2016/3/30追記:この阿智村の話を、本にしました!→アマゾンへ
阿智村の挑戦を、わかりやすく面白い物語(+最新ビジネス理論)にまとめています。
先週の石川県・白山市の取り組み「恋のしらやまさん」に続き、今回も観光でいかに価値をつくるかという話です。
南信州・阿智村にある昼神温泉は、つい数年前まで、静かで観光客も少ない温泉地でした。
しかし現在、阿智村には観光客が大挙して来るようになりました。
阿智村の人は当たり前で強みになるとは思わなかった、阿智村にしかない「強み」を見極めて、必要とする人に提供するということを、数年間愚直に続けてきた結果です。
そのキーワードは、「星空」でした。
阿智村の取り組みからは、「強みの見極め」→「顧客の絞り込み」→「継続的な試行錯誤」の大切さを学ぶことができます。
そこで先週、阿智村を見学させていただきましたので、ご紹介します。
自宅を午前9時に出発。新幹線で名古屋まで行き、高速バスに1時間50分乗って、午後3時前に「昼神温泉」に到着します。
ここでJTBの武田さん、スタービレッジ阿智誘客促進協議会・事務局長の松下さんと合流。
昼神グランドホテル天心にチェックインします。
ここで皆さんと記念写真。左から、武田さん、永井(私)、松下さん、昼神グランドホテル天心の今井社長です。
実は阿智村に大勢の観光客が来るようになった立役者が、この武田さんと松下さんなのです。
阿智村の見所を案内していただいた後、本日の目的地、ヘブンスそのはらに行きます。
ここはロープウェイの出発点であるヘブンスそのはら「山麓駅」。標高800メートルです。
実は阿智村は、環境省が「日本で一番、星空が輝いて見える場所」に認定した場所なのです。
YouTubeには、こんな素敵な動画もアップされています。
素晴らしい星空ですよね。
そこで阿智村は、冬はスキー客用に使っているロープウェイを活用して、日本一の星空を見たいという観光客向けに、雪のないシーズンは夜間に山頂まで運行させているのです。
ここに来るまで、紆余曲折がありました。
阿智村は以前から、「地域を巡るバスツアー」、「格安シャトルバス」、「温泉巡りパスポート」など色々と仕掛けてきました。しかしお客様は喜ばれるものの、新たな誘客に結びつかなかったり、宿泊に結びつかなかったりと、観光がなかなかビジネスになりません。
阿智村で観光を担当される方は、「実は、温泉郷の広告に使うネタにも困っている」というのが実情でした。
そこで2011年、JTBの武田さんが入って、阿智村の方々と議論を重ねました。そして、阿智村ならではの強みがあることがわかりました。
・環境省 全国星空継続観測で日本一になった
・スキー場があるので、ゴンドラで1400mの山頂へいける(でも夏の夜は動かしていない)
・多才な人たちがいる
そして2012年、阿智村ならではの強みを活かした「星空エンターテイメント」として、「天空の楽園 ☆ 日本一の星空ナイトツアー」というコンセプトを生み出し、Star Villageとして訴求を始めたのです。
しかし「星空が綺麗」なのは、阿智村に暮らしている人たちにとっては当たり前のことでした。実は当初は「本当に星空なんかを売りにして、お客さんが来るのか?」と疑心暗鬼な人もかなり多かったそうです。
ということで本命は夜なのですが、まずは昼間の様子を見学。ロープウェイに乗って、昼間の山頂駅を目指します。
下を見ると、高速インターチェンジが見えます。
武田さんによると、阿智村は高速インターチェンジを降りてすぐ近くにあるのがとても大きなメリットだそうです。確かにこれだけ星が綺麗に見えて、しかも車を持っている人にとって便がいいのは、観光地としては強みですね
山頂の様子です。
山麓駅からの標高差600mで、ここは標高1400m。山麓駅よりもかなり涼しく、空気も香しく、まるで別世界です。まさに「天空の楽園」ですが、夜になるとそれをさらに実感することになります。
ここは冬はスキー場ですが、夏は花が植えられています。
昼の様子を一通り見た後は、一旦ロープウェイで山頂駅から山麓駅に戻ります。
実はこの日、“Star Village Cafe by NAKED”のオープニングの日なのです。
PR TIMESでも紹介されています。→『日本一の星空の村にプロジェクションマッピング「STAR VILLAGE CAFÉ by NAKED」が7/11OPEN』
クリエイティブチーム・ネイキッドは、東京駅のプロジェクションマッピング、新江ノ島水族館ナイトアクアリウムなどを手がけてこられましたが、今回新たに阿智村のStar Village CAFEも手がけることになりました。そのオープニングが、この日なのです。
2012年からStar Villageの取り組みを始めた阿智村は、JAXAや、望遠鏡のビクセン、トヨタVoxyのCMなど、色々な団体と協業するようになりました。このネイキッドとの協業も、そんな中の一つです。
ネイキッドのスタッフの方々が、準備をなさっています。
以前よりJTB様を通じて阿智村とはご縁をいただいてきましたので、このオープニングセレモニーには私も来賓として呼ばれていました。
セレモニーの会場はこんな場所です。
セレモニーでは、阿智村の熊谷村長、阿智村観光協会専務理事の小島様、ヘブンスそのはら体表取締役の白澤様、ネイキッド代表の村松様、来賓として東海ウォーカー編集長の嶋村様と私の、合計6名がそれぞれスピーチしました。
(2015/7/23追記:オープニング写真をいただきましたので掲載します)
私はこんな話を致しました。
・私はいつも「お客様が『ぜひ欲しい』と思うような、買う理由を作りましょう」と提唱している
・阿智村は、まさにこれを徹底して実践されてきた
・ポイントは「み・か・た」
・「み・か・た」とは、「みんなで、かんがえ抜いて、たしかめよう」ということ
・まず、「み」。阿智村は村を挙げて、Star Villageに取り組んでいる。つまり衆知を結集している
・次に、「か」。阿智村は、日本一の星空という強みを考え抜き、それを必要とするお客様とニーズを考え抜き、そしていかに対応するかを考え抜いている
・次に、「た」。考えるだけでは「買う理由」は作れない。だから実行し試行錯誤を繰り返す。阿智村は2012年から試行錯誤を愚直に繰り返してきた
・「み・か・た」を徹底することで、まさに味方である協業相手も増えていく。望遠鏡のビクセンさんもそうだし、今回のネイキッドさんもそう
・ということで、今後も「みんなで、かんがえ抜いて、たしかめよう」を徹底し続けることで、阿智村はもっと味方を増やして、ますます発展していく筈です。応援しています
セレモニーをしている最中にも、ヘブンスそのはらへお客さんが車で次々と到着しています。
ちなみに阿智村には、Star Villageにまつわる色々な商品もあります。
いよいよ日も暮れてきました。会場も暗くなってきて、いい雰囲気です。今井会長、阿智村の熊谷村長、小島様、白澤様が話で盛り上がっています。
再びゴンドラで山頂駅に行きます。皆さん並んでいます。若いカップルやシニアなご夫婦が多いですね。長い列ですが、ゴンドラ1台で12名搭乗できるので、意外とすぐに乗れます。
こんな感じでゴンドラが登っていきます。
15分後、再び山頂駅に到着。
昼間とは一変して、実に多くの人たちで賑わっています。まるでお花見会場です。
この日は600名の方がゴンドラで山頂に登りました。昨年の最高記録は、一晩でなんと2800名。
しかし2012年の開始初日は、お客さんはわずか10名。今からは想像もできませんね。
最初の立ち上げから尽力されてきた武田さんは、大勢集まっている様子を見ながら「これは嬉しいなぁ」と感無量な表情です。
私と武田さんとのおつき合いは、1年前からです。阿智村がここに至るまでの道のりも、以前からお伺いしてきました。
初年度の2012年。会長に熊谷村長、顧問にJTBが就任してスタービレッジ阿智誘客促進協議会を設立。阿智村全体でアイデア拡大、ワクワク感を演出しながら、現在のプログラムの原型を作りました。2012年は特に販促しなかったにも関わらず、クチコミで6,000人もの参加者がありました。
これで阿智村全体に火がつきます。
2年目の2013年。首都圏旅行会社に売り込みを始めました。熊谷村長も自ら営業に奔走、2013年7月7日にはJAXAタウンミーティングを開催したり、治部坂高原科学教室を開催したりしました。この年の目標は15000人でしたが、結果は1.5倍の22,000人の参加者がありました。
3年目の2014年。さらにブランド化を図りました。村内51店舗で利用可能な「星の里スターコイン」の流通を開始したり、阿智村スターマイスター認定試験を始めたりしました。星景写真家の宮坂雅博氏が年間を通じ阿智村で星空撮影を始め、「死ぬまでに行きたい!世界の絶景 日本編」にも掲載されました。この年は33,000人が参加しました。
そして今年、4年目を迎えているのです。ここまで成長できたのは、素晴らしいですね。
このように、JTB様はこの阿智村や前回ご紹介した白山市の他にも、「モノづくり観光」の東大阪市、「道産酒」の北海道酒造組合など、日本の色々な地域の人たちと一緒に、地域ならではの独自の強みを活かして観光資源を開発する取り組みを、「交流文化事業」と名付けて取り組んでおられます。詳しくはこちら
このJTB様の交流文化事業のアプローチは、まさにマーケティング発想ですね。
ライトを消すカウントダウンを待ちます。
午後8時25分、ライトがすべて消灯すると、数百名の観光客から一斉に歓声が上がります。こんな星空が現れました。
噂に違わず、綺麗な星空です。ただちょっと雲がかかっていたのが残念です。
阿智村の方々によると、「雲がなければ、さらにもっと多くの星々が見えていたはず」とのこと。
真っ暗闇の中、星の物語のナレーションが場内に響きます。
30分ほどすると再びライトが点いてプログラムは終了。山頂駅から山麓駅に戻ります。
夜になり、“Star Village Cafe by NAKED”も、とてもいい感じです。
この画像や照明は、パナソニックの協力でスポットライトとプロジェクターの機能を融合したSpace Player®(スペース プレーヤー)を活用したものです。
足下も、こんな感じでかっこいいですね。
また、素通しの窓に画像が浮き上がっています。
一見当たり前に見えますが、普通の窓だとこうなりません。実はJX日鉱日石エネルギーの協力で、窓ガラスに映像を投影することができる特殊なフィルムを貼り付けた「スペースディスプレイ」を、世界で初めてこの阿智村で使ったそうです。東京でもほとんどお目にかかれない、素晴らしくお洒落な空間を体験できます。
スタービレッジ阿智誘客促進協議会・事務局長の松下さんとお話ししたところ、「このイメージを、3〜4年後にはもっと拡げていきたい。この乗り場が、まさに宇宙船であり、宇宙への発信基地みたいにしたい」と熱く語っておられました。漆黒の闇で星しか見えない中、ゴンドラに乗っていると、本当に宇宙船に乗っている感覚を覚えます。
ただ、少し雲があったのが心残りです。そこで、もう一晩頑張ることにしました。
翌日。二日目もかなり暑くなりました。阿智村を散策している途中、涼む目的も兼ねて昼神温泉ガイドセンターに立ち寄ると、前日にヘブンスそのはらでお世話になった宮沢さんがいらっしゃいました。ガイドセンターの3名の方々の写真を撮らせていただきました。真ん中が宮沢さんです。
「Star Villageを始める前と後で、いかがですか?」とお聞きしたところ、「まったく変わりました」とのこと。お客さんが急増し、村全体にとても活気が出るようになったそうです。観光振興と地域振興は、セットで行うことが必要なのですね。
初日は来賓扱いをしていただいたので、この日はホテルで正規チケットを購入。チケットは一人2200円で、こんなデザインです。
ホテルからのバス送迎付きの、ゴンドラ往復券です。
夜7時半、バスに乗り込みます。
ヘブンスそのはら山麓駅に到着。夜は相変わらずいい感じです。
ゴンドラも勢いよく上がっていきます。
早速、星空撮影にチャレンジします。まだライトが灯っている間に、観光客が沢山いる場所から離れて、カメラと三脚をセットしてライトが消えるのを待ちます。
ライトが消えました。昨晩よりもちょっと雲が多いですねぇ。
待っている間に、雲が徐々に増えてきました。
ちょっと残念な天気ですね。
一方で、この日も山頂には数百名の観光客が大勢います。「皆さん、どうしているのかな」と思い、真っ暗な中を観光客が集まってるところに戻ると………なんと観光客の皆さんは盛り上がっていました。
この写真は高感度で30秒露光をしたので明るく見えますが、実際には真っ暗闇です。
「星のお兄さん」が軽妙な関西弁で面白おかしく星の説明をしていて、お客さん一同大受けです。「星のお兄さん」は月に一回、阿智村で「星のお兄さんショー」を行うそうで、私の場合、ラッキーなことに遭遇できました。「星のお兄さん」は藤井フミヤさんともコラボするそうです。→詳しくはこちら
星のお兄さんがいない日も、村の星空ガイドの方々が同じように映像が画像を使って星の説明をするようになっています。星空ガイドの方は、「星空が見えない日も、キャンセルはありません。プレッシャーがかかります(笑)。こういう日こそ、トークにも熱が入ります」とおっしゃっています。
阿智村は、単に星がきれいなだけではなく、星というテーマを中心に、その強みを活かす仕組みを皆で作っている点が、素晴らしいですね。
この日は帰りのロープウェイで、シニアなご夫婦と、若いカップルの4名とご一緒しました。真っ暗なゴンドラの中で、皆さんが「うわぁ。まるで宇宙船みたい」と感激していたのを聞いて、私も嬉しくなりました。
写真を撮ろうとしましたが、真っ暗なのでカメラを最高感度のISO12800にしても全く写りません。高速インターチェンジの光でなんとか撮影できました。
翌日の3日目。阿智村を出発するために高速バスが出発する昼神温泉ガイドセンターに行くと、とても幸運なことに、阿智村の熊谷村長とバッタリと出会うことができました。早速、記念写真。
熊谷村長とは、今年1月に名古屋で行われた講演会以来のご縁です。その時の「いつか阿智村に行きます」というお約束を、今回果たすことができました。
実は同じ場所で「星のお兄さん」ともバッタリ出会い、名刺交換とご挨拶をしたのですが、写真撮影をすっかり忘れていたのは残念。
阿智村は風情のある温泉地ですが、「温泉」だけでは他の温泉地と明確な差別化ができませんでした。私も温泉は大好きですが、「温泉だけなら当たり前」なのですね。
阿智村に滞在した3日間を通じて実感したのは、「日本一の星空」という阿智村独自の強みを見いだし、2012年からその価値を徹底的に訴求し、実際に色々と試行錯誤をしながら高めていった点に、阿智村の成功の秘密があるということです。
冒頭に書きましたように、
「強みの見極め」→「顧客の絞り込み」→「継続的な試行錯誤」
という当たり前のことを、愚直に継続することがいかに大切なのかが、よくわかります。
さらに前回ご紹介した白山市・鶴来と、この阿智村の取り組みに接して、観光振興のためには地域振興が必要であり、そのためには地域マーケティングの発想が必要である、ということがとてもよくわかりました。
今回の見学に際してご尽力をいただいた関係者の皆様には、深く感謝申し上げます。
【補足: 星空以外でも、実は奥深い阿智村】
ここまで阿智村の強みである星空を中心にご紹介しましたが、阿智村は星以外にも色々な見所があります。最後にまとめてご紹介します。
初日、武田さんのご案内で阿智村の様子を見てきました。ここは天台宗開祖・伝教大師最澄の創建と伝えられる信濃比叡・広拯院。
「比叡」の名は、天台宗本山である比叡山から、平成12年(2000年)に「信濃比叡」の称号として授かったそうです。
ここには驚くなかれ、1200年前から燃え続けている灯があります。これがその説明と、1200年間灯り続けている火。
奥にある金属の容器の中で、なたね油に浸されて燃えているのが1200年間灯り続けている火で、ロウソクはその火からわけたものです。
この寺では、鐘を突くこともできます。私と武田さんも、早速やってみます。
そこら中に大音響が響きます。近くにいると「ゴーン」という鐘の音の後に、何故かジリジリとした音も感じます。
伝教大師ご尊像もありました。比叡山峯道に建立されているものと同一のものだそうです。
隣接する東山道・園原ビジターセンター・はゝき木館でも、色々なものを見ることができました。
二日目の朝。ホテル近くで朝市をやっていました。
早朝に取れた取れたて野菜ばかり。安いですね。
阿智村に車で来ている方は、帰る当日に買うといいかもしれませんね。
朝食後、ホテルの近くにある阿智神社前宮に行きました。
写真を撮っていると、この神社にいた3人の女性から声をかけられました。
「あれ?昨晩のセレモニーでお話ししていた人ですよね?」
すでに完全に顔が割れています。もう悪いことはできません。いずれにしても、悪いことはしませんが。(笑)
昼神温泉ガイドセンターで宮沢さんに翌日の帰りのバスや、阿智村の見所を教えていただき、近くにあるカフェ”Blanc Brun”に向かいます。
ここは素晴らしいカフェです。特にランチは絶品。こんな感じです。
順番に、カブのスープ、サラダ、アスパラのリゾット、デザートと濃いめのコーヒーです。店内もゆったりした空間でくつろぎます。
これで1,780円は安すぎます。
3日目の最終日、ホテルをチェックアウトしました。宿泊した昼神グランドホテル天心は、こんな感じです。
ホテル前の橋から見た様子。
川沿いに30分ほど歩きながら、阿智村にあるもう一つのカフェ「十字屋可否茶館」に行きます。
森の中にあります。
実に色々なメニューがありますね。
美味しいコーヒーです。自家焙煎だそうです。
店内の様子。癒やされる空間です。
他にもご紹介しきれない見所が沢山あります。
阿智村は、星以外にも奥が深いところです。
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