不毛でない値下げ合戦なら、よいのか?


合戦

 

「では、不毛でない値下げ合戦なら、いいんでしょうか?」

先週の文化放送オトナカレッジの放送で、「不毛な値下げ合戦は何を引き起こすのか?」というテーマをお話ししたところ、リスナーの方からこんなご質問をいただきました。

素晴らしいご質問ですね。

そもそも「不毛な値下げ合戦」とは何でしょうか?

 

 

それは利益を削ることで、価格を下げて戦う方法のことです。

牛丼業界は、一時期、どこも300円以下で販売していました。まさに価格競争で業界全体が疲弊している典型的な業界です。しかし利益を削るだけでは限界があるので、いずれ品質にも手を付けざるを得ません。

番組では、1960年代に始まった米国コーヒー業界の価格競争の事例をお話ししました。価格勝負に陥った結果、コーヒーの品質を下げて、顧客離れを引き起こしました。当時米国人1人あたり1日3.12杯飲んでいたのに、40年後には1.5杯と半分以下になりました。「米国のコーヒーは不味い」という評判が定着し、市場は半分以下になってしまいました。

 

牛丼業界、1960年代の米国コーヒー業界、いずれも利益も品質も削って値下げ合戦に陥っていたのです。このような値下げ合戦は、企業同士の体力勝負になります。

スポーツの「体力勝負」は、体力の限界まで追い込むことで、体力の限界値が徐々に上がりますが、利益や品質を削った値下げ合戦の体力勝負では、安くても低品質な商品を提供される顧客は離れていき、企業の体力は徐々に失われます。その先にあるのは企業の淘汰。行き着く果てが市場の大絶滅。だから「不毛」なのです。

 

ここで必要なのは、新たな価値を生み出して価格競争から抜け出すこと。牛丼業界はいま様々なメニューで試行錯誤していますし、米国コーヒー業界では「美味しいコーヒーを提供しよう」と考える人があらわれスターバックスのような会社が現れました。

 

番組でこのお話しをしたところ、リスナーの方から、「では、不毛でない値下げ合戦なら、いいんでしょうか?」というご質問をいただいたのですね。

値下げの中には、利益を削らない値下げもあります。

それは最新技術の活用により、より低いコストで提供できるようなコスト構造を実現し、利益と品質を確保した上で、価格を下げる方法です。

たとえば生命保険業界では、長い間、営業職員が販売していました。人手や営業拠点などの販売コストはすべて保険料金に転嫁されるので、保険料金は割高になっていました。

この伝統的なコスト構造を大きく変えたのが、2008年に創業したライフネット生命保険。生命保険をネット経由のみで販売することで、販売コストを削減し、保険料金を大きく下げました。

これは最新技術を活用してコスト構造を変え、低価格を実現した例です。

 

「歯を食いしばってでも、頑張って、値下げ競争を勝ち抜け」という根性論には、限界があります。

価格勝負をするのならば、利益や品質を削って価格を下げるのではなく、利益も品質も確保した上で、智恵を絞ってコスト削減を図りたいところです。

 

しかし最新技術を活用して低コスト構造を実現しても、それだけでは不十分なのです。いずれライバルが追いついてくるからです。

ライフネット生命の創業から6年が経過した現在、ライバルのネット生保が増えてきました。既に「ネット専業だから低価格」だけでは差別化できない状態なのです。

ライフネット生命も当初から、わかりやすいシンプルな商品構成、保険の簡易請求の実現、業界で唯一の保険料内訳公開などにより、顧客満足度第一位を獲得するなど、低価格を売りにするだけでなく、企業努力を重ねています。

 

価格だけに頼らずに、常に高い価値を提供し続けることを追求すべきなのです。

 

【ご案内】当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。