変化が激しい時代、現場で得た経験技術は役立つのか?


ドッグイヤーとかマウスイヤーと言われる現代。今まで通用していた知識(形式知)や技術は、すぐに役立たなくなります。

では、このように変化が激しい時代は、経験の蓄積を通じて得られる暗黙知や経験技術は、徐々に価値を失っていくのでしょうか?

私はむしろ、このように変化が激しい時代だからこそ、蓄積した経験技術や暗黙知が活かせるのではないかと思います

専修大学の黒瀬直宏教授が、本日(6/27)の日刊工業新聞の記事「経験技術の重要性 現場での問題解決力磨く」で、経験技術について中小企業の観点で書かれています。

ワン・ストロークで異形部品を成形する技術を開発し、大手自動車部品メーカーの仕事を獲得した部品会社や、メッキ液メーカーが理論的にこれ以上は出来ないと想定している以上の高精度メッキに成功したメッキを行う企業の事例を紹介した上で、次のように述べています。

—(以下、引用)—

このような話は決して珍しくない。例えば、工作機械メーカーの想定以上の加工精度を出す機械加工業者をよくみかける。彼らに共通のことは、実際に使う者のみが発見できる技術情報を積み重ね、理論値以上の成果を実現している点だ。科学知識より現場での問題解決能力の方が重要なのだ。その基になるのが経験技術である。

経験技術は経験しないと得られないから、専有度が高い。

企業にとって技術が科学的に高度であるかどうかはどうでもよい。科学的に新しさはなくても専有度の高い技術がよい技術だ。優れた技術成果をあげている中小企業は皆固有の経験技術を蓄積している。韓国、台湾の中小企業は技術的に日本を猛追しているが、経験技術の蓄積はまだ日本の方が厚い。いわんや中国との差は大きい。独創的なアイデアを武器とするアメリカのベンチャーも、モノづくりでの経験技術は弱い。

日本の中小企業は経験技術の宝庫だと思う。ただ、それに気づいていない企業も多い。自社技術のたな卸しをしてみることだ。

—(以上、引用)—

ここでの経験技術は、暗黙知と呼び変えてもよいと思います。

黒瀬教授のポイントは、この経験技術(暗黙知)が、日本の中小企業における競争力の源泉である、ということです。

ちょっと見方を変えて、マーケティングを例に考えてみましょう。

インターネット普及に伴い、新しく生まれたWebマーケティングの手法は、以前「ウェブ・マーケティングのための4つのチェック・ポイント」というエントリーで紹介したように、日々新しい方法論が出てきています。

しかし、考えてみると、

「自社とお客様、市場を分析し」
「ターゲットとするお客様セグメントを定め」、同時に
「自社の価値を定義し」
「ターゲットとなるお客様に対して自社の価値を効果的にコミュニケーションし」
「併せてセールスチャネルを活用してお客様にご購入いただき」
「商品・サービスを提供し」
「ポストセールスとしてサービスやサポートを行う」

という基本的なマーケティングの流れは、Webマーケティングが進化しても、変わりません。従って、非ネットの世界で学んだマーケティングの経験や暗黙知は、Webマーケティングでもそのまま活かすことができます。

さらに、WebマーケティングではPDCA(Plan, Do, Check, Action)のサイクルを速く回すことができ、非ネットの世界と比べて仮説検証を頻繁に行うことができます。

最初に仮説を立てて、その仮説を実施した結果、数字による事実で検証する。

この仮説検証サイクルを回し、新しい洞察を得るためには、今までマーケティングで培ってきた暗黙知が大いに役立ちます。例えば、お客様の行動シナリオを想定し検証する、というケースです。

つまり、変化の激しい時代こそ、今までに経験から学んできた暗黙知が大きく役立ってくる、ということなのではないでしょうか?