ある講演会で、こんな話をしました。
「お客様が満足するのは、期待を大きく上回った時です。
だからお客様の言いなりになっていては、期待は超えられません。
お客様のニーズをサキドリすることが必要です」
すると懇親会である経営者の方から、鋭いご指摘をいただきました。
「『期待を超える』『ニーズをサキドリすべし』、どちらもごもっとも。でも正直、違和感もあります。
ニーズのサキドリと言っても、その時点でお客様はニーズに気づいていません。つまりそもそも期待がない状態で、お客様の期待を超えてお客様に満足いただく、というのは矛盾していませんか?」
とても重要なご指摘なので、当コラムでご紹介したいと思います。
皆様はどのように考えますか?
この方がおっしゃる通りで、他社に先駆けてニーズをサキドリした時点で、ほとんどのお客様はニーズを意識していないので、期待も持っていません。わかりやすく言うと、ほとんどのお客様が「これってナニ?」という反応をします。
しかしごく少数のお客様は、ニーズを意識しているものの誰も対応してくれないので、あきらめている状態にあります。わかりやすく言うと、「これで困っているんだけど、でも仕方ないか…」と思っています。
たとえば2002年、アイロボット社は自動お掃除ロボット「ルンバ」を世界に先駆けて開発し、市場に出しました。当時のお客様は、「掃除に手間がかかる」のは当たり前でした。ほとんどの人は「自動で掃除できる」ことは期待していなかったのですね。私自身、この時期にルンバを見て「これってナニ?」と思っていました。
しかし、「困った。何とかしたい」と考えているお客様がごく少数いました。たとえば大都会の共働きの夫婦。2人とも仕事で遅くなることも多いので、掃除をする時間をなかなか作れません。掃除のことで夫婦げんかをすることもあるそうです。ご本人たちからすると結構深刻な問題ですよね。「帰宅したら、キレイな床で迎えて欲しい」というのは、切実なニーズでした。
そんなところへ、アイロボット社は初代ルンバを投入し、大都会の共働きの夫婦に向けて、通勤時間帯に都内の電車広告を出しました。
このように「ニーズのサキドリ」とは、ごく少数のお客様が持っているニーズを理解してサキドリし、誰よりも真っ先に解決策をご提供することなのです。
市場に真っ先に解決策を提供する場合、それを待ち望んでいる少数のお客様にとっては「もしあったら、御の字」という状態なので、もともとお客様の期待値はそれほど高くありません。
2002年のルンバ登場時も、自動で掃除できる掃除機は存在していませんでした。
そしてニーズを持っているお客様も、現代と比較すると、ごく少数。
さらに当時のお客様の期待も、「とりあえず掃除できれば、助かる」という状況。現代よりもずっと低い期待値でした。
2002年、このような状況で世に出た初代ルンバは、現在の最新ルンバと比べて機能的に見劣りしていていましたが、それまで自動お掃除ロボットを知らなかった顧客のニーズをサキドリしました。そして低かった期待値を大きく上回る価値を提供することで、初代ルンバは高い顧客満足を生み出したのです。
その後ルンバは顧客に対して価値を高めていき、当初「これってナニ?」と思っていた私のような顧客も満足させるようになっていきました。
つまり、
(1) 大きな課題を持っている、少数のターゲット顧客に絞り込む
(2) ターゲット顧客の課題を理解し、最も大きな課題に対応する
(3) ターゲットの顧客に、解決策を提供する
(4) さらに顧客の課題を深く理解して解決策を強化していくとともに、その解決策を他の顧客に拡げていく
これを愚直に繰り返し、「ニーズをサキドリし、期待を上回る顧客満足を生み出す」ことが必要なのです。
新商品開発の立ち上げ段階で、数多くのお客様をターゲットにすると、失敗します。
最初に必要なのは、お客様の徹底的な絞り込みなのです。
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