10月10日、テスラは”We, Robot”というイベントを行いました。
国内の新聞では「テスラ、3万ドル以下の自動運転タクシー 26年生産開始」と報じられています。
当日の様子はネットで見ることができますが、実際に見てみると、内容は日本で報じられているものとかなり違った印象を受けます。
この日、テスラを率いるイーロン・マスクが出したメッセージは「テスラはEVメーカーではない。ロボットメーカーだ」という宣言です。
会場でお披露目したのは次の3つです。
■サイバーキャブ
無人タクシーの試作車。ハンドルやペダルがなく、認識や制御はカメラとAIで行い、完全無人で走ります。2026年の生産を目指し、価格は3万ドル以下。会場には20台のサイバーキャブが登場し、来場者は自由に乗れました。
■ロボバン
20人乗りの大量輸送用。会場には1台だけ登場。詳細は発表されず。
■オプティマス第2世代
ヒト型ロボット。これまでのオプティマスは、私たちは動画でデモを見るだけでした。今回は会場に数十台の人型ロボットが登場。5台で完璧に同期してダンスしたり、実際に会場の中を歩き回ったり、来場者にお土産を手渡したりしていました。
ちなみに会場は、カリフォルニア州のワーナーブラザーズのスタジオ。未来のイメージを見事にアピールしています。このあたりの演出はうまいですね。
イーロン・マスクは、冒頭のプレゼンでは、こう語っています。
「今日の輸送はクソだ。コストがかかるし、安全でないし、持続可能性もない。そもそも自家用車は、1週間168時間のうち10時間程度しか使われてない」とした上で、「自動運転にすれば5倍から10倍は使われる可能性がある。つまり5〜10倍の価値を生む。しかも人間より10倍安全だ」
そして、クルマの自動運転のために開発してきた蓄電池、モーター、AIなどの技術は、ヒト型ロボット「オプティマス」にも使えるとしています。
一方で、「マスクは楽観的すぎるのでは?」という批判もあります。
実際に2019年にも「2020年までにロボタクシーを運用する強い自信がある」と言ってましたが、これはまだ実現していません。
マスクはビジョナリーであり、「こんなのムリでしょ」という難題にオーバーコミットして挑戦してきた経営者です。スペースXやスターリンクのように成功させたモノもあれば、サイバートラックのようになかなか上手くいかないモノもあります。初の大量量産に挑戦した小型車モデル3も、当初は生産に手こずって、マスクは自ら工場に寝泊まりしながら技術的課題を解決していきました。
本当に2026年に、マスクが言う通りこれらが提供されるかはまだ未知数ですが、「テスラはロボットメーカーになる」と宣言した意味は大きいと思います。もはやマスクにとって、テスラはEVメーカーではなく、ロボットメーカーなのです。
当然ながら「現在のEV市場の低迷」という現実的な問題も考慮した上でのことだと思います。
ちなみにマスクは現在、実に様々な未来への道具を手にしています。
【テスラ】EV、ロボット、AI、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵システム
【スペースX】ロケット(スターシップなど)、衛星通信網
【X(旧Twitter)】SNS、人のネットワーク、将来は金融取引の仕組み
【ニューラリンク】脳とコンピュータのインターフェイス (BMI: Brain Machine Interface)
【ハイパーループ】真空チューブ型高速輸送システム
現時点では、マスクが手にしているこれらの事業は「点」の状態です。
今後、これらの事業が繋がって「面」として展開していくことで、想像も出来ない全く新しい社会インフラが生まれる可能性もあります。
このような観点でも、改めて「イーロン・マスクはいま、最も注目すべき人物だ」と思いました。
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