前回・今回と、Tom Friedmanが"The World Is Flat"で示したフラット化10の要因の概略をご紹介しています。今回は第六の要因から第十の要因までです。
第六の要因:オフショアリング
第五の要因「アウトソーシング」は業務の一部を外部に移管するのに対し、「オフショアリング」は、企業の特定の機能(例えば工場)をそのまま海外に移転します。
工場の例で考えると、より安くより低い税金で全く同じ製品を製造するのがオフショアリングです。
ご存知の通り、中国はオフショアリングで急成長しています。米国の調査によると、中国の新技術の吸収力は旺盛で、1995年から2002年の間に年率17%(つまり7年間で3倍!!)の生産性向上を果たしています。
中国へのオフショアリングが本格化する契機となったのは、2001年12月11日のWTO加盟でした。
中国のWTO加盟は、中国政府がグローバルの輸出・輸入・海外投資等のルールに従うことを同意したことを意味しています。つまり中国政府が、海外から中国に投資する企業に対して、世界共通の法律とビジネスプラクティスに従い保護する、ということを意味します。
第七の要因:サブライチェーン
ウォルマートは、言うまでもなく世界最大のサプライチェーンの一つを持つ企業です。
ウォルマートは、全商品を一品一品、生産者が出荷してから販売されるまで追跡する仕組みを作り上げました。
ウォルマートがサプライチェーンを構築する契機となったのは、生産者からの直接購買・直接配送でした。生産者の倉庫からウォルマートが直接配送すれば、仕入れ値を2%下げることが出来たので、自社で配送センターを持つことにしました。
配送コストを徹底的に削減し、さらに情報システムに投資して顧客が何を買っているのか、も分かるようにしました。
さらにこの貴重な情報を生産者と共有し、必要な商品を常に棚に置いてもらうようにして機会ロスを削減し、在庫費も削減しました。ちょうど、工場のジャスト・イン・タイムと同じ発想です。
ウォルマートは2004年に中国から180億ドルもの商品を5000社から購入しています。つまり、第六のフラット化要因も関連しあっています。
第八の要因:インソーシング
全ての企業がウォルマートのように巨大なサプライチェーンを構築できる訳ではありません。そこで、第八の要因「インソーシング」が登場します。
ラップトップPCで米国トップシェアの米国東芝は、修理サービスの顧客満足度を劇的に改善しました。これはUPSのインソーシングを活用した成果でした。
東芝ラップトップPCが故障した顧客が、米国東芝コールセンターに電話をかけると、UPSに持っていくように指示を受け、2-3日後に修理品を受け取ることができます。従来は数週間かかっていたため、顧客満足度は大きく向上しました。
実際に行われている作業を見てみましょう。
UPSで受け取られた故障品はUPSセンターに送られ、東芝ラップトップPC修理の認定資格を持っているUPS社員が修理を行い、UPS配送員が修理品を顧客に届けます。つまり、実際の業務上、米国東芝は関与していないとのことです。
このように、UPSは企業のロジスティックス部分を担当する業務を行っています。このような業務形態を「インソーシング」と呼んでいます。
ウォルマートのようなグローバル・サプライチェンを自社できない中小企業や個人に対して、UPSはグローバルサプライチェーンを構築するサービスを行っています。これにより、世の中の「フラット化」はさらに促進していきます。
UPSは1996年にこのビジネスに参入し、10億$を投資して世界中で25社のグローバル・ロジスティックス及び運送会社を買収し、このようなシステムを構築しました。
UPS以外にも多くの会社がインソーシング業務を提供しています。
第九の要因:インフォーミング
ITmediaの読者の方々には、第九の要因は改めて言うまでもないかもしれません。
Google、Yahoo!、MSN等により、全ての個人があらゆる知識を世界中から得ることができるようになり、世界中から商品を購入し、世界中の相手に販売することが可能になりました。
個人々々が、情報や知識について、世界レベルでオープンソース的なコラボレーションを行ったり、アウトソーシング、インソーシング、サプライチェーン、オフショアリングを行えるようになりました。このこと全体を指して、Friedmanは"In-forming"と呼んでいます。
フラット化が個人レベルの生活を大きく変えるところまで来たということだと思います。
第十の要因:ステロイド
「ステロイド」は、ここでは「増強剤」「増幅器」といった意味で使われています。
ワイアレス・アクセスやVoIP等の技術により、いつでも、どこからでも、どの端末からも、様々なことができるようになりました。つまり、これらの技術は、今まで述べてきた9つの要因をさらに増幅し、推進するもの、という位置づけです。
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次回は、これら10の要因によって世の中がどのように変わっていったかを考えます。