当時日本IBM社員だった私は、個人でIT系の社外勉強会に参加していました。
この勉強会を仕切っていた方はIT業界に知己が多く、楽天を創業したばかりの三木谷さんや、創業3ヶ月後でまだヤフージャパンの営業本部長だった井上雅博さん(その後社長に就任)など、今から振り返ると凄い方々が登壇されました。
そんな勉強会に、あるIT企業の社長が登壇されました。年の頃は60歳を超えた位の紳士でした。
一通り自社サービスの説明をした後、質疑応答の時間になりました。1998年でいわゆる「2000年問題」が話題になっていた頃なので、会を仕切っている司会者から、こんな質問が出ました。
「御社は2000年問題に、どのように対応しておられますか?」
社長さんはペースを崩さずに答えます。
「弊社としても2000年に向けて様々な問題を抱えており、一つ一つ問題解決に当たっているところでございます。未来の予測が難しい現代ですので、……」
3-4分ほどお話しされた後に、司会者が手を挙げました。
「コンピューターが古いプログラムのロジックの問題で、2000年1月1日午前0時に誤作動する可能性が指摘されていますよね。御社はどのように対応をお考えですか?」
よどみなく答えておられた社長さんに、一瞬間が空きました。
その時、社長さんに同行していた役員の方が手を挙げて、
「はい。弊社としても順次対応を進めているところです。具体的には…」
社長さんから回答を引き継がれました。
当時、30代後半だった私は、「IT企業で2000年問題も知らないのはいかがなものか?」と感じました。
しかし15年以上が経過した今、当時のことを想い出して、別のことを考えます。
それは経営者が自分が知らない問題について答えなければならない時、どうすべきか、という課題です。
社長は、会社に関するあらゆることに責任を持っており、常に社外から問い続けられています。この2000年問題に限らず、自分がよく知らない問題に出会うこともあります。
この社長は「2000年問題?よく知らないけど、多分『それは何ですか?』では済まされない問題のようだな」と直観したのかもしれません。その上で「これなら、多分そつがないだろう」と思われる回答をしたのかもしれません。
「IT企業で重要テーマとなっている2000年問題を知らないのはいかがなものか」、「回答が的外れで無責任」という是非は一旦脇に置いておいて、社長としての覚悟を感じた次第です。
とは言え、自分が持っている課題はすべて洗い出した上で、自分が知らない質問に対しては「知らない。それは何か?」と、常に自信を持って尋ねられるようにありたい、とも思った次第です。