【1500語で交渉する英語 #7】「YesとNoを、はっきりとストレートに言おう」と思うあまり、浮いてしまう


連載7回目です。

【ありがちな勘違い】「YesとNoを、はっきりとストレートに言おう」と思うあまり、浮いてしまう

日本人が欧米人に持つ印象は、こんな感じなのではないでしょうか?

「YesとNoを、はっきりと、ストレートに言う」

こう思っているので、ある程度英語を話せるようになると、Yes/Noをはっきり言おうとする方は、多いと思います。

かく言う私もそうでした。英語がある程度話せるようになり、コミュニケーションにやや慣れてくると、あえて自分の人格を変えて、必要以上にYesとNoを明確にはっきりと言うように意識していました。

日本人の私とは、まるで別人格ですね。

しかし一方で、何か、それまでと違う感じもありました。

日本的に言うと「空気が読めないヤツ」みたいな感じ、と言ったらいいのでしょうか、なぜか「浮いている」感じがするのです。

 

【どうしてそうなる?】実は、米国人ははっきりYes/Noを言わない。その理由は…

実は、米国人でYesやNoをはっきりとストレートに言う人は、意外と少ないことをご存じでしょうか?

意外と思われるかもしれません。

私は、仕事を通じて親しい海外の友人が増えたり、海外からの長期出張で日本に来ている同僚と仕事をする機会が増えて、毎日のように色々と話しているうちに、ある時、このことに気がつきました。

多くの米国人は、仮にその意見に反対であっても、

「なるほどね。あなたはそう考えるのですね。私だったら、それをさらにこうすると思う」

とか、

「それは悪くないね。さらにこのようにできたら、もっとよくなると思う」

というように、相手の立場を尊重した上で、さらに提案のような形で話すのです。

特に最近、このような話し方をする米国人が増えてきたように感じます。

力ずくで説得するよりも、相手が納得した上で同意した方が、よい結果になることを学んだ結果なのかもしれません。

もちろん色々な人がいて、中には「xxxxについて、どうなんだ? Yes or No?」と言ってくる人もいますが、極めて少数派です。そして”Yes or No”と迫る人に対しては、多くの米国人が「品がない」「Yes or Noという質問自体、バカげている」と言っています。(ただ、その発言をした本人には、気を遣ってストレートに言わない一面もあります)

米国人同士でこのような会話をしていること自体、日本人にとって意外に思えるかもしれませんね。

考えてみたら、人間社会で「相手に対する尊重」は必要なことです。相手に対して気を遣う点は、実際には日本人も米国人も、大きな違いはないのかもしれません。

 

では、違う点は何か?

それは米国人は、何らかの意見に対して、自分は「Yes」か「No」か、それとも「分らない」のか、割としっかりした考えを持っているということです。

ただしその考えを表現する方法は、必ずしもストレートな言い方ではなく、日本人同様、相手の立場に気を遣って話しているということなのです。

これは「相手の人格」と「相手の意見」を分けている、と考えれば、分りやすいかもしれません。

つまり、「相手の人格」は尊重する一方で、「相手の意見」については考えを明確にしているのです。 

一方で日本人の場合、私は「相手の人格」と「相手の意見」を明確に分けずに考える傾向があります。

例えば、「彼が言うことなら賛成」とか、「彼が言うことだったら反対」ということが多いのではないでしょうか? (国会の与党と野党の論戦をイメージすると近いかもしれません)

米国人でもそのように考える人はいます。しかし「場の空気」ではなく「弁証法」を議論の基本にする社会では、割合は少ないように感じます。

どちらがよい、悪い、ということではなく、文化的背景の違いで、そのような違いが生じている、ということです。 

 

このように考えていたら、先日、現在ある外資系企業で社長をなさっている昔の上司の講演を伺う機会があり、さらに新しい発見がありました。

日本人が「Yes/No」をはっきり言いすぎることで、米国人は結構傷ついていることが多い、という話です。

例えば、米国人が「日本でxxxxxxxのようにしたらいいんじゃないか?」という提案をしたとします。

その提案が適切ではない場合、多くの場合、私達は「それはだめ。理由はxxxxxxxだ。日本市場では有効ではない」と言ったりします。

実は、彼らが日本に何らかの提案する場合、彼らなりに考慮して提案していることが多いのですが、それを完全に否定されることで、彼らは人格も否定されたように感じてしまい、結構傷ついているようなのですよね。

冒頭で私がなぜか「空気が読めないヤツ」みたいな感じを受けたのは、これが原因だったのです。
 

【こうしましょう】相手の提案を認め、進化発展させる

もしその提案が不十分だった場合、こんな感じで返すといいのではないでしょうか? (ちょっと長い文章になりますが….)

“Thank you for your proposal. That gives us a new perspective. In Japan, however, the reality is xxxxxxxx. So, if we add xxxxxxxx to your proposal, it will be great. How do you think?”

「提案をしていただき、ありがとう。その提案は、我々が持っていなかった新しい視点だ。一方で日本ではxxxxxという現実がある。だから、その提案をさらに発展させてxxxxxxxとすれば、素晴らしいと思う。いかがだろうか?」

ポイントは下記です。

1.まず、相手を尊重し、提案してくれたことに感謝
2.こちらの現実を、事実として伝える(自分の意見でもOK)
3.相手の意見を否定するのではなく、発展・進化させる

 

【参考までに】相手の立場も考える

上記3.は、弁証法でいうところの「正反合」の「合」にあたります。

こちらから相手の意見を取り入れた新しい提案をすることで、彼らも日本の現実を反映した、より優れたプランを手に入れることになり、自分の仕事への評価にも繋がります。

Win-Winですね。
 
・相手の人格と、相手の意見を、分けて考えること
・相手の人格は常に最大限尊重しつつ、意見ははっきり持つこと

文化的背景の違いによる考え方の違いと、文化が違っても普遍的で変わらない点を理解し、実践していきたいものです。

 

【補記】

当エントリーは、2010/4/18に当ブログで書いた「日本人がYes/Noを明確に言うことで、実は欧米人は結構傷ついている、という話+そんな欧米人と、円滑に仕事するには?」を、今回の連載にあわせて書き直したものです。