事例でよく分かる、数年後に活きる情報投資


本日(2007/6/14)の日刊工業新聞に掲載された記事「企業 コマツ 神経系の改革」は、経営力強化のための情報投資をいかに行って、どのように役立てるかを学ぶ上で、非常にいい事例だと思います。

以下、ポイントを引用します。

—(以下、引用)—

「建設機械業界は世界的な需要増で追い風が吹いているが、コマツと競合他社の収益率に(最低でも)2-3ポイントの差がつき当社が優位に立っている。その差は『販売、生産、在庫』(販生在)のマネジメントレベルの差だと思っている」-。コマツ社長の坂根正弘は、事あるごとに同社の競争力の源泉の一つとして販生在のマネジメントを引き合いに出す。

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坂根の販生在の経営判断に対する自信は、どこからくるのだろうか。坂根の自信の秘密を読み解くカギは、…(中略)…情報インフラ-神経系の改革にある。

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….「それまではインハウス(自社開発)のシステムだった。しかし、自前の仕組みでは海外進出した現地でスタッフを雇っても『SAP』やバーンなどのERPになじんでいてコマツ独自のシステムは動かせない。ある程度のことを犠牲にして世界で使えるERPを使おうと決めた」….

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ERP導入の最大のメリットは工場間のシステムが共通にでき、生産機種移管や新機種の世界の工場での同時立ち上げなどが短期間で行えることだ。「この2年半で3倍の増産をやる一方、20機種以上の生産ラインを国内工場で移動した。以前は1機種動かすだけで1年はかかったが、今は2-3ヶ月でやってしまう」(野路次期社長)

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野路は「機種の設計や作り方の工夫と10年前からERPを入れて(工場の)インフラを統一した目に見えない力があって、はじめてできること」と力説する。経営環境が苦しい時代に断行した神経系の改革だったが、坂根は「当時の情報投資が今になって生きている」と実感してる。

—(以上、引用)—

情報システムで向上した経営力。企業にとって大きな差別化ポイントになりますが、これが実を結ぶまでには全社の仕組みを断固として変えるトップの強いリーダーシップと、大きな投資、数年間の長い時間が必要になることがよく分かりますね。

この事例で重要なのは、独自システムで時間とコストをかけて作り込むのではなく、世の中に出回っている標準的なモジュールを活用した、という点だと思います。

標準パッケージの採用が進んでいる米国と比べると、日本のITシステムは作り込みの比率が際立って高くなっています。

もちろん、作り込みのよさもあります。

どの企業でも独自の要件を持っています。この要件は、企業で働く従業員の暗黙知を反映したものである、とも言い換えることができるでしょう。

終身雇用・年功序列が当たり前で、ビジネスを国内だけで展開していて、市場の変化も今ほど激しくなかった時代は、例えコストと時間がかかっても、企業の独自要件に忠実にシステムを合わせて、従業員の暗黙知を反映したシステムを作ることが、企業の競争力維持のためには合理的であったと思います。

しかし、終身雇用・年功序列がなくなり、グローバルにビジネスを展開し海外で雇用した従業員もシステムを使うようになり、かつ市場も常に変化しM&A等が日常茶飯事になっている現代、コストと時間をかけて従業員の暗黙知を忠実に反映するためにシステムを作り込むことは、必ずしも合理的な選択肢ではなくなってきています。

このためには、多少の使い勝手は犠牲にしてもパッケージを採用する、ということがより合理的な選択肢になってきます。

また従来型のパッケージを使用せずに、SOAを活用することで、短期導入できるよさを活かしつつ、より柔軟に企業の様々な要件に応える方法もあります。

例えば、ビジネス・プロセスをビジネス・レベルのコンポーネントとして取り扱い、ビジネスの状況や重要度や緊急度に応じて、最適なコンポーネントを組み合わせたり、再利用したりする方法です。

このような取り組みは数年後に経営力向上という目に見える大きな企業の差別化に繋がってきます。

言うまでもなく、IT導入の目的はビジネス課題の解決です。

ここで挙げたコマツの事例では、販生在のマネジメントという明確なビジネス課題がありました。

ITを提案するベンダーも、この視点は常に忘れずに持ち続けたいものです。

2007-06-14 | カテゴリー : ビジネス | 投稿者 : takahisanagaicom