人材育成は企業の生命線です。多くの企業では、研修予算を持っています。
しかし、その研修予算がカットされ続けることがよくあります。
実は私自身、同じことを経験しています。前職の日本IBM社員時代、戦略マーケティングマネージャーを15年間担当した後、人材育成部長を2年間担当しました。就任した際、驚きました。それまでの数年間で、予算・人員ともに半分に削減されていたのです。
同じ経験をされている人材育成ご担当の方も、多いのではないでしょうか?
企業の生命線である人材育成が、なぜカットされてしまうのでしょうか?
これまで人材育成の成果は、即座に成果が出なくても、大きな問題にはなりませんでした。
たとえば20年前、私がマーケティングマネージャーに異動した際、勤務先の日本IBMでは新任マーケティングマネージャーを集めて、1週間の泊まり込み研修を数回実施してくれました。人材育成には時間がかかります。だから長い目でじっくり人材を育てる。研修は将来への種まき、という考え方だったのです。そして企業も研修予算を確保していました。
しかし現在、企業はコスト削減が進んでいます。新入社員研修や管理職研修のように長い目で人材育成する場も確かに残っていますが、企業は余裕がなくなりつつあり、かつて聖域だった研修予算も例外でなく、カット・見直しの対象になっているのが現実なのです。
では企業は、人材育成をあきらめたのでしょうか?
そんなことはありません。かつて以上に、「強い人材」が求められています。
私は先にご紹介した人材育成部長への異動の際、このことを身をもって実感しました。
私が戦略マーケティングマネージャーから人材育成部長へ異動したのは、事業部長の希望でした。事業部長から「永井さんは私の事業戦略を理解している。そこで人材育成を通して事業部のビジネス力を上げて、事業戦略を実現して欲しい」と言われたのです。
確かに事業戦略を実現するのは社員。だから社員が事業戦略を実現するスキル獲得を支援すれば、事業戦略は実現できるはず。確かにこれは正しいと考え、異動したのです。
そこで私は最初に、事業戦略達成のために必要なスキルが何で、現状スキルと比較してどのスキルが足りないかを分析し、仮説として重点スキル強化分野を3つに絞りました。
そしてこれらのスキルを強化するために、業務密着型ワークショップを実施しました。講師は研修のプロではなく、その道で実績をあげてきたビジネスのプロでした。たとえば顧客プロジェクトで突出した実績を上げてきたシニアコンサルタント、あるいはIT企業の大規模イベントで印象的なキーノートスピーチを行ってきた他社のトップ営業経験者などです。
さらに外資系企業であることもあって、四半期毎に予算申請が必要です。
私の就任前は、この四半期毎の予算申請が鬼門でした。四半期毎に予算がカットされ続け、数年間で予算・人員とも数分の1になりました。そこで私は「四半期毎の予算申請は、予算増額のチャンス」と発想を転換しました。そして四半期毎に人材育成の効果測定を行い、「現四半期はこの仮説で人材育成をしてきた。結果と成果はこうなった。得られた学びを元に、来四半期はこの方針で人材育成をしたい。そのためにはこの予算が必要だ」と説明するようにしました。
「仮説検証」の一環として、トップに追加投資を求めたのです。
2年後。人材育成部門の仕事は事業部ビジネス成長に寄与し、予算も人員も倍増しました。
表題に戻り、なぜ人材育成予算がカットされ続けるのでしょうか?
それは効果が見えないからです。従来型の企業研修は、限界に突き当たっています。
では、なぜ限界に突き当たっているのでしょうか?
業務から乖離しており、人材育成の効果が不十分だと見なされているからなのです。
私が人材育成の仕事を通して学んだことは、「人材育成は業務密着型で行う必要がある」ということ。「単なる研修」ではなく「業務実習」が必要です。 そしてそこで求められる講師は、従来型の研修のプロではなく、実務のプロなのです。
私はこの人材育成部長の仕事を通じて、「人材育成こそ、ビジネス成長に貢献できる」ということを、身をもって知りました。
私の専門であるマーケティングの分野は、現在多くの企業が必要としているスキルです。しかし実態は、多くのビジネスパーソンがマーケティングスキルを身につけていません。つまり企業の現場では、求められるスキルと現状のスキルの間にギャップが大きく、極めて高いニーズがあります。
私はかつて人材育成部長として人材育成戦略を策定した際、これと同じ状況に出会っています。人材育成部長の時は、戦略策定とマネジメントに徹していました。今度は自分が直接、人材育成をする番です。
そこで私は、マーケティングの著作や講演とは別に、企業を対象に、1日間の業務密着型ワークショップや、半年間の新製品開発実習を行っています。
1日の業務密着型ワークショップでは、私がそのお客様のビジネスを事前にスタディした上で、参加する社員の方々がチーム単位で自社事業の「お客様が買う理由」を作り、チーム同士で1日かけて議論していきます。これにより、自社ビジネスに即したマーケティングの考え方が身についていきます。
しかし本来は、日常業務で、仮説検証を通じて「お客様が買う理由」を進化させていくことで、マーケティングスキルが身についていきます。これは1日の業務密着型ワークショップだけでは不十分。リアルなお客様に検証し続けることが必要です。
そこで1日の業務密着型ワークショップを実施したお客様を対象に、「新製品開発実習」を半年間行っています。目的は、新商品開発を通じて仮説検証思考を定着させること。マネジメントも参加し、私も新製品開発チームに参加し、実務として行います。定期的に経営陣への報告会も行います。
目標を「新製品開発」に置き、業務として実習をしますが、その最終目的は「マーケティングの仮説検証思考を身につけること」。一過性のコンサルティングではなく、再現性があるスキル育成を行います。
従来型研修は、限界に突き当たっています。
現代で求められているのは、実務に即した、戦略的人材育成です。
戦略マーケティングマネージャーと人材育成部長の仕事で学んだ経験をもとに、企業が求める新しい人材育成のあり方を作り、企業のビジネス力強化をご支援していきたいと考えています。
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