モーニングに連載されている三田紀房「エンゼルバンク」。
愛読している人も多いと思います。かく言う私もその一人。
前回は、転職支援会社に勤める元高校英語教師・井野さんが、担当した転職希望の山口さんに「あなたの会社は、将来性があるいい会社だから、転職は思いとどまった方がよい」とアドバイスしました。
この結果、山口さんは、今の会社で仕事を続けることを選択します。
その一方で井野さんは「私がしたことは、自分の会社のためになったのだろうか?」と悩み、上司の海老沢さんに相談します。
海老沢さんは「全く問題ない。会社にとって何のマイナスにもならない」と言い切ります。
今週号は、その後のやりとりを描いています。
ちょっと長いですが、非常に含蓄が深いので、その後のやり取りを引用します。
—(以下、引用)—
井野 「転職が成功しなくても会社にはなんのマイナスにもならないってどういうことですか? だって転職者を多く出すことがこの会社の利益になるはず。なのにどうして」
海老沢 「じゃぁ 井野さんに質問。 会社の利益ってどうやって最大化する?」
井野 「利益の最大化? 売り上げを増やして、経費を削減すれば…」
海老沢「全然違う。それじゃたかがしれている」
井野 「違うって、そんなわけないじゃないですか。 コツコツと売り上げを積み重ねるしか…」
海老沢 「利益を最大化するのはね。 信用だよ」
井野 「信用……」
海老沢 「そう。 信用なんて無形のものはお金にならないって思いがちだけど」
井野 「それは…」
海老沢 「わかる?」
井野 「理想はそうでしょうけど… 実際、信用だけじゃどうにも…」
海老沢 「まず信用を得る。売り上げや儲けは二の次。これ 商売の鉄則…」
海老沢 「ウチの会社で考えてみて。 転職者を出せば出すほど売り上げも利益も上がる。 利益だけが目的だと無理をする。 とにかく転職させようと、強引に導いてしまう。 短期的に会社は潤うが、そんなもの長続きしない。 無理は必ず破綻する」
井野 「じゃぁ、転職者増やすことよりも、会社の信用を増やすよう努力しろと…」
海老沢 「そういうこと。信用というのは、あせって求めちゃいけないものなんだよ」
井野 「あせって?」
海老沢 「人はつい、信用に対する利益をすぐに欲しがってしまう。それじゃ信用を失うし、利益も小さい」
(中略)
海老沢 「信用は無形だから、値がつけられない。値がつけられないものに値がつくと莫大な利益になる。 目の前の小さな利益を追い求めている時は、利益を最大化できない。じっくり耐えて、信用を得ることがビジネスのコツだ」
(中略)
海老沢 「だからいいんだよ。一人の転職希望者に固執しなくても。山口さんの影響力なんてたかがしれている。時間がかかるけど、こういうのを積み重ねていくと会社の信用度が増すんだよ」
井野 「はあ…なるほど。そういうものなんですね」
—(以上、引用)—
信用がいかに企業にとって大切か、このように現実的に分かり易く描いたものは、なかなかありません。
実体験としても納得感が非常に高く、とても参考になります。
偽装や法令違反等の不祥事で、長年築き上げてきた信用が一気に崩壊し、経営が傾いてしまう企業が多い昨今です。
コンプライアンス等が非常に大切であることは改めて言うまでもありません。
しかし、単に法令順守だけに留まっていては、お客様の信用は勝ち取れないでしょう。
さらにその先に、お客様からいかに本当の信頼を勝ち取るのか、企業のメンバー全員が常に考え続けるような企業文化を創りあげることが大切です。
一方で、グローバルな競争がますます激しくなってきている昨今、企業は四半期毎に利益を上げ続けるように株主等のステークホルダーからプレッシャーを受け続けています。
このようなビジネス環境だからこそ、海老沢さんの
「じっくり耐えて、信用を得ることがビジネスのコツだ」
という、この言葉は重いですね。