山の中の温泉旅館で、なぜマグロ料理なのか?


先日お招きいただいたセミナーで、登壇されたある食の専門家の方が、こうおっしゃっていました。

「山奥の温泉旅館で、よくマグロ料理が出ますよね。なんでだと思います?」

確かに海から数百Kmも遠く離れた山奥の温泉旅館で、マグロや魚介類の豪華な刺身料理が出ることは少なくありませんよね。私は最初、その理由がよくわかりませんでした。

その方は続けてこうおっしゃいました。

「マグロ料理は、その土地の人にとってはご馳走なんですよ」

昔から日本の山間部では、タンパク質不足が課題でした。海の幸は、その貴重なタンパク源だ、というわけです。

「ただ、いつも魚料理を食べ慣れている都会の人にとっては、温泉旅館で改めてマグロ料理を食べようと思わないですよね」

この話を聞いた時、自分たちが『これはいい』と思うものを勧めても、お客さんはそう思っていないという、製品中心の「プロダクトアウト」そのものだと思いました。

ただこの話は、それだけでは終わりません。

セミナー終了後の懇親会で、講師の方と、旅行業の方の3人で、お話ししました。旅行業の方がこうおっしゃいました。

「実はね。もともと温泉旅館の客の半分は、地元の人だったんですよ。だからマグロ料理は、地元客にとっては、やはりご馳走なんです」

マグロ料理を出すのは、必然性があったのですね。

「ただ、今は都会客がどんどん増えている。そもそもお客さんがどこから来ているか、わかるのですから、地元客にはマグロ料理を、都会の客には地元の山菜料理を、というように、お客さん毎にわけて出せばいいんですよね」

実は地元の人が当たり前に食べている郷土料理は、その地域の外にいる人たちにとって、とても価値が高いものであることがよくあります。

たとえば、富士宮市はかつて観光客はほとんど来ませんでした。しかし今や、富士宮市名物のヤキソバを食べに、年間70万人が訪れるようになりました。このヤキソバは、富士宮市の人たちが普通に食べていたもの。「これを広げて町おこししよう」と考えた人たちが中心になって、活動した結果です。

 

お客さんが「価値がある」と思うものは、意外と自分たちの身近にあることを、再確認したセミナーでした。

 

 

 

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