シニア市場は縮小する。ではどうする?

多くの企業はこのタイトルとは逆に「シニア市場は成長市場だ」と考えて、投資しようとしてます。

「この波に乗っておけばいい」と考えているわけです。

しかし、こんな企業は、先がないかもしれません。

 

成長する企業は、その先を見ています。

例えば、学研です。

学研は、長年低迷を続けてきました。

売上の底は2009〜2010年でした。1990年のピーク時からはほぼ半減。4期連続赤字に陥りました。

そんな時期に学研トップに就任したのが宮原博昭社長でした。売上は2010年頃を底に伸び続け、2025年の売上2000億円を見込みます。

成長の原動力は、従来の教育分野に加えて、高齢者を中心とする医療福祉への多角化でした。

まさに当時、「シニア市場は成長市場」だったのです。

一方で宮原社長は、日経ビジネス2025.6.30号のインタビュー記事でこうおっしゃっています。

「2024年度の介護事業者倒産件数は179件。00年度以降では最多でした。施設型のビジネスで、今後、高齢者が減っていったときに、どのような手を打つかは考えておかなければならないでしょう。40年ごろまでは問題ないと思いますが、長期を見据えた投資は30年頃から実行しにくくなります」

ここで宮原社長がおっしゃっていることは、誰でも入手できる情報です。秘密でも何でもありません。

「人口推移」というキーワードで検索して、厚生労働省の「我が国の人口について」というサイトにある「日本の人口の推移」というグラフを見ると、65歳以上の人口は以下の通りです。

2020年 3,603万人
2040年 3,928万人
2070年 3,367万人

グラフを見ても、65歳以上の人口のピークは2040年頃であることがわかります。

未来予測は難しいことですが、人口推移は、ほぼ確実に予測できます。

事業の立ち上げには10年程度かかることを考えると、事業が立ち上がった時点で市場の縮小が始めることが、ほぼ確実ですよね。

一方で、学研はすでに高齢者市場でビジネスを立ち上げています。学研の場合、どうすればいいのでしょうか?

これも先程同様に、簡単に情報が得られます。

「海外 高齢化率」というキーワイドで検索して、内閣府の「高齢化の状況」というサイトにある「世界の各年代別高齢者の割合及び推移」というグラフを見ると、こんなことがわかります。

・日本は欧米やアジア諸国と比べて、圧倒的に高齢化が進んできた世界唯一の国である
・2030-40年頃には、アジア諸国が現代の日本と同じレベルに高齢化社会になる
・順番は、韓国→シンガポール→タイ→中国の順番である
・2040-50年頃には、ドイツとフランスが現代の日本と同じ高齢化レベルになる

つまり学研のように日本で既に高齢者向けビジネスを確立した企業にとって、次の数十年間で狙うべき市場はアジアであって、その順番は韓国→シンガポール→タイ→中国である、ということです。

ただし、これは高齢化率しか考えていません。市場サイズや市場特性も考慮に入れる必要があります。

実際、宮原社長もインタビューで「グローバル展開に取り組んでいる」と述べています。

海外売上比率5割を目指し、中国、シンガポール、タイ、インドなどで、まずは教育分野で合弁事業を進めて、M&Aをしたりして試行錯誤を繰り返し、経験を積み重ねています。

そして今後はさらに医療福祉にも注力する方針です。

教育分野で積み重ねた海外事業の経験が、医療福祉事業の展開でも活かせるわけです。

 

マーケティングでは「製品ライフサイクル」という考え方があります。

現在成長している事業や市場も、必ず成熟期を迎え、そして衰退していきます。

しかし現在の問題解決が最優先である現場で頑張っていると、こうした視点はなかなか持てません。

だから経営視点で、常に10年後・20年後と先を見て、先手・先手を打つことが必要なのです。

あなたの会社は、10年後、20年後を見て先手を打っていますか?


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