苦情を受けた百貨店が、喜ぶ理由


苦情対応

週刊モーニングで、「銀座空丸百貨店 お客様相談室」というコミックが連載されています。舞台は、銀座にある老舗百貨店のお客様相談室。お客様の無理難題な苦情に対応する姿を描いた物語です。

お客さんの苦情を受けるのは、誰でも辛いもの。

この物語では、相談室スタッフが、お客さんの苦情に苦慮しながら対応する姿が描かれています。一癖二癖あるお客さんが多く、その対応もまた秀逸です。

先週の連載第27話(2016/3/17発売 第16号掲載)では、相談室スタッフの会話が描かれています。

『んー…』
『何よ?どうかした?』
『あ…いえ。週末に届いた苦情メールをチェックしているんですけど、量が多くて…』
『なーんだ、そんなこと?室長を見てみなさいよ』
『え?』
『さっきからうれしくて仕方がないって感じで、苦情の投書を読み込んでいるわよ。まるでお礼の手紙をいただいたような表情(かお)で』
『室長の口ぐせは「苦情は宝の山」ですからね…… いや 頭では理解できても、ハートが追いつかないっす』

 

実際、百貨店は苦情への対応に多くの人手、手間、お金をかけています。
しかしなぜ百貨店は、このように苦情対応を徹底しているのでしょうか?
そしてなぜこのお客様相談室の室長は、まるでお礼の手紙をいただいたような表情をするのでしょうか?

室長の口癖「苦情は宝の山」に、ヒントがあります。

その背景にあるのが「ジョン・グッドマンの法則」。第一法則から第三法則まであるのですが、ここでは第一法則のみをご紹介します。

 

第一法則は、不満を持った消費者が、苦情を言った場合と言わなかった場合で、再購入率がどのように変わるかを示したものです。

まず不満を持った場合、96%のお客さん、つまり大多数は苦情を申し立てません。その中で再購入するのはわずか9%(1万円程度の高額商品の場合)。 残りの91%は無言で去っていき二度と買わないのです。怖いですね。

一方で苦情を申し立てるのはわずか4%。25人中1人だけ。しかしこのうち、不満が迅速に解決され大変満足した人は、実に82%が再び購入します。つまり、苦情に迅速に対応して満足すると、その後は贔屓客になる可能性がとても高いということです。

「ジョン・グッドマンの法則」については、顧客ロイヤルティ協会のサイトで詳しく解説されています。(第二法則・第三法則も面白いので、ご興味がある方はご一読を)

 

私自身、「苦情に迅速に対応することで、贔屓客になる」ということは、顧客の立場で経験しました。

10年ほど前、アマゾンで買ったパソコン部品がうまく動きませんでした。困ってアマゾンに電話で相談したところ、親切丁寧に対応していただき、無償(かつ送料アマゾン負担)で迅速に商品交換に応じてくれました。

ただ困ったことにその交換した部品も不具合を起こしました。ダメモトでアマゾンに相談したところ、再び迅速に無償交換してくれました。

当時、ここまで商品交換を徹底している他社はありませんでした。私はその後、ネットでの購入のほとんどがアマゾン経由になりました。万が一の場合も商品交換に応じるので、安心だからです。ただ、その後は商品交換することはありませんでしたが。

 

私のこの経験は、贔屓客になると、何がいいのかを教えてくれます。贔屓客を獲得した企業は、利益が飛躍的に上がるのです。

10年前の出来事以来、私がネット経由で商品を購入する場合は、ほとんどがアマゾンで買っています。見方を変えると、私個人という顧客からアマゾンはかなりの利益を上げています。

新規顧客を獲得するにはお金(新規獲得コスト)がかかります。しかし贔屓客の場合、この新規獲得コストはかかりません。さらに返品はお客さんにとっても手間です。品質管理を徹底すれば、悪質なクレーマーを除けば、商品返品は頻繁には発生しません。その結果、一取引当たりの利益も上がります。さらに長期間購入し続けることで、累積売上高も上がり、累積利益をさらに押し上げます。

こうして、贔屓客の顧客生涯価値(=顧客の生涯で企業に払う価値)は、極めて高くなるのです。

 

一般に、取引や買い物には、様々な不満がつきものです。

不満を感じたお客さんの96%は苦情を言わず、そのうち91%が何も言わずに去ります。つまり不満を感じたお客さんに投下した新規獲得コストの多くは、無駄になっています。

しかし不満を感じたお客さんのうち、わずか4%は苦情を申し立てます。そしてそのようにして届いた苦情は、見方を変えると、贔屓客を生み出す大きなチャンスを秘めているのです。

そして苦情を申し立てたお客さん(あるいは困ったと言ってくるお客さん)の問題を解決し、贔屓客にすることが、長い目で見ると、企業に莫大な利益をもたらすのです。