こんなご質問をいただきました。
「永井さんは、『お客様の言うことをよく聞こう』とよくいいますよね。
でも『お客さんの言いなりになるな』ともいいます。
なんか、矛盾していませんか?」
ごもっともな疑問ですね。今日はそのお話しです。
「ゴホンと言えば龍角散」で誰でも知っている龍角散。現在の社長は、お父様から社長を引き継いだ藤井隆太社長です。引き継いだ当時、年間売上は40億円。お父様は事業多角化に積極的でしたが苦戦し、借金は年間売上と同額の40億円。主力商品の粉薬は若い世代に受け容れられず、売上は下がる一方。経営危機を迎えていました。経営陣は「龍角散はもう古い。新しい商品が必要」という意見でした。
そんな中、藤井隆太社長は、龍角散の愛用者を集めてグループインタビューをしました。
すると「時代遅れ」と思っていた粉薬を、愛用者は「伝統があるから安心できる。身体に優しい」と考えていたのです。
特に若い女性は、「妊婦さんも飲めるしね」
よく聞いてみると意外なことがわかりました。妊婦は喉が痛くても、副作用がある強い薬は飲めません。産婦人科で唯一進められるのが龍角散でした。
つまり龍角散の強みは、「伝統があり身体に優しく安心できる」こと。それを教えてくれたのは愛用者でした。 彼らは、粉薬で飲みにくく咳き込んでしまうことも教えてくれました。
そこで顆粒状ののど薬「龍角散ダイレクトスティック」を発売して大ヒット。2016年度の売上は、社長就任時の4倍となる151億円。経営は立ち直りました。
(詳しくは、日経ビジネス2017.8.17号の特集「挫折力」に掲載されている龍角散の事例をご覧下さい)
私も同じことを、先日出版した『「あなた」という商品を高く売る方法』で経験しています。
当初、本書の位置づけは「自分のキャリアづくりを考えている若手ビジネスパーソン向け」でした。 そして執筆の真っ最中、今年5月に行った朝活勉強会・永井塾で本書の一部を紹介しました。すると新しい発見がありました。
実は40〜50代のビジネスパーソンが、「今後の自分のキャリアをどうするか?」をかなり真剣に考えていることがわかったのです。いまや人生100年時代を迎え、定年退職後のビジネスパーソン人生をどうするかは大きな課題なのです。改めて考えると、私も同年代なので、この悩みはとても共感します。
そこで年齢でターゲットを絞り込むのではなく、「自分の商品価値を高めたいと考えているビジネスパーソン」というニーズでターゲットを絞り込みました。
つまり、「すべての答えはお客様が持っている」ということです。
一方で大事なことがあります。
お客様の言いなりにならないことです。
たとえば、皆さんのご自宅にあるテレビのリモコン。お客様の要望をそのまま取り入れて、次々と機能を追加した結果、逆にボタンだらけで使いにくいリモコンになってしまっています。
お客様の言いなりになることが、必ずしも正しいとは限らないのです。
お客様は答えを持っていますが、答えそのものは教えてくれないのです。
お客様から得られることは、2つあります。
まずお客様の声は、「仮説を作るためのヒント」です。
龍角散は、「妊婦でも飲める」「でも粉薬は咳き込む」というお客様の声をヒントに、ヒット商品「龍角散ダイレクトスティック」を作りました。
そしてお客様の声は、「仮説を検証する手段」です。
私は、朝活勉強会・永井塾で『「あなた」という商品を高く売る方法』の内容を紹介した結果、本書のターゲット読者を修正しました。
仮説を考えないままで、お客様の声をそのまま取り入れ、言いなりになっても、お客様の本当の課題は解決できません。
必要なのは、私たちが仮説を持つことなのです。
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