私は日本IBMで30年間仕事をしてきましたが、その半分以上はグローバルコミュニケーションを通じて仕事をしてきました。
この時の経験は、東洋経済オンラインの連載「ストーリーで学ぶグローバルコミュニケーション力」でご紹介してきました。
この連載でも書きましたように、TOEIC 900点の高得点者でも米国人との交渉がうまくいかない人がいる一方で、必ずしも英語が上手でなくても交渉がうまくいく人もいます。
かく言う私は、入社時にはTOEIC 475点の低スコアで、当初は英語でのコミュニケーションには大変苦労しました。今は英語に慣れたとは言え、ネイティブにはほど遠い状態です。
しかし、仕事を通じて海外の同僚を相手に失敗を繰り返した成果で、今では米国スタイルの交渉は苦手としなくなりました。
そこで当ブログで不定期に、基本的な英語で交渉するための英語の勘所をご紹介していきたいと思います。
下記を基本方針とします。(途中で変更の可能性がありますが)
・基本的に、グロービッシュ1500語の単語を使用
・日本人が意外と気がつかないポイントを押さえる
・今日からでも使える
ということで、第一回目のテーマは、「日米の謝罪のすれ違い」です。
【ありがちな勘違い】日本人の”I am sorry”は米国人には伝わらない
日本人は、何か問題が発生すると、まず「申し訳ございませんでした」と謝る傾向があります。
これと同じ感覚で、米国人に対して”I am sorry”と謝ることがあります。
しかしこのように言っても、なかなか相手に伝わらないことが多いことを経験された方が多いのではないでしょうか?
そして、「どうして私の誠意が伝わらないのか?」とジレンマを感じたりします。
中には「そもそも米国人は絶対に非を認めない人たちだから、こちらも非を認めてはいけない」という人もいます。
実はこれは半分当たっています。しかしなぜそうなっているのでしょうか?そして謝罪しなければならないトラブルが発生した場合、私たちはどうすればよいのでしょうか?
【どうしてそうなる?】それは謝罪の認識が違うから
実は、そもそも日米では、謝罪に対する認識が違います。
日本人は「問題が発生したら、とにかく謝っておく」という行動をしがちです。日本では謝罪は壊れた関係を修復する意味合いがあるからです。
一方で米国人にとっては、謝罪は「悪事や不正を認める」ことを意味します。しかし「人間関係の修復」の意味は希薄です。
だから日本人の感覚で謝っても、米国人は「関係を修復したい」という日本人の誠意を感じることもなく、なかなか納得しないのです。
むしろ、「謝ったのであれば、自分に非があることを認めたということだな。では具体的にどうしてくれるのだ?」と迫られることになるのです。
そして日本人がただ謝っているだけだということがわかると、「言葉だけ謝罪していて無責任だ」ということになるのです。
【こうしましょう】”Sorry. The cause of this trouble is xxxx. My action plan is xxxx.”
仮に自分に非があれば、それを認めて、その原因分析と対応策を明示することが必要です。例えば、こんな感じです。
“Sorry. The cause of this trouble is xxxx. My action plan is xxxx.”
もし自分に非がなければ、その理由を述べることが必要です。ただし、あくまで現象にフォーカスし、特定の犯人捜しに陥らない配慮が必要です。個人攻撃に陥る危険性があるからです。
“The cause of this trouble is xxxxx. What we need to do is xxxx.”
【参考までに】日本人が米国人の態度に誠意を感じない理由
これとは逆に、何か問題があった場合、米国人の態度に誠意が感じられず、日本人がジレンマを感じることもよくあります。
たとえば、2001年にハワイ・オアフ島沖で、宇和島水産高校の練習船「えひめ丸」が米国海軍の原潜「グリーンビル」に衝突され沈没した事故。
あるいは、2006年のシンドラー製エレベーターの事故。
いずれのケースも、原因を究明するまで、なかなか謝罪は行われませんでした。
米国人は、明らかに自分に非があると認めない限り、なかなか”I am sorry”とは言わないのです。
このように自国の価値観で謝っても、相手の国の価値観では理解されず、問題はなかなか解決しません。
お互いに相手が何を問題としているかを理解することが大切なのです。
相手の価値観をお互いに理解し合う必要性は、日本人も米国人も同様です。
一方で「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉もあります。
私たち日本人が、なぜ米国人があのように考え行動するかを知れば、交渉で有利に立つことが出来るのです。