売れない原因は、ほとんどの場合、一つしかない


悩むビジネスマン

「ウチの営業が、全然わかっていないんです」

その方はこの数年間、新商品を担当していました。強力なライバルがいる市場に新規参入し、苦戦が続いているそうです。

「お客さんを絞り込んで、営業も専任にして集中的に攻めるべきなんです。でも営業部門がやっていることは、その正反対。卸売業者に任せて薄く広く販売しています。『これではダメだから、変えるべきだ』と1年間言い続けていますが、営業部門はまったく理解しない。ほとほと困っています」

かなりオカンムリです。そこで踏み込んで聞いてみました。

「どのようなお客さんに絞り込むべきですか?」

「たとえば、地域とか。あるいは特定の小売業者とか。どこかに絞り込んで、集中突破すべきですよ」

「たとえばどんな地域でしょう?」

「仙台とか、大阪ですかね」

「仙台や大阪を選ばれた理由は?」

「特に理由はありませんが、…。とにかく絞り込むべきですよ。そう思いませんか?」

ランチェスター戦略で言うところの「弱者の戦略」に沿っていますが、具体性に欠けている気もしました。そこで質問を変えて、新商品について聞いてみました。

「この数年間、新商品に取り組んでいるのですよね」

「そうですよ」

「その新商品は、御社のどんな強みを活かして、その強みを必要とするどのようなお客様を対象にして、そのお客様のどのような課題を、いかに解決するのでしょうか?」

「当社はチャレンジャーですからね。最初の強みについては、ライバルのリーダー企業と違って、まったく新しい視点で、挑戦できることですね」

「それはリーダー以外の他社さんでも同じですよね。御社しか持っていないどんな強みを活かしているのでしょうか?」

「うーん。そういう視点はないですねぇ。新商品はウチの技術を活かしてはいますが、他社でもできますし」

「他社もできるのなら、あえて御社を選ぶお客さんはいないのではないでしょうか?他社にない強みをどのように活かして、ターゲットを絞るか、考えることが必要だと思います」

「うーん。結局、『地道にやれ』ということですかね。今、ほとほと困っているので何かヒントがあればと思っていたのですが…」

 

数回のやり取りをダイジェストにしてまとめてみましたが、ここまでお話ししてわかりました。営業を説得できないのは、「お客様が買う理由」が不明確だからなのです。

 

私は、お客様から色々なご相談をいただきます。

・「営業です。営業に行っても、お客様から言われるのは値引きばかり。どうすればいいんでしょう?」

・「マーケ部門です。販促活動しているのですが、なかなか成果が上がりません。困っています」

・「チャネル戦略で販路拡大を図っていますが、売上が下降する一方です」

そこで「ターゲットのお客様が誰で、その方はどのような課題を持っていて、御社ならではのどのような強みを活かしてその課題を解決しているのですか?」と聞くと、9割以上の確率で異口同音に返ってくる答えは、「それはよく考えていない。とにかく問題を解決したい」。

今回、深掘りしてお話しを伺ってわかったのは、まさに同じケースだということでした。

 

売れない理由は、ほとんどの場合、一つだけ。「お客様が買う理由」が、ないのです。

言い換えれば、「商品を出してうまく販売すれば、売れる」と考えています。しかし現代では「お客様が買う理由」が不明確な商品を販売力に頼って売るのは至難の業。その結果、売れないのです。

 

当コラムで繰り返し述べているように、「お客様が買う理由」を作り上げるには、

「(1)自社の強み」を見極めて、
「(2)その強みを必要とするお客様」(ターゲット顧客)を決めて、
「(3)そのお客様が必要としていること」(顧客の課題)を徹底的に理解し、
「(4)自社ならではの強みを活かした課題の解決策」(商品やサービス)を提供することを考えることが必要です。

 

しかし、「お客様が買う理由」を考え抜くだけでは、必ずしも売れません。そこでリアルなお客様での検証が必要になります。

当初考えた上記(1)〜(4)のうち、いずれの仮説が間違っていたのかを順番に検証し修正していけば、「お客様が買う理由」に近づくことができるのです。その結果、売れていくのです。

 

「結局、『地道にやれ』ていうことですね」と言いたくなるお気持ちも、よくわかります。「お客様が買う理由」を作るのは、地道な作業の積み重ねだからです。もっと手っ取り早い方法を求めたくもなるかもしれません。

しかし、「お客様が買う理由」を考えることは、売れる商品を作る王道です。そしてお客様や市場、技術の変化が激しい今の時代は、必須条件でもあるのです。

 

たとえば冒頭のケースでは、なぜ営業がなかなか動いてくれないのでしょうか?

営業は、自社で開発された様々な商品を売るのが仕事です。同じ売るなら、お客さんが欲しがる、売りやすい自社商品を売りたくなるのは、営業にとって当然のことです。

その商品が、お客様が思わず買いたくなるような強い「お客様が買う理由」があれば、放っておいても営業はその自社商品を売ります。さらに営業ならではの色々な知恵を出して、より多く売ろうとします。

この新商品を営業が売ろうとしない理由は、この営業が動きたくなるような「お客様が買う理由」がないからです。自社の強みを徹底的に考えていないので、新商品で最も大切な、ライバルとの差別化ポイントが不明確。だからお客様に売れる以前に、自社の営業を説得できない。だから売れない。つまり戦略不在なのです。

本来「お客様が買う理由」は、新商品開発チームと営業がチームを組んで対話を続け、商品開発段階から一緒に考えることが必要です。しかしこのケースではチームワークも作らず、対話も不十分なまま、営業部門が具体的にどうすべきというか提案もせずに、営業部門が変わらないことを嘆き続けているのです。

 

質問された方は、この状況をなんとか変えるべく、悪戦苦闘しながら「そのものズバリの回答」がどこかにあるのではないかと探しています。

しかし、自社の強みとお客様のことを考えずして、「そのものズバリの回答」がどこかの誰かから得られることはないのです。

仮に第三者からのアドバイスで「そのものズバリの回答」が得られても、それは大きくライバルを差別化できるモノにはなり得ません。

第三者であるどこかの誰かが考えられることは、誰でも考えることが出来るからです。

自社の強みとお客様のことが一番わかっている自分自身が、「お客様が買う理由」を自分の頭で考え抜き、さらにリアルなお客様で「お客様が買う理由」を検証し続けるからこそ、誰も真似できない自分だけの学びを得ることができ、他社を圧倒する差別化を実現できるのです。

リアルなお客様に対する仮説検証は、実は差別化の手段でもあるのです。

 

「お客様が買う理由」を考え抜き、検証する作業は、一見すると地道な作業の積み重ねに見えます。しかし実際には、やりがいがある仕事でもあるのです。

私がこれまで出会った、「お客様が買う理由」を考え抜いて検証し抜き、大きく成功している人達は、誰もが楽しそうです。主体的に自分の仕事に取り組み、仕事を通じて自分だけの学びを得て、仕事でやりたいことを実現し、成果を挙げているからです。

 

「どこかに、『そのものズバリの答え』が転がっている」と考えるのは、幻想です。

「そのものズバリの答え」は、どこにも転がっていません。断片的に転がっている材料を元に、自分で考え抜いて、自分だけの答えを見つけるのです。そしてその挑戦は、実は楽しいものなのです。

一見「地道」に見える道を避けずに、まずは一歩踏み出してみると、きっと色々なことが変わってきて、次第に仕事が楽しくなるはずです。

 

 

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