ゴディバと同等。でも価格は1/3


ある菓子メーカー部長の講演を聞く機会がありました。

この会社は自社の最新技術を駆使し、最高級チョコ「ゴディバ」と同等品質のチョコを開発。ゴディバの1/3の価格、同社他商品よりも1〜2割高い価格で販売しています。

「ゴディバと同じ品質で、価格1/3ですよ。こんな商品、当社しか作れません」

部長は自信満々です。

「そうそう。部下が『当社の名前を外して、別ブランドで売ったらどうでしょう?』って提案してきたんで、『当社が誇る最高級チョコだ。当社の名前を外すなんて言語道断!』と一喝してやりました。」

お話しを伺って、少し考えてしまいました。

 

トヨタは長年米国では「品質は良いけど安い車」というイメージ。メルセデスのような「高いけど欲しい車」ではありませんでした。

そこでトヨタ色を一切排除したブランド「レクサス」を新たに作り、「最高級ブランド」としてメルセデスに対抗しました。トヨタは既存のトヨタ車の顧客ではなく、トヨタがリーチできなかった「最高級で高品質な車が欲しい」という新しい顧客を開拓したのです。

トヨタは「最高級車だからトヨタの名前をつけよう」と考えず、むしろ「トヨタという名前は安物と取られてしまうから、新しいブランドが必要」と現実的に考え、レクサスを立ち上げたのです。

「ゴディバと同等のこのチョコには、当社の名前を外し別ブランドで売りましょう」という部下の真意は、恐らくこのレクサスの考え方と同じです。「当社がリーチしていない新しい顧客を開拓しよう」ということです。

 

こう考えると、菓子メーカー部長の問題は二つあることがわかります。

①「あえて高く売る」という選択肢を考えていない
部長は「当社のチョコよりも1〜2割も高い。わが社が誇る最高級チョコだ」と考えているのでしょう。しかし価格には「品質表示機能」があります。ゴディバと同等品質でも、ゴディバの1/3の価格を付けた途端、お客さんは「ゴディバの1/3の品質」と考えるのです。

②「自社名ブランド」を至上のものと考え、それ以外の現実的な選択肢を排除している
この会社のブランドは「親近感」はありますが「高級感」はありません。自社ブランドは確かに大切です。しかし現実には、この自社ブランドでは最高級チョコ「ゴディバ」には対抗できません。そして恐らくこの部長の頭の中には、ゴディバへ対抗する選択肢はないのでしょう。

 

本当は今までのやり方を根本的に見直すところに、新たな飛躍の種があります。この部長は成功体験があるがために、その種を潰してしまっているのです。

成功体験は、本当にやっかいなものです。
自信にもなりますが、新たなチャンスを潰すこともあります。

だからこそ、常に今の状態が本当にいいのか、健全な問題意識を持ち続けたいものです。

 

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