南信州の小さな村は、「失敗から学ぶ方法」で世界初の挑戦に成功した


星空

昨年7月に当ブログでご紹介した、南信州・阿智村で聞いたお話しです。

阿智村にある昼神温泉は、2005年から5年間で宿泊客が25%も激減しました。「温泉で癒やされる」だけでは他の温泉地と差別化できなかったのです。

しかし阿智村には隠れた強みがありました。星空です。阿智村にあるスキー場に勤めるスタッフは、夏の夜にゴンドラを動かして彼女と満天の星空を見ていたりしていたのです。実際に2006年、環境省が「日本一星空がよく見える場所」と認定したほど、綺麗な星空が見えます。

そこで「星空エンターテイメント」をテーマに、この星空を核にした地域づくりに取り組み始めました。

天体観測ではなく「星空エンターテイメント」であることが重要です。先のスキー場スタッフの例からもわかるように、ターゲットの顧客は20代の若いカップル。そういう人たちに星空で楽しんでもらうのですから、天体観測ではなく、星空の面白い話で楽しい体験をして欲しいわけですね。

そこで阿智村では、村に住む人たちから「星空ガイド」を募集して、この「星空エンターテイメント」に取り組み始めました。

 

しかしこの「星空エンターテイメント」は世界初の取り組みですから、他に参考にすべき事例がありません。では、どうするか?

阿智村で、この星空ガイドの採用・育成を担当する谷澤信さんからお話しを伺って、「なるほど」と思いました。

手本も正解もないのですから、自分で学ぶしかありません。実際、試行錯誤の連続だったそうです。

そこで毎晩、星空ガイドの仕事が終わった後、必ずスタッフで反省会を行い、よかったこと・悪かったこと・改善すべき点を話しあって解決策を決め、翌日に持ち越さないようにしました。この仕組みによりお互いに情報を共有し、学び続けるようにしたのです。

当初作成したマニュアルは、この学びを反映して、改訂を繰り返していきました。

 

この星空ガイドの挑戦は、「仮説検証による学びの蓄積」に他なりません。

仮説を立てる→実行する→検証する→対応する→新たな仮説を立てる→…

これをひたすら毎晩、繰り返してきたのです。

2012年8月に星空ガイドを始めてから3年以上が経過し、仮説検証の分厚い蓄積でノウハウも蓄積したことが「日本一の星空」阿智村ならではの強みになっているのです。継続的な仮説検証が差別化の手段になることがわかるエピソードです。

 

そしてこれは、私がよく講演でご紹介する、ティム・ハーフォードが著書「アダプト思考」で書いた「失敗から学ぶ方法」そのものです。

失敗から学ぶには、3つの方法があります。

(1) 新しいことを試すこと。ただし、挑戦に失敗はつきものであると覚悟しておく。星空ガイドも世界初の新しい挑戦です。ですから必ず失敗が起こります。星空ガイドの方からも、失敗を通じて色々な学びを得ました。

(2) 失敗しても大きな問題にならないようにする。実験規模を見極めギャンブルを避ける。星空ガイドも当初は客数が多くありませんでした。この段階で様々な試行錯誤を繰り返してきたのですね。

(3) 失敗を失敗と認める。失敗を認めなければ、学ぶことはできません。星空ガイドも毎晩の反省会を通じて学びを蓄積してきたのです。

 

世界初の挑戦である「星空エンターテイメント」は、「失敗から学ぶ3つの方法」を実践して生まれたのです。