いまだに多いイノベーションの誤解

Screenshot

かのドラッカーは、こう言いました。

「企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである」(『現代の経営』より)

こう言われると、多くの人はこう考えるのではないでしょうか?

「ハードル高すぎ。ウチの会社でイノベーションなんてムリだ…」

実はこれ、イノベーションの誤解です。
世の中には、イノベーションの勘違いが実に多いのです。

誤解その①
「ウチには技術がないので、イノベーションなんてムリです。」

多くの人が、「イノベーション = 技術革新」だと思っています。これは大間違いです。

あえて平たくいうと、イノベーションとは「これまでと違うやり方をすること」です。

たとえば回転寿司は、これまでカウンターで食べていた寿司を、ベルトコンベアーで流すことで大衆向けにしたイノベーションです。先端技術は使ってませんが、今や世界中に広がっています。

最近の辞書では、イノベーションの説明はちゃんと修正されてます。
たとえば広辞苑でイノベーションを調べると「刷新、革新、新機軸」とあります。

この誤解が生まれたのは、1958年の『経済白書』でイノベーションを「技術革新」と訳したのがきっかけだ、と言われています。

しかし残念ながら、いまだに日本経済新聞などを読むと「イノベーション(技術革新)」と書かれていたりします。日本経済新聞は、ビジネスパーソンへの影響力がかなり大きいので、ぜひ記者の皆様におかれましてはアップデートしていただきたいところです。

誤解その②
「ウチの連中、全然革新的なアイディアが出てきません。先日、全体会議で『アイディアをどんどん出そうよ。オレが見てやるよ』と発破をかけてやりました。」

こうおっしゃる経営幹部にお目にかかったことが数回あります。

よかれと思っておっしゃっているのはよくわかるのですが、こういう徹底管理はヤバいです。イノベーションがますます生まれなくなります。

確かに成功したイノベーションを見ると「なるほど、カンタンだな。なぜウチはできないんだろう…」と思いがちです。でも世に出る前は、ほとんどの人が「そんなの、うまくいくわけない」と反対するものなのです。

ウォークマンは、ソニーで最も有名なイノベーションですが、これも当初「録音機能のないプレイヤーなんて、売れるわけない」とほとんどの人が反対でしたが、累計販売台数4億台の大ヒット商品になりました。

開発を主導したソニーの盛田昭夫さんは、のちに「反対が多かったけど、カーステレオって録音機能がなくても、誰も文句言わずに車内で音楽を楽しむでしょ。ウォークマンも屋外で音楽を楽しむんだから、録音機能は不要だと考えたんですよ」と語っています。

イノベーションを成功させるには、賛成する人がほとんどいなくても挑戦できるように後押しし、もし失敗しても不問にして、また挑戦できることが大事なのです。

イノベーションと管理は水と油で、なかなか混じり合いません。

むしろこの経営幹部のように徹底管理することで、イノベーションは窒息します。イノベーションが成功するかどうかなんて、誰にもわかりません。経営幹部にできることは、挑戦を後押しすることです。

誤解その③
「うちにはイノベーションやるような大きな予算はありません」

これもよく言われますが、大きな予算は必要ありません。

たとえば、カップヌードル。これは食品の中でも、特に大きなイノベーションですよね。

カップヌードルは、「日清チキンラーメン(インスタントラーメン)を米国で普及させたい」と考えていた日清創業者の安藤百福さんが米国に行き、米国の消費者が日清チキンラーメンを紙コップに入れて、お湯をかけて、スプーンで食べていたのを見たのがきっかけでした。

そこで麺を発泡スチロール製のカップに入れて、透明なプラスティックのスプーンを付けて売り出したら、大ヒットしたのです。

発泡スチロール製のカップに、①製品パッケージの機能、②調理器具、③食器、という3つの機能を持たせたおかげで、お湯さえ用意すれば、どこでもいつでも食べられるイノベーションが生まれました。

お金はイノベーションの必須条件ではないのです。

このように、私たちのイノベーションの理解は、意外と間違っています。

イノベーションは、異質な既存のモノが組み合わさって生まれるものです。

■『回転寿司』は、『寿司屋』と『ベルトコンベア』の組合せ

■『ウォークマン』は、『超小型カセット再生機』と『高性能ヘッドホン』(補足すると、ソニーならではの小型化電子機械技術を活用)

■『カップヌードル』は、『日清チキンラーメン』と『日本と異質な米国の食習慣(カップとフォーク)』

■『トヨタ生産方式』は、『クルマの生産方式』と『米国スーパーマーケットの在庫補充システムの仕組み』

…です。

お客様のお困りごとを把握して、既にあるモノを組み合わせることで、イノベーションのきっかけになるのです。

 

ただ残念ながら、こうした商品を出すだけでは、イノベーションは起きません。

セグウェイは、かつて登場前にビル・ゲイツやジョブズが大絶賛した、革新的な立ち乗りできる製品でした。しかし大失敗しました。価格は100万円で時速19Km、しかも乗り場所も限定されるので、自転車で十分だったのです。

成功するイノベーションで必要なことは「お客様が行動を変容するような環境も整えていくこと」です。

普及が広がっているLUUPは、セグウェイと違って、シェアサービスで安く使えるようにし、交通法改正にあわせて利用ルールも明確にし、安全性を高めています。

お客様の困りごとを把握し、解決策を考え、お客様がスムーズに使えるように提供することで、イノベーションは起こるのです。


■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。