研修や講演で、こんなご質問をよくいただきます。
「『お客様が買う理由を作ろう』ということですが、今の仕事を抱えて余裕もありませんし、新しい挑戦で失敗するわけにもいきません。結局、今の仕事の延長線上でやるしかないのが現実なんですが」
このようなご質問、とても多いのです。
「失敗という選択肢はない。だから新たな挑戦はできない」ということですね。
しかし失敗は、本当に悪いことなのでしょうか?
2016年5月10日の日本経済新聞に、ロケットの海上回収に成功した起業家イーロン・マスク率いるスペースX社のことが書かれています。
—(以下、引用)—
「失敗という選択肢はない (Failure is not an option)」。46年前、酸素タンクの爆発事故に見舞われたアポロ13号を無事に帰還させ、「伝説の飛行管制官」と呼ばれた米航空宇宙局(NASA)のジーン・クランツ氏は、2000年に出版した回顧録にこんなタイトルをつけた。
宇宙開発の重みと厳しさを表す言葉としてNASAでは今も好んで使われるが、マスク氏のとらえ方は違う。「失敗という選択肢はないというばかばかしい考え方がNASAにはあるようだが、スペースXでは失敗は選択肢の一つだ。何も失敗していないとすれば、十分にイノベーションを起こしていない証拠だ」。05年の米誌のインタビューでこう語っている。
–(以上、引用)–
従来ロケットは使い捨てでした。イーロン・マスクはロケットを回収することで、打ち上げ費用を1/100にすることを目指しています。そして実際に、彼はロケットの海上回収に成功するまで4回失敗しています。学びがあれば、失敗は素早く成功へ到達するためのステップになるのです。
イーロン・マスクは海の向こうの話ですが、同じように素早く成功に到達するために、失敗から学ぶ事例は身近にもあります。
先日上梓した「そうだ、星を売ろう」の舞台である長野県・阿智村でも、世界初の「星空エンターテイメント」への挑戦で、この失敗から学ぶプロセスを繰り返しています。この「星空エンターテイメント」は星が見えない日も行っています。失敗からの学びを通じて、星が見えない日でもお客様に喜んでいただいているのです。
とは言え、失敗して大きな問題になると困ります。そこで本書では「失敗から学ぶための3ステップ」をご紹介しています。
・新しいことを試す。ただし、挑戦に失敗はつきものであると覚悟しておく
・失敗しても大きな問題にならないようにする。実験規模を見極めギャンブルを避ける
・失敗を失敗と認める。失敗を認めなければ、学ぶことはできない
このためには、「失敗から学ぶ」文化が必要です。「失敗という選択肢はない。だから新たな挑戦はできない」と考えから抜け出せない会社は、「失敗から学ぶ」という原体験が必要になります。つまり仮説検証からの学びがいかに価値があるかを体験することです。
組織のトップが「失敗から学ぶ組織にしたい」と思っているのであれば、たとえばマネジメントの同意のもとで社内から有志を募り、期間限定で小さなプロジェクトチームを作り、経験者も入った形で仮説検証ワークショップを通じて新商品開発に取り組み、小さな成果を生み出し、「失敗をみとめ、失敗から学んでいく」スタイルを時間をかけて広げていくのも、一つの方法です。
私自身、実習をご提供する立場で、実際にお客様のプロジェクトに入る機会を多くいただいています。
「失敗という選択肢はない。だから新しい挑戦なんてできない」
この考えから抜け出すことが、企業で新たな価値を生み出す第一歩なのです。
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