インサイトに続き、新型プリウスが発売になりました。
インサイトも新型プリウスも、戦略的な価格設定になっています。
価格設定には大きく分けて「コスト基準型」と、「価値基準型」があります。
自動車の価格付けは、製造コストを積み上げたうえで利益を乗せる「コスト基準型」が一般的だったのではないでしょうか?
これに対して新型プリウスでは、「この値段だったら売れる」という価格(最低価格205万円)を設定しています。スペックアップにも関わらず、この価格でも利益が出ているのは「さすがトヨタ」ですが、この割安感のために予約受注は8万台を越えたとのことです。
インサイトも189万円という戦略的な価格設定で、先月の新車販売台数第一位を獲得しています。
これらは、まさに「価値基準型」ですね。 まず「これなら売れる」という価格を設定し、必要な利益を差し引いて、残ったコストで製品を作る、という考え方です。
一般に、「価値基準型」の価格設定は、現代の価格付けであると言われています。
しかし、実は100年前にこの方法で価格設定を行った有名な事例があります。
そして、その事例について述べた論文が書かれたのは1960年。もう50年も前のことです。
ハーバード大学教授だったセオドア・レビットは、歴史的論文「マーケティング近視眼」で以下のように述べています。
—(以下、引用)—
世間は決まってフォードを生産の天才としてほめるが、これは適切ではない。彼の本当の才能はマーケティングにあった。
フォードの組み立てラインによってコストが切り下げられたので売価が下がり、500ドルの車が何百万台も売れたのだ、といわれている。しかし事実は、フォードが1台500ドルの車なら何百万台も売れると考えたので、それを可能にする組み立てラインを発明したのである。
大量生産は、フォードの低価格の原因ではなく、結果なのだ。
….フォードがその経営哲学を簡潔に述べた文章を紹介しよう。
「当社のポリシーは、価格を引き下げ、事業を拡大し、製品を改良することである。価格の引き下げを第一に挙げたことに注意して欲しい。….まず価格を引き下げる。その後で、その価格で経営が成り立つように懸命に努力している。当社はコストで頭を痛めることはない。新しい価格が決められると、それにつれてコストを下げるからである。….
….まず価格を低いところに決め、その価格で経営が成り立つよう、全員が最も効率よく働かざるをえないようにすることだ。….このように追い込まれた状況の中で、製造方法や販売方法について発見を重ねていくのであって、時間を掛けてゆっくり調査研究した結果ではない」
—(以上、引用)—
この方法、現代の日本でインサイトと新型プリウスが実現した価格付けと同じですね。
T型フォードは、米国で、それまで限られた富裕層の贅沢品だった自動車を大衆のものにしました。
それから100年後、インサイトと新型プリウスは、日本で、ハイブリッド車を普通の車に変え日本の省エネ化と地球温暖化防止を実現できるでしょうか?期待したいところです。
しかし、進化著しいマーケティング戦略の世界で、50年前の論文が今でも輝いているという事実は、改めてマーケティングの奥深さを認識させてくれます。
ヘンリー・フォードの「わらのハンドル」を最近読み返したのですが、「当社のポリシーは~」の部分とまったく同様のことがフォード自身の言葉で丁寧に解説されていました。とても100年前の経営者が描いていたビジョンとは思えません。この不況を生き抜くためのアイデアがいくつも埋め込まれているように思います。
マーケティング戦略や戦略に適した組織体制の構築によりフォードを凌駕したGMが破産手続きへカウントダウン中で、フォードがひとまず大丈夫そうというのも皮肉なものです。
今はアルフレッド・スローンの「GMとともに」を読んでいるところです。なんとなく読み終わるまで破産せずにいて欲しいと感じています(笑)