人の心を読むコンピュータ


新入社員だった20年程前、お世話になったお客様から「コンピュータはどのように発達していくと思いますか?」と聞かれ、「インターフェイスが進化し、人間の考えをそのまま入力として取り込めるようになるのではないでしょうか?」と答えました。

その時は全くの夢物語で、「そうなったら便利かもしれないけど、ちょっと怖いなぁ」と皆で笑い合いましたが、そろそろ将来的にこれを現実の問題として考えていく必要が出てきそうです。

5月28日の日本経済新聞の記事「脳で動かす情報機器」で、脳の活動や脳波を読み取り、機械を制御する信号に変換する試みが紹介されています。

既に、国内では、MRI(磁気共鳴画像装置)に入って右手でジャンケンをすると、ロボットハンドも同じ動きをする、という装置が出来ています。

右手を動かすと左脳の大脳皮質にある運動野に血液が流れ込み、指先の動きにより脳細胞の活動パターンが変化し、各細胞の血液の消費量が上下します。これを外部から計測することで85%の精度でグー・チョキ・パーを再現できるそうです。

この研究は、1990年代以降、日米を中心に急速に進んでいるようです。

将来の発展を考えると、これは明るい話であるとともに、とても怖い話でもあります。

明るい面は、将来的にはコンピュータのインターフェイスがより簡単になり、マウスやキーボードなしで考えただけでコンピュータが使えるようになります。高齢化社会を迎える日本では、要介護者を補助する技術として期待できます。

また、人の快・不快の感情を読み取って、人間がいる環境を最適に整えてくれることも可能になりそうです。(ただし、ある程度の環境ストレスは人間が健全に生きていく上で必要でもありますので、あまり行き過ぎも考え物ですが)

一方で、感情を読み取るテレ・メータリング技術が発達すれば、一例を挙げると、遠隔地から人の感情状態をチェックし、その人のその時の感情に合ったマーケティング・メッセージを出して購買を促す、ということも、技術的には可能になります。マーケティング上は非常に強力な仕組みですが、プライバシー上は大きな問題になります。

そもそも、「自分の考えを他人に覗かれている」というのは、とても怖いことですよね。

筒井康隆は、小説「家族八景」で、他人の心を読める超能力者・火田七瀬が、外からは幸せに見えながら非常にドロドロとした醜い人間の本心に触れつつ、お手伝いさんとして8つの家庭を転々とする話を綴っています。

火田七瀬の場合、このようにして知った情報を自分の心の底にそっとしまったままにしていましたが、この人間の本心が、コンピュータを介して不特定多数に渡ってしまう、というのは、非常に恐ろしいことですね。

本記事も、「倫理的な課題の解決が欠かせない」というATR脳情報研究所・川人光男所長の言葉で締めくくられています。

人間は、ある程度自分の本心を隠しているからこそ、社会的な存在であり得ている、という面もあると思います。この本心が暴かれるということは、その人が社会的に抹殺される、ということにも繋がりかねません。

全ての人間が成熟しお互いの本心を理解しあうような社会が出来るのが理想ですが、それまでに人間はもう少し進化する必要がありそうです。

将来、大きなテーマになってくるかもしれません。