青臭く考え、泥臭く仕事をしよう


マイケル・ポーターが2011年に提唱したCSV (Creating Shared Value: 共有価値の創造)という考え方があります。

企業の活動が、地球環境破壊や社会問題(貧困層搾取)など大きな問題を生み出しています。そこで社会課題の解決と企業としての経済的価値の両立を図ろうという考え方が、CSVです。

CSVの流れを受け、2015年国連サミットでSDGs (Sustainable Development Goal: 持続可能な達成目標)が採択されました。「貧困をなくす」「飢餓をゼロにする」「ジェンダー平等を実現」「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」といった17の目標に対して、169のターゲット・244の指標が決められ、2030年達成を目指すものです。

アメリカ先住民の格言に「地球は先祖からの相続品ではなく、子供たちからの借り物である」という考え方があります。
CSVもSDGsもこの考え方を具体化したものです。

一方で、日本ではCSVやSDGsに対する典型的な反応があります。

■一つは「日本では昔から近江商人の『売り手よし、買い手よし、世間よし』という『三方よし』の考え方がある。別に新しい考え方じゃない」

これはCSVやSDGsへの理解不足から来る誤解です。
100年以上前からある「三方よし」の考え方は素晴らしいものですが、世界はさらに進化しています。

まず問われているのは、自社だけでなく、調達先を含むエコシステム全体です。調達先で弱き立場の人を搾取することも問題になります。
そして「世間よし」は現代だけでなく、未来も含みます。

加えて、具体的なコミットメントが求められています。
たとえばマイクロソフトは「カーボン・ネガティブ」を宣言し、1975年の創業以来マイクロソフトが排出したCO2を2050年までに全て回収するとしています。

もはや「三方よし」だけでは、かなりの周回遅れが否めません。

もう一つの典型的な反応は「欧米ではきれい事をいっているけど、金儲けの下心があるんでしょ?」

これもやや甘い見方かもしれません。
底流に流れているのは「社会課題をビジネスにして収益化しよう」という、欧米流のしたたかな問題意識です。

CSVを提唱したマイケル・ポーターは、日本企業に対して日経ビジネス2020年1月9日号の取材で、このように述べています。

「第2次世界大戦後の日本企業の活動は、CSVの典型だ。当時の日本企業は国を再建するためにビジネスを展開していた。しかし現代の日本企業は、新エネルギーやリサイクルには取り組み始めキャッチアップしているCSVの初期段階である。もっと多くの日本のビジネスパーソンがCSVに目を向けるべきだ」

ポーターが指摘しているように、戦後の日本企業の創業者たちは「事業を通じて世に貢献したい」という強い思いがあり、戦略的な考え方をしてました。しかしこの姿勢は、バブル期を通じて日本企業から失われてしまいました。

今から60年以上前の1958年、セオドア・レビットはこう述べていました。

突き詰めていくと、企業の責任は二つだけに絞られる。
誠実さや善意を忘れないなど日頃の礼節を守ることと、利益を追求することである。

私たち日本人は、色々なことを知りすぎて、大人になりすぎているのではないでしょうか?
もっと青臭く考え、泥臭く目の前の仕事に取り組んでみてもいいのではないかな、と思います。

 

■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちへ。

Facebookページでも、色々な情報がご覧になれます。