2014年4月24日、古巣である日本IBMの東京基礎研究所を見学する機会をいただきました。
その時に、IBMが神経細胞を模したニューロンチップを開発していることを初めて知りました。その翌日に書いた4/25のブログを読み返してみると、
・非フォン・ノイマン型の300万素子で構成
・256個の神経細胞(ニューロン)に相当
・世界で最も優れた情報処理システムである脳細胞の動きをヒントに開発
・米国の国防高等研究計画局(DARPA)が出資するSyNAPSEプロジェクトの成果
・各ニューロンが記憶を保持
このニューロンチップが急速に進化しています。
2014年8月7日、IBMは新しいニューロンチップを発表しました。
日経ITproの記事「IBM、2011年比4000倍の巨大ニューロチップを作成」によると、
・CMOSチップ最大級の54億個のトランジスタで構成
・100万個の神経細胞(ニューロン)、2億5600万個のシナプス(ニューロン間結合)の働きをシミュレート
今年4月に見たニューロンチップ(開発されたのは2011年だったのですね)のニューロン数が、256個から100万個に。記事タイトルの通り4000倍。まさに指数関数的に進化しています。
記事によると、このシステムはスケーラブルに増やすことができ、既にIBMは16チップ、1600万ニューロン(40億シナプス)のシステムを製作済とのこと。
さらに「IBMは長期的なゴールとして、100億ニューロン、100兆シナプスのシステムの開発を目指す。消費電力は1kW、体積は2リットル以下」とのことです。
人間の脳は、10の10乗から11乗のニューロンで構成されています。改めてニューロンチップの進化をニューロンの数で整理すると、
・私が見た4年前の単体チップが、ニューロン256個 (=10の2-3乗)
・今回の単体チップは、100万個 (=10の6乗)
・既に製作済の16チップ構成で、1600万個 (=10の7乗)
・IBMの長期的なゴールは、100億個 (=10の10乗)
つまり人間の脳が持つニューロン数と同等のチップ開発が、既に視野に入っているのですね。
発表によると、ニューロンチップが実現できるのは、たとえば交通状況を動画で監視して異常を見つける、といったような主に認知機能に関する分野とのことです。(攻殻機動隊-Ghost in the shell-のように「魂が宿る」ということはないようです)
この分野でコンピュータが人間の脳に追いつくのは、実はそんなに遠い未来ではないのかもしれません。
今後、ニューロンチップが指数関数的に進化していくと、未来の人間の仕事はどうなるのでしょうか?
かつてコンピュータの計算能力向上で、人は細かい日々の計算作業からは解放され、ソロバンは不要になりました。
しかし人間が数字のことは考えないで済むかというとそんなことはありませんでした。
ビジネスで数字で強いことが必須なのは、昔も今も変わっていません。
おそらく、同じことがニューロンチップでも起こるのではないかと思います。
たとえば忍耐強く長時間監視するような作業は次第にニューロンチップを使ったマシンにとって替わられる一方、様々な事象を認知する能力の高さは、引き続き求められるのではないでしょうか?
テクノロジーの進化は、未来の仕事のあり方を大きく変えていく一方で、人間にしかできないことが何かをしっかりと見極めることもまた重要なことです。
たとえば自動車普及で、自動車の運転手という仕事が生まれる一方で、馬車にかかわる仕事は激減しました。さらに自動車の自動運転が普及すると、この運転手という仕事も激減する可能性があります。
テクノロジーの未来はどうなるのか、興味を持って見ていきたいと思います。