人間の脳を超えるAI。我々はどうすべきか?

2024年3月10日の日本経済新聞に、トロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授のインタビューが掲載されています。

ヒントン氏は「AI研究のゴッドファーザー」として知られており、「AIが人類存続の危機をもたらす恐れがある」と考え、約10年勤めた米グーグルを2023年に突如退職し、話題になりました。

昨今、多くの識者が「AIが人間の脳の能力を超えるか否か」について議論していますが、ヒントン氏によると結論は出ています。

「私は50年もの間、AIを人間の脳に近づけようとして開発を重ねてきた。脳の方が機能的に優れていると信じていたからだ。だが23年に考えを改めた」

「人間が知識を共有するには非常に時間がかかるし、我々は死を免れることができない。一方でデジタルの世界では全てを『0』と『1』に分けて記録する。特定のハードウエアに依存せず、データを瞬時にコピーして全く同じプログラムを実行できる」

「現在の対話型AIは人間の脳の100分の1の規模でも数千倍の知識がある。おそらく大規模言語モデルは脳よりも効率的に学習できる」

「主観的な経験という観点から説明すると、AIは人間と同じような感覚を持てると考えている」

たしかに身近になったChatGPTなどを使っていると、「彼らは人間と同じ感覚を持っている」とリアルに感じます。

そしてデジタルの世界では、あらゆるモノが指数関数的に成長します。人間の脳を超えたAIは、またたく間に人知をはるかに超えて成長し続ける可能性があります。

私たちはどうすればいいのでしょうか?

経済学者のW・ブライアン・アーサーは著書『テクノロジーとイノベーション』で、「テクノロジーは生命を宿すかのように進化する。経済構造も、テクノロジーによってつくられていく」と結論づけています。

テクノロジー自体は、人間が生み出します。しかしテクノロジーが進化するプロセスを見ると、古いテクノロジーの組み合わせで新世代テクノロジーが自己創出され、旧世代テクノロジーを崩壊させ、テクノロジーを生み出した個々の人間の思惑を大きく超え、まるで生き物のように世代交代を続けていきます。

テクノロジーは経済構造や社会も変えます。

200年前の産業革命で生まれた繊維製造機は、繊維工場や紡績工場を生み出し、工場労働者の需要を生み出し、工場周辺に住宅が建ち、工業都市ができ、労働者階級が生まれ、彼らは団結して政治権力を持つようになりました。

ではAIのようなテクノロジーの進化に対して、私たちはどうすればいいのでしょうか?

アーサーは映画「スターウォーズ」に登場する「帝国軍」と、ルーク・スカイウォーカーのようなヒーローを対比させることでこのテーマについて語っています。

帝国軍は人間性を排除し、個性や意志の力を奪っています。一方のヒーロー側は、個性と意志を重視し、テクノロジーに飼い慣らされず、逆にテクノロジーを使いこなしています。

テクノロジーは、いったん生まれたら消滅することはありません。
だから私たちは、使いこなすしかないのです。

アーサーは著書『テクノロジーとイノベーション』をこのように締めくくっています。

「人間は挑戦を必要とし、意義を必要とし、目的を必要とし、自然との共存を必要としている。テクノロジーが人間からこれらを引き離すなら、それはある種の死をもたらす。逆にテクノロジーがこれらを高めるのなら、テクノロジーは人生を肯定する。私たちが人間であることを肯定しているのである」

人間の脳を超えるAIだけでなく、私たちは神の領域に近づいた遺伝子操作技術や、地球を破壊する核技術など、様々なテクノロジーを持つようになりました。

私たちは今後AIなどの最新テクノロジーについて、どのように接していくべきなのか、叡智を集め続ける必要があります。

そしてそれは、一企業の利益と相反することもあります。

冒頭の新聞インタビューではヒントン氏は、2023年11月にオープンAIがサム・アルトマンの解任を試みて失敗したことを例に挙げて「営利団体は、安全性よりもAIが生み出す利益を優先して判断している」と指摘しています。

将来歴史を振り返った時に、オープンAI経営陣によるこの時の判断は、「人類の未来に大きな影響を与えた」と判断される可能性があるかもしれません。

人間は歴史を通して様々な過ちを起こしてきました。これからも過ちを起こし続けることでしょう。

このように極度にテクノロジーが進化した時代だからこそ、私たちは人類の歴史や、過去の偉人たちが残して蓄積されてきた哲学や思想を、謙虚に学び続けることが必要なのだと思います。

   

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EVは、キャズムに墜ちるのか?

「これからのクルマはEVになる」と言われて数年が経ちました。

・EUは「2035年までにすべての新車はゼロエミッション」という基本方針を掲げています
・ボルボは「2030年までに新車販売をすべてEVにする」という目標を掲げています
・ホンダは”脱エンジン”の電動化戦略を掲げ、2040年までに新車販売のすべてをEVとFCV(燃料電池車)にする方針を打ち出しています

街中を見るとEVをよく見かけるようになりました。

こんな流れで、世の中は「エンジン車はもうオワコン。これからはすべてEVに切り替わる」という感じでしたが、昨年頃からどうも様子が変わってきました。

・EVシフトを官民で戦略的に進めている欧州で、EVが伸び悩んでいます。欧州の新車販売に占める比率は、2017年はエンジン車(HV除くガソリン+ディーゼル)が94.3%、ハイブリッド車(HV)が2.8%、EVが1.5%でした。6年後の2023年は、エンジン車は48.9%に激減、HVは33.5%に激増、EVは14.6%に留まっています。欧州ではなんと3台に1台がHVで、EVはHVの半分以下なのです。(出典:日経産業新聞 2024.3.8「欧州、3台に1台がハイブリッド車」)

・米国のEV販売比率は、2023年1月に7.9%になった後は、2023年11月まで6〜8%台が続いており、EV普及は伸び悩んでいます。(出典:日本経済新聞2024.1.4「米新車販売、EV比率8% 横ばい」)

・中国では、2023年のEV販売台数は21%増でしたが、PHV(プラグインハイブリッド)は83%増でした。(出典: Bloomberg 2024.2.22「中国でプラグインハイブリッド車人気、EV減速-テスラなどに課題」)

なぜEVの普及が停滞しているのでしょうか? 色々と見てみると要因が浮かび上がってきます。

・補助金がないと、EVはまだまだ高い。電池容量が少なければEVは安くなるが、こうなると航続距離が100Km程度となり遠出ができない。たとえばPHVやHVならば、ガソリンを入れれば遠出できるし燃費もいい。だからPHVやHVが売れる

・EVは大容量バッテリー搭載が必要だが、大容量バッテリーは高価で入手しにくい。そこでメーカー各社は「EVは意外と儲からないコスト構造になっている。特に300万円以下の量産コンパクトカーで利益を出すのは困難」と気づき始めた

・世の中も「本当にEVって環境車なのか?」と気づき始めている。走行時のCO2は確かにない。しかし製造工程のCO2排出量はガソリン車よりもかなり多い。廃車時の電池リサイクルの仕組みもできておらず、走行時以外の環境負荷が意外と高い。さらに「走行時にCO2を排出しない」のは、その地域の電力が再生可能エネルギーで発電されていることが大前提。これは欧州など一部の地域に限られる

こんな状況もあって、昨年10月頃は1兆2160億ドル(182兆円)だったテスラの時価総額は、現在5600億ドル(84兆円)に急落しました。対するトヨタの時価総額は現在59兆円。一時はテスラがはるか上でしたが、今はいい勝負です。

ジェフリー・ムーアは歴史的名著「キャズム」で、革新的新商品が普及する際に、リスクを歓迎するイノベーターとアーリーアドプターが採用してから、リスクを敬遠するアーリーマジョリティに広がろうとする普及率16%の時点で、大きな普及の谷(キャズム)が待ち構えている、と言いました。

まさに2024年は、世界的にEVがキャズムに直面している年なのです。

現在EVがかかえる様々な課題(主にバッテリー系のコスト)は、将来的に技術革新で乗り越えられる可能性もあります。しかしそれが生産革新まで行き渡るには時間がかかります。

こんな状況もあって、各社は戦略を見直しています。

・メルセデスベンツは、2030年に全新車をEV化する計画を見直して、エンジン車販売を継続
・フォードはEV関連の投資計画のうち120億ドルを延期すると発表
・GMは電導ピックアップトラックの生産拡大計画を延期
・アップルは、EVの開発計画を中止し、人材をAI部門に配置転換
(以上、日本経済新聞 2024.2.29「EV変調、世界に広がる 販売環境が悪化」より)

さて、我らが日本のクルマメーカー各社は、ガソリン車では世界を圧倒する強者でした。しかしEVで出遅れていました。

たとえばトヨタが米国ケンタッキー工場やノースカロライナ工場でEV生産を始めるのは2025年。そしてトヨタはEVの世界販売台数を2026年に150万台、2030年には350万台に増やす計画です。

こうした状況を踏まえてEV市場全体を眺めてみると、2024〜2025年にEV普及がキャズムに直面して停滞していることは、日本の自動車メーカー各社にとって「天佑」と言えるかもしれません。

日本の自動車メーカーはまだEVでは何も失っておらず、状況をじっくり見極めた上で、最善の手を打てるからです。

日本の自動車メーカー各社にとって天佑と言えるかもしれません。まだEVでは何も失っておらず、状況をじっくり見極めた上で、最善の手を打てるからです。

そして多くの産業が、自動車メーカーと深く関わっています。このEVのトレンドは、今年要注目だと思います。

   

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Apple VisionProは世の中を変えるか

https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/ より

10日ほど前の2月2日、アップルはVisionProを米国で発売開始しました。VisionProはアップル初のゴーグル型ヘッドマウントディスプレイ(HMD)です。

ゴーグルで目を覆っていますが、本体前面に付いたカメラで撮影した現実の風景を目の前にあるディスプレイに映し出し、CGで合成した画像を重ねて、拡張現実(AR)空間を創り出します。

価格はなんと3499ドル(52万円)。しかし1月の予約開始以来、既に18万台が売れ、初年度出荷台数は30〜40万台と報じられています。

同じゴーグル型HMDでメタ(旧Facebook)のクエスト3は499.99ドル。7倍もの価格です。

価格戦略のキモは「値ごろ感」だと言われています。以下は、ソニーの創業メンバー盛田昭夫さんの有名な言葉です。

「いいモノでも『いいけど高い』、これは買わないよ。『高いけど、さすがだな』は買ってくれる。このニュアンスは月とスッポンだぞ。値付けはこの呼吸が勝負なんだ」

50万円を超える価格は、さすがに『いいけど高い』=買わない価格に見えてしまいますよね。こんな高い商品を出して、本当に売れるのでしょうか?

VisionProが発表されたのは、半年前。昨年2023年6月5日でした。

そのタイミングで、私は永井経営塾の会員限定メルマガでこんなことを書きました。

—(以下、永井経営塾会員メルマガに書いた情報)—

・VisionProに対し、ネットでは「50万円に絶句」「秒で陳腐化する技術分野で50万円出せるモノ好きが何人いるの?」という意見がある。これらは個人の意見としてはよくわかるが、製品戦略的にはやや的外れ。

・アップルが現時点で狙うのは、革新的であれば飛びつく「イノベーター層」(新しもの好き)。

・過去、アップルはユーザーインターフェイス(UI)革新で世界を変えてきた。たとえば、1980年代のマッキントッシュのマウスとGUI、2007年のiPhoneと指先入力。

・VisionProは、もの凄いUI革新を実現した。目・指・声だけで操作できる。これまでのゴーグル型HMD(メタのクエスト3など)は、両手にコントローラーを持つ必要があった。

・アップルが凄いのは、最新技術と、最新技術に必要なCPU能力やメモリーの成熟度を見極め、ベストタイミングで実用的なUIを市場に出し、一気にブランド認知を確立する点。UI革新が最優先。自前技術にこだわらず、必要ならどんどん外部から調達する。

・ここが、アップルがイノベーターとして高く評価される点。アップルはインベーター(発明家)ではない。あくまで市場を変えるイノベーターだ。

・iPhoneが成熟したのは3代目の3GSから。アップルはイノベーターのフィードバックを元に機能を強化し、3代目あたりでアーリーアダプターに顧客を広げ、キャズム越えを狙う。恐らく2年後(2026年)のVisionPro 3代目あたりで、世の中に本格的な変化が起こる。

・競合のメタ・クエストより高い価格になった理由は、解像度。メタの視野角は100度で解像度は773ppi。VisionProの視野角は160度で解像度は3400ppi。恐らく没入感がまったく違う。

・ハードウェアによるユーザー体験の大切さを知り尽くすAppleは、自前のハードウェアに徹底的にお金を掛ける。そしてアプリはエコシステムでパートナーに作ってもらうのが、基本戦略だ。

—(以上、永井経営塾会員メルマガに書いた情報)—

上記から半年後の今年2月2日、実際に発売されたVisionProはどうだったのでしょうか?

新聞やニュースなどで、実体験した人の話を見ると、やはり皆さん興奮した様子で「没入感が凄い」とおっしゃっています。

目に前に広がるディスプレイに映されたモノを指でつまむと選択され、声で操作できるなど、操作は驚くほどスムーズ。iPhone/iPadなどのアプリもそのまま使えます。

さて、マクルーハンは歴史的名著「メディア論」で、「熱いメディア」と「冷たいメディア」という概念を提唱しています。

【熱いメディア】情報の量が圧倒的に多く人が補完して解釈する余地が少ないので、人の参与も低いメディア。代表的なのはラジオ。

【冷たいメディア】情報量が少なく人の全感覚を支配するほどではないので、意識的に集中し、情報を補完して解釈する必要があるメディア。代表的なのはテレビ。

ちょっと混乱しますが、わかりやすく補足すると、マクルーハンが言う「情報量」とは、「感覚を支配するかどうか」であって、メディアが流す絶対的な情報量のことではありません。

テレビは「何かをしながら見る」ということはできません。意識的に「テレビを見るぞ」と集中して、情報を脳で補完しながら見る必要があります。だからテレビは意外と「冷めて(クールに)」見てしまいます。

ラジオは耳から自然に入り聴感覚を支配します。意識せず、つまり情報を脳で補完することなく、「何かをしながら」でも聞くことができます。そしてラジオなどで熱く語ると、その人の情熱はダイレクトに伝わります。だから『熱いメディア」です。

メタのクエストは、ディスプレイの解像度が低く、しかもコントローラーが付いていました。情報を脳で補完しまくる必要がありました。その意味では感覚は支配されない「冷たいメディア」といえるかもしれません。

VisionProは、解像度は4倍も高く、しかも脳の補完は最小限になるように、視線や手、声で自然に操作できます。まさに「熱いメディア」になり得る可能性大です。

このように考えると、VisionProの可能性が見えてくるのではないでしょうか?

iPhone同様、様々な分野で、従来のやり方を根本的に変え、人々を本格的なデジタル空間への没入体験へと誘(いざな)うゲームチェンジャーになり得る可能性を秘めていると思います。

一方で、VisionProの課題もあります。それは重量。

600gあり、長時間装着すると肩が凝ってしまうそうです。これから2〜3年間で、200〜300g程度に軽量化され、さらに低価格になれば、爆発的に普及する可能性もあります。

ちなみに現在は米国のみの販売。米国以外の地域は2024年下半期とのことです。実機を触るのが楽しみです。

   

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投資1000億円のホンダ新規プロジェクト。「ムリ」と思ったら快諾された理由

会社で大規模な新規事業を立ち上げる際には、経営トップの承認が必要です。
しかしともすると超巨額投資が必要で「こんなの、絶対やめろと言われる」と思われがちです。

しかし、社員の目線と経営トップの目線は、全く違うものです。

そのことを実感した記事がありました。日経産業新聞に2023年9月4日に掲載された「ものづくり記 ホンダ・和光研究所(6) ジェットエンジンの強み生かせ」という記事です。

「空飛ぶクルマ」と言われるeVTOL(電動垂直離着陸機)は、現在、世界中で、キティホーク社などのスタートアップがしのぎを削っている分野です。再来年2025年の大阪万博でも、eVTOLの試験運用を行うと言われています。

ホンダジェットで航空業界に参入したホンダは、このeVTOLに勝機を見いだしています。

その武器がジェットエンジン。ガスタービンを電池への発電用に使うハイブリッド式パワーユニット(ガスタービンHV)を作ろうと考えています。バッテリーだけだとせいぜい飛行距離は100Km。ガスタービンHVでバッテリーを補えば、400Kmの飛行が可能です。

当初、ホンダは自社ガスタービンHVを、eVTOLメーカーに外販する交渉をしていました。交渉が難航する中で、「もしかしたら自分たちで機体も動力もやった方が、いいんじゃないか?」と考え始めました。では、なぜそう考えたか?

航空機で必要な大きな2つの技術が、機体設計とエンジンです。
航空業界では、機体とエンジンは完全に分業されています。
そして意外と知られていませんが、実はホンダは、この2つを単独で手掛ける世界唯一のメーカーなのです。

そして本田技術研究所内で、自社のガスタービン搭載VTOLの開発が始まりました。しかし投資金額は1000億円を超えることがわかりました。
開発メンバーは「絶対にやめろって言われる」という意見が大勢。
当時の本田技術研究所の社長は、現在のホンダ社長の三部敏宏さんでした。

この様子を、記事ではこのように書いています。

—(以下、記事より引用)—

結局、そのまま三部にぶつけることにした。三部の反応は意外なものだった。

「こんなにかかるのはうちだけか?」
「いや、うちだけじゃないです」
「じゃ、(eVTOLの)ベンチャーは死ぬってことか。今日はいい話を聞けた」

現在は雨後のたけのこのように世界中でeVTOLのスタートアップが名乗りを上げているが、その中で本当にTCを取って事業化までたどりつけるのは何社あるだろうか。実際、この後にキティホークは事業化を断念した。高い参入障壁は、それを乗り越えた者への先行者利益を保証する。三部は多くを語らなかったが、暗にそう言いたかったのだろう。

—(以上、記事より引用)—

このエピソードは、会社員が新規事業に取り組む際に、大きな示唆を与えてくれます。

新規事業は、しがらみを持たずに迅速に動けるスタートアップの方が、圧倒的に有利に思えます。しかしスタートアップは、1000億円を超えるような投資を得ることは至難の業です。

大企業であれば、自社の強みが活かせるのであれば、キャッシュフローの範囲内で、大規模な投資を長期間行うことが可能です。

たとえば花王のソフィーナ。1976年に研究を開始し、一時は累積赤字が最高250億円にも達しましたが、2000年に黒字化し、売上700億円です。

東レは1961年に「航空機の構造体で使えるかも」というアイデアで炭素繊維の研究を始めました。製品化は1971年でしたが、当初は「鉄の1/4の軽さで10倍の強度」を訴求して釣り竿やゴルフクラブに展開していました。その技術が自動車で培われ、今では航空機で使われています。炭素繊維も数十年掛けています。

ホンダジェットも数十年の投資が実った例です。

以上のことは、まさに「じゃ、(eVTOLの)ベンチャーは死ぬってことか。今日はいい話を聞けた」という三部さんの言葉に凝縮されています。

三部さんは2021年の社長就任会見で、いきなり「2040年までに、ホンダの世界販売を100%、EVとFCVにする」と発表して、大きな話題になった経営トップです。

大企業には、大企業の戦い方がある。

そして「会社を本気で変えたい」と考える経営トップは、現場社員とは全く違う目線を持っているのです。

   

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ハリウッドのストは、自分ごとで考えよう

映画の都・ハリウッドで、脚本家と俳優によるストライキが続いています。

日本から見ていると「AIの台頭に反対しているなんて、古いよね」「昔のラッダイト運動と同じだ」という意見もよく聞かれます。

実際のところ、どうなのでしょうか?

そのことがよく分かる記事があります。2023年8月7日(月)の日経産業新聞に掲載された下記記事です。

「動画配信番組の待遇改善を」米映画スト、日本人俳優に聞く

ハリウッドで活躍する日本人俳優・松崎悠希さんへのインタビューです。

映画俳優は常に仕事がある訳でないので、印税収入という仕組みがあります。
映画に出演すると、TV放送やDVD化で二次使用料として印税が入ります。

松崎さんは映画「硫黄島からの手紙」の出演料は280万円、TV放送やDVD化の印税は700万円でした。

しかしNetFlixなどの配信はブラックボックス。出演料はやや高めでも印税は少ないのです。DVDから配信に変わって、松崎さんの収入は激減しました。

さらに映画製作会社は、AI俳優化を進めています。
自分の姿が360度スキャンされ、映画に使われるわけです。

スキャンで支払われるのは1日分のギャラですが、そのデータを印税の取り決めもせずに映画製作会社は永遠に使えるわけです。こうなると、俳優の仕事自体が消滅しかねません。

現在のAIテクノロジーでは、良質な学習データが不可欠です。しかし映画製作会社は、学習データの取扱いがグレーなまま、われ先に大量の学習データをかき集めています。そしてこれは映画俳優の生活を根こそぎ奪いかねないわけです。長期的な視点で考えると、これは映画ビジネスの将来にとって決してよいことではありません。

このことに危機感を感じたクリエイター側が声を挙げているのが、現在ハリウッドのストで起こっていることです。

AI台頭に伴って、AIがもたらす果実をいかに公正に配分する仕組みを作るか、ということが、現在ハリウッドのストで起こっていることなのです。

歴史を振り返ると、実は同じ事が繰り返されています。それが著作権です。著作権は英語でcopy rightと言います。「複製する権利」という意味ですね。

印刷技術が出現し、本が無秩序に複製されるようになりました。そこで著者に一定期間の権利を与えて、その間に印税などで複製した売上の一部を印税として支払う仕組みができました。

松崎さんが出演した映画も、ソフトウェアも、あるいは私の著書も、この著作権により印税が支払われています。

人類の歴史では新たなメディアが生まれる度に、喧々ガクガクの議論をした末に、この著作権や印税を新解釈することで、価値を共有する仕組みが導入されてきたわけです。

今回議論されているAIの学習データについても、同じことが起こる可能性があります。

AIはあまりにも急に成長を続けています。現在のビジネスの仕組みでは追いつけない部分が多々あります。だからこそ「AIに学習させる学習データの権利をどのように公正に分配するか」という視点で考えると、私たちもビジネスでも同じ問題があるのではないでしょうか。

ハリウッドのストは、決して対岸の火事ではないのです。今こそ自分ごとで考えることが必要なのです。

   

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監視技術は、人類の価値観を変える?

2023年6月30日の日本経済新聞一面に、こんな特集がありました。考えさせられる内容でした。

『テクノ新世 「ビッグ・ブラザー」姿現す日』

ポイントをピックアップすると…

・中国の監視カメラによる監視技術が、アフリカ諸国などに浸透中
・中国は政府主導で、この2005年以降40ヶ国に輸出
・西側諸国は「監視技術? プライバシー侵害でイヤだよね」となりがち
・アフリカ諸国は「中国製のカメラで監視?別にいいよ。犯罪がなくなり暮らしやすくなった。何が問題?」
・作家オーウェルは1949年にディストピア小説「1984年」で、あらゆる言動を国家が監視する近未来を描いた。しかし今や監視社会は安心安全の理想郷の姿を装う
・一方で使途を逸脱すれば権力の暴走の危険もはらむ。法の支配と人権の配慮は?

…という内容です。

歴史の経緯を考えると、悩ましい問題ですね。

西側諸国もかつて犯罪が多発してきました。しかし数百年間かけて「犯罪は厳罰」「倫理的に振る舞うべきだ」という価値観が徐々に浸透して、信頼社会が構築されました。

しかしデジタルの仕組みを使えば、すぐに「犯罪すると損」という社会が構築できます。そして国民も「安心して歩けるようになった」と歓迎しています。

監視技術を導入する国は、西側諸国から「権力の暴走を生む」と言われてもピンとこないでしょう。国内犯罪は減りますし、政権側からすると権力強化はむしろ歓迎されるかも知れません。

監視技術を輸出する中国政府は、彼らの課題に確実に応えているわけです。中国政府からすると「みんなハッピーで、誰も困っていないじゃん。何が悪いの?」なのかもしれません。

00年代に中国で電子マネーが普及した時のこと。アリババが電子マネーの決済履歴を活用し、融資の際に借り手の信用度を貸し手に提供する「芝麻信用」というサービスを始めました。

「個人情報を勝手に使うのってダメでしょ」と思われがちですが、信用スコアが高い人は有利な条件で融資を受けられるので、利用者は積極的に情報を提供したそうです。現実的な判断ですよね。

一方で西側諸国がこのような監視技術を懸念しているのは…

・よき振る舞いは、倫理観に基づくものなのか?
・よき振る舞いは、損得勘定に基づくものなのか?

この辺りの価値観の違いが生まれてくる懸念が、根底にあるのかもしれません。

「損得勘定でよき振る舞いをしよう」という考え方は、「損しなければ、勝手に振る舞ってもいいんだ」となりがちです。

現在、デジタル監視技術を導入しているのは、人口が急増する発展途上国です。デジタル技術の活用で、従来の西側諸国とは違う価値観を持つ国が、急速に増えつつあることに対する不安が背景にあるようにも思います。

そして50年〜100年後に振り返ると、人間の価値観が大きく変わっていく過渡期がこのタイミングなのかもしれませんね。

   

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ヒョンデEV戦略成功のカギは、サービスマーケティング

2023年6月5日のテレビ東京「ワールド・ビジネス サテライト」で、韓国ヒョンデ(現代自動車)のEV戦略が紹介されていました。

ヒョンデは20年前にも日本市場に参入しましたが、撤退しています。この時の反省が「日本市場に合わせていなかった」。そこでEV時代を迎えて、満を持しての日本市場再参入です。

この戦略が、実に興味深いものでした。

まず、オンライン販売のみです。

現時点でEVを買うのは、キャズム理論でいうところの新しいモノに抵抗がない「イノベータ」「アーリーアダプター」です。だったらアーリーマジョリティやレイトマジョリティが重視する店舗展開は不要、との判断なのでしょう。

さらに、災害が多い日本市場に併せて外部電源機能付きモデルを投入。ちなみに日本で人気のテスラは、外部給電機能はないそうです。電気代が安い夜間などに充電すれば、電気代を抑制することもできます。

以上は商品戦略とチャネル戦略ですが、さらにカギとなるのがサービスマーケティング戦略。

買う側からすると「店舗がないとしたら、保守サービスはどうなるの?」となるわけですが、ヒョンデは、整備拠点から来た出張整備士が各家庭を訪問しています。

EVはガソリン車よりも部品点数が少ないのが特徴。だから出張整備で修理が間に合うことも多いのです。

そんなヒョンデは、1年でこの新型EVのアイオニック5を700台を販売したそうです。

これは、まさにEVの特性を考えたサービスマーケティングですね。

デジタル時代になって、本格的にモノとサービスが融合し始めています。

このモノとサービスの融合について、慶応大学名誉教授の井関先生は、「牛肉の赤身=モノ、脂身=サービス」にたとえて、次の3段階でわかりやすく説明しています。

■第1段階 すき焼きと脂身(顧客の要望で脂身)
この段階ではサービスは必要悪です。従来の店舗での保守サービスはこちらですね。

■第2段階 サーロインステーキ(脂身は赤身に付随するが分離)
サービスは差別化要素です。ヒュンデの出張サービスはこの段階です。

■第3段階 松阪牛(赤身と脂身は霜降り)
サービス/モノが一体化します。EVで言えば、自動運転サービスになるとこの段階ですね。

いまやモノづくり企業こそ、サービスマーケティング戦略の巧拙が問われる時代。自社が展開可能なサービスがどの段階にあり、将来はどの段階に進化できるかを考える上で、参考になる考え方だと思います。

   

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「AIだからマチガイないと思うの。だってAIなんでしょ」

先日、テレビニュースを見ていたら「うわッ」と思いました。
それはAIを活用した何かのサービスについて、街頭でインタビューする場面でした。家庭の主婦と思われる女性が、こう答えているのです。

「これ、AIだからマチガイないと思うの」

この時、こう思いました。

「うわッ! これが普通の反応なんだなぁ。でもそりゃ、そう思うよね」

chatGPTを使った人はわかると思いますが、AIは実によく間違えます。

数ヶ月前、charGPTに『永井孝尚が書いた「100円のコーラを1000円で売る方法」について教えてください』と聞いた時も、『永井孝尚は「100円のコーラを1000円で売る方法」を書いていません』という回答が戻ってきて「おいおい。違うよ」と思いました。(先ほど念のためchatGPTで試してみたら、なぜか直っていましたが…)

先日6月12日に行った永井経営塾のゲストライブで、元Microsoftシニアプロジェクトマネジャーの板垣政樹さんをお招きして話し合ったときにも、この「AIよく間違う問題」が話題になりました。

そもそもAIはウソを付こうと思っていません。
AIが間違えるのは、AIの仕組みのためです。

AIは、世の中のある大量の情報を集めて、その中からパターンを見つけます。
そして質問に対して回答候補をいくつか作って、質問への整合性が高い順に答えます。
でも集めた情報の中に答えがあることもあれば、情報が間違っていたり、情報はなかったりすることもあります。
だから正解率が100%のこともあるし、10%だったり0.1%のこともあります。

AIはこんな仕組みで、決して「わかりません」とは言わずに、単に回答候補を並べるだけなのです。

でも普通の人は、こんなAIの仕組みは知りません。
だからこう思うわけです。

「この答え、AIだからマチガイないと思うの。だってAIなんでしょ」

普通の人はAIに100%正解を期待するわけです。

今はまだAIがそれほど一般的ではないので、笑い話で済みます。

でもAIが本格的に普及する近い将来、実はよく間違うAIを「AIだからマチガイない」と思うことは、実に危ういことです。

確かにAIによる自動運転のように、100%に限りなく近い絶対的な正確さが求められるAI活用場面もあります。

一方で、自動運転のようにパターン化できる状況とは異なり、答えが色々あったり、そもそも答えがない状況もあります。たとえば自分の将来の進路だったり、人間関係の問題です。

そのような答えがない状況こそ、私たちはいろいろと考え続けて、場合によってはAIを相談相手にしたりしながら考え続けつつ、自分なりの答えを見つけていく必要があります。

しかしそんな時に、自分で考えずにAIに思考を丸投げし、返ってきた答えを「AIだから正しい」と信じることは、実に危ういことです。

今後、AIを活用したサービスを売り物にする会社も増えていきます。
サービス提供者はともすると「AIは間違うこともありますよ」なんてやぶ蛇なことは言わずに、「AIが答えるので、人間よりも安心です」ということを売り物にする可能性が高いでしょう。これはこれで、問題ですよね。

AIが普及していく近い将来で必要なのは、この「AIは実はよく間違う仕組みになっている」というAIリテラシーを高めることではないかと思った次第です。

  

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「AIでバックオフィス職30%削減」のIBM発表から学べること

世界の金融ニュースを配信するBloombergでこんな記事が掲載され、大きな話題になっています。

「AIが5年で代替へ、バックオフィス職の30%-IBMのCEO予想」

ポイントをまとめますと、

・IBMのクリシュナCEOは5月1日のインタビューで、AIで代替可能な職務は、今後数年間、新規採用を一時停止すると言明

・バックオフィス部門(人事など)で顧客に接しない業務に携わる従業員26,000人のうち、5年間で30%がAI/自動化で代替すると想像→雇用7,800名に相当

私は長年IBMに勤務してきて感じることは、IBMが経営で取り組んでいることは、ほぼ5-10年遅れで世の中に波及していく、ということです。たとえば…

・全社統一CRM
 → IBMでは90年代にプロジェクト開始、00年頃から運用 → 日本では00年代後半から本格化

・コモディティ化した事業の売却
 → IBMではlenovoへのPC事業売却は2004年 → 日本では10年代から本格化

・オフショア化(インドなどへのリソースシフト)
 → IBMでは90年代前半に試行、00年代から本格化 → 日本では00年代後半から本格化

・人事評価へのAI活用試行(ワトソン)
 → IBMでは10年代前半から試行 → 日本では現在試行開始?

IBMで一貫しているのは、徹底した事業の効率化とムダの削減です。現場の努力に頼らずに、トップダウンで仕組み化して効率化を進めているのです。さらにIBMは先進AIテクノロジーも持っています。

そんなIBMが「この5年間でAIによって多くの職務を代替する」とCEO自ら言明しました。今後5-10年で、AIによる職務代替は確実に本格化していくでしょう。

では、何が残るか? そのヒントもインタビューに書かれています。

・(クリシュナCEOによると) 具体的には人事業務のうち、雇用証明発行、部署間人事異動は自動化される。一方で従業員構成や生産性評価などは今後10年間で代替されないと予測。またソフトウェア開発部門と顧客対応業務での採用は継続する

つまり事業戦略に関わる業務、開発業務、顧客に直接接する業務などは、AI時代でも価値を生むということです。むしろこれらの業務は、AI活用で著しく価値を高める可能性もあります。

人類の歴史は、テクノロジーの進化とともにより大きな価値にシフトしていった歴史でもあります。たとえば…

18世紀… 産業革命で動力が生まれ、奴隷制度がなくなり、第二次産業が生まれました。

19世紀… 蒸気機関車が生まれ、駅馬車がなくなり、大量消費社会が生まれました。

20世紀… コンピュータが生まれ、計算業務が消滅し、知識労働が生まれました。

今回の発表も、この流れの中にあるのだと考えると理解しやすいかもしれません。

問題は、私たちビジネスパーソンがこの時代の激流の中にあってどうするか、です。これは抽象的な言い方になりますが、結局は「お客様が必要としている、自分だけの価値」を提供することに尽きるのではないか、と思います。

AIが異次元の進化をしているいま、自分自身のマーケティング戦略が問われる時代になったとつくづく感じます。

 

引用記事リンク  「AIが5年で代替へ、バックオフィス職の30%-IBMのCEO予想」(Bloomberg.com)

 

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宇宙ロケットの各社失敗から学べること

この数ヶ月で宇宙関係の失敗のニュースが続きました。

昨年10月18日 JAXAのイプシロン6号機、打ち上げ失敗。

3月7日 JAXAのH3初号機、Ⅱ段目が着火せずに打ち上げ失敗。

4月20日 イーロン・マスク率いるスペースXの「スターシップ」が、第2段目を分離できず地上からの指令で空中爆発。

4月26日 宇宙ロケットではありませんが、ispaceの月面着陸失敗。(成功すれば民間企業として世界初)

注目したいのが、その後の対応です。

■JAXAのイプシロン:JAXAで原因究明中。原因を「ダイアフラムシール部からの漏洩」と特定。今後の原因是正処置を検討中。次回打ち上げ未定。

■JAXAのH3:原因絞込み中。現行のH−ⅡAへの影響評価も継続。次回打ち上げ未定。

■スペースXのスターシップ:数ヶ月後に次回テスト。当初から「成功確率は半々」と言っていました。今回の失敗でもイーロン・マスクは「次のテストに向けて多くのことを学んだ」と述べています。もともとスペースXは、当初は打ち上げは失敗続きでしたが、失敗からデータを取得して地道に改善を続けたことが今のビジネスに繋がっています。(ちなみにスターシップは、人類の火星移住のために開発された完全再使用型の超大型ロケットで、従来ロケット比で打ち上げコスト1/100を目指しています)

■ispace: 袴田CEOは会見で明るい顔で「着陸するまでのデータを取得しているのは非常に大きな達成で、次のミッションに向けた大きな一歩だと考えている」。今回得られた知見を活かし、2024年に2回目、2025年に3回目の着陸船打ち上げを計画。将来的には月面への定期輸送サービスの収益化を目指します。


いまや宇宙開発は、日本の国策です。JAXAや関連企業で、現場で宇宙開発に携わっておられる技術者の皆様の苦労は大変なものとお察しします。

しかしその一方で、いくら完璧を目指して検討を重ねても、机上でできることには限界もあります。実際にやってみることで、多くの学びが得られます。

そして宇宙ビジネスは競争が激化し、スピード勝負の世界になりつつあります。

高いリスクがある競争をスピードで制するためには、迅速に仮説を立てて→すぐ実行し→迅速に学んで対策を立てて→また試すこと。これに尽きます。

スペースXやispaceは、この大切さを知り抜き、現場からの学びを重視するアプローチを徹底しています。

JAXAも現在の「完璧な計画を立てる」というアプローチを、大きく見直すべき時期に来ているように感じます。

同様に「完璧を期す」という新規事業のアプローチを変えないばかりに、なかなかビジネスが立ち上がらない企業も多いように感じます。

あなたの会社は、スペースX/ispace型でしょうか? JAXA型でしょうか?


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chatGPTの社内活用判断は、鳥取県庁に学べ

chatGPTが相変わらず大きな話題です。実に興味深いのは、組織によって対応が様々なことです。

まず組織で活用する事例が次々と出てきています。

・パナソニックHD:同社傘下のパナソニックコネクトが開発した対話型AIを国内グループ企業で活用できるようにしたと発表。9万人が対象。情報漏洩を防ぐため、社内情報や営業秘密、個人情報を入力しない利用ルールも整備。

・横須賀市:実証実験を開始。文章作成・要約・誤字脱字チェックから。

・農林水産省:一部業務(ウェブサイトのマニュアル書き換えなど)で活用開始。業務効率化を狙う。公表済みの情報のみ

・広島市:県行政で活用。庁内向けプレゼン資料作成、県民サービス広報を目指し活用方法・課題を探る。

・総務省:情報の取扱いに留意しつつ、試行開始。

・東京都:小池知事が「都政における活用のあり方について検討を深める」

・東大:太田副学長より「傍観せずに変化を先取りせよ」

一方で情報漏洩リスクから社員に注意を喚起している会社も多くいます。

・ソフトバンク:業務利用のルールを周知徹底。

・アマゾン:機密情報を入力しないように注意喚起

・みずほFGなどの大手銀行:社員が業務端末からアクセスできないように設定

明確に禁止する組織もあります。

・ニューヨーク市:公立学校の学内ネットワークで使用禁止

・中国当局:国内主要IT企業にChatGPTのサービスを提供しないように指示。(政権に批判的な回答をしかねないため)

・イタリア:一時的に禁止。個人情報保護の対策中。

・鳥取県庁:答弁資料作成、予算編成、政策決定などの件の業務で使用することを当面禁止。

一方で色々な企業様のお話しを伺っていると、現実には「ChatGPTって使ったことがないので、よくわからない。どうも情報漏洩するらしいが、それは困る。だから念のため社内使用は禁止しておこう」という企業様も結構多いようです。

このように整理すると、世の中でchatGPTの問題として大きく取り上げられているのは、情報漏洩ですね。

しかし情報漏洩は、しかるべき対策を取れば対応可能な問題です。実際にパナソニックHDではそのような対策を取っているようです。

私は、chatGPTを組織で展開する上での問題は、もう一段深いところにあると思います。

ここで参考になるのが、chatGPT禁止を打ち出した鳥取県・平井知事の発言です。

『「charGPT」じゃなくて「ちゃんと地道」に。自治体の意志決定に関わることは機械任せにしない。議会答弁で使うとか色々な構想が語られているが、それは民主主義の自殺だ。入力情報には個人情報も含まれるので、秘密保持の観点でも課題がある』

平井知事は、chatGPTの本質をよく考え抜いた上で判断しているように思います。

いまやAIは、それらしい回答をすぐに作ることができます。しかしこれは、全て過去の情報に基づいています。

そしてAIが答えるのは、ネット上にある「誰それがこう言った」というの「事実」に基づく情報のみ。言い換えれば、「真実」を検証しません。

「事実」と「真実」は異なります。

その「事実」(誰それがこう言った)が「真実」なのか、そして「人として正しいことなのか」を検証できるのも、人間だけです。

そして未来のことを考えられるのも、人間だけです。

つまりchatGPTを業務で活用するには、「chatGPTは、間違っている可能性が高い」という前提で使える人が、組織にどれだけいるのか、という問題に辿り着きます。

現実にはSNSのフェイクニュースに騙される人は、決して少なくありません。お恥ずかしいことに、私もフェイクニュースに騙され、Twitterでリツィートしてしまったことがあります。(後ほどお詫びとともに訂正しました)

「chatGPTの回答は、間違っている」という前提で検証し、活用できることが必要です。

そこで必要なのが「仮説検証思考」です。
「間違っているかもだけど、仮に答えを○○○としておこう」と考え、○○○を実際に検証し、間違っていたら即座に修正し、再度確かめる、という思考法です。

現実には、この仮説検証思考を身につけている方は、多くありません。そこで社内のchatGPT展開とあわせて、この機会に仮説検証思考の習得を社内で徹底し、chatGPT活用との相乗効果を図るのも、一つの方法だと思います。

私が気になるのは、chatGPT活用の解禁や禁止を発表する組織の中で、このことを明言しているのが「議会答弁でchatGPTを使うのは、民主主義の自殺」とまで踏み込んで発言する鳥取県の平井知事しかいないことです。

いまやAIビジネス活用の判断は、待ったなし。
だからこそ、私たちはAIの本質を考えていく必要があるのだと思います。

御社の社内では、chatGPTをどのように活用しますか?


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ChatGPTって使えるの? 私の仕事なくなるの?

この1週間でChatGPTがメディアに取り上げられることが急に増えました。私の周囲にいるIT関係者の間でも、いま一番ホットな話題です。

そもそもChatGPTとは何でしょうか?

『ChatGPTは、OpenAIが開発した自然言語処理の大規模なAIモデルです。人工知能による自然な会話ができ、文章の生成や回答、文章の意図理解などを行います。様々な分野において活躍し、自然言語処理の発展に寄与しています。』

上の『』の文章は、Chat GPTに『ChatGPTを知らない人にも分かりやすく100文字で紹介してください』と質問して、ChatGPTが数秒後に返した文章です。

ちょっと驚きですよね。人間が調べるよりも速いし、日本語もAIが作ったとは思えないほど自然ですね。

このChatGPT、無料で使えます。登録もカンタンです。

たとえばこんな質問をしてみました。

質問①『永井孝尚が主催する「永井経営塾」を、中小企業の経営者向けに効果的に宣伝するメッセージを100文字以内で作って下さい。』

回答は下記でした。

回答①『永井経営塾で、あなたのビジネスを成功へ導きましょう。中小企業の経営者向けに、永井孝尚が直接指導する、現場に即した経営トレーニングを提供します。創業期からの経営課題や成長戦略にも対応。自社の強みを最大限に生かし、競争力のあるビジネスを築きましょう。』(123文字)

試しに、顧客ターゲットを中小企業経営者から企業のマネジャーに変えてみました。

質問②『では永井孝尚が主催する「永井経営塾」を、企業のマネジャー向けに効果的に宣伝するメッセージを100文字以内で作って下さい。』

回答は下記でした。

回答②『永井経営塾で、あなたのマネジメント力を飛躍的に向上させましょう。企業のマネジャー向けに、永井孝尚が直接指導する、実践的な経営トレーニングを提供します。人材育成、組織開発、戦略策定など、経営に必要なスキルを効率的に学び、即戦力として活躍できるようになりましょう。他社に差をつけるマネジメント力を手に入れ、キャリアアップを目指しましょう』(166文字)

このまま使えそうなレベルの文章が戻ってきました。
回答①と②を比較してみてください。
ちゃんと経営者とマネジャーの関心テーマを使い分けているあたりがニクいですね。(文字数オーバーですが、そこは大目に見ましょう)

3月の朝活永井塾で取り上げる道元についても質問してみました。

質問③『道元が書いた正法眼蔵を分かりやすく100文字で紹介する文章を作って下さい。』

回答③『正法眼蔵は、鎌倉時代に禅宗の僧侶・道元によって書かれた禅の教典です。直接的な言葉で表現できない禅の世界を、独自の表現力で描写しており、広く禅の教えの根本として受け継がれています。禅の初心者から熟練者まで幅広く読まれる書であり、現代においても、その智慧や啓示は多くの人々に愛され続けています。』

的確なサマリーですね。唸ります。

ただ、要注意の回答もあります。

質問④『内田和成著「論点思考」について100文字で紹介してください』

回答④『「論点思考」は、内田和成による論理思考の入門書です。本書では、問題解決に必要な論理的思考力を養うための手法や、議論の基本的なルールについて解説しています。また、著者独自の視点から、日本人が持つ「仏教的な思考回路」や「情動的な思考回路」の問題点にも触れ、より論理的な思考を身につけるためのアドバイスを提供しています。読者が自分で考え、意見を主張する力を身につけるための一冊です。』

それらしい回答です。でも間違いも多いですね。「おいおい、キミは本を読んでいないだろう」と言いたくなります。

実は、ChatGPTが凄いのはこの後です。こんな質問を返しました。

質問⑤『その答えは間違いです。この本で書かれている論点とは「解くべき問題」であり、論点思考とは「解くべき問題を定義するプロセス」です。本書のメッセージは「論点の設定を間違えると、いくら頑張っても、成果は出ない」ということであって、仏教的な思考回路などの問題点は指摘していません。ちゃんと調べて、100文字以内で紹介してください。』

回答⑤『おっしゃる通りで申し訳ありません。内田和成著「論点思考」は、論点の設定方法について詳しく解説しています。論点とは、解決すべき問題や課題の本質を捉え、それに対する答えを探求するために必要な枠組みです。本書では、論点の設定の重要性や方法、具体的な例を紹介すると同時に、論点を明確にすることで、自分や他者との議論がより建設的になることを伝えています。読者が自分で考え、問題を解決するための一冊です。』

実に素直ですね。ちゃんと反省して、ほぼ正解になりました。

そこで改めて質問④をしてみました。

質問⑥『内田和成著「論点思考」について100文字で紹介してください』

回答⑥『内田和成著『論点思考』は、問題解決に必要な論点を明確に設定することの重要性とその方法について解説しています。論点とは、問題の本質を捉え、その解決策を探求するための枠組みであり、その設定が正確でなければ解決につながらないと内田氏は主張します。具体的な例を用い、論点思考の重要性や効果的な方法を紹介しながら、自分自身や他者との議論においても論点設定を意識することで、より建設的な解決が可能となることを示唆しています。』

なんと、ちゃんと学習しています。ほぼ満点の回答です。

私の感想ですが、現時点では、アウトプットをそのまま使うのはちょっと怖いですね。

感覚的にいうと、上司から質問されると、とりあえずネットでそれらしい答えを検索して答えるような、ちょっとズルくて要領がいい見習いリサーチャーが相棒になった、という感じです。

だから手間は大きく削減できます。そしてこちら側にチェックする力があれば、それなりに使えます。

加えて、質問に対するアドバイスで素直に学習して、精度を上げていく能力もあります。しかも人間と違ってコンピューターは忘れません。疲れることも知りません。時間の経過とともに常に学習し続けて、どんどん賢くなっていく可能性が高いでしょう。(ただ間違った思想やフェイクニュースを正しいと学習してしまうという怖さもあります)

ChatGPTを開発したのは、オープンAIという会社です。この会社にはマイクロソフトが出資していて、同社のオフィス製品にもこの機能を搭載する予定だそうです。

さて、とうとうこんなAIが登場してしまいました。
私たちのホワイトカラーの仕事はかなり代替されそうです。

では私たちビジネスパーソンは、どうすればいいのでしょうか?

ここで参考になるのが、既に数年前にAIの猛威を受けた将棋や囲碁の世界です。
AI開発企業のDeepMind社が開発したAlphaGoは、既に2017年に人間の世界トップ棋士に勝っています。

一方で、弱冠20歳にして将棋五冠(竜王、王位、叡王、王将、棋聖)に輝く藤井聡太さんは、早い時期からAIを活用し、経験をAIで補って素養を開花しました。

この藤井聡太さんの成長と活躍は、AI時代に私たちがどのようにAIを活用するかを見せてくれます。

ありていにいえば、「AIを使い倒した人が勝つ」ということです。

ChatGPTを体験すると「AIって凄いなぁ。人間の価値とはなんだろう?」と思ってしまいますが、実はAI自体は、まったく何も考えていません。

哲学者ジョン・R・サールが提唱した「中国語の部屋」と呼ばれる思考実験をご存じでしょうか?

まず、中国語を理解できない英国人を、小部屋に閉じ込めます。
小部屋には小穴があって、外と紙切れだけをやり取りできます。
外から中国語の文字列が書かれた紙が差し入れられます。
英国人の彼には、「●×△□※★」という記号にしか見えません。
彼の手元には、どんな質問にも答えられる分厚い中国語の辞書があります。
辞書には各記号に対応した、別の記号が書かれています。
彼の仕事は、紙に書かれた記号に対応する記号を辞書で見つけること。
そして、紙に書き足して小穴から戻すことです。
こんな感じです。「●×△□※★」→「■▽→※」
小部屋の外にいる人はこう思います。
「この小部屋の中に、中国語を理解する博識の人が入っているぞ」
しかし英国人は、中国語も質問の内容もわからず、定型作業をしているだけです。

実は現代のAIがやっているのは、基本的にこの「中国語の部屋+英国人」と同じです。これをとてつもないスケールで巨大クラウド上でやっているだけです。ChatGPTも例外ではありません。

ですから過度に恐れる必要はありません。
ChatGPTといえども、あくまで道具に過ぎないのです。

まずは自分の仕事でどう使えるか、試してみることがお勧めです。


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「パワポができる奴は戦略が立てられない」?

時々、こんなことを言い放つ部長さんがおられます。

「パワポ(パワーポイント)ができる奴は、確かに絵は描けるけどさ。戦略が立てられないんだよなぁ」

もしあなたが就活中で、転職希望先でこんな管理職に遭遇したら、その会社への就職はやめた方がいいと思います。

まずこう発言する部長さんは、自分でパワポを作っていません。パソコンが使えないからです。

そこで係長か主任クラスの若手社員に声をかけて、「こんな感じでさ。パワポ資料作ってよ」と依頼するわけですが、往々にして指示は曖昧です。従って、ちゃんとした資料ができません。

出来上がった資料を見て、「うーん。なんかこれ、違うんだよなぁ」
こうして何度も資料は突き返されて作り直し。これは元々の指示が曖昧なのがいけないのです。

実はこうして作り直している間に、部下のアイデアを取り込んで徐々に資料が出来上がっています。しかし当の部長さんはすべて自分が考えていると思っています。

その結果、この発言になります。

「パワポができる奴は、確かに絵は描けるけどさ。戦略が立てられないんだよなぁ」

自分でパワポ資料が作れず、そして周囲の部長さんたちも自分で作れません。社内のオフィスにこもってそんな世界しかみていないので、こんな発言になります。

これは二つの意味で問題です。

1つ目は、とても非効率であること。
自分でパワポを覚えれば、ずっと短時間でパワポ資料が作れます。管理職の社内資料は、別に凝った資料を作る必要はなくて、ロジックがしっかりしていれば、文章の箇条書きでOK。こんな資料だったら、最低限のパワポ操作を覚えれば自分で作れます。現場で仕事を抱えて頑張っている部下の貴重な時間を奪うこともなくなります。「パワポ資料くらい、自分でサクっと作ろうよ」という話です。

2つ目は、会社全体に広がっているITリテラシーの低さ
こんな部長さんなので、Zoom会議に一人で参加するのなんてまずムリ。
デジタル発想もできません。
会社を動かしているミドルマネジメントがデジタル音痴なので、DXもまったく進みません。

会社全体が非効率で、かつITリテラシーも低いので、将来性はありません
だからこんな会社には、就職はやめた方がいいと思います。

現実には、私の周囲でしっかり戦略を考えられる実力派ビジネスパーソンは、パワポも上手です。ITリテラシーが高いので自分で作った方がはるかに速く確実に作れます。そもそも部下は現場で大事な仕事を抱えて頑張っています。部下にはその仕事に集中して欲しいわけです。

もしパワポ資料作成を部下に任せていたとしたら、そろそろ自分で作りましょう。

      

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「デジタルって何?」というDX先進企業ニトリの似鳥会長

先週は、毎年参加している世界経営者会議でした。
世界のトップ企業の経営者が何を考えているか、生の声で聞くことができる貴重な場です。

ニトリの似鳥昭雄会長が登壇した時のこと。今回は2部構成でした。

第1部は、一橋大学の楠木健先生との対談。
ニトリはコロナ禍でも成長を続けています。要因の1つが、製造と小売に加え物流・貿易を連携させていること。ニトリの商品は95%が海外生産で、国内に届くまで2-3ヶ月分かかります。コンテナ量は年間17万個と日本一の規模で、大型荷物ではヤマト運輸に次ぐ規模です。そこで物流センターを自社で持ち、倉庫オペレーションに投資してきました。

加えてECにも投資。ニトリのアプリユーザーは通常の2倍買うので、アプリの年内目標は700万ユーザー、将来的にアプリ売上1000億円を目指しています。アプリユーザーの7-8割は店とアプリを使い分けています。

ニトリはこのように生産から顧客に届けるまで、デジタルで一気通貫のシステムを構築しています。まさにDXの先進企業ですね。

第2部は、日本経済新聞社 編集委員兼論説委員の中村直文さんとの対談。似鳥会長と中村さんは取材を通じて昔から既知の仲のようで、対談はリラックスした雰囲気でした。

冒頭、中村さんが『視聴者から「DX移行で一番大切なことは何ですか?」という質問が来ていますが…?』と似鳥会長に尋ねたときのこと。

なんと似鳥会長はこう答えました。

『DX?なにそれ?「デジタルなんとか」って、横文字言葉は難しくてよくわからないんだよ』

そしてこう続けました。

『よくわからないけど、お客様にとって何が大切なのかを考えることですよ。自分の立場に居続けると、お客様の立場で考えるのは難しいですね』

お話しを聞いていて、まさに「我が意を得たり」と思いました。

まさに昨今のDX狂想曲の中で見失われているDXの本質を見たからです。(ちなみにDXとは「デジタル・トランスフォーメーション」の略です。世の中では色々な形で定義されていますが、要は「テクノロジーを使って企業の経営のあり方を根底から変化させること」という意味です)

あたかもDXを魔法のように祭り上げる風潮に、私は危うさを感じていました。

DXはあくまでも手段です。

本来必要なことは、お客様にどんな価値を提供すべきなのかを徹底的に考え抜くこと。
そのための手段として、デジタル化が最も優れた手段ならば、活用する。
最初に考えるべきはDXではなく、「お客様にどんな価値をどのように提供すべきか」だと思います。

「デジタルなんとかって、よくわからないだよ」という似鳥会長こそが、DXの本質を掴んでおられると思った次第です。

 

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大きく成功するには指数関数の世界を見つけ、先手を打つ

世の中の変化がますます激しくなっています。
気がつくと今までとまったく違う世の中になっていることもしばしばあります。
しかしそんな時代に先手を打つ方法があります。

このことを理解するには「指数関数的」の意味を理解することが必要です。
あなたは、次のいずれかの金額をもらえるとしたら、どちらを選ぶでしょうか?

(1) 毎日100万円ずつ積み立て、365日後に受け取る。
(2) 1万円を毎日3%ずつ増やして、365日後に受け取る。

(1)は、30日後は3000万円になり、365日後に3億6500万円です。
(2)は、30日後は2万4272円ですが、365日後は4億8482万円です。

このように指数関数の本質は「最初は小さくても時間が経つと爆発的に増えること」です。
現代の変化は指数関数的になっています。最初は小さな変化にはなかなか気がつきませんが、ふと気がつくと世の中の変化が急激に起こっているように感じてしまいます。

たとえばITの世界では集積回路の素子数が2年毎に倍増するという「ムーアの法則」があります。
コンピューターの心臓部である集積回路の演算能力は、素子数で決まります。
私がIBMに入社した1984年、最上位の大型コンピュータ(IBM 3084モデルQ)は20億円でした。
今はそのマシンよりも高性能のスマホが実質0円です。
コンピュータの演算コストは指数関数的に下がり、ほぼゼロになりました。

現代では同じようなことが様々な分野で起こっています。一例を挙げると、再生可能エネルギーです。
太陽電池の価格は1977年に1ワット当たり76ドルでした。2015年は30セント。200分の1です。
風力発電の風力タービンの生産性は過去25年間で100倍に増え、性能も10倍以上に伸び、コストは大幅に下がりました。
再生可能エネルギーのコストが指数関数的に下がり続けた結果、エネルギー全体の中で締める再生可能エレルギーの比率は、まだ比率は少ないものの2000年以降急増しています。

私たちはモノゴトを直線的に考えるので、この指数関数の概念がなかなか理解できません。

しかし指数関数の世界が教えてくれることは、未来は現在の直線上にはないということです。
未来は、指数関数的な延長線上の先にあります。
グラフの縦の目盛を10, 20, 30, 40と考えるのではなく、1, 10, 100, 1000, 10000と考える必要があるということです。ちなみにこのようなグラフ(図の右側)を片対数グラフといいます。

そして指数関数的な変化が起こり始めている小さな兆しを見つけて、タイミングを見極めて先手を打つことで、大きく成功する可能性があります。

 

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40年前にトフラーが予言していたコロナ後の世界

コロナで在宅ワークを続ける中で、今後どのようになるかを識者の方々が語っています。

実はその指摘の多くは、40年前にこの本で語られています。

「第三の波」(アルビン・トフラー著、1980年出版)

トフラーは未来学者です。本書はインターネットが本格的に普及する15年も前に出版された本です。当時私は大学生。貪るように読みました。40年ぶりに読み直すと、本書はその後の私のキャリアにとても大きな影響を与えていたことを実感します。

在宅ワークの未来については、第16章「エレクトロニクス住宅(コテージ)」で描かれています。

–(以下、本書 p.264-269より引用)—

やがて何百万もの人たちが、オフィスや工場へ通勤せず、家庭で過すーと予言すれば、直ちに激しい反論を受けるはずである。…(しかし)あらゆる社会的、経済的な要因が、労働の場所を移動する方向に集中している。

ある工場の技術部長は「技術者も含めて、10〜25%の仕事は、現在の技術でも家庭内でやれる」と言う。

HP社の生産部長も同じような予想をしている。「1000人が現場で生産に従事しているが、そのうち250人は技術系の仕事を家庭でしようと思えばできる。コンピュータ・ターミナルの設備さえ完成すれば、ホワイトカラーの研究開発部門の半数から3/4までの社員も家庭で仕事ができるようになる」

ある製薬会社の副社長によれば、問題は「何人が家庭で仕事ができるか」ではなく、「何人がオフィスまたは工場で仕事をしなければならないか」だそうである。「通信設備さえ整えば、優に75%の従業員は家庭で仕事ができる」という。

言語処理装置、ファクシミリ、コンピュータ操作台、テレビ会議装置などを設備した仕事場が低いコストで住宅内に置けるようになれば、家庭における労働の可能性は猛烈な勢いで広がるだろう。

—(以上、引用)—

先進企業の取り組みを紹介しながら、40年前に在宅ワークの方向性を正確に見極めています。
一方でトフラーは在宅ワークの姿や課題を描いていますが、それは現代の私たちが経験している姿そのものです。

—(以下、本書p.269-271より引用)—

だが、第二の波の工場やオフィスから仕事を第三の波の家庭へ移す作業を見くびってはない。従業員の勤労意欲や管理の問題、法人組織や社会組織の再編成の問題などの解決には時間がかかり、苦痛も伴うだろう。…だが「エレクトロニクス住宅」の方向へ、強い力が集中的に働いているのは事実である。

技術先進諸国は、現在、交通の危機に直面している。大衆交通機関は麻痺寸前の状態にあり、道路やハイウェーは渋滞が続き、駐車場は少なく、空気汚染は深刻化している。ストライキや故障は日常茶飯事となり、運賃は急騰している通勤費用の急上昇は、個々の労働者によって負担される。

遠距離通信装置を設置し、それを操作するための経費が、いつ通勤関係経費を下回るようになるか、重要なポイントである。交通費がうなぎのぼりなのに反し、遠距離通信に要する経費は驚くほど低下している。両者の価格の曲線は、どこかで交わるはずである。

—-(以上、引用)—

まさに日本の都市圏も満員電車での通勤が大きな問題。一方でいまやネット接続費は通勤費と比べると無視できるほど下がっています。現実には在宅ワークにすんなり切り替えた業界と、なかなか切り替えられない業界がありますが、確かに方向性は「在宅ワーク」に向かっています。

—(以下、本書p.272-273より引用)—

仕事を家庭に、または中間的手段として地域の職業センターに移すことにより、不動産にかかる莫大な費用を著しく軽減できる。本社や製造工場が小さければ不動産獲得費用は減り、冷暖房、照明、保安、管理維持の諸経費も少なくてすむ。

仕事を移し、通勤が減れば、汚染が減少する。空気清浄化のための経費が少なくて済む。

一日の勤務時間が短縮されると、それに対する通勤時間の比率は大きくなる。8時間勤務するのに1時間がかりの通勤を嫌う社員は、勤務時間が短縮されるとなおいっそう通勤時間を負担に思う。勤務時間に対する通勤時間の比率が高くなれば、往復にかかる労力はそれだけ不合理で無駄で馬鹿げて見える。通勤への不満が高まるにつれて、雇用者側は集中化された職場で働く従業員に間接的に報償を増額しなければならない。

—-(以上、引用)—

コロナ禍で在宅ワークがいかに楽かを知った私たちが感じていることでもあります。

—(以下、本書p.274より引用)—

米国やヨーロッパのように核家族からの脱皮が進んでいるところでは、家族を再び一体化しようとする要求が高まっている。歴史を通じて家族を一致団結させていた要因の一つは、仕事を共にすることだった点を記憶しておきたい。今日でも、夫婦が同じ職場で協力している場合は、離婚率が低いのではないかと思われる。

—-(以上、引用)—

四六時中家族と一緒にいることで、このことを実感した方は多いのではないでしょうか?

—(以下、本書p.276-277より引用)—

エレクトロニクス・ターミナルと備品を購入し所有した個人は、古い意味での従業員ではなく、「生産手段」の所有量が増大したのだから、事実上独立した事業家になる。家庭作業グループが小さな会社をつくって相互サービスの契約を結んだり、機械を共有する協同組合を結成するようになるかもしれない。さまざまな新しい関係や組織形態が生じる可能性がある。

家庭で仕事をすることによって家族や隣人との感情関係は深まるSF小説のような電子スクリーンが他人との間に介入する人間関係しかない世界ではなく、一つは真に人間的な関係、もう一つはエレクトロニクス傾注の間接的関係という、それぞれ異なった規則や役割を持つ2種類の人間関係が併存する世界になると思われる。

—-(以上、引用)—

前半に書かれているように、実際に独立事業家が増えてきているように実感しています。またコロナ前もメールのやり取りだけで実際に会わずに仕事が進むことは少なくありませんでした。今後はZoomなどのやり取りだけで仕事が進むことも確実に増えるでしょう。

—(以下、本書p.277より引用)—

もちろん、全労働者が家で働けるわけではないし、働こうともしないだろう。…回答不能な問題や苦悩がある一方で、新たな可能性もある。第三の波の生産方式への飛躍によって、過去から持ち越されたきわめて処理困難な問題が片づくかもしれない。…製造とホワイトカラーの両部門の生産方式が飛躍し、「エレクトロニクス住宅」の実現に到達できれば、いま人々が議論したり戦ったり、時にはそのために生命をかけている問題の多くは、時代遅れになり、論議の条件は一変するだろう。

今日労働力とされるものの10〜20%が、今後20-30年にわたってエレクトロニクス住宅に移行するなら、想像も及ばない歴史的転換が起こるだろう。

…このような歴史的大転換自体、われわれが新しい文明の縁に来ているという主張を裏付けるだろう。しかし、われわれは同時に、家族のきずな、友情、学校、企業を含む社会生活全般を変革しようとしている。技術体系、情報体系と並んで、第三の波の社会体系の創造が始まるのである。

—(以上、引用)—

いま、この転換が大規模に起きつつあります。

いずれも1980年に書かれた内容です。改めてトフラーの慧眼には驚かされます。

 

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失敗前提で成長する米国企業。成功前提で低迷する日本企業

朝活勉強会「永井塾」で、こんなご質問をいただきました。

「長年ITビジネスに関わっているので、米国企業と日本企業の考え方が全く違うことを実感しています。たとえばウーバーのように一般人の車をシェアする仕組みは、登場した当初は『荒唐無稽なアイデア』としか思えませんでした。でも今は普通ですよね」

まったくおっしゃる通りだと思いました。
これは、彼らが「競争市場が3つにわかれている」ことを理解しているためだと思います。

シェア独占で圧倒的に儲ける市場(大きいところが勝つ)
たとえば、飲料市場(コーラなど)、ITインフラ市場(Google検索など)

各社横並び競争の市場(圧倒的差別化が難しい)
たとえば、自動車業界、かつての日本の家電市場

早い者勝ちの市場(不確実性が高い)
たとえば、ITビジネス

このうち「各社横並びの市場」は、これまで日本企業が得意としてきた市場です。

「早い者勝ちの市場」は米国IT企業が成長してきた市場。カジノで賭けをするようなもので、10件やって1件当たるかどうかという世界です。FacebookやGoogleはこの市場で生まれ成長し、ソーシャルメディアや検索サービス市場で圧倒的シェアを確保し、「シェア独占で圧倒的に儲ける市場」の世界に入り、莫大なお金を生み出すようになりました。そこで得たお金を「早い者勝ちの市場」に再投資し、次のビジネスを生み出そうとしています。(Googleが自動運転に投資しているのもまさにそうです)

いまITがビジネス全体に広がっているので、「早い者勝ちの市場」は急速に様々な業界へと広がりつつあります。だから海外企業は、ITを活用する際には、「失敗してもいい。早い者勝ちなので、むしろスピード命だ」と考え、失敗前提で次々と挑戦します。

ちょうどカジノで賭け金を分散するようなもので、失敗する事業も多いのですが、数少ない事業が大化けし、全体で成長を続けています。そして大化けした事業が多くの雇用を生み出し、人が集まっています。つまりこの流れの中で人材も活発に入れ替わっているのです。

 

一方で伝統的な日本企業は「失敗してはダメだ」「全部成功させよう」と成功前提で考えるので、組織内で根回しし、じっくりと計画を立てて時間をかける一方で、あまり多くの挑戦をしません。挑戦の数が少ないので、成功する数も少なくなります。

加えて、根回ししたり計画を立てている間は、貴重な時間が無駄に過ぎています。「早い者勝ちの市場」なので成功確率はますます下がります。挑戦する数自体が少なく、タイミングを逸して確率も低いので、全体でますます縮小します。

最近、しきりに「現場に権限委譲しよう」「失敗前提で挑戦しよう」と言われるようになりました。これは根回しをしなくても済むように現場にドンドン権限委譲することでビジネスのスピードを上げ、現場では失敗前提で数多くの挑戦を行い、そこで得られた失敗から学び続けるようにしない限り、日本企業は競争に勝てなくなるからなのです。

 

備考:この3つは経営学者のジェイ・バーニーが分類したものです。「シェア独占で圧倒的に儲ける市場」は「産業構造型」、「各社横並びの市場」は「チェンバレン型」、「早い者勝ちの市場」は「シュンペーター型」が正しい名前ですが、私がわかりやすく名前を変えてご紹介しています。詳しくはハーバードビジネスレビュー2017年8月号に掲載されている「世界標準の経営理論」で、入山章栄先生が詳しく紹介しておられますので、ご興味がある方はご一読下さい。

 

 

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徹底した顧客目線が、AIビジネスを成長させる

いま、AIビジネスが爆発的に伸びています。爆発的に成長する海外のAIビジネスに共通するのは、「顧客目線をしっかり持っている」ということです。

たとえば、「次世代のインテル」とも言われているNVIDIA (エヌビディア)。

もともとNVIDIAは、GPU (Graphics Processing Unit)という画像処理専用チップを提供する老舗企業でした。

画像処理では、単純な計算がものすごく大量にあります。NVIDIAのGPUは、この単純で大量な計算を並列で行うことで、通常のCPUよりも数十倍速く完了できるようにしました。おかげで私たちは、パソコンなどで動画を自然に見ることができます。

ある日、NVIDIAのCEOは、社員からこんな報告を受けました。

「大学のAI研究者がGPUを使っています」

実はAIで大量データを学習する「デュープラーニング」という処理も、画像処理と似ています。並列で行える割と単純な計算が、ものすごく沢山あります。

これを通常のCPUで処理していると、とても時間がかかります。
並列処理に特化したGPUを使えば、数十倍に高速化できます。
たとえば数ヶ月間かかる計算が、数日間で終わるということです。
そこでAI研究者は、GPUをAIの研究に流用していたわけですね。

AIビジネスの成長を感じていたNVIDIAのCEOは「千載一遇のチャンス」と考え、経営資源をAI分野に集中する決定をしました。

早くからAIビジネスに取り組み、AI研究者を取り込んだおかげで、既にNVIDIAは自動運転に取り組む多くの自動車メーカーで採用されるなど、AI分野でデファクトスタンダードの地位を確立しつつあります。

NVIDIAの2016年度売上は69億ドル (7700億円)で、現時点で企業価値は844億ドル(約9兆円)。この出発点は、ユーザーであるAI研究者のニーズだったのです。

 

GoogleもAIビジネスに大きく投資しています。Googleでは、自社データセンターで使用するためにTPU (Tensor Processing Unit)というAI処理に特化したプロセッサーを開発し、実装が始まっています。先週、世界最強棋士に三連勝したGoogleの囲碁AI「AlphaGo (アルファ碁)」も、TPUを使っています。

GoogleがこのTPUを開発したきっかけも、顧客目線でした。
Googleは2011年頃にAI研究を本格的に始めました。
この時、ユーザーが毎日3分音声検索して音声認識のためにAIを使うと、データセンターの規模が2倍になることがわかりました。このままAIを本格的に始めると、膨大な投資が必要です。

そこでAI処理に最適化したプロセッサーが必要になったのです。
TPU開発も、Google自身がAIのユーザーであり、顧客目線を持っていたからこそ、生まれたものでした。

 

AIビジネスが爆発的に成長する米国では、ユーザーと開発が非常に近い関係にあります。

日本でも、自動運転に取り組む自動車産業のように、ユーザー目線でAIビジネスに取り組む業界も出てきています。

 

しかしながら、一方で、

「AIが流行っているらしい。何しようか?」
「AIと名前が付けば何でもいいから、ウチの商品で何かやってくれ」

という取り組みが少なくないのも、現実です。

 

ユーザーのニーズがビジネスを生むのは、あらゆるビジネスで共通です。テクノロジー産業も例外ではありません。

テクノロジーへの洞察力を持った経営陣が、徹底したユーザー目線を持ち、テクノロジーの将来像を描き、必要なテクノロジーのあり方を見据えることで、テクノロジー産業は進化してきました。

日本企業でも、かつての松下電器やソニー、そして今のソフトバンクも、そうやって成長してきました。

先進的なテクノロジー産業だからこそ、しっかりした技術の理解とビジョン、そして徹底した顧客目線か大切なのです。

 

 

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オムニマネジメント2016年5月号に連載最終回『2020年東京オリンピックは、世の中を変えるイノベーションを生み出す』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年5月号に、『2020年東京オリンピックは、世の中を変えるイノベーションを生み出す』が掲載されました。

オムニマネジメント201605

 

実は前回1964年の東京オリンピックでは、その後の日本を変える大きなイノベーションが数多く生まれました。それは1964年〆切厳守の無理難題にチャレンジせざるを得なかったからです。

今回2020年の東京オリンピックも、同じように今後の日本を変えるイノベーションを生み出す可能性は、とても高いのです。

本論文ではそのことを述べました。

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。

 

今回で連載12回目、最終回となりました。このような連載の機会をいただきましたこと、感謝します。

縮小する日本市場へ、海外有力メーカーが競って最新の掃除機を投入する理由

黒船

当コラムで何回かご紹介している掃除機市場では、海外の黒船家電メーカーが競い合って日本市場に最新異種を投入しています。

たとえばダイソン。日本市場で最新商品を先行販売しています。さらに日本の消費者モニターも募集しています。
アイロボット社が開発販売するルンバ。品ぞろえの半分は日本独自仕様です。
北欧の家電メーカー・エレクトロラックス。日本市場向けに静音性に優れた掃除機エルゴスリーを投入しています。

しかし考えてみると不思議ですよね。日本市場は少子高齢化で縮小しています。
なぜ海外有力メーカーは、縮小する日本市場へ、競い合うように最新機種や日本独自機種を投入するのでしょうか?

 

その理由を、アイロボットのコリン・アングルCEOはこう語っています。

「日本のお客さんを幸せにできれば、世界中のお客さんを幸せにできる」

 

ダイソンも、消費者の目が厳しい市場で商品を磨き上げるために、日本で最新機種を先行発売しています。
エレクトロラックスも、排気フィルター採用などの日本市場で得られた消費者の意見がグローバル商品の開発に生かされています。

きれい好きで、最新技術を受け入れ、要求レベルも厳しい消費者が集まっている日本市場は、掃除機の最先進ユーザーが集まっているのです。
言い換えれば、掃除機市場については、日本はニーズのサキドリができる貴重な地域なのです。

だから黒船家電メーカーは、技術の粋を極めた最新の掃除機を、競い合うように日本市場に投入しているのですね。

 

黒船家電メーカーは、技術面の「ものづくり」と、ニーズサキドリの「顧客づくり」の両輪を回すために、日本市場に最新の掃除機を競い合うように投入しているのです。

私たちも、黒船家電メーカーの考え方から学べることは多いのではないかと思います。

 

御社の商品・サービスの最先進ユーザーは、どこにいるか?

そこから見えてくるものが、きっとあるはずです。

 

 

1999年、IBMはあることをやめて、2000年代に大きく成長した

太陽と新芽2

「永井さんはIBMご出身ですよね。IBM時代に事業変革に関わったご経験で、日本企業にとって参考になるエピソードがあったら教えてください」

研修の質疑応答で、こんなご質問をいただきました。

私はこのようにお答えしました。

 「強力なライバルが、一夜明けるといきなり最重要パートナーになる経験をしました。企業規模の大小や業種を問わず、様々な企業で参考になると思いますので、このお話をします」

 

1998年、私は製品開発マネージャーからマーケティングマネージャーに異動になり、IBMが自社開発していたある業務用アプリケーション製品のマーケティングを担当することになりました。他社の業務用アプリケション製品は、強力なライバルでした。(業務用アプリケーションとは、顧客管理、会計、人事管理のように、業務用に作られたソフトウェアのことです)

 

翌年の1999年11月。IBM本社は、ある宣言をしました。

「業務用アプリケーションの開発・販売をする会社は、IBMにとって重要なパートナーです。ですので、IBMは今後、業務用アプリケーション製品の自社開発は行いません」 (注:これは「デベロッパー憲章」と呼ばれています)

 

自社開発の業務用アプリケーションに携わっていた現場の私たちにとって「今やっていることはやめる」と言われたのですから、このIBM本社の方針転換はまさに晴天の霹靂(へきれき)でした。

 

なぜIBMは、このような宣言をしたのでしょうか?

実は当時、ユーザーがライバルの業務用アプリケーションを使う際には、IBMのハードウェア・システムソフトウェア・サービスと組み合わせて使うことが多かったのです。

その理由は、IBMが持つ本来の強みにありました。

1999年当時、お客様が業務用システムを使う場合は、自前でシステムを用意する必要がありました。システムを用意するためには、複雑なIT系システムをすべて統合することが必要です。(ちなみに現在は、多くの業務用システムがクラウドで提供されているので、ユーザーは自前ですべての業務用システムを用意しなくてもよくなりました)

そのような課題を持っているお客様にとってIBMの強みとは、「他社製業務用アプリケーションに、サービス・ハードウェア・システムソフトウェアを統合して、提供できること」だったのです。

たとえばIBMのサービス部門には、他社業務用アプリケーションを統合できる高いスキルを持つエンジニアが数多くいました。

IBMのハードウェア部門には、他社業務用アプリケーションに最適化した製品群がありました。

しかしIBMが自社開発アプリケーション製品に固執すると、他社製業務用アプリケーションに、IBMのサービス・ハードウェア・システムソフトウェアを提供する機会を失ってしまうことになります。

そこでIBMは、業務用アプリケーションの自前主義を捨てたのです。

 

現場で自社開発の業務用アプリケーションに関わっていた人達は、大変でした。

まず、それまで開発を続けてきた自社開発の業務用アプリケーションを今後どのようにしていくのかを決めなければなりません。私自身も、個別対応策に追われました。

 

さらにライバルだった会社が一夜明けると最重要パートナーになったので、営業の仕組みも大きく変わりました。

これまで自社開発の業務用アプリケーションに関わっていたマーケティングやセールス担当者は、それまでライバルだった他社の業務用アプリケーションと自社ハード・ソフト・サービスを組み合わせて、統合ソリューションとして販売することが仕事になりました。

それまではライバルには極秘だった案件情報も、新たにパートナーとなった相手に定期的に情報共有する仕組みを作り、お互いに協業責任者を置き、一緒に販売する体制も整えました。

 

自社開発アプリケーションをやめた結果、それまでの手強いライバルは、一緒にビジネスを開拓する心強いパートナーに変わりました。しかも、すべての業務用アプリケーションを開発・販売する会社がパートナーになったのです。

2000年代、IBMのハードウェア・システムソフトウェア・サービスといった主力製品/サービスのビジネスは、大きく成長しました。

 

この経験で私が学んだことは、自社の強みと、その強みを活かせるお客様の課題を見極めた上で、強化するモノ、やめるモノ、追加するモノを明確にし、全社でその戦略を共有し、首尾一貫して、徹底的に実行することの大切さでした。

今回のケースを整理すると、次のようになります。

IBMの強み:他社製業務用アプリケーションに、サービス・ハードウェア・システムソフトウェアを統合して、お客様に提供できること

お客様の課題:複雑なIT系システムをすべて統合すること

やめるモノ:自社開発の業務用アプリケーション

強化するモノ:他社の業務用アプリケーションに最適化したハードウェア・システムソフトウェア・サービス

追加するモノ:他社の業務用アプリケーション・パートナーとの協業体制

 

「IBMさんは大企業だからね。ウチは中小企業だから、参考にならないよ」と思われる方がいるかもしれません。

しかし、そうではありません。この基本的な考え方は、企業規模や業種が変わっても重要なのです。

御社がやっていることは、昔は意味があったとしても、もしかしたら今はお客様にとっては意味がないかもしれません。それをやめることによって、新しい事業が生まれる可能性もあるのです。

むしろIBMのような巨大組織でなく、小回りが利く小さな会社こそ、この考え方を迅速に実行できる環境は整っているはずです。

そのためには、常に「現時点で、お客様にとっての自社の強みは何か?」を問い続けることが必要なのです。

 

とは言え、多くの日本企業は、なかなか「やめるモノ」を決められません。決めても、なかなか実際に捨てることが実行できません。しかし「やめるモノ」を実際にやめなければ、新しいことに挑戦しても、中途半端になってしまうことが多いのが現実です。

逆に考えれば、1998年から1999年のIBMのように、戦略的に自社の強みと、その強みを活かせるお客様の課題を見極めて、「やめるモノ」「強化するモノ」を考えて実行することで、日本企業は大きく成長する余地が残されているはずです。

 

 

 

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「ヘッドピンの存在を信じる」マツダ スカイアクティブ成功の裏側

Ten Pin Bowling Pins And Ball

マツダは4年連続赤字やフォードの出資比率低下による信用低下などによる苦境を乗り越え、現在好調です。このマツダの好調に大きく貢献しているのがスカイアクティブ・テクノロジーです。

しかしマツダは業界トップのトヨタと比べると規模は1/10以下。エンジン周りの開発人員に至っては、フォードとの共同開発案件に駆り出されていたこともあって、数十分の一でした。そんな状況で、「燃費を30%以上改善しながら、走りの楽しさも実現する」という目標を立てて、スカイアクティブ・テクノロジーが開発されました。

 

マツダのスカイアクティブ・テクノロジーの挑戦については、「100円のコーラを1000円で売る方法2」や当ブログでも何回か紹介しました。

開発本部長としてこの開発を陣頭指揮された、マツダ・常務の人見 光夫さんが、著書を出されました。

「答えは必ずある---逆境をはね返したマツダの発想力」(人見 光夫著)

マツダの挑戦については、これまで主にマスコミの記事で報じられていましたが、人見さんご自身が何を語られるのかとても興味があり、拝読しました。

 

やはり現場で格闘されている人の言葉には重みがあります。

いくつかご紹介したいと思います。

—(以下、引用)—

もっとも、私たちの「選択と集中」は前述のとおり、多くの選択肢の中からどれかよさそうなものを選んでそこに集中するということではなく、さまざまな課題に共通している主要共通課題を賢く選択して、その部分の解決に集中するという意味である。 ボウリングのように、後ろのピンがすべて倒れるようにヘッドピンにうまく当てるのが理想だ。

(中略)

最も重要なことは、ヘッドピンの存在を信じることだ。 常に、そうした目でものごとを見るという習慣が何よりも大事だ。そうすれば、必ず見えてくる。一人ではダメでも、チーム力を駆使すればそれができる。

—(以上、引用)—

本書ではこの「ヘッドピン」という言葉がよく出てきます。

自動車開発に限らず、実に多くのケースでこの「ヘッドピン」というのは存在する、ということは、私も実感します。

ともすると私たちは、常識に囚われたりして、表面的な現象を問題の原因と考えがちです。しかし、様々な視点でその奥深くに潜む本当の原因は何かを徹底的に考えることが必要になります。

様々な現象の本当の原因を徹底的に考え、シンプルな原因に辿り着くことで、ヘッドピンが見えてくるのです。

逆に言えば、対策が10個もある状態では、まだまだ思考が不足している証でもあるのです

 

競争について語っている箇所もあります。

—(以下、引用)—

自動車業界を見渡せば、現在でもそうした後追いはある。なぜ後追いをするのか。不安だからだ。不安になるから真似をする。

—(以上、引用)—

「不安だから真似をする」というのは、まさにその通りだと思います。

日本企業に限らず、世界を見渡しても、成功している他社の模倣をする企業はとても多くあります。

しかし成功企業の真似をしようとしても、100%真似をするのは不可能です。成功企業は独自の強みを持っているからです。だからコピーしたつもりでも「劣化版コピー」にしかならず、「安価な代替品」になってしまうことも少なくありません。

我々は、「模倣は、実はリスクが大きい」ということに、気がつく必要があるのではないかと思います。

 

仕事のあり方についても、語っている箇所があります。

—(以下、引用)—

だから、私はできるだけものごとをシンプルに考えて、仕事は減らさないといけないと言っている。もちろん、ラクをするためではない。無駄をなくし、より重要で、全体最適に貢献する仕事をするためだ。 そこを解決すれば、品質もよくなるし、性能もアップする。そしてコストも安く済む。そうした課題を見つけるという発想で課題を探し、ソリューションを考える。それがつまり、仕事を減らすということの意味だ。

—(以上、引用)—

「品質と性能をアップし、コストを削減し、仕事を減らす」

相矛盾するように聞こえますが、実はシンプルな理想形を徹底追求すると、不可能なことではありません。

無駄を排除すること、言い換えれば、不要な様々なモノを切り捨てればよいのです。

それは仕事だったり、製品だったり、あるいはお客様だったりします。

しかし私たちは、この「不要な様々なモノを切り捨てる」ことがなかなかできません。企業は組織ですから、当然ながら利害関係者の反対もあります。

そのためには、価値観と、全体最適の姿を徹底的に共有するチームワークが大切になってきます。

 

スーパーマンのように見える人見さんですが、先行開発部での仕事が長く、ご自身のキャリアの中で、実際の商品開発には関わってこられなかったため、このように語っておられる箇所もあります。

—(以下、引用)—

すでにそれなりの年齢になっていたのに、特に満足感や達成感が得られないまま過ごしているという焦燥感も強かった。自分の仕事がなかなか商品化されない。たとえ商品化されたとしても、技術者としてどれだけのことをしたのかと問われた時に説明ができない。山のようにある技術のうちの数種類に携わったというだけのことでしかないという虚しさだ。

(中略)

考え方、技術のとらえ方を変えないと、「何もできないまま、サラリーマン人生終わりだな」と日に日に強く感じるようになっていた。

—(以上、引用)—

会社に務められて、同じような気持ちを抱えながら仕事をしている方は多いのではないかと思います。

 

等身大で語られる本書から、私たちが学べることは多いと思います。

Google/Appleは自動車業界を制覇するのか?

TechCrunchで、「自動車業界は1985年のIBMと同じ道を辿ろうとしている」という記事が掲載されています。

1985年当時のIBMは、コンピュータ業界で最強とも言える巨人でした。絶好調のパソコン事業では、OSはMicrosoft、CPUはIntelをパートナーとして組んでいました。しかしその後、Wintel連合が業界を牛耳ることになりました。

当記事の主張は、現在、自動車業界がダッシュボードをGoogleとAppleに明け渡そうとしているのは同じことである、という点です。

 

当時、私は新入社員としてIBMにいました。業界の中でリアルタイムにこの怖さを肌身で感じた世代です。

新規事業立ち上げの際に、自社に足りない部分を他社に頼る判断はよく行われます。「新技術でよくわからない分野はベンチャーや専門家に任せて、自分たちは現時点で大金を生み出すキャッシュカウに集中しよう」という考え方ですね。

そして任せた部分がいつの間にか業界標準プラットホームになり、各社がこのプラットホームに準拠しなければならなくなり、将来莫大なキャッシュフローを生み出すプラットフォームを明け渡してしまうのです。

 

今、自動車業界で起こっている変革は、人工知能、センサー機能、膨大な数のセンサーから生み出される巨大なビッグデータへの対応、自動運転、ロボット技術、など、かなり膨大なテクノロジーの集合体です。30年前にIT業界で起こっていたCPUやOSといったものと比較するとかなり大がかりな資本と人材を必要とします。

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現在アナログな自動車業界がデジタル化した時点を見据えて、Googleは莫大な資金と人材をこの分野に投入しています。

 

また現代では、企業や組織の壁を越えて、様々な技術を持ち寄って、イノベーションを推進していく「オープンイノベーション」も主流になりつつあります。

30年前と同様、少数企業がプラットホームを独占し業界を牛耳るのか?

それとも自動車業界や電機業界などのメーカー主導でいくつかの業界標準が生まれ、群雄割拠の状況になるのか?

大きな分かれ目でもあると思います。

 

IoT (Internet of Things)の時代になり、同じことは急速に様々な業界で起こりつつあるように感じています。

技術的な卓見性を兼ね備えた戦略を立てて、愚直に実行するイーロン・マスクの凄さ

イーロン・マスクについては、当ブログでも何回かご紹介してきました。

宇宙ビジネス・電気自動車・太陽エネルギーに挑戦するイーロン・マスクの実像。「モノゴトに魔法はない。志を持って実行するのみ」

火星移住に向けて着実に宇宙ロケット技術を進化させているイーロン・マスク

 

このイーロン・マスクの取り組みからは、実に色々なことを学ばされます。

その一つが、

①最初にぶれない戦略を立てること
②そして、それを愚直に実行すること

 

たとえばスペースX社では、このように考えました。

SpaceX_logo.svg

現状:既存のロケットは特注品であり、材料コストは2%。一方、民生品でたとえばパソコンは材料コストは90%。しかもロケットは再利用せず使い捨て
戦略:ロケットの総コストは1/100程度に引き下げることは可能。民生品を使用し、再利用する。
実行:3回の失敗を重ね、創業8年目に独自開発の宇宙ロケットを軌道投入して回収。民間の宇宙船としては史上初。さらにロケット回収技術も試行錯誤を繰り返しながら開発中。

 

電気自動車を開発販売するテスラでは、このように考えました。

tesla2

現状:電気自動車はコストが高く、エコカーとしてなかなか普及が進まない。
戦略:まずプレミアムカーとして10万ドルを超える高級車を発売。次に5万ドル程度のミドルクラスの4ドアセダン。最後は大衆の手に届く2万ドルクラスのエントリー車を大量に生産。
実行:レーシングカーの名門・英国ロータス社と共同開発契約を締結。納期遅れとコスト増で苦しみ顧客の前払い金を私財で保証までしながら電気自動車を開発。その経験に基づき蓄積した技術を活かして、ミドルクラスに広げる。量産効果でエントリー車を量産。

 

そのテスラで最近発表したTesla Energyブランドの蓄積型バッテリーユニットでは、このように考えました。

現状:原子力発電と比較して太陽光発電が劣るのは、発電の安定性。昼間の太陽が照る時間しか発電できない。
戦略:高信頼性があり、スケーラブルなバッテリーを低コストで量産すれば、太陽光エネルギーの不安定性を補える。これを20億台展開できれば、全人類のエネルギーを太陽光発電で代替できる。現在世界で20億台の自動車があるので実現不可能な数字ではない。
実行:テスラーの電気自動車で試行錯誤しながらバッテリーを実装。

 

イーロン・マスクはある雑誌のインタビューでこのように語っています。

「革命的なブレークスルーによってではなく、コツコツと地道な努力を積み重ねることで成し遂げたんだ」

技術的な卓見性を兼ね備えた戦略性に、日本企業のお家芸でもあった愚直な仮説検証の積み重ねが加わったイーロン・マスク。

今後も目が離せません。

エレクトラックスが価格競争に陥らない理由

「黒船家電の掃除機」というと、ダイソンとアイロボットが有名です。それぞれ「吸引力」や「自働ロボット」といった尖った機能を売りにしています。

実は他にも、国内掃除機市場で伸びている黒船家電があります。北欧のエレクトラックスです。

この会社の売りは、「音が静かなこと」。

「掃除機は音がうるさい」という常識を覆し、赤ちゃんが寝ていたり、家族がテレビを見ていても、安心して掃除機をかけることができます。

 

日経ビジネス2015年3月9日号『企業研究:エレクトロラックス 「音」で打倒ダイソン』という記事で、詳しく紹介されています。

—(以下、引用)—

確かに、「音」は、日本の掃除機市場を牽引する外資2大勢力、ダイソン及びルンバシリーズの数少ない弱点の一つだ。サイクロン方式と強力なモーターでゴミを吸引するダイソン製掃除機は、その構造上、静粛性を追求するには限界がある。ルンバも在宅の際に利用すると、稼働音は人によっては気になるレベルに達しかねない。

 一方、エルゴスリーの運転音は約43デシベル。一般的な掃除機(約70デシベル)の6割程度で、例えると図書館や深夜の市街地レベルしかないという。この静粛性へのこだわりこそが、エルゴスリーが日本で評価を高めている原動力となっている。……

—(以上、引用)—

補足すると、実際には10デシベル違うと大きさは1/10になります。つまり43デシベルのエルゴスリーは、70デシベルの一般的な掃除機よりも、音量が数百分の一。

圧倒的な静音ですね。

 

成熟市場のように思われがちな白物家電ですが、エレクトロラックスはどのように考えてこのような製品を出しているのでしょうか?

記事ではその点についても言及しています。

—(以下、引用)—

 ……なぜエレクトロラックスは家電事業を拡大させようとするのか。その背景には、「白物家電には膨大な改良余地が残されており、そこをクリアすれば需要は掘り起こせる」という独自の発想がある。

 ……ある1つの信念で結び付いている。「現状の家電はまだまだ使う人に心地よくない部分が残っている」だ。

 同社の開発部隊は、掃除機の運転音に限らず、「現状の家電が持つ人に優しくない部分」を根絶するため、日々、異常とも言える実験を続けている。

—(以上、引用)—

 

記事では、経営幹部の言葉を紹介しています。

—(以下、引用)—

掃除機などのデザインを担当するペルニラ・ヨハンソンVPは説明する。

 仮に白物家電市場が成熟しつつあっても、“使って心地よい家電”を追求していくことには広大なフロンティアが残されていると考える。「これからも音や重さ、デザインなどに限らず、ユーザー自身さえ気が付いていない不快の源やニーズを探っていく」。

—(以上、引用)—

 

まさに消費者自身も「当たり前」と思っていて気がつかない困っている課題を先取りし、解決することで伸びているのですね。

しかし改めて、なぜ白物家電なのか?

そこにはしたたかな戦略があります。

—(以下、引用)—

実はそこには、「使う人にとって心地よい白物家電はまだ改良の余地がある」という思想に加え、もう一つ、重要な理由がある。「白物家電市場はデジタル家電に比べ安定している」(マクローリンCEO)がそれだ。

 冷蔵庫や洗濯機、掃除機、調理家電は、「清潔に生活したい」「おいしいものが食べたい」など人間の根源的欲求を満たす製品で、市場が消えることはない。買い替え需要が発生するし、新たな付加価値を打ち出し顧客に認められれば、高くても買ってくれる顧客がいる。

……着実に成長を遂げることができたのは、「主戦場は白物家電」「作るのは人に優しい家電」という2つの絶対軸をかたくななまでに貫き続けた結果だ。

—(以上、引用)—

 

顧客が気がつかないニーズを掘り起こし、応え続ければ、差別化を続けることができ、価格競争に陥らない、ということですね。

 

あらためて、「顧客が気がつかないニーズを掘り起こし続け、自社の強みを活かして、応えること」が、差別化の源泉になるということがわかります。

これは家電業界に限らず、ほとんどの業界で共通なことだと思います。

定期的にバックアップしているけど、本当にリストアできるのか?

現在、私は下記ウェブサイトを管理しています。

永井孝尚オフィシャルサイト

ウォンツアンドバリュー株式会社

Takahisa Nagai Photography

仕事の多くの部分はウェブサイトを中心に回っているので、ウェブサイトがなくなると途端に仕事が滞ります。

2012年にレンタルサーバー会社のファーストサーバで大規模な顧客データの消失事故(実際には全体の顧客数の1割)が起こったのも、記憶に新しいところ。

多くのレンタルサーバーでは、データのバックアップはユーザーの責任です。有料オプションでバックアップサービスを提供するケースもあるようですが、基本、自己責任ということですね。

 

ということで、私は毎週、自分が管理するサーバーのバックアップを取るようにしています。

と言っても、サーバー上の全ファイルを1つのファイルに圧縮し、自分のMacにコピーを取るだけ。自分のMacもTimeCapsuleで1時間毎にバックアップコピーを取っているので、これである程度の冗長性を確保できます。

作業自体は、3つのサーバー全部で、手作業で5-10分程度です。

 

しかし一方で、万が一の場合、本当にこのデータから回復できるのだろうか、という問題があります。

 

以前、日本IBMに勤務していた頃、まったく新しいサーバー用データバックアップソフトウェア製品の基本戦略を立てたことがあります。

その当時、ユーザーの実態調査をして、意外なことがわかりました。

実は半数以上のユーザーがバックアップを取った後に、リストア、つまりバックアップデータからシステムを元通り復旧できるかどうかを確認していない、ということです。

加えて、実際にリストアをしてみたユーザーの多くが、実はちゃんとリストアできなかったという実態も判明。

つまり、半数以上のユーザーがバックアップを取るだけで安心してしまい、実際に必要な時にそのバックアップデータが役立っていなかったのが実態だった、ということです。

障害を経験したユーザーにとっては大きな課題ですが、障害未経験のユーザーにとっては気がつかない課題だったのですね。

これは、新製品の基本戦略を考えるにあたって、大きなヒントになりました。

 

そこで自分も、バックアップしたデータからリストアできるのか、念のため試してみました。

別レンタルサーバーに移行して遊休状態にあるレンタルサーバーが一台あったので、試してみたところ…。

無事、バックアップデータから簡単に復活できました。

まずは一安心。

 

「バックアップは取ってみたけど、リストアできるかどうかわからない」と不安な方もおられるのではないでしょうか?

ITインフラは、今やどんな企業にとっても、生命線です。

一度、お試しになってみると、安心だと思います。

パスワード強度が足りない

以前から、英字4文字と数字4文字を組み合わせたパスワードを使ってきました。

これまではこれで、いわゆるパスワード強度(不正アクセスによる破られにくさ)はそこそこ高かったのですが、先日、WordPressの初期パスワード設定でこのパスワードを使おうとしたら

「強度…弱い」

との判定。「あれ?!」と思いました。

時代と共に、パスワードに求められる強度は上がっているのですね。

今では、数字と英字混在させるだけでなく、桁数を多くしたり、大文字小文字混在にしたり、特殊記号を使うといったことが必要なようです。

ということで私の場合、用途に応じて、パスワード強度を高める必要があるサイトでは、パスワードを変更しています。

ちなみにパスワードで使われる文字の種類と桁数で、解読時間はどうなるかを示したサイトもあります。→こちら 2年前のものなので、計算能力が向上した今ならもっと速くなっているでしょう。

パスワード強度は、今後、ますます高めていく必要がありそうです。

生体認証も1つの解決策ですが、偽造の可能性はゼロではありませんし、人に依存することなので、バックアップをどうするかがカギになりそうですね。

高画素競争が新段階にステップアップしてきたデジカメ

CP+2015を控えて、超高画質のデジタル一眼が増えてきました。

キヤノン EOS 5Ds……有効5,060万画素/フルサイズ→記事

オリンパスOM-D E-M5 Mk II……8枚合成で4000万画素/フォーサーズ→記事

既にソニーも3640万画素のα7Rを出していますし、ニコンも3635万画素のD810を出しています。

これだけ高画素になると、得られる画像が圧倒的に高画質になりますが、ファイルも巨大です。

キヤノンのサイトによると、EOS 5Dsの5,062万画素で得られる画像サイズは8688×5792ピクセル。ファイルサイズはJPEGでも14.1MB。RAWだとなんと60.5MBになります。

デジカメWatchの記事に よると、有効1,605万画素のセンサーを0.5ピクセルずつずらして16Mの画像を計8枚を撮影する40Mハイレゾショットを搭載したオリンパスOM- D E-M5 Mk IIで、40Mハイレゾショットを撮ると、JPEGで約20MB、RAWだと約100MBとのこと。

以前だったら考えられない巨大ファイルです。

しばらく2000万画素前後で推移し、高画素競争が一段落していたデジカメの世界ですが、8Kの普及が視野に入り、スマホのデジカメ機能向上の影響もあるためか、ここ1-2年で新たな段階にステップアップしているように感じます。

「デジタルが全てを壊す」…写真作品制作のデジタル化から

私は1980年代から1990年代まで、写真の個展を開催するなど、かなり写真活動に力を入れていました。

この頃は、写真を撮った後、作品プリントに仕上げるまでこんな感じでした。

0日目:現像所受付に行き、フィルムを現像に出す

1日目:翌日、現像所受付に行き、現像フィルムを受け取る

2日目:プリントする写真を選んで、現像所受付に行き、プリント依頼する

7日目:現像所受付に行き、プリントを受け取る(仕上がりが合っていない場合は、再プリントを依頼)

数えてみると、現像所受付には最低4回行く必要がありました。

当時は勤務していた所属部門の事情で都内事業所を頻繁に引っ越ししていました。オフィスが引っ越すと最初に行ったのは、夜遅くまで開いている現像所を探すことでした。

赤坂に勤務していた頃は、六本木1丁目にある日本発色に行ってましたし、築地に勤務していた頃は、銀座のコダックイマジカや日本発色の常連客でした。

仕事が終わって会社を出て、閉店間際の現像所受付に駆け込んで、現像の注文をしたり、仕上がりを受け取ったりしていたのですね。

こんなことを繰り返しながら作品を溜め、写真展を行っていました。

今は、作品プリントも含めて、現像所に行く必要が一切なくなりました。

まず現像が不要。撮影したら、イメージが残っている間にすぐにRAW現像し、JPEGデータを作ります。

そしてプリントも簡単。(ちなみに私は、カラープリンターは持っていません)

たとえば富士フイルムのスーパーデジタルプリントクリスタルでは、ネットで高品質のクリスタルプリントの注文ができ、自宅に配送してもらえます。クレジットカード決済以外にも、後日の銀行振込なども用意しているので安心です。

価格もデジカメ普及前のクリスタルプリントは六つ切で1枚2,500円位だった記憶がありますが、半額以下の1,008円。かなり安くなっています。

ちなみに「デジカメでキレイな写真を撮れたな」という方は、一度、この富士フイルムのスーパーデジタルプリントクリスタルを試してみることをお勧めします。きっとプリント品質の高さに驚かれるのではないかと思います。

実はこの変化が起こっている裏では、現像する人、写真を焼く人(プリンター)、そしてフィルムを開発・生産・流通・販売する人たちの仕事がなくなっています。

その一方、写真のデジタル化が進んだことで、写真作成に関わるあらゆるプロセスが迅速化・高品質化・低価格化しています。

日経ビジネス 2015.2.2号で、米アクセンチュアのピエール・ナンテルムCEOによる「デジタルが全てを壊す」という対談を掲載しています。

記事によると、アクセンチュアは、①あらゆる分野で進むデジタル化に対応するサービスと、②顧客企業の合理化や生産性向上を支援するサービスの2つにフォーカスし、マーケットシェアを伸ばしています。

写真作品制作のデジタル化で起こったのと同じことが、今、あらゆる業界で起こっています。

ライフワークの写真ホームページを14年ぶりにリニューアル

写真のホームページを一新しました。“Takahisa Nagai Photography”というサイト名で、海外からのアクセスを意識し基本は英語版で、シンプルにしました。

 

出来上がったサイトは…、”Tokyo Bay Area”という作品はこんな感じ。合計40点あります。

tba.jpg

 

作品をクリックすれば、もちろん大サイズで次々と見ることができます。

tba-work.jpg

 

こちらは「風の景色」という作品。こちらは合計36点。

wind.jpg

 

こちらは”Scene of Italy”というイタリアで撮影した作品。こちらは写真の個展は未開催で、合計28点。

italy.jpg

 

これは大学生時代に撮影した「都市の光景」(Scene of City)というモノクロームの作品で、合計21点。

city.jpg

 

個人プロフィールはこんな感じ。

about.jpg

 

お問い合わせもできます。

contact.jpg

  

私がライフワークの写真で、ホームページ上で作品発表を始めたのは、1996年です。振り返ってみればもう19年も前ですね。

当時はhtmlの書き方などを説明するマニュアルもなく、既存のホームページのソースを参考に、秀丸で手でhtmlタグを打ち込んでいました。サーバーのディスク容量はたった5MB。写真画像もノイズを押さえてサイズが最小限になるように加工するなど、色々と工夫をしました。

その後、ホームページビルダーが登場し、独自ドメインを取って「風の写真館」というサイトを作りましたが、2001年以降はほぼ現状維持のまま大きな変更をせず、現在に至っていました。

当時、写真のホームページ作成は、写真作品の数だけ表示サイズ調整が必要になり、結構手間がかかる作業でした。

 

今回、リニューアルで掲載した写真作品は合計125点ありますが、WIXを活用して作ったので、1日で完成しました。

WIXではサイズも自動調整し、Chome上のhtml5エディターでデザインし、即クラウドに反映され、すぐに公開できます。

こういうデザインは、ホームページビルダーよりもWIXの方が得意なようですね。独自ドメインも取れますし、既にドメインを持っていれば引き継ぎも簡単です。 

技術は格段に進化しています。

 

今年、写真には力を入れたいと考えていますので、今回、まずはそのインフラ作りが出来ました。

今後、作品は追って追加していきます。

Macユーザー向けムック本に、インタビュー記事を掲載いただきました

私は20年近く使っていたThinkPadから、2011年にMacに乗り換え、今はすっかりMacユーザー。Macなしでは仕事も何もできない状況になりました。

そんな私の経験について、枻出版社様のムックでインタビュー記事を掲載いただきました。

「iPhoneユーザーにMacBook Airをすすめる10の理由」

こんな感じで合計4ページの記事です。

枻出版 iPhoneユーザーにMacBook Airをすすめる10の理由.jpg

 

インタビューでは、ThinkPadからMacBookに移行した自分の実体験を中心に、苦労した点や、移行してよかった点、これから移行する人へのアドバイスなどをお話しさせていただきました。

 

Macを使い始めて3年半でかなり慣れてきたものの、本書を読むと、まだまだ知らなかったこともたくさんありました。

Windowsからの移行についても色々と書かれていますが、現行Macユーザーも十分に楽しめる本だと思います。

気がつくと、Mac、iPhone、iPadをスムーズに連携させて使うようになっていた

気がつくと、Mac、iPhone、iPadをかなりスムーズに連携させて使っていることに気がつきます。

EvernoteとDropboxで、データに関してはかなりシームレスに連携が取れるようになりました。iPhone一台持って出歩けば、連携させているデータについてはどこでも見ることができます。

メールも、Gmailを使ってどれでも受信・発信できます。こちらに書きましたように、Gmail以外のドメインのメールも、Gmailで受発信できます。

本は、今はまずKindle版がないかを調べてから買うようになりました。Kindleは主にiPadで、電車の中ではiPhoneで読んでいますが、現在読んでいる場所は自動的に連携してくれます。また読書中にラインを引いたりコメントをつけた箇所は、KidnleのWebサイトからMacのEvernoteに取り込むこともできます。

Facebook、Twitterも、どれを使っていても違いを意識することはありません。

 

思い返せば、iPhone (3GS)を初めて買ったのは2009年6月で5年半前。
Macを初めて買ったのは、2011年8月で3年半前。

ガラケーとThinkPadを主に使っていたほんの数年前は、こうなることは予想できませんでしたね。

 

自分がこういう状況なので、アクセスする人たちのことを考えると、自分のホームページもスマホ対応は必須なのは自明のことなのかなと思います。

幸い、今のホームページビルダーで作ればちゃんとスマホ対応できるので、ありがたいです。

ホームページビルダーSPがとても使いやすい

10年以上、ホームページビルダー(以下、hpb)を愛用しています。

4年前にWindowsからMacに移行してからも、VMware Fusion + Windows7を入れてMac上で動かしています。

最新バージョンは19。開発販売元のジャストでは、「このバージョンになって、ドラッグ&ドロップで簡単にホームページが作成できるようになった」としています。→ジャストのサイト

 

実際にはhpb 19を買うと、hpb SPとhpbクラシックの2つのバージョンが付いてきます。

「ドラッグ&ドロップで簡単にホームページが作成できる」のが、hpb SP。

ただしhpb 18以前で作成したホームページは、hpb SPでは修正できません。hpb 18以前で作成したホームページを修正するには、hpbクラシックを使います。hpbクラシックはhpb 18までの操作性を踏襲したもので、細かい使い勝手は改善されているものの、「ドラッグ&ドロップで簡単にホームページが作成できる」バージョンではありません。

私はhpb 19を買ったものの、当面はhpb 18以前のバージョンで作成したホームページの管理をする目的で使ったので、主にhpbクラシックを使っていました。

 

このたび新しいホームページを立ち上げることになり、hpb SPを使い始めています。

まだ使い始めて2日間ですが、とても使いやすいですね。

「ドラッグ&ドロップで簡単にホームページが作成できる」のも魅力ですが、個人的に気に入っているのは、編集対象(オブジェクト)を選ぶと、そこで編集できる機能だけが表示されること。hpb 18以前では、hpb 18の全機能が画面に出ていたので、どの機能を使うかかなり迷いました。今は迷うことなく選べます。

独立したツールだったウェブアートデザイナーなども、hpb SPでは本体に取り込まれ、必要な時に呼び出されるようになりました。これも使いやすくなりました。

html編集はできなくなったようです。恐らく何かの理由があると思いますが、html編集ができると何かと都合がよい場合も多いので、できれば復活していただきたいですね。

 

今後作成するホームページは、hpb SPで作ろうと思います。

『「製品開発の前に、プロトタイプで顧客へ検証を」と言うが、現実にはプロトタイプ開発には時間もお金もかかるので、無理』という思い込み

顧客が「少々高くても、是非欲しい」と思うようなマーケティング志向の製品を開発するにはどうすればよいか?

本格的な製品開発に入る前に、対象となる顧客とその課題、そしてどのような価値を提供するかを見極めて、さらに製品のプロトタイプ(試作品)で、それらの仮説が正しいかを検証することです。

 

しかし、このように考えるケースも多いのではないでしょうか?

『確かに一見もっともな意見だが、現実にはプロトタイプと言っても、開発には時間もお金もかかるので、無理』

 

しかし多くの場合、これは思い込みです。

プロトタイプで検証すべきなのは、仮説として考えた課題と解決策が、正しいか。

必ずしも完全な製品は必要ないからです。

 

たとえば以前に当ブログでご紹介したオンラインの靴販売サイト・ザッポスでは「靴をオンラインで買う顧客がいる」という仮説を立てました。

しかし巨額をかけてリアルなオンライン販売管理システムを構築することはありませんでした。

そのかわり、近所の靴屋で写真を撮ってサイトに並べ、注文の度に店で売値で買うようにしました。この方法なら、個人でも簡単にサイトを作れることが出来ます。

こうして仮説を検証し多くの学びを得て、ザッポスは成長を始めました。

 

また、あるまったく新しい鼻の外科手術器具の開発では、医療機器メーカー、外科医、デザイン会社で、構想を議論しました。

しかしまだ誰も見たことがない未発明の製品です。立場が異なる参加者はそれぞれ身振り手振りで説明するも、話は堂々巡りを続けます。

その会議の途中、若手エンジニアが席を立ち、5分後にあるモノを持ってきました。

ホワイトボード用マーカーの根元に、黒い写真フィルム容器をテープでぐるぐる巻きに括り付けて、さらにフィルム容器の端っこを洗濯ばさみで挟んだものでした。→ここにその写真があります。

制作時間にして5分。費用 数百円程度でしょうか?

身振り手振りを繰り返していた外科医は、「そう、まさにこれだよ!」

この製品は、業界スタンダードの電子メスになりました。

Ideo “Diego Powered Dissector System for Gyrus ACMI, ENT Division”より。

 

プロトタイプで検証すべきは、仮説と解決策。

絞り込んで考えると、色々なアイデアが出てくるはずです。

トム・ケリーやデイヴィッド ケリーが提唱する「デザイン思考」は、その方法論を提供してくれます。(出典: 「イノベーションの達人」 トム・ケリー著 p.53-55)

いつも使っているGmailで、簡単に独自ドメインメールを受発信する方法

現在準備中の独自ドメインで、メールの受発信も行いたいと考えています。

一方で普段使っているメールはGmailです。スパム対策やセキュリティ設定も優れており、外出先でスマホでもメール受発信ができるので、できればGmailで独自ドメインのメールも使えればいいな、と思っていました。

そこで調べたところ、簡単に設定できることがわかりました。備忘録を兼ねて、メモ書きします。

なお、さくらインターネットのレンタルサーバーのケースで書いています。別サーバーをお使いの方は読み換えていただければと思います。メールサーバー管理者が別にいる場合は、その方の協力が必要です。

(また、私はこの方法でメール受発信できるようになりましたが、技術的に正しいかどうかは検証していません。実施される方は自己責任でお願いします)

(1) まず、さくらインターネット側の設定からです。サーバーコントロールパネルでメールアドレスを作ります。 (メールアドレスのパスワードも設定)

(2) 作成したメールアドレスの転送先に、自分のGmailのアドレスを指定します。なお、Gmailアカウントへのアドレス追加の際に、確認コードがさくらインターネットのアドレスに送られてくるので、この時点では「転送専用にする」ではなく、「メールボックスに残す」にチェックしておきます。

(3) この時点では、メールアドレスは「名前@xxxxx.sakura.ne.jp」になっています。独自ドメインを取得していれば、これを「名前@独自ドメイン」に変えられます。
サーバーコントロールパネルで「メールアドレス毎の設定」をクリックし、画面右側のテーブルにある該当メールアドレスの「ウェブメール」をクリック、次に出てくる画面で「メール」→「設定」をクリックし、「設定対象ドメイン」で登録済の独自ドメインを選び、「このドメインをデフォルトにする」をチェックします。これでメールアドレスが独自ドメインになります。

(4) 次にGmail側の設定です。Gmail画面右上の歯車マークをクリックし、「アカウントとインポート」を選び、「名前:」の中の「メールアドレスの追加」をクリックします。

(5) 「別のメールアドレスを追加」の画面で、「名前」にメールで使用したい名前を入れて、「メールアドレス」にさくらインターネットのメールアドレスを入れ、「次のステップへ」をクリックします。

(6) 「メールアドレスを編集」の画面で、「SMTPサーバー経由で送信します」をチェックし、「SMTPサーバー」にxxxxx.sakura.ne.jp (名前にはsmtpは付けないこと)、「ユーザー名」にさくらインターネットのメールアドレス(@以下のドメイン名も含めること)、そして「パスワード」に(1)で設定したパスワードを入力し、「変更を保存する」をクリックします。

(7) アカウント認証のために、Gmailから確認コードがさくらインターネットのメールアドレスに送られるので、(3)のウェブメールの画面で確認し、ここで入力します。

 

これでGmail上で独自ドメインメールの受発信ができるようになります。

一通り設定が終わったら、上記(2)の画面に戻って「転送専用にする」をチェックしておくと、さくらインターネットのメールボックス容量は圧迫されなくなります。

 

さらにiPhoneで使うためには、iPhone用のGmailアプリを使用する必要があります。iPhone純正のメールソフトでは、独自ドメイン宛メールの受信はできますが、発信はできないからです。Gmailアプリであれば、独自ドメインメールで発信できます。

 

ブラウザー上のGmailではなく、PC用のメールソフトでメール受発信する場合は、別途メールソフトの設定が必要になります。(割愛します)

(なお、これは2014/12/25時点の情報です。後日ご覧になった方は、変更されている可能性もありますのでご了承ください)

大野耐一著「トヨタ生産方式」…36年前の本ですが、大きな学びがあります

大野耐一さんが書かれた「トヨタ生産方式」は1978年の出版。36年前の本です。

これを読もうと思ったきっかけは、エリック・リース著「リーン・スタートアップ」で、頻繁に本書が引用されていたからです。

アマゾンで調べたところ、Kindle版がありました。これはありがたいですね。

 

ともすると「36年前のビジネス書は古いんじゃないか?」と思いがちですが、素晴らしい本はとても学びがあります。

—(以下、引用)—

 必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給する「ジャスト・イン・タイム」をどのようにしたら実現できるかを私は考え続けた。私はものごとをひっくり返して考えるのがすきだ。生産の流れは、物の移動である。そこで私は物の運搬を逆に考えてみた…

 いま「後工程が前工程に、必要なものを、必要なとき、必要なだけ引き取りに行く」と考えてみたらどうか。そうすれば、「前工程は引き取られた分だけつくればよい」ではないか。たくさんの工程をつなぐ手段としては、「何を、どれだけ」欲しいのかをはっきりと表示しておけばよいではないか。  それを「かんばん」と称して、各工程間を回すことによって、生産量すなわち必要量をコントロールしたらどうか、という発想となった。

—(以上、引用)—

「まず必要なアウトプットを考える。そして、そこからさかのぼって考える」という考え方は、「最初にまず買いたいという顧客を見つける」というリーンスタートアップの考え方に大きな影響を与えたのではないかと思います。

 

ではトヨタは、どのようにこれを実現したのでしょうか?

—(以下、引用)—

 トヨタ生産方式の基本思想を支えるのは、これまで触れてきた「ジャスト・イン・タイム」と、つぎに触れる「自働化」であり、「かんばん」方式は、トヨタ生産方式をスムーズに動かす手段なのである。

(中略)

この自動機にニンベンをつけることは、管理という意味も大きく変えるのである。すなわち人は正常に機械が動いているときはいらずに、異常でストップしたときに初めてそこへ行けばよいからである。だから一人で何台もの機械が持てるようになり、工数低減が進み、生産効率は飛躍的に向上する。

(中略)

いっぽうの「自働化」は生産現場における重大なムダであるつくり過ぎを排除し、不良品の生産を防止する役割を果たす。そのためには、平生から各選手の能力に当たる「標準作業」を認識しておき、これに当てはまらない異常事態、つまり選手の能力が発揮されないときには、特訓によってその選手本来の姿に戻してやる。これはコーチの重大な責務である。

—(以上、引用)—

人が介さない「自動化」と、人が介する「自働化」が生み出す価値を区別して考えることは、ITが普及した現代こそ、再びじっくり考えるべきポイントです。

 

—(以下、引用)—

企業のなかのムダは無数にあるが、つくり過ぎのムダほど恐しいものはない。

—(以上、引用)—

「作りすぎ」を、「過剰在庫」ではなく、「顧客ニーズに合わない製品」と読み換えると、まさに顧客の課題に合っていない売れない商品を作り出している今の企業が抱えている課題そのものです。

だからこそ、トヨタ生産方式を現代の製品開発に進化させたリーンスタートアップのような方法に注目が集まっているのでしょう。

 

トヨタで有名な「五回のなぜ」についても書かれています。オリジナルの本書では、どう書かれているか見てみましょう。

—(以下、引用)—

たとえば、機械が動かなくなったと仮定しよう。

(1)「なぜ機械は止まったか」 「オーバーロードがかかって、ヒューズが切れたからだ」
(2)「なぜオーバーロードがかかったのか」 「軸受部の潤滑が十分でないからだ」
(3)「なぜ十分に潤滑しないのか」 「潤滑ポンプが十分くみ上げていないからだ」
(4)「なぜ十分くみ上げないのか」 「ポンプの軸が摩耗してガタガタになっているからだ」
(5)「なぜ摩耗したのか」 「ストレーナー(濾過器)がついていないので、切粉が入ったからだ」

トヨタ生産方式も、実をいうと、トヨタマンの五回の「なぜ」を繰り返す、科学的接近の態度の累積と展開によってつくり上げられてきたといってよい。

五回の「なぜ」を自問自答することによって、ものごとの因果関係とか、その裏にひそむ本当の原因を突きとめることができる。

私は、生産の現場に関しては、「データ」ももちろん重視してはいるが、「事実」をいちばんに重視している。問題が起きた場合、原因の突きとめ方が不十分であると、対策もピント外れのものになってしまう。そこで五回の「なぜ」を繰り返すというわけである。これはトヨタ式の科学的態度の基本をなしている。

—(以上、引用)—

このように「五回のなぜ」はただやみくもに考えるのではなく、あくまでも「事実」を起点に考えることが必要です。

商品開発の場合も、アイデアを考えるだけではなく、顧客のリアルな反応といった事実をもとに考えていくことが必要です。

そのための方法が仮説検証なのですね。

 

本書のごく一部を紹介しました。

本書は生産方式について書かれていますが、自分の仕事に当てはめて読んでいくと、とても学びが多い本です。

 


高城 剛著「2035年の世界」 今後20年間に何が起こるか、ポイントを押さえて概観できます

高城 剛著「2035年の世界」を読了しました。

高城さんが書かれたので、当初は技術面が中心だと思っていたのですが、実際には社会や人間のあり方までが書かれていて、とても参考になりました。

以下のセクションで構成されています。

セクション1:身体科学

セクション2:科学

セクション3:移動

セクション4:スタイル

セクション5:リスク

セクション6:政治

セクション7:経済

セクション8:環境

 

ここ1-2週間話題になっている「指数関数的に進化する人工知能は、人類にとって脅威になるのではないか」という点についても、高城さんとしての回答を出しておられます。

コンパクトな本ですが、今後20年間に起こる可能性がある事象についてポイントを押さえて幅広く概観できます。

今後の社会動向を考えて戦略の打ち手を考える立場にある方には、ご一読をお勧めします。

Mac版Evernote 6.0が不安定→直りました

世界経営者会議でEvernote CEOのフィル・リービンさんの講演を聴いてから、Evernoteを使うようになり約3週間です。

Mac、iPhone、iPad間で同期し、メモも共有できるので、早くも手放せない道具になっています。

 

これまで手ぶらで外出ということは滅多にありませんでした。以前はちょっとした外出でもMacを持ち歩き、そうすると他にも色々と持っていく必要があるので荷物が多くなっていました。

しかし今ではiPhone6を1台だけで手ぶらで出かけることも増えました。Evernote、Dropbox、Kindle、SmartNews、Gmail、Google Calendar等のおかげで、色々な情報を取ったり、思いつきの簡単なメモを取れるようになったためです。

 

そんなきっかけになったEvernoteですが、Mac版の動作が不調でした。問題は二つあって、

①ノートのタイトルが「無題」になってしまう

②画像ファイルやPDFファイルの文字認識ができない

おかしいなぁ、と思っていたら、オルタナブロガーの種田さんのこのエントリーをきっかけに不具合が直りました。

「Evernote アプリケーションで PDF 内のテキストが検索できなくなってしまったときの解決方法」(mtanedaブログ)

私の場合は、種田さんの解決方法に加えて、Mac版Evernoteをアンインストールした上で、App StoreでなくEvernoteのサイトからMac版Evernoteをインストールすることで解決しました。(種田さんのブログにあるように、ライブラリーのデータも削除する必要があるようです)

種田さんに感謝です。

 

現時点(2014/12/4)でEvernote 6.0 Mac版のApp Storeでも同様の不具合が起こっている人のコメントが多いようです。

最近App StoreからMac版Evernote 6.0をインストールまたはアップグレードした人は、見直した方がいいかもしれませんね。

 

SmartNews Compass 2014に参加しました

昨日2014/12/1に東京ANAホテルで行われたSmartNews Compass 2014に参加しました。

「日本のIT業界でも、マーケット・イン発想でテクノロジーに徹底的にこだわり、最初からグローバル展開を考え海外の経営人材も採用し、成果も出し始めているSmartNewsのような企業が出てきたのだなぁ」と、大きな感銘を受けました。

 

まず、SmartNews 40名の社員のうち、半数以上はエンジニア。物理系研究者出身の方が多く、「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションのもとで、技術を磨いています。

戦後間もなく急成長したソニーやホンダといった日本のベンチャーも、設立当初はこんな感じだったのかもしれない、と思いを馳せました。

 

さらに、米国で政治記者を長年務め、The Wall Street Journal Onlineを立ち上げ、デジタルジャーナリズムの世界最大組織Online News Association(ONA)を創設した米国人も、SmartNewsの経営陣に参加しています。

またSmartNewsは最近、米国版を出荷しました。これは日本語版と同一です。設定で「各国版」の項目を「アメリカ合衆国」に変えると、米国と同一コンテンツを見ることができます。

2年前に当ブログの『消費者が「体験」を求めるグローバル時代に必要な、「サービス製造業」の考え方』というエントリーで書いたように、製品とインフラを世界共通プラットホームとして提供します。

 

またSmartNewsをお使いの方は、最近広告が違和感なく表示されるようになったことに気がついた方もおられるのではないでしょうか?

今回、SmartNews Adという広告事業の開始を発表しました。

“Ads as Contents”という考え方のもとで、広告もコンテンツの一部と捉えて、高度な最適化と配信アルゴリズムを持つAd Technologyにより広告配信しています。

SmatrNews Ad NetworkのPartnersとして、ミクシー・森田社長が登壇された他、産経デジタル、毎日新聞、サイバーエージェント、グリー、DeNAなども参加されています。

既にクライアントは50社。今回はその中からライフネット生命とエンジャパンのご担当者も登壇しました。

 

このようなイベントに参加するのは久しぶりでしたが、とても刺激を受けました。

何よりもITmediaにおられた時にとてもお世話になった藤村さんがお元気そうに活躍されていて、嬉しく思いました。

是非、SmartNewsが世界に羽ばたいていただくことを願っています。

 

詳しい様子は既にITmedia Newsでも紹介されていますので、興味がある方は、そちらもあわせてご参照ください。

世界経営者会議(11) 再び1日目:アミトコ ニクラス・ゼンストローム 共同創業者件CEO

世界経営者会議のレポートの続きです。

今回登壇した経営者19名の中には、テクノロジーベンチャーキャピタルの経営者もいました。

アミトコ共同創業者兼CEOのニクラス・ゼンストロームさんは、かつてスカイプを創業した方です。

ニクラスさんの話から、よく語られることが多いシリコンバレー視点とはまた別の視点で、テクノロジーベンチャーの今の姿を知ることが出来ました。

 

■アミトコ ニクラス・ゼンストローム 共同創業者件CEO

なぜアミトコを作ったか?

スカイプはシリコンバレーの外で成功した、当時として非常に数少ないテクノロジーベンチャーになった。

実は2002年、スカイプの資金調達をしようとしたが、誰も資金提供してくれなかった。自分はスウェーデン人で、スカイプは欧州生まれだ。シリコンバレーの外では、このような会社に投資する仕組みは、当時なかったのだ。

この経験により、英国でテクノロジーベンチャーキャピタルのアミトコを創業した。シリコンバレーの外で、財務的インフラを提供するためだ。

現在、10億ドル以上の企業価値があるネット企業の6割以上がシリコンバレーから生まれている。たとえばストックホルムで生まれたSpotify(音楽ストリーミング配信サービス)のように、欧州でも新しい会社が続々生まれている。東京でも同様だ。

 

(日本のベンチャーをどう見ているか、という質問に対して)

昔から日本のモバイルを注目していた。多くの技術が日本にある。かつて日本の起業家は国内市場だけを見ていたが、最近になってグローバルも見るようになった。

日本のSmartNewsにも投資をした。パイオニアだと思う。既にニュースの世界でNo.1だし、海外にも出て行こうとしている。創業者が技術にフォーカスしているし、シンプルなユーザー体験を提供している。多くのスタートアップで、若い有能な人たちが増えるといいと思う。

 

(新しい技術のトレンドはどうか、という質問に対して)

人がその技術自体に気がつかなくなっていく方向にある。(気がつくととても使い勝手がよくなっていて、その裏で最新技術を活用している、というイメージ)

色々な技術の組合せて、モノゴトを単純化していくようになっていく。ソフトウェアだけでなく、ビッグデータやクラウドがある。オンライン・オフラインの境目がなくなる。そしてものすごく効率が上がっていく。

 

【所感】

シリコンバレーのようなインフラも、わずか10年間でグローバル化しつつあります。

日本では渋谷を「ビットバレー」と呼び、ベンチャー企業とベンチャーキャピタルが次々と生まれた時期がありました。同じタイミングで同じことが欧州でも起こっていたのです。

一時期、”The World is Flat”という本が流行りました。実体経済では必ずしもフラット化しておらずむしろ民族主義などの問題が起こっています。しかしテクノロジーベンチャーの世界では、世界のフラット化は急速に進んでいると感じました。

 

【世界経営者会議レポート】

世界経営者会議(1)1日目:IBM・ロメッティCEO、日立・中西CEO

世界経営者会議(2)1日目:KPMGインターナショナル・ビーマイヤー会長

世界経営者会議(3)1日目:iRobot コリン・アングル会長・CEO 製品中心の会社は、マーケティング力も卓越していた

世界経営者会議(4)1日目: Evernote フィル・リービンCEO

世界経営者会議(5)2日目: LIXIL 藤森義明 社長兼CEO いないのは「プロの経営者」よりも、むしろ「プロのマーケター」

世界経営者会議(6)2日目: チャロン・ポカパン(CP)グループ タニン・チャラワノン会長兼CEO 「中国市場のチャンスは無限だ」「インターネットは飽和し、実体経済の変化が重要になる」

世界経営者会議(7)2日目: SMインベストメント テレシタ・シー・コソン副会長 平均年齢23才と若いフィリピンは、なぜ急成長しお金を持っているのか?

世界経営者会議(8)2日目:タイ石油公社(PTT) パイリン・チョーチョーターウォン社長兼CEO タイはバイオハブになる

世界経営者会議(9)2日目:サンミゲル ラモン副会長、社長兼COO ASEAN統合は、アジアの新たな発展の契機になる

世界経営者会議(10) 再び1日目:欧米製造業の対応 ーなぜ彼らはアジアにR&D拠点を移すのか?

世界経営者会議(11) 再び1日目:アミトコ ニクラス・ゼンストローム 共同創業者件CEO