原材料費の高騰、なかなか厳しいですよね。「ウチも値上げしないと厳しいなぁ」とお考えの方も多いのではないかと思います。
一方で、値上げは消費者に痛みを強います。ですので値上げが企業ブランディングにどんな影響を与えるかも考える必要があります。では、どのように考えれば良いのでしょうか?
世界的なブランドの大家であるデービッド・アーカーは、1980年代に「これまでのマーケティング活動の蓄積が、いまのブランドを創り上げている」というブランド資産(ブランド・エクイティ)の概念を提唱しています。
アーカーは1996年にこの考えをさらに進化させ、『「われわれはこんなブランドを目指すのだ」と考え、あるべきブランドの姿に向かってマーケティング戦略を考えるべきだ』というブランド・アイデンティティという概念も提唱しています。
ブランド資産は「マーケティング活動の結果(ゴール)」です。ブランドアイデンティティは逆に「マーケティング活動の出発点」になります。
値上げを考える際には、この2つの視点で考えると、わかりやすく整理できます。
■私たちは「強いブランドなら、値上げしても理解は得られるのでは?」と考えがちです。
しかしこれは間違いです。一般論ですが、値上げは顧客に痛みを強いるために、ブランド資産を毀損します。
「強いブランド(=既にブランド資産がある状態)」ならば、弱いブランドよりも理解が得られやすい可能性があります。しかし値上げはブランド資産を毀損するわけですから、その毀損を最小限に留める努力は必須です。
■また、私たちは「ステルス値上げならブランド価値は守れるのでは?」とも考えがちです。
ステルス値上げとは、価格据え置きで商品量を減らすような隠れた値上げのことです。確かに気付かれにくい面がありますが、これは好ましくありません。
プライシングスタジオ株式会社が2022年6月2日に「ステルス値上げに関する調査」(調査数341件、回収期間4月1〜15日)を発表しています。→リンク
・ステルス値上げを知っている人は66%
・ステルス値上げが増えていると感じる人は69%
・「不快に感じる人」は26-35歳が最も多く63%。一番少ない46歳以上は43%
・「仕方ないと思う人」は46歳以上が最も多い57%。一番少ない26-35歳は38%
つまり消費者は、意外とステルス値上げに気がついています。しかも一定数の人が不快に感じてます。これらの人たちには「この企業は誠実ではない(=消費者が気づかぬように損失を与えている)」という印象を与えているわけで、ブランド資産が毀損していることを示しています。これってあまりいいことではありませんよね。
一方で数年前と比較して、現在は原材料などの高騰が社会的に広く共有されています。誠実に説明をすることで、消費者が値上げを受け容れる素地が整っています。透明性ある説明をすることにより、逆に消費者に誠実さを訴求する機会となり、ブランド資産の毀損を最小限に留められる可能性が高いと思います。
■「値上げが続いているので、環境対応とかのメッセージを大々的に訴求すれば、値上げも理解を得られるのでは?」と考える人もいます。
ここで重要なのが「ブランドで何よりも大切なのは、顧客から見た首尾一貫性(言行一致)だ」ということです。
そのメッセージが、会社が常日頃言い続けているビジョンや使命(目指すブランドのあり方を示すブランド・アイデンティティ)と首尾一貫していれば、確かに受け容れられる可能性があります。
しかし「環境対応はブームみたいだから、取りあえずこれと組み合わせればいい」という企業の安易な姿勢は、確実に消費者に足下を見られます。
値上げは苦渋の決断です。そんな場面だからこそ企業の姿勢が問われます。対応次第では「お里が知れますよ」っていうことですね。
なお、ここまでの話はあくまで値上げ発表とブランディングについて考察したものです。
消費者が店頭でどのような反応をするかは、別途詳細な検討が必要です。たとえば消費者が商品棚にあるA商品とライバルのB商品を見比べて、お値打ち感があるB商品を選ぶ…ということが起こります。
ともあれ、原材料高騰は、長いことデフレが続いてきた日本経済にとって一大転機になり得ます。この値上げを、長期低迷が続いていた人件費アップに繋げて、日本を豊かにするチャンスに転じたいですね。
■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。
■Twitterでも情報発信しています。