今月の日本経済新聞「私の履歴書」はオービック創業者で会長の野田順弘さんです。
6月19日と20日の記事は、三菱電機が発売した新型オフコンを、楽観的な案件見積もりで20台も誤って発注してしまった時期の話が描かれています。
特約店になるための条件等、いろいろな事情で、発注はキャンセルできない状況で、期限までに20台を売り切らないと倒産してしまう、という危機に見舞われました。
40年ほど前の話ですね。
これが現在のIT業界でもそのまま通じる素晴らしい話なので、紹介させていただきます。
まず、6月18日の記事では、戦略と戦術をまとめています。
戦略目標は、「期限までに20台完売すること」
戦術のポイントは4つ。
ポイント1
(従来扱っていた)会計機を売る場合は「事務の合理化」、つまり人員削減効果がうたい文句だった。だがコンピュータは在庫管理、粗利計算、商品回転率、与信管理と経営に直結する事項まで処理できる。つまり、「経営の合理化」にコンピュータがいかに役立つかを理解してもらうことが重要になる。
経営にいかに役立つかを顧客に理解していただく大切さ、今でも全く同じです。
ポイント2
顧客の「買っても使いこなせるのか」という不安を解消すること。…(中略)….女性社員にコンピュータの操作方法を勉強してもらっていた。「我が社からコンピュータを購入していただければ、専門知識を持った社員を派遣し納得いくまでご指導いたします」と言って安心してもらう。
ポイント3
納入後の故障や不具合に対する保証も欠かせない。保守・点検・修理をしっかりやることで顧客が満足してくれることを会計機ビジネスで学んでいたから、コンピュータを売る場合も、その点がポイントになると思っていた。
ポイント2の研修体制、ポイント3のサポート体制は、キャズム越えの際に必要となる、「ホールプロダクト化」ですね。
市場の多数派であるアーリー・マジョリティに浸透するためには、商品導入に伴うリスク軽減が必要になります。
ポイント4
先方の業種や業態、職務の内容をわかっていないと、営業が的外れになるということだ。それぞれの悩みや課題をコンピュータはこのように解決してくれますと、具体的に訴えなければ話は進まない。
これは現在ITベンダー各社が提唱しているソリューション・セールスそのものです。
ただ、注意しなければいけないのは、「ソリューション」という言葉は、あくまでITベンダー側の言葉であるということです。
顧客は「自分の課題」を主体で考えているのであって、「ソリューション」を主体では考えていないのです。
6月19日の記事では、この戦略と戦術を実行している様子が描かれています。
当初はさっぱり効果があがらなかったそうです。
3ヶ月目に入っても売れたのはわずか2台。
頭も体も売ることしか考えていなかった時期を過しているうちに、潮目が変り、徐々にお客さんが興味を示し始めているという報告が上がり始めます。
朝の5時からとか夜中のデモには喜んで対応、外出中の社長を雨の中を夜まで待って商品説明、等の努力を重ねているうちに、9ヶ月後には20台完売しました。
記事では、その時の様子が描かれています。
「お~い、目標を達成したぞ」と事務所の全員に向かって叫ぶと、やがて拍手の輪が広がった。9ヶ月に及ぶ苦闘。歓声は上がらず、喜びに満ちた沈黙に包まれた。
また、この不可能を達成するために考えた戦術が、今日オービックが得意とするソリューションビジネスの原型になったとのことです。
私が26年前に日本IBMに入社した際にも、1年半にも及ぶ新入社員研修で、顧客視点でのソリューションビジネスの基本を徹底的にたたき込まれました。
ソリューション・ビジネスの根幹は同じところにあるのですね。
■永井孝尚Twitter→ http://twitter.com/takahisanagai
■最新著書→ 『朝のカフェで鍛える 実戦的マーケティング力』
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