改めて読む、ポーター vs ミンツバーグのマーケティング戦略論対決がとても面白い件


次の本の構想を考えていることもあって、この年末年始、マーケティング戦略の本を読み直しています。

改めて読むと、今まで理解不十分だった部分を再認識でき、勉強になります。

この2日間はポーターとミンツバーグを読みました。自分の理解の整理も兼ねて、まとめてみたいと思います。

 

マイケル・ポーター「競争戦略論I」(ダイヤモンド社)

・戦略とは、競争上必要なトレードオフを行うことなのである。戦略の本質とは何をやらないかという選択肢である。(p.98)

・独自ポジションへの模倣の仕方は二つある。①新しいポジションを取る、②二股をかける。後者の場合、トレードオフの問題が起こる (p.91)

【事例】コンチネンタル航空は、サウスウェスト航空の成功を見て、同様のサービス「コンチネンタル・ライト」を提供した。機内食やファーストクラスを廃止、運行間隔を短くし、運賃を引き下げ、発着作業時間も短くした。従来路線は変更なし。【結果】混雑したハブでは離陸が遅れ、荷物積替えや発着作業に時間がかかり、1日1000件の苦情殺到。コスト削減のため旅行代理店手数料を削減、マイレッジサービスも提供できず、旅行代理店と利用客を怒らせるだけに終わった。何億ドルもの損失を被りコンチネンタル航空CEOは解雇。(p.92-96)

・トレードオフが発生する理由:①イメージや評判に整合性が失われる、②活動そのものから生まれるトレードオフ(必要な社内システムや従業員スキル等が異なる)、③社内調整と管理上の限界(明確に特定方法で競争を選ぶと経営陣は組織の優先順位を明確に提示できるが、全ての商品を全ての顧客に提供しようとすると従業員が明確なフレームワークなしに日々の業務判断を下すことになり現場レベルで混乱を生む)

・サウスウェストの場合は、全ての活動がフィットし合い、競争優位をもたらしている。(近距離用のB737で機種統一し整備などの各種コストを下げる、等) (p.99)

・ライバルからすれば、一つの製品・サービスに対抗するよりも、強固に絡み合った一連の活動に対抗する方が、はるかに困難。(ライバルが一つの活動に対抗できる可能性を90%とすると、4つの活動が絡み合っていると0.9×0.9×0.9×0.9=0.66で、66%しか対抗できない) (p.105)

・成長という命題は戦略にとって非常に危険。戦略ポジションの拡大・妥協ではなく、戦略を深めることに集中すること。つまり、企業活動をさらに明確にし、フィットを強め、戦略を高く評価してくれる顧客とのコミュニケーションを強化する (p.114-115)

・日本企業は、1970年代から80年代にかけてオペレーション効率の分野でグローバルな革命を起こし、コストと品質の面でかなりの優位を獲得した。しかし明確な戦略的ポジションを開発している日本企業は皆無に等しい。1980年代ならばコスト・品質の面で圧倒的な差を付けることができた。オペレーション効率の差が縮まるにつれて日本企業はみずから仕掛けた罠に捕らえわれている。足の引っ張り合い的な戦いから抜け出すのであれば、日本企業は戦略というものを学ばなければならない。日本はコンセンサス志向が強いが、戦略には厳しい選択が必要である。また日本企業には深くしみこんだサービスの伝統があり顧客が表明するニーズをとことん満足させうようとする気質が根付いている。「すべてのモノをすべての顧客へ」という体制になっているのである。

 

なるほど、とっても説得力が高い主張です。

このポーターの「ポジショニング論」に対して、ヘンリー・ミンツバーグは下記のように反論しています。

 

ヘンリー・ミンツバーグ「戦略サファリ」(東洋経済新報社)

・ポーターは、簡潔な概念を提供している点では貢献度が大きい。しかし、スピーディな戦略形成・実行が「分析」によって阻害される可能性が高い。学習プロセスや組織・個人の創発性を無視している。選択・差別化・集中しながら、いかに柔軟な戦略形成・実行が可能かが問われている。(p.80)

・分析技法を使って戦略を開発したものは、絶対にいない (p.116)

【事例】「ホンダの課題」について述べたあるマーケティングの教授:1977年、ある教授はMBA試験で「ホンダは世界の自動車産業に参入すべきか?」というケースを出題した。これはサービス問題でありイエスと解答した者は落第点をつけられた。理由は、①既に市場は飽和状態であり、②優れた競争相手が既に日本、米国、欧州にいるし、③ホンダは自動車の経験が皆無に等しく、④ホンダは自動車の流通チャネルを持っていなかった。 【結果】1985年、この教授の妻はホンダの車を乗り回していた

・ホンダの成功は、ポーターが言うところのポジショニングの問題ではない。創発的戦略と組織学習による産物である。

・ポーターは「日本企業にはほとんど戦略がない。日本企業は戦略を学ばなければいけない」としている。もしポーターが言うことが真実で、一方で多くの日本企業が業績を出していることも事実ならば、会社が成功するためには戦略は必要な条件ではないことになる。われわれは全く反対の意見を持っている。日本企業は戦略を学ぶどころか、ポーターに戦略のイロハを教えてあげるべきではないか?

・ポーターは戦略は演繹的で計画的なものとしており、あたかも組織的学習や創発的な戦略が存在しないかのように捉えている。(p.125)

・実際には、戦略策定は秩序正しい静的なものではなく、もっと豊かで、乱雑で、そしてダイナミックなプロセスである。そもそもポジショニングの役割は形成プロセスを支えるものであり、決してプロセスそのものではない。(p.126)

 

こちらも「なるほど」という感じです。

私の意見は、ポーターが提起するフレームワークはとても共感する一方で、ミンツバーグが語っているようにこれですべてが解決するというのは短絡的だ、という考え方にも共感します。

確かに実務でも、戦略を立てる過程は整理されおらず、結構ぐちゃぐちゃです。

ミンツバーグも語っているように、「(ポーターが提起するような)選択・差別化・集中しながら、いかに柔軟な戦略形成・実行を行うか」が必要なのだと感じています。

このように、様々な人達の理論を読み比べると、とても面白いですね。

 

なお、ミンツバーグのこの著書「戦略サファリ」は、世の中のマーケティング戦略論を10学派に分けてその長所と短所を論じています。

本書では、ポーターは「ポジショニング学派」に分類されており、古くは孫子、クラウゼヴィッツ「戦争論」もこのカテゴリーに入っています。

マーケティング戦略の視野を拡げたい方には、オススメの一冊です。

 


 

 

改めて読む、ポーター vs ミンツバーグのマーケティング戦略論対決がとても面白い件」への3件のフィードバック

  1. ポーターとミンツバーグを対比や競合で捉えるよりも、どちらも万能でないので状況によってポーター流とミンツバーグ流を使い分ければ良いように思えました。
    順序としては、ミンツバーグ流で動き出した後、環境が固定してきたらポーター流に移行ってとこですかね。
    例:
    ・起業家による立ち上げ or リストラ(本来の意味でのリストラクチャリング)などではミンツバーグ流
    ・環境に変化が少ない or 100年単位の事業の引き継ぎなどではポーター流
    今のように環境がどんどん変化する時代では、ポーター流ではやりにくい所もあると思います。
    例えば:
    1. 過去の状況で作ったフレームワークに現在を当てはめてしまうので、環境の変化に適応しにくい。新しいフレームワークが出来るまで観察に時間が必要。
    2. 「損するし負けるけどやりたくてたまらない(やった結果新しい発見があるかも知れないけど、やり終わるまでそれがあるかどうか本人にも分からない)」という、ゴールが設定・測定不能なケースには対応出来ない。

  2. 新田さん、
    コメントを下さり、ありがとうございました。
    そうなんですよね。万能のマーケティング理論は存在しないので、新田さんがおっしゃるように、状況や場面に応じて整合性が高い理論を適用していくのが現実的なアプローチなのではないかと思います。
    ですので、引き出しはできるだけ持っておきたいですね。

  3. ポーターの入門書やそのスピンオフ本のコロンビア大MBAの講義録「競争戦略の謎を解く」ダイヤモンド社2012年を読んだりしていたのですが、ミンツバーグは知りませんでした。私、わずか2か月ほどしか、マーケティング本をかじっていないないのですが、マーケティング論って戦争戦略本を
    超えているのかなと思う時があります。たまたま朝鮮日報電子版を読んでいたら中国のハイアールの会長?は「孫子の兵法:出其不意(敵の不意を突く)」という原理をマーケティング現場に生かし」米国市場を攻略したとの記事がありました。私個人は、日本では無名の米国の戦略家(太平洋戦争でガダルカナル、硫黄島の戦いに従軍し少将の)JCワイリー「戦略論の原点」が、クラウゼビッツ、毛沢東などの歴代の戦略家たちの理論と限界を描き、そこから統合戦略論を導いていることもあり好きです。

コメントは受け付けていません。