巨大市場・中国を捨てて、5年で時価総額50倍に成長した電線御三家フジクラ

2021年から5年で時価総額が50倍に成長したのが、住友電気工業、古河電気工業と並び「電線御三家」と呼ばれ、140年の歴史を持つフジクラです。

時価総額は、2026年3月6日終値時点で7.4兆円。

フジクラの強みは、光ファイバーケーブルです。

AIの普及に伴い、データセンター(DC)の建設ラッシュが世界で続いてます。DC内やDC間の接続で高速大容量のデータ交換をするには、高性能の光ファイバーケーブルは不可欠。

急成長するDCの需要に乗って、フジクラの売上も成長軌道に乗りました。

日経ビジネス2026.2.23号は、このフジクラを特集し、様々な観点で分析しています。

マーケティング視点で興味深いのが、ターゲット市場の選定です。

世界の光ファイバー需要の5割は中国ですが、フジクラは自社の武器を考えて、中国ではなく欧米のDCへの売り込みに絞り込んだのです。

これは自社の強みと顧客ニーズを考え抜いた結果です。

フジクラの強みは、同社の光ファイバーケーブルが細くてネジレに強いことです。

光ファイバーは、一本一本が糸のような極細のガラス製です。この中を光が通ることで、データを遠方まで伝えます。こうした光ファイバーを何千本も束ねて、一本のケーブルにしたのが、光ファイバーケーブルです。

一本にまとめれば、大容量のデータを送ることができます。

フジクラは従来の常識を覆す方法で、何千本もの光ファイバーを高密度で束ねて、一本の光ケーブルに生産する方法を10年かけて開発しました。

たとえば光ファイバー1000本を収納する場合、従来工法の光ケーブルだと直径23mmで、なかなか曲げられません。フジクラの光ケーブルならば直径18.5mmで、しかも柔軟に変形できねじれにも強いのです。

フジクラはこうした特性を持つ光ケーブルをどこに売るかを考え、欧米のDC市場を選んだのです。

光ファイバーケーブルの登場前は、データ通信は銅線が使われてきました。このため欧米の先進国では、銅線の通信ケーブルが入っている管路が、既に地下に埋まっています。

しかし銅線の通信ケーブルは光ファイバーケーブルと比べて通信速度がはるかに遅いので、欧米のDC業者は光ファイバーケーブルを新設し、通信スピードを上げたいと考えています。

ただ従来の光ファイバーケーブルは太くて曲げられないので、地面掘り起こしなどの大規模な土木工事が必要でした。

フジクラの細くて自由に変形できる光ファイバーケーブルなら、既にある管路の空きスペースを使って通すことができます。工事不要になり、工期を短縮できます。人件費が高い先進国では、これは大きな価値になります。

一方で巨大な中国市場は国産メーカーが優遇され、低価格な光ケーブルも多いので、価格競争に陥りがちです。

だからフジクラは、欧米を重点市場として選んだのです。

さらにフジクラは、高密度・高価格・DC向けの光ファイバーケーブルに投資を集中させました。

ここまで見てきたフジクラの成功要因をまとめると、

・自社の強みを把握した(細く変形できる光ファイバーケーブル)

・自社の強みを必要とする顧客を見極めた(既に管路を持ち、人件費も高い欧米のDC業者)

・市場規模や成長度などに囚われず、やらないことを明確にした(中国などの新興国市場はやらない。DC向け以外はやらない)

※ ..なお、以上は現行の主力事業の分析です。フジクラは将来事業として、自動車など様々な分野の事業創出や、中国での合弁事業による地産地消も並行して進めています

経営学者マイケル・ポーターは『[新版] 競争戦略Ⅰ』で、こう述べています。

『トレードオフがなければ、競争優位性は獲得できない。(中略)戦略とは、競争においてトレードオフをつくることなのである』

トレードオフとは「あちらが立てば、こちらが立たず」の状態です。

私たちはこんな状況で「なんとか両立させよう」と考えがちですが、それでは戦略が中途半端になります。

必要なのは「トレードオフ=やらないことを、明確に決めること」です。

フジクラは自社の強みを把握し、強みを必要とする顧客を見極め、やらないことを明確にすることで、成長したのです。

御社の戦略で、「やらないこと」は何でしょうか? そしてそれを徹底しているでしょうか?

 


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