マクドナルドは、コーヒーを売ろうとして「プレミアムローストコーヒー」を出したのではなかった


日本全国に3000以上の店舗を持つマクドナルドは、以前より年間1億2000万杯のコーヒーが売れていました。しかし必ずしも美味しいとは言えませんでした。

2008年2月15日、日本マクドナルドは高等級アラビカ豆を使用した本格的コーヒー「プレミアムローストコーヒー」を、Sサイズ100円(当時)で発売しました。

この結果、日本マクドナルドの発表によると、2008年度はホット・アイス含め2億6000万杯にも上る販売実績がありました。同年、オリコンの「買いたいコーヒー No.1」にも選ばれました。また日経トレンディによると、この4年間で10億杯販売しています。(プレミアムローストコーヒーは2012年2月17日にリニューアル)

 

実は日本マクドナルドは、1998年と2007年、カフェ形態の店舗に挑戦してきましたが、撤退しています。

こんな中で、なぜ「プレミアムローストコーヒー」は成功したのでしょうか?

 

日本マクドナルドホールディングス株式会社CEOの原田泳幸さんは、著書「勝ち続ける経営」でこのように書いています。

マクドナルドのコーヒーは他の競合店と対抗するための商品ではない。 (p.59)

これはどういうことでしょうか?

 

同書で、原田さんはこのように書いています。(p.57-59)

・売上は客単価×客数。そして客数は顧客獲得率×来店頻度

・つまり客数を上げるには、「来店頻度をいかに上げるか?」「新規顧客をいかに獲得するか?」の二通りしかない

・コーヒーはある意味コモディティだが、摂取頻度は非常に高い。

・そこで顧客獲得施策として、ベストクオリティのコーヒーを最もお得感ある価格で提供すべく、高等級アラビカ豆を使用した「プレミアムローストコーヒー」を開発した。

 

実は、マクドナルドはコーヒーを売るために「プレミアムローストコーヒー」を出したのではなかったのです。原田さんはこのように続けています。

・コーヒーが売れればビックマックが売れる。ビックマックを売るために新メニューを出している。ビックマックは広告宣伝をしなくてもお金儲けをしてくれる「金のなる木」(キャッシュカウ)だ。

・これは商品ポートフォリオ戦略だ。「ビックマックはもう伸びないから、コーヒーで別の柱を立てよう」と考えると、おかしくなる

 

原田さんは、伊藤元重さんとの共著「マクドナルドの経済学」でも同じことをおっしゃっています。

—(以下、p.40から引用)—

コーヒーを提供することで、ビックマックなど、当社のコア商品の販売機会を増やそうというわけです。…

つまり、コア商品の販売力を高めていくためには、適時的確に新商品を出してゆき、新規顧客を獲得していくことが当社の施策だといえるでしょう。あくまでも主体はハンバーガーであって、他のことをやりすぎるとよくない。

…基幹ビジネスが成長していかないような新規ビジネスには、手を出してはいけないと考えています。経営資源が分散するからです。

—(以上、引用)—

 

前著「勝ち続ける経営」でも、原田さんは「その会社らしさ」にこだわる重要さについて、書いておられます。

—(以下、p.25から引用)—

業績不振になった会社をある角度で見ると、必ずといっていいほど、その会社らしさを失っています。業績を回復した会社を見ると、必ずといっていいほど、「らしさ」を取り戻していると思います。

—(以上、引用)—

 

先日当ブログでも紹介したスターバックスCEOのハワード・シュルツも、「スターバックス再生物語」で、「第3の場所としてのスターバックスらしさを取り戻す」ことをスターバックスの変革の柱に据えました。

 

2003年まで7年連続マイナスの状況で原田さんはCEOに就任、その後震災を乗り越えて2011年まで8年連続で売上成長を達成し、「原田マジック」とも讃えられた日本マクドナルド。この2冊は、その時に出版されたものです。

しかしその後、2013年2月に発表された2012年度業績は、既存店売上-3.3%/純利益-3%。

2013年8月に発表された2013年前半期業績は、既存店売上-6.3%/純利益-35%。

減収減益に苦しんでいます。

日本マクドナルドホールディングス株式会社傘下の日本マクドナルド株式会社CEOも、サラ・カサノバさんに変わりました。→リンク

恐らく色々な要因があり、現在日本マクドナルド社内では、新リーダーのカサノバさんのもとで、活発な議論が行われていることと思います。

 

日本マクドナルドが再び「マクドナルド」らしさを取り戻し、成長されることを祈っております。