「御社のお客様は、誰ですか?」とお伺いすると、こんな答えをいただくことがあります。
「世の中の人、全てですよ」
「当社の商品を買う人が、お客様です」
「うっ。…考えたこともありません…」
このパターンで本当に売れるでしょうか?いくつか事例を見ていきたいと思います。
■セグウェイ
2001年、鳴り物入りで登場しました。立ったまま自由に移動できる画期的な乗り物です。スティーブ・ジョブス、ジェフ・ペゾス、ビル・ゲイツといった錚々たる経営者がこぞって「人間の移動形態を変える革命的な製品だ!」と賞賛しました。
ターゲットは「世界中のすべての歩行者」。
米国で100万人に販売した後に、世界進出も予定されていました。
結果は? 3年間の販売は、6000台でした。
価格は60万円。この価格帯の商品を購入できる裕福な米国人は、健康維持のためにむしろ日々のウォーキングやジョギングを重視していたのです。
■コダック フォトCD
1990年、コダックがフォトCDというサービスを始めました。
ターゲットは、一般消費者。
デジタル写真時代を先取りし、写真フィルムから高解像度の画像データを読み取り、CDで提供してくれます。画像をテレビで見ることもできます。
かく言う私も、当時、自分の写真作品をフォトCDにしてもらいましたが、25年後の現代でも通用するような素晴らしい高解像度データで、とても驚いたことをよく憶えています。
結果は? 普及しませんでした。
当時の一般消費者にとっては、あまりにも高解像度だったのです。むしろプロフェッショナルな写真家に受け容れられました。さらに当時は、前提となるCD-ROMドライブはまだまだ高価。加えて、当初は高価だったスキャナーが急速に低価格化し、フォトCDを代替していったのです。
■身近でありがちな事例
同じような話は身近にもあります。
私は様々な企業から、「この商品企画書に意見を下さい」と言われて拝見する機会がよくあります。
多くの場合、商品仕様については子細に書かれています。商品企画書なので、これはこれで大切なことです。
一方で顧客に関しては、「市場規模は〇〇〇億円。このうちシェア5%を獲得して、売上〇〇億円を目指します」としか書かれていないことがとても多いのです。
このパターンは、セグウェイやフォトCD同様、顧客ニーズが把握できておらず、多くの場合、売れずに失敗します。。
共通するのは市場を大きく捉え、「大きい市場から、シェアxx%を獲得しよう」と考えていること。
しかしこの方法ではニーズを絞り込めていないので、ごく一部の人たちがたまたま買うだけで終わることも多いのです。
本来必要なのは、潜在的なニーズを捉えること。事例をご紹介します。
■ある樹脂メーカーの事例
この樹脂メーカーの取引先は、塗料メーカーでした。そこで「環境に優しい塗料なら売れるはず」と考えて、環境性能が高い樹脂で塗料を発売しましたが、売れませんでした。
そこでこの樹脂メーカーは、塗料の最終ユーザーである塗装業者の実態調査をしました。
わかったことがありました。塗装業者のコストのほとんどが人件費であり、塗料はコスト全体のうちわずか15%だったのです。そこで「人件費を削減できる塗料を提供すれば、売れるはず」と考えました。
そこで、速乾燥で1日で二度塗りでき、かつ環境にも優しい塗料を発売したところ、価格が1.4倍なのにも関わらず、飛ぶように売れました。
塗装業者にとって、より短い時間で塗装が完了する塗料は、まさに「喜んで買いたい商品」だったのです。
市場の中で、「買うかもしれない」潜在的ニーズを持っている人は、一部の人たちです。
そこでそのような人たちを絞り込み、「お客様が買う理由」を提供し、「喜んで買うお客様」に変えていくことが必要なのです。
テニスやバトミントンのラケットは、一見広く見えますが、実際には反発力が高い部分は中心のごく一部です。ここを「スウィートスポット」と呼びます。
新商品を立ち上げる際にも必要なのも、広さを狙った「規模」ではなく、確実に買う「お客様」。
狙うべきは、「シェア」ではありません。
狙うべきは、「スウィートスポット」なのです。
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