日本経済新聞社主催「第15回 世界経営者会議」のレポート、今回は最終回です。
【これまでの記事】
その1: 1日目:「グローバル化」「透明性」「相互信頼」「日本経営の復活」「イノベーション」
その2: 1日目: HUBLOT会長の話に、とても共感しました
その3: 2日目: GE・イメルト会長、明確なビジョンと戦略
その4: 2日目: 富士フイルム・古森重隆会長。写真フィルム市場崩壊の危機に、いかに事業再構築を果たしたか?
■ロンバー・オディエ 銀行マネージングパートナー:クリストフ・ヘンチ氏
・スイスのプライベートバンク。1976 1796年創業で7世代に渡っている。現在8名のパートナーで経営。従業員2000名。東京含め96支店展開。
・外部株主・借入いずれもなく、独立性を保っている。短期的利益追求のプレッシャーはなく、30年単位の長期的視点で経営している。
・「後継者はどう決めているか」という質問に対して…。日本でも17代続いた「とらや」のようなケースもあるのでわかると思う。標準はなくケースバイケース。
・銀行は人で成り立っているビジネスだ。顧客の要望は様々で、標準ソリューションはなく、顧客毎に課題について考え、個別提案している。
・「8名のパートナーの役割は?」という質問に対して….。8名全員の合意で経営している。
■アサヒグループホールディングス社長:泉谷直木氏
・社員18,000名、売上1.58兆円。アサヒビール創業は1949年だが、前身の大阪ビール創業は1889年。124年目。
・グローバル化を目指している。M&A実施時には株式市場の評価が重要であり、そのためには自社の企業価値増大が非常に重要。企業価値と売上の2軸で考えた場合、第1グループグローバル企業(コカコーラ、ネスレ、ペプシコ)、第2グローバル企業(ハイネケン、カールスバーグ)のうち、当社は第2グループの下位にいるのが現状との認識。
・そこで経営メカニズムを効かせた企業価値向上経営を目指している。基本戦略は、(1)ファンダメンタル(ROE, 経営インフラ)強化と、(2)ビジネスモメンタム(売上、利益、目標達成率)の成長による、(3)コーポレートバリューの向上(財務価値、時価総額、社会貢献)だ。
・人材は極めて重要。執行役員クラス対象の「アサヒエグゼクティブインスティチュート」(泉谷社長自身が講義)、役員候補者対象の「アサヒエグゼクティブリーダープログラム」(戦略構築力、リーダーシップ力、目標達成力強化を通じ、経営者としての覚悟を決める)、所属長手前の管理職対象の「アサヒネクストリーダープログラム」(集合形式で経営に必要な様々な知識習得を目指す)を実施している。
・ただし、「職場に戻ると何も変化なし」となりがち。そこで仕事の定義づけと能力ランク付けをし、社員も自ら何をしたいかを考えてもらい、マッチングによる適材適所を図っている。
・「消費財は価格競争が厳しい。価格はどう上げていくのか?」という質問に対して….。原点に還ったものづくりだ。どうやって買っていただくか、というものづくりが大切。納得価格を考え、商品価値を上げていく。
■アルグレア・インベストメント副会長:イサ・アルグレア氏
・ビジネスでは何よりも「信頼」が大切だ。
・2008年の金融危機以降、信頼はより重要になっている。金、ダイヤ、石油、株取引においても、信頼はお金で買えるものではない。
・リーマンブラザーズは31倍のレバレッジをかけ破綻した。中国の粉ミルク事件も同じ。欲があるからこのようなことが起き、そして全てを失ってしまった。信頼は、それが裏切られるまでは当たり前のものに見えてしまうのだ。
・私見だが、安倍首相は素晴らしいと思う。「環境」を作ろうとしている。消費税アップは他国では国民は許せないと言うだろうが、力があるリーダーは納得させることができる。
・「信頼と統制のバランスはどう考えるのか?」という質問に対して….。時には独裁的な民主主義や拒否権発動も必要だと考えている。
・「では会社の統制はどのように考えているのか?」という質問に対して….。複数方向で話し合いを行う。その上で優先順位付けをする。集団として判断するようにしている。それが無理なのであれば、自分が判断をしている。
■旭化成社長:藤原健嗣氏
・売上1.67兆円。内訳は、ケミカル繊維 7,942億円、住宅建材 5,377億円、エレクトロニクス 1,311億円、ヘルスケア 1,856億円。今後ヘルスケアを大きくしていきたい。食もやってみたが止めた。
・旭化成は多角化の歴史だ。共通するのは全事業で繊維素材を使っている点。一方で多角化は劣化した事業を抱えてしまうリスクもある。選択と集中が必要だ。他事業がピークアウトする前に新事業を手がけている。
・成功要因は「持てる資源を最大集中していること」「技術のシーズをあわせて創出していること」。
・選択と集中から、新陳代謝を生み出している。考えているのは3点。(1)成長性(そのモノの成長力と、市場の成長力)、(2)収益性 (売上規模と利益率は両立しない)、(3)事業寿命(製品寿命、市場・顧客寿命)
・日本が得意な高付加価値事業は、小さな規模を持った市場の集まり。さらに旬な期間が短い。だから新陳代謝が必要。
・「旭化成はしつこい」と言われている。「一本、柱を立てる」という意気込みで多角化に取り組んでいる。さらに研究開発もしつこい。
他にも、インテュイット会長のスコット・クック氏、DeNAの南場氏、ハーバードビジネススクール教授の竹内弘高先生のセッションもありましたが、夜から自分の講演予定があったため、大変残念でしたが参加できませんでした。
この世界経営者会議には、2日間参加しました。
世界で活躍中の経営者から、経営最前線の話を直接聞けるこの会議で、とても多くのものを学ぶことができました。
同時に、このような会議をこれまで毎年15回開催してきた日本経済新聞の底力を見る思いもしました。
来年も是非参加したいと思います。
【2013/11/10 8:38AM 修正記録】ロンバー・オディエの創業年度を修正: 1976年→1796年
私が今年印象として持ったキーワードは、アントレプレナーシップです。日本経済の再生に向けた動き、として捉えてもよいかもしれません。若手経営者であり起業家でもある、三木谷氏や南場氏が目玉経営者として登壇されていたことに加え、伝統ある大企業においても新陳代謝に向けた経営改革をこなっているお話など、ある意味、第二の創業とでも呼ぶべき事業構造改革の必要性を主張されているように感じました。
自分のblogでは、永井孝尚さんが聴講を逃された、最終セッションのパネル討論会の部分についてのみ記載しています。
白井さん、パネル討論会のご紹介、ありがとうございました。