「価格競争が激しいので、低コスト構造に変えて競争に打ち勝たなければならない」という議論をよく見かけます。
これは正しいでしょうか?
■ ■ ■ ■
価格とコストに対する考え方の違いについて、ソフトバンクモバイルの松本副社長がITmediaの記事「携帯電話ビジネスのプロは、なぜソフトバンクに移ったのか──ソフトバンクモバイル松本氏に聞く(前編)」で明快に語っておられますので、ご紹介します。
–(以下、引用)—
- (私の)ソフトバンクモバイルでの最大の使命は、ネットワーク、端末、サービスのすべてでローコストかつ高品質なものを提供できる体制を作ることです
- 他社やユーザーはいま、ソフトバンクモバイルが価格競争を仕掛けるんじゃないかと固唾を飲んで見ていると思いますが、価格とコストは違いますね。価格は政策であり、コストは事実です。前者は取るべき戦略によってはコストを下回ることもあるし、利益を取ることもある。これは経営であり、マーケティングです。ここに私は関与しません
- コストを下げるための努力をしっかりとしていれば、経営戦略の幅が持てます。ですから私は、ソフトバンクモバイル全体に高品質なものをローコストで実現する環境を作っていきます
–(以上、引用)—
松本副社長はまた、日本の携帯電話メーカーが世界のプレーヤーになり、量産効果により高品質・ローコストを実現して欲しい、という思いも語っています。
■ ■ ■ ■
松本副社長も語っているように、価格とコストは本来別個に考えるべきものです。
価格競争が激化している状況への対応方法は、単純に低価格化だけではありません。付加価値を上げる方法、別セグメントにフォーカスする方法、市場から撤退する方法、等、他にも選択肢はあります。
これとは別に、低コスト化は企業努力として常に継続して行っていく必要があります。
往々にして、両者をリンクし、場合によっては一緒にして考え勝ちですが、松本副社長のインタビューは、両者を分けて考えていく重要性を指摘されていると思います。
価格はマーケティング戦略によって決まるものとすれば、コスト構造は経営の土台を支えるもの、と考えると、分かりやすいかもしれません。
■ ■ ■ ■
話は変わりますが、同記事で松本副社長は、携帯電話ビジネスのプロの目から見たソフトバンクモバイルについて、
- それはもうカオスですよ。混沌のさなかにあります。しかし、よいものや新しいものは混沌の中から生まれるというのも事実でしょう。決まり切ったものの中からは、大きな革新は生まれない。ただ、これまで社風の違う会社同士が融合したわけですから、異なる文化がまとまるのが大変なのは確かでしょう
と語っておられます。
これはまさに複雑系の思想で言うところの、「カオスの縁で自己組織化が始まり、飛躍が生まれる」ことを語っています。
翻って我々自身に当てはめると、「何もかも決まっていない」「もう、グチャグチャ」という状況は、まさに大きく飛躍するためのチャンスと考えたいですね。
微妙に近い業界にいるもので・・・とてもよく判ります。ただひとつ、外資のITから通信業界に移った経験から言えるのは、IT業界とは概念が根本的に違う部分があること。一度サービスを開始すると簡単に撤退することが許されない。会社形態が変わろうが、経営者や社員がどれだけ入れ替わろうが、どんなに混乱していようが、何としてでもサービスを継続する法律上(事業認可上)の義務がある。これが一番重いシバリであり足枷ですね。
bibendum_iwaさん、
コメントを下さり、ありがとうございました。
なるほど、公益サービスとしての責任を背負いながら、自由化が進展して競争はますます激化しているということで、厳しい環境ですね。
お邪魔します。
「コストから価格」というのは「労働価値説
(物の値段は費やした労働量)」的な発想のように
思われます。近代経済学では「限界効用価値説(物
の値段は効用価値の微分)」だと聞いています。
ですから価格が上がっても効用価値がそれ以上に
アップすれば「割安な」商品となり、価格を下げて
も効用価値がそれ以上にダウンすれば「安物買いの
銭失い」になるのではないでしょうか。
ブロガー(志望)さん、コメントありがとうございました。
おっしゃるように、現在のプライシングは、コストとは遊離し、価値と融合する方向にあると思います。
エントリーで引用した松本副社長の指摘も、この両者を別個のものと捉えるべきである、との指摘ですね。