論点思考(2):膨大なデータと格闘する作業屋としての経験が、重要な理由


前回に続き、内田和成著「論点思考」の紹介です。

本書p.131に、コンサルタントとしての心得の一つとして以下のような記述があります。

—(以下、引用)—–

私は頭の中に20の引き出しをもっている。その20の引き出しの中に、さらに20ずつのネタが入っている。…

例えば、20の引き出しのタイトルとしては、「リーダーシップ」「パラダイムシフト」「ビジネスモデル」などがある。….例えば、「リーダーシップ」の引き出しには「キャプテンの唇」とか、「オフト監督の牛」といった興味を引きそうな見出しをつけておく。

—(以上、引用)—–

この引き出しという考え方は、コンサルタントとして顧客の課題を聞き整理する際に活用できる方法です。

20の引き出しそれぞれに20のネタがあるということは、合計400のネタが整理されているということですね。

本書p.214には、この引き出しを作っていく方法が紹介されています。

—(以下、引用)—–

昔は意図的に引き出しを増やそうと努力した。しかし情報の収集と整理すなわちインプット作業で手一杯になってしまって、肝心の情報の活用がほとんどできなかった。

….発想が変わった。具体的にいえば、情報を集める段階で徹底的に手抜きをするのである。見聞した事象を感情(興味)の赴くままに情報としてとらえ、しかも集めた情報は一切整理しないし、特に無理して覚える必要もしない。…..

問題意識をもっていると、なにかと頭に引っかかることが出てくるはずである。その際、パソコンやカードに記録するのは面倒だから、脳に入れて〆点を打つ。

—(以上、引用)—–

何回も見ていると記憶に刷り込まれるので、それでいい、ということです。

このためには、常に問題意識を持って物事を見ていく必要があると言うことですね。

この文章を読んで、毎日ブログに書くという行為は、自分の引き出しを増やす上でとても有効な手段だと気がつきました。

ブログは単なるメモ書きではなく、他の方々に読んでいただくために、頭の中に気になったことを論理的に整理した上で分りやすく書く必要があります。この作業を毎日続けることで、自分の引き出しが確実に増えていくと思います。

 

長年のコンサルのご経験で論点を見出し、意志決定に繋げていく内田さんですが、その力を鍛える方法についても、p.173で紹介されています。

—(以下、引用)—–

 私も作業屋だった。ずっとパソコンをたたき、データを集積していった。その反省から、作業屋に終わってはいけないと盛んにいっているのだが、そのプロセスを経験したから論点が設定できるようになる。作業に没頭したことがない足腰が弱い人間に、ちゃんとした判断が出来るのかとも思う。だから、一度、作業屋になることが避けて通れない道なのではないかと思う。

 どの作業をどのくらいやって、なんの答えが出せるのかという感覚がない人には、正しい問いと仮説はもてない。ビジネスパーソンの場合、どんな業界でも現場をやっているというのは大事だ。経営の意志決定は0か、1かの世界ではない。グレーの世界の意志決定になってくる。それができるのは現場での経験だ。

—(以上、引用)—–

これは全くその通りだと思います。

膨大なデータを整理していくという経験を経ると、他の人がまとめた整理されたデータを見ても、その裏に膨大なデータの全体像が想像できます。

逆にそのような経験をせずに、整理されたデータだけしか接していないと、その裏にあるデータが想像できず、整理された数字をそのまま受け入れてしまうことになりがちです。こうなるとグレーの世界が理解できず、0か1のどちらかを求めることになります。

内田さんも作業屋だった、と知り、僭越ながら存在を身近に感じました。

 

とても多くの気付きをいただいた本でした。