市場調査では、新製品は生まれない


多くの企業が、新製品開発の際に、市場調査を参考にします。

かく言う私もIBM社員時代、マーケティング戦略立案のために、会社が購入した市場調査レポートを徹底的に読み込みました。

市場調査レポートは市場調査会社が作成・販売します。数十ページで価格は数十万円もしたりします。個別に調査委託すると数千万円かかることもあります。

多くの企業が市場調査に大金を投じています。2018年、日本企業は全体で2190億円も市場調査にお金を使いました。この費用はこの10年で24%も増えています。(日本マーケティング・リサーチ協会「経営業務実態調査」より)

ではこの市場調査は、新製品の開発に役立つのでしょうか?
ここで照明器具のマーケターになってみて、市場調査を基に新製品の企画を考えてみましょう。

矢野経済研究所が「照明市場に関する調査(2018年)」という市場調査を行っています。
この調査からは、次のことが読み取れます。

・照明市場は、2010〜15年に順調に成長を続け、1兆円規模になった
・その後は、年率1〜2%の市場減少が続いている
・LED照明器具は2011年は市場全体の17%だったが、2018年は77%に増えた

この市場調査を見て、多くのマーケターはこう考えます。
「市場縮小は厳しいなぁ。価格競争は避けられない。まずはもっと既存製品ラインのLED化を進めよう」
かなり単純化していますが、これだとジリ貧ですよね。

この照明市場でバルミューダは2018年、定価37,000円の照明「BALMUDA The Light」を発売しました。市場で高く評価されています。

この商品は、バルミューダ・寺尾玄社長が子供たちが絵や文字を書き始めると机に顔を近づける姿が気になり、「目が悪くならないか?」と心配になったことがきっかけで開発されました。

寺尾社長は「世界で一番、物がよく見えなければならない現場はどこか?」と考えた末、手術灯と出会いました。通常の照明は手元に影が落ちますが、この照明は手術灯の技術を使っていて影が出ません。また通常のLED照明はブルーライトで目に刺激が強いのですが、この照明は太陽光なので目も疲れません。

市場調査からは、こんな製品は生まれません。

新製品は、「これが欲しい」という顧客のウォンツがきっかけで生まれます。
そして新製品が生まれると、色やサイズなどの顧客の「好み」が生まれます。

市場調査でわかるのは、顧客の好みや過去のデータです。これはこれで、マーケティング戦略立案のためにはとても重要な情報です。
しかし市場調査では、この世に存在しない新製品のウォンツは把握できません。

ウォンツは、市場調査ではなく、マーケターの洞察で掴むものなのです。

 

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