円高が凄い勢いで進み、新興国が力を付けていき、世界が均質化する中で、日本の製造業は好むと好まざるとに関わらず、猛烈な勢いでグローバル化を進めています。
昨日10月14日の日本経済新聞の特集「ものづくり 逆風下の挑戦 人件費圧縮の限界」を読んで、改めてそのことを実感しました。
—(以下、引用)—
さらに自動化が進めば、世界のどこで作ってもコストは同じになる。もはや「中国や台湾の工場が強いのは、人件費が安いから」という常識は通じない。
(中略)
「台湾でも広島でも製造コストは同じ。だからこそビジネスの条件を同じにしてもらわないと(日本への)投資意欲がなえる」。エルピーダメモリの坂本幸雄社長は7月、日本経団連のシンポジウムで訴えた。
(中略)
これまで日本企業は現場の生産性を高める「カイゼン」で不利を補ってきた。だがテクノロジーによる均質化はカイゼンの余地を奪う。
(中略)
均質化が進むにつれ、日本という国に本拠を持つこと自体が、抜き差しならぬハンディになってきた。だから日本の経営者が切実に「法人税減税」を訴える。
—(以上、引用)—
では、日本は高品質に特化していけばよいのでしょうか?
高品質で差別化していくことは必要ですが、万能ではないようです。
たまたま同じ昨日、そのことを、日経ビジネスオンラインの記事「タイ、インド、中国、メキシコ…どこでも部品が手に入る 世界の「マーチ」は、現地調達比率95%(ただし日産基準)」で読みました。
現在の日産マーチはタイで作っていますが、現地調達率は95%。
日産が現地化を進める背景には、為替リスクの回避があります。
日産の現地化は徹底していて、生産工場だけではなく、部品、さらに資金も、現地で調達しています。
これも為替リスク回避の一環とのことです。
確かに、組み立てをタイで行っていても、部品や投資資金を日本から持っていっては、結局は為替の影響を受ける訳で、為替リスクの分散にはなりません。
部品調達についても、例えば高張力鋼板(ハイテン材)について、日産の車両開発主管の小林毅さんが、以下のように述べられています。
—(以下、引用)—
….現在“ハイテン”と呼ばれているものは、(引っ張り強度が)370メガパスカルぐらいから上を言うんです。ところが日本だと、すぐに780メガパスカルとか、980メガパスカルとかいう極端な話になっちゃう。
….今回のVプラットフォームでは、440メガパスカルの鋼材を基本的に全部使えということでやっています。それはインドでも調達ができるからです。….仮に南アフリカで作れという事になっても(鋼板の調達が可能だから)すぐに作ることができる。そこに780メガパスカルとか、前のマーチで使っていた590メガパスカルとかいう高強度な鋼材で作ろうとした途端に、鋼材はもう日本から運ぶしかなくなってします。
—(以上、引用)—
つまりコモディティ分野で勝負する際には、日本の高品質が、グローバル化を行う際には過剰品質になってしまい、足枷になってしまっている場合がある、ということなのでしょう。
ちなみに、骨格部材の張度を上げることで、このような鋼材を使っても新型マーチの衝突安全性は格段に上がっているそうです。
世の中の様々なモノの品質が底上げされ、廉価品でも十分な性能を持つという現象。
英語で"good enough"という言葉があります。
「これで十分」というような意味です。
ちょうど日産マーチの鋼板のように、コモディティ分野では、この"good enough"がグローバルでどのレベルなのかを的確に把握することが求められるのでしょう。
一方で今後の日本では、均質化の対極にある、高付加価値で勝負していくことが必要です。
それは単に品質を上げればよい、ということだと、先に述べた過剰品質の罠に陥ってしまいます。
いかに他者と異なることを行う「差別化」の思想が重要です。
それを考えるための戦略構築力が、日本ではますます必要になってくると改めて実感します。
このように考えると、従来の「横並びの発想」はとても大きな弊害であることが分ります。