「永井さん、あなたが作ったこの戦略はね。ゴミだ」
米国人上司はそう言って、私の説明資料を、私の目の前で破りました。
そしてこのように付け加えました。
「あなたの問題は、『自分の戦略』にこだわって、考え過ぎることだ。戦略は米国本社がちゃんと考えている。今あなたが行うべきは、本社の戦略を忠実に実行することだ。あなたが時間をかけて作ったこの戦略はまったく意味がないね」
いきなり資料を破られて「ムッとしなかった」と言えばウソになります。「本社の戦略だけ考えればいい」もやや誇張し過ぎでしょう。しかし一方で、彼の言っていることにも一理ありました。
この時、私はある業務の新任責任者を拝命し、自分なりに戦略を考えていました。しかし米国本社側の戦略をキチンと理解し、整合性を取る優先順位は落としていたのです。
実際には本社戦略に沿って、社内の各部署で多くの人たちが仕事をしています。本社戦略に沿えばそれらの成果を活用できます。しかし独自の戦略で進めば、これらの知見は活かせません。
本社戦略を表面的に聞くと「いや、自分の状況は違う」と思いがちです。しかし基本的な考え方や方向性をキチンと理解すれば、意外と共通点も多いものなのです。
彼の言うことに素直に従ってみることにしました。
ちゃんと見てみると、本社戦略がよく整理されていて、自分の戦略で採り入れるべき点も多いことがわかりました。一方で様々な事情で適用できない部分もあります。
そこで本社戦略で採用すべきものは採用し、独自に考えるべき点は直し、戦略を練り直しました。
本社戦略に沿った部分、独自に変えた部分、そのようにした理由が明確になりました。この構造をわかりやすくキチンと説明できるようになったことで、本社側のサポートも得られ、仕事の成果に繋がりました。
さらに本社は、私が独自に変えた部分に興味を持ちました。実は彼らも各部門の現実を知りたがっていたのです。私が独自に変えた部分の一部は、その後、本社戦略に反映されて全社に展開されました。
ある程度規模が小さい企業でも同じです。
企業様で現場を預かるマネージャーとお話ししていると、本社方針を理解不十分なまま、目の前の仕事を進めている場面によく出会います。
しかし組織の中では、1人で仕事は進められません。マネージャーの場合だったらなおさらのこと、複数の組織との協業が必須です。だからこそ、組織の中で方針を立てる場合は、常に全社戦略との整合性を考える必要があるのです。
私の戦略が「ゴミ」と言われた理由。
それは、全社的な整合性がない、独自の戦略を立ててしまったからなのです。
彼はなかなかそれを認めようとしない私に、ショック療法として目の前で破ってくれたのです。