なき不満」があったのです。
「人目に触れる機会の多い場所だと、中味が見える収納ケースは、置きにくい」
そこでアイリスオーヤマは、天板を木天板、引き出し部分は硬質ポリスチレンにし、引き出しやすいように金属レールを使った「HGチェスト」を開発しました。リビングに置いても違和感のない高級感がある収納ケースになり、2012年までに累計700万個売り上げました。
実はプラスティックス・金属・ポリプロピレン・木材といった異なる素材を使った製品を作れるのは、多品種を製造するアイリスオーヤマならではの強みであり、他社には難しいことだったのです。つまり市場への「参入障壁」は高くなったのです。
このようにマーケティング思考が企業に定着していること自体が、企業の大きな強みになるのです。
今回のラジオ出演前半部分(講義11分間)は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でお聴きになれます。→こちら(なお、今回のコラムでご紹介した後半の質疑応答は割愛されていますので、ご了承下さい)
以上、「オトナカレッジ」の番組でお話しした一部を、さらに深掘りして補足させていただきました。
本番組では、このようなマーケティングのお話しを、わかりやすく解説します。マーケティングをご存じない方も、3月末までの十数回のお話しをお聴きいただくと、マーケティングのキモについてご理解いただけるようになるはずです。
次回、私のオトナカレッジへの出演は、明後日の10月8日(木) 21:00。「その人、本当にお客様ですか」というテーマでお話しします。本当のお客様は、実は意外と見えていないことが多いのですよね。お楽しみに。
【ご案内】当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。