先日の講演で、こんな質問をいただきました。
当社はIT企業です。ご講演では、「自社単独で強みを追求する」というお話しが中心だったように感じます。一方で自社単独ではなく、他社と協業し、弱みを補いながら、強みを強化するような事例があったら、教えていただけますか?
私はこの場では、あるサービス業界でお互いの強みで弱みを補完し合う事例をご紹介しました。
講演が終わり、「もっといい事例があった!」と思い出しました。
実は9年前の2006年4月、当ブログでも書かせていただきました。
それはまさにIT業界で、しかも私もその渦中にいた、IBMの事例です。
1990年代まで、IBMの強みは「上流コンサルから、サービス、ハード・ソフト等、アプリなど、全てを揃えてでソリューションとして統合できること」でした。当時は自前主義でした。
しかし一方で、1990年代からSAPやSiebelといった業務系アプリケーションベンダーが急成長します。
そこでIBMはケースバイケースで、アプリケーションベンダーと協業しつつも、自社アプリケーションを持つ領域では、アプリケーションベンダーと競合していました。
ある意味、方針は首尾一貫していなかったのですね。
当時、私はCRMソリューションを担当しており、SiebelなどのCRMアプリケーションベンダーはライバルでした。
しかし1999年、IBMは全世界で方針転換しました。
その方針とは、
「今後IBMは、ビジネス・アプリケーション分野は業務系に強いアプリケーション・ベンダーとパートナーシップを組み、IBMの製品・サービスと組合わせて、お客様にソリューションをお届けする」
そしてIBM自社開発アプリケーションについては、既存顧客がいるケースを除き、原則中止しました。
この日を境に、ライバルがパートナーに一転します。
それまでCRMソリューションで競合していたSiebelは、突然、パートナーになりました。
お客様から見ても、IBMがハードやミドルウェア、構築サービスを提供し、その上で先進アプリケーションベンダーの製品を使えた方が、メリットが大きいわけですね。
IBMの強み: インフラや構築サービスに強い
アプリケーションベンダーの強み: 業務系アプリに特化して強い
という、両者の強みを発揮できたわけです。
数多くのアプリケーションベンダーにとって、IBMは強力なパートナーになりました。
それから15年以上が経過し、今や時代はすっかり変わり、クラウドやモバイルを前提として、システムを構築する時代になりました。
パートナーシップの組み方も変わっています。
しかしいずれにしても、「お客様から見た強みはどこにあるか?」がカギであることは変わりはありません。
そのためには、当時IBMが自社アプリをあきらめたように、自社で必ずしもお客に対して高い価値を提供できていない部分は、早急に見直していく必要があります。
強みを判断する基準は、やはりあくまで顧客の価値なのです。