「新・資本主義宣言」(毎日新聞社)を読んでいます。
「BOOK」データベースでは、本書は次のように紹介されています。
七賢人と共に描く日本発の「第三の軸」。有史以来はじめての課題に直面している我々人類のために―「近代の秋」における成熟を問う。
その七賢人とは、中谷巌、川上量生、山田昌弘、永田良一、渋澤健、黛まどか、田坂広志(敬称略)といった方々です。
これからの社会がどのようになっていくのかを考える上で、大変勉強になりました。
七名の論考と、三つの対談から構成されていますが、その中から中谷巌先生の論説「西洋主導の資本主義体制に代わるもの」から、個人的に参考になった部分をまとめたいと思います。
—(以下P.34から引用)—-
かつての日本企業には、完全雇用文化というものがありました。
….いまや労働力はコストとみなされ、リストラが推進されると同時に正規社員が削減され、契約社員や派遣、フリーターといった非正規雇用形態が珍しくなくなっています。
…こうした策は、企業の業績を短期的に回復させるとしても、長期的には組織の健全性を損ない、競争力を弱体化させてきたのではないでしょうか?労働者は安定性を失い、社会は荒廃していきます。
—(以上、引用)—-
先日当ブログでご紹介したフリーク・ヴァーミューレン著「ヤバい経営学」でも、
「人員削減は意味がないどころか、多くの場合、利益率を悪化させていた。….想像のとおり、残った社員の持ちべージョンを下げるからだ」(「ヤバい経営学」P.187)
と書かれています。
中谷先生の指摘は、研究でも実証されています。
—(以下、P.42-43から引用)—
…社会保障制度や税制などは、基本的に「右肩上がり」の時代に、「右肩上がり」を前提に作られたシステムです。…大きくなっていくパイをいかに「分配」するか。それを決めるのは民主主義的な投票制度でした。
ところが、右肩下がりで毎年パイが小さくなる世界では、民主主義的な決定システムではなかなか埒があかなくなります。…誰が痛みを引き受け、誰が我慢するのかという話になるからです。
….「不利益分配システム」に適合できる「新・民主主義」「新・資本主義体制」をどうにかしてつくらなければいけない時代に入っているのです。
—(以上、引用)—
期待されて登場した首相が短期間に人気を落として変わるなど、政治が行き詰まっているのも、パイが縮小しているにも関わらず、相変わらず従来の「利益分配システム」のままで世の中が回っているからです。
その意味では、2010年に登場した菅首相が当初「最小不幸社会の実現」を掲げたのは、この考え方を取り入れているとも言えます。ただ実現はなかなか困難です。
—(以下、O.50-51から引用)—
日本にとって最大の強みは、日本が歴史的に本格的な階級社会を形成したことがないという点です。…階級社会が定着し、下層階級が搾取され続けてきた社会では、下層階級に「当事者意識」がなくなるのは当然のことです。
…日本は違います。一度も他の民族に征服されたことがなく、従って奴隷というものが制度化されず、本格的な階級社会が形成されなかったがゆえに、庶民階級が健全さを保っています。
….現代における日本企業の競争力の強さが「現場力」にあると言われてきたのも、工場の現場で働く従業員の責任感、心をこめて品質のよい品物をつくらなければならないという使命感があったからでした。分厚い層を成すこれらの人々が本気になったときには、すさまじいエネルギーが発揮されるのです。
…しかしながら懸念されるのは、グローバル資本主義の大波を受けたことで、欧米並みの階層社会に日本社会が変質してしまうことです。貧困層の拡大がこれ以上進むと、責任感が強かった庶民層、中間層の「自分たちが社会を支えている」という健全な当事者意識が失われていきます。
….いまの日本にとって最も大事な政策は、人の心を荒ませないこと、温かい情感に溢れた日本人の心情を壊さないようにすることです。
—(以上、引用)—-
カルロス・ゴーンも「日本の強みは現場力」と言っているように、日本の現場力は世界の中でも傑出しています。
企業の様々な問題も、現場の人が一番わかっていますし、自分で率先して解決しようとします。これは「利己主義」が当たり前である国では、なかなか見られないことです。
それは「日本の庶民層の当事者意識」にあるというのは、とても納得できます。
ちょっと長くなりましたので、続きは後日ご紹介していきたいと思います。